ちくま学芸文庫作品一覧

  • 大嘗祭
    3.0
    本書は歴史的資料を博捜して、大嘗祭を構成する儀礼である斎田点定、大嘗宮の造営、大嘗宮の儀、廻立殿の儀等を詳述し、全体像を明らかにする。大嘗祭の原型を探ることで可視化する、秘儀の象徴性とその本質とは。資料として、「天神寿詞」、「登極令」、および関連年表等を付す。
  • 倫理学入門
    4.0
    倫理学こそ哲学の中枢に位置する学問である──。本書の冒頭で、著者はこう強調する。人間のあらゆる行動や思索、生き方を根本的に規定するのは倫理であり、したがって倫理学とはまさに「人間とはなにか」を問う学問にほかならない、と。では、この問いに思想家たちはどう向き合い、どんな答えを導き出してきたか。それを明らかにすべく、アリストテレス、エピクロス、ストア派から功利主義、カント、ヘーゲルらを経て20世紀にいたるその歩みを三つの潮流に大別し、それぞれの思想を簡明に解説してゆく。人間の根本原理としての倫理をときあかす円熟の講義。
  • 代数入門 ──数と式
    5.0
    数学では、変化する数や量を表す際に、x、y、zのような記号を用いる。この「代数的方法」なくして数学をすることはできないし、実際、高校数学でははじめに「数と式」を学ぶ。けれど、そもそも「数や量を記号で表す」とはどういうこと? 文字だらけの数式を見るだけで、たじろく人も多いはず。本書はトランプや樹形図のように具体的な例を出発点にして、種々の多項式や方程式に慣れるところまでを目指す。「たくさんの人に数学を」という著者の思いの結実した、晩年の名教科書。遠山数学の集大成がここにある!
  • 増補 死者の救済史 ──供養と憑依の宗教学
    -
    数々の未練を残してこの世を去った死者たち。その無念に、残された者は何をしてあげることができるのか。この問いに日本人は古くから執心し、多種多様な解決策を練り上げてきた。祟りと祀り、穢れと祓い、供養と調伏、そして死者との直接の交流である憑依。これらをさまざまな角度から再検討し、さらに比較宗教学的な見地を織り込むことで、生者と死者とが邂逅する局面と、そこで行われる交流や対決、取引に新たな光を当ててゆく。文庫化にあたり、靖国神社を集合性と個人性との相克の場として捉えた論考「靖国信仰の個人性」を増補した決定版。
  • 柳田国男論・丸山真男論
    -
    体液のように流れる柳田の文体と方法にかたちをあたえ、彼のえがいた稲の人としての「日本人」の鮮明な画像と、そこに見えかくれする「山人」や「アイヌ」の影に徹底した考察を加える「柳田国男論」。丸山の戦争体験の批判を入口に、『日本政治思想史研究』における徂徠学の評価の分析を軸にすえ、丸山政治学が幻想の「西欧」という虚構の立場を設定して初めて切り拓いた地平を検証する「丸山真男論」。近現代の代表的な思想家を俎上にのせ、雄勁なスケールでその核心を論じる。
  • 英語類義語活用辞典
    -
    類義語・同意語・反意語の正しい使い分けが、豊富な例文から理解できる定評ある辞典。思わぬ誤解や失礼をしないための使用例が、卓越した日本語と英語の語感をもつ著者により解説される。(1)意味がほとんど同じで、どちらを使っても大した違いのないもの。mistakeとerror、bigとlargeなど。(2)使い方をまちがえるとコミュニケーションに重大な齟齬を来たすもの。doubtとsuspectなど。(3)漠然と類義語だと信じられているがその実、異質な言葉。fortunateとhappyなど。「なるほど」と腑に落ちる効果的な使い方が、わかりやすく習得できる、学生や教師・英語表現の実務家の必携書。
  • ミトラの密儀
    -
    ミトラ教は紀元前3世紀頃のペルシャで信仰され、ヘレニズムの文化交流によって地中海世界に伝播した。民族宗教という出自であるにもかかわらず、一時はローマ帝国でキリスト教と覇を競うほど隆盛を誇ったが、秘儀的な宗教であったがゆえ詳細の多くは謎に包まれてきた。獅子頭人身の異貌、牡牛を屠る図像の異教神が、なぜ異文化の民に受け入れられていったのか? 起源、教義、儀礼、キリスト教への影響、凋落の理由等、この密儀宗教の全貌を膨大な資料で解き明かした第一人者による古典的研究。貴重図版多数収録。
  • 日本人の死生観
    5.0
    日本人は生きることと死ぬことをどのように考えてきたのだろうか。長明、芭蕉、千代女、馬琴、良寛など代表的な古典の中に日本人の死生観を辿り、「死」を前提に生き方を考え、「死」の意味をあらためて見つめなおす。日本人の心性の基層に今日も生きている伝統的な死生観を現代に生きる私たち自身の問題として考える指針の書。「死」の偉大な先達から「終い方」の極意を学んでみたい。
  • 確率微分方程式
    4.0
    自然界や社会における偶然性を伴う現象は、いかにして定式化されるのか。確率過程をめぐる研究は20世紀前半にウィーナーやレヴィ、そしてコルモゴロフらによって進められ、なかでも伊藤清が確立した確率解析のための基本的手法は、「伊藤積分」の名で広く知られている。本書はそうした伊藤の定式化によりつつ、マルチンゲール的手法に重点を置いた確率積分を展開。物理学・数理ファイナンスなど幅広い応用をもつ理論の基礎をあざやかに示した名著。
  • バルトーク音楽論選
    4.0
    20世紀最大の作曲家のひとりであるバルトーク(1881-1945)。彼はまた、ハンガリーやルーマニアなど中欧・東欧の各地で民謡を採集するという、民俗音楽研究者としての顔をもっている。音楽が無調へと向かい、より抽象化していく時代の中、バルトークはなぜ、そしていかにして民俗音楽を採集するのか? 本書は彼が自ら採譜した民謡を楽譜つきで紹介・考察した論考のほか、コダーイ、ドビュッシー、ラヴェルなど同時代の作曲家についての批評、ハーヴァード大学で行われた講義録など計15篇を精選。文庫オリジナルのアンソロジー。
  • 初学者のための中国古典文献入門
    -
    中国の古典には古人・古代崇拝のあまりニセモノが多かったり(偽書)、皇帝の諱を避け別の字に代えたり画数を減らすことがある(避諱改字)。漢文訓読法は学校で教えられても、こうした知識を学ぶことはまずない。中国学(文学・哲学・歴史)を学び研究しようとすれば、どうしても古典文献を読まなければならなくなる。本書は、中国古典の原資料いわゆる「白文」を読むにあたって、初心者が誤りを犯さないよう版本や分類などの書誌学的事項を丁寧に案内する。
  • 入門 多変量解析の実際
    4.0
    21世紀に入り、統計学とデータサイエンスは社会からますます注目を集めるようになっている。データを扱ううえで有効なツールのひとつが多変量解析だが、実際には「分析の仕組みがわからない」とか、「分析の結果が何を意味するのかわからない」という人も多いはず。本書は因子分析、クラスター分析、重回帰分析などの主要な分析法について、できるだけ絵と言葉でポイントを解説。各方法の使い方、トラブル・シューティング、分析の心構えなど、マーケティング分野での多変量解析の応用に長年携わってきた著者ならではの「ユーザー視点のノウハウ」を伝える。実務家必読の入門書。
  • 大都会の誕生 ──ロンドンとパリの社会史
    3.0
    18、19世紀のロンドンは、「世界経済のメトロポリス」であると同時に巨大なスラムが存在する「世界の吹溜り」でもあった。また、カフェやレストラン、劇場といった華やかな文化を生み出したパリの都市空間は、二月革命に代表される民衆騒乱の舞台にもなった。人はなぜ都市に集まり、どのように大都会の生活様式が生まれたのか、この根本的な問いをめぐって、イギリス近世・近代史、フランス社会運動史をそれぞれ専門とする碩学が重層的な連関のなかに考察する。ふたつのアプローチ、すなわち経済生活と民衆運動、その違いがそのまま「二都」の性格の反映となっていることもきわめて興味深い。
  • 増補 中世日本の内と外
    3.3
    「国境」という概念が定着する以前から、東アジア世界にもたしかに領土・領有意識はあった。しかしそれはあくまで権力者の都合によるもので、一般の民衆には大きな意味をなさなかった。日本と新羅の国交が断絶した9世紀、朝鮮半島南西部を拠点にした海上貿易のドン・張宝高は、日本に唐物の商品を運び、貴族からも大いに喜ばれた。また中国の仏教聖地を訪れるために遣唐使船に同乗した天台僧の円仁は、新羅人の船に乗って帰ってくる。日朝間の海域では「倭人」が活発な交易を行っていた。境界を軽々とまたぎ、生活していた東アジアの人びとに焦点をあて、境界観の歴史をたどる。
  • 現代語訳 三河物語
    3.7
    徳川家の譜代として、主君を裏切ることなく代々奉公してきた大久保家。その家筋を誇り、子々孫々に至るまで忠勤にはげむことを説いた『三河物語』は、松平郷に興り家康に至るまでの徳川家九代の歴史を今に伝える重要古典である。著者の大久保忠教、通称彦左衛門は、歴史上名高い長篠の戦い(1575)や関ヶ原の戦い(1600)、そして自ら参戦した上田城攻め(1585)などの様子を生き生きと描写し、ときには「天下のご意見番」として、主君への憤懣をも隠さない。当時の俗語で書かれた難解な原文を、読みやすい現代語訳で送る。
  • ホームズと推理小説の時代
    4.0
    舞台はヴィクトリア朝のロンドン、拡大鏡を片手に元軍医のワトソンとともに活躍した鷲のような鋭い目、細身で寡黙な探偵。そう、彼の名前はシャーロック・ホームズ。登場以来時代を超え全世界を魅了し続けてきたのは、なぜか? その疑問をもとに推理小説がどのように誕生し、黄金時代を迎えていったのかをホームズを起点に丹念に辿る。本書はその歴史、基礎知識を交えながら、イギリス、アメリカ、そして日本の推理小説を概観し、正当な評価を与えるべく英文学者、愛好家の視点から考察する。推理小説を愛する多くの読者に捧げる一冊。書き下ろしオリジナル作品。
  • 専制国家史論 ──中国史から世界史へ
    4.0
    自律的な団体性を欠いた社会と、意思決定の集中化した巨大な政治的統合。これは専制国家の指標である。中国はいかにしてその体現者となり、今日に至ったのか。本書は、封建社会を通過して近代国家へと展開を遂げた日本との比較検討をふまえ、中国という国家の特質をつぶさに炙り出す。グローバル化の進展とともに社会の団体的結合原理が解体し、政治決定の集中化が急激に進行する現代にあって、中国のもつ歴史的様態は、はたしてどのような示唆を与えるのか──。多分野の成果を取り入れ、人類史的視野から国家像を描出した渾身の論考。
  • 素読のすすめ
    3.7
    「素読(そどく)」とは、内容の理解は後まわしにして、古典を繰り返し音読すること。江戸時代以来、学習の初歩として行われてきたが、これには確かな意味があった。言葉の響きやリズムに浸ることによって感性が磨かれ、学びを深めるための土台をつくるのだ。また、素読は外国語の習得にも効果を発揮する。本書では、著者が子どもたちと実践してきた経験をもとに、素読の具体的な方法や外国における音読の例などをていねいに解説していく。声に出して読むことの意義をいちはやく再評価した書。
  • 史記1 本紀
    3.8
    中国の古典中の古典ともいうべき『史記』の全訳。「本紀」は、黄帝から秦の始皇帝の全土統一を経て、漢の武帝時代にいたる、歴史における帝王の系譜。中国史進展の大筋を「五帝」「夏」「殷」など十二巻で述べる。
  • 日本社会再考 ──海からみた列島文化
    -
    日本を農業中心社会とみなす、長年常識とされてきた社会像は、近年つくられた虚像だった──ベストセラー『日本の歴史をよみなおす(全)』で、このことを明らかにした網野史学。この一貫した視点から、本書では「百姓」=「農民」という定説を覆し、実際にはその大きな部分を占めていた「海民」たちの活躍を読み解く。漁業、製塩業に従事するのみならず、広く遠洋交易を営み、企業家的な活動すら行った海民たちは、いかに日本の社会を彩り、形作ってきたのか。史料を駆使してその豊かな世界を掘りおこし、日本史に新たな地平を切り開いた快著。
  • 一百四十五箇条問答 ──法然が教えるはじめての仏教
    -
    法然が登場する以前、仏教は驚くことに、一部のエリートのためだけに存在する宗教だった。漢文で書かれた難解な経典が読めること、日常生活を気にせず修行に打ち込めること、が条件だったからだ。しかし実際に苦しみ、救済を必要としたのは、文字も読めない市井の人びとに他ならない。そこで法然は、誰でも、いつでも、どこでも実践可能な「念仏」を柱とする浄土宗を打ち立てた。この『一百四十五箇条問答』は、法然の教えに惹かれながらも、従来の仏教との違いに戸惑ったり、生活を改めなければならないのかと不安に思った人びとの145の疑問に、法然がやさしく答えたもの。浄土仏教や法然その人を理解するための、またとない入門書となっている。
  • 柄谷行人講演集成1985‐1988 言葉と悲劇
    -
    ソシュールからウィトゲンシュタインへ、西田幾多郎からスピノザへ──。1980年代後半の代表的講演を収録した本書で、柄谷は哲学、文学、宗教、言語学、経済学、数学など多様な領野を自在に行き来しつつ議論を繰り広げる。そこで執拗に追求されるのは、言語コミュニケーション(交換)における人間の悲劇的条件であり、他者との交通を可能にする普遍性がいかに生み出されうるかという問いである。いまなお多くの示唆に満ちたこれらの講演は、後の柄谷理論の展開を予感させるのみならず、批評という営み自体をも再審に付す魅力的な内容となっている。旧版の内容を再構成し、改稿を加えた決定版。
  • よくわかるメタファー ──表現技法のしくみ
    -
    「人生を駆け抜ける」「期待の星」「胸さわぎ」「頭痛の種」──文学から日常表現まで、メタファーは私たちの言語を生き生きと彩っている。その最大の強みは、抽象的でわかりにくい事柄を、より具体的でわかりやすい対象に見立てて説明する力である。本書では、身体の一部を用いた比喩、「上・下」、「内・外」などの空間概念を用いた表現など、メタファーを分類・解説し、その成り立ちから効果的な活用法まで、身近な実例を用いて平明に説く。本当に「伝わる」豊かな文章表現へと導く、最良の手引き。
  • カニバリズム論
    3.5
    カニバリズム(人肉嗜食)は人類の根源的タブーのように思われながら、実のところその痕跡は古来より無数に残されてきた。著者の専門は中国でありながら、古今東西の記録・小説を博捜し、ときに舌鋒鋭く、ときに諧謔と皮肉をもってカニバリズムを縦横無尽に論じる。人間の薄っぺらな皮膚を両手で思い切りめくり上げ、曝し、目を背けたくなるようなものを直視することで、「近代合理主義精神」なるものの虚構を暴き、「良識」を高らかに嗤いとばす。人肉嗜食、纏足、宦官……。血の滴るテーマで人間の真実に迫る異色の作品。
  • 中国語はじめの一歩〔新版〕
    4.0
    「中国語は、『おもしろそう』な予感と『できそう』な自信を、日本語を母語とする学習者に与えることに最も適した外国語です」(プロローグより)。30年以上にわたって中国語を教えてきた著者が、14億人とつながれることばの世界へ案内します。発音(四声)や文法の初歩はもちろん、文法の根底を支えるものの見方・考え方や対人観・世界観まで、まるで講義を聞いているかのような軽妙な語り口で平易に解説。「中国語とはどういう言語か」がよくわかるロングセラー入門書を、文庫化にあたり大幅に増補。
  • 哲学の誕生 ──ソクラテスとは何者か
    3.0
    哲学はソクラテスとともに始まったと見なされてきた。だが、何も著作を残さなかったソクラテスが、なぜ最初の哲学者とされるのか。それを、彼とその弟子のプラトン、アリストテレスという3人の天才による奇跡的な達成と考える従来の哲学史観では、致命的に見落とされたものがある。ソクラテスが何者だったかをめぐり、同時代の緊張のなかで多士済々の思想家たちが繰り広げた論争から、真に哲学が形成されていく動的なプロセスだ。圧倒的な量の文献を丹念に読み解き、2400年前、古代ギリシアで哲学が生まれるその有り様を浮き彫りにした『哲学者の誕生:ソクラテスをめぐる人々』の増補改訂版。
  • 未開社会における性と抑圧
    5.0
    「エディプス・コンプレックスはあらゆる社会に存在する」とフロイトは説いたが、マリノフスキーはこの仮説に対し民族誌的資料を駆使し、それが近代西欧の家父長制的社会特有の現象であると根底から相対化してみせた。近代的社会人類学の確立者として学説史に不朽の名を刻んだマリノフスキーが、性において人類の内なる自然と文化的力との相互作用のドラマを考察した古典的名著で、家族の起源、近親相姦の禁忌、父系制と母系制との関係等いまだ多くの示唆を与えてくれる。また、文化の概念をはじめ、彼の主要な理論、概念が展望でき、マリノフスキー理解の恰好な入門ともなっている。
  • 現代の古典解析 ──微積分基礎課程
    4.0
    古典的な微積分の基礎課程を、見晴らしのきく小高い現代的な立場から眺め渡した、読みきり22講義。「不等号と論理」「極限と連続」「実数の基本性質」に始まり、「指数関数と三角関数」「収束の一様性」「曲線と曲面」を経て「複素変数関数」「フーリエ変換と超関数」「偏微分方程式」に至る、解析学メインルート。講義の最中、時折もらす森一刀斎のつぶやきは、濃い霧の中を行く初学者にとって、そのむこう、ゆるやかに広がる景色と地形を髣髴とさせる。「そうだったのか!」とひざを叩かせる、解析学の秘伝公開。
  • 位相のこころ
    5.0
    位相は“近い”という日常感覚を数学的に厳密にとらえ直したもの、といってよく、現代数学において最も基本的で重要な概念の1つである。歴史的には、18世紀から19世紀末にかけて解析学が進展していくなかで、極限・収束・連続性などをめぐる議論から位相空間論が生まれ、20世紀における関数解析学の展開によって、より抽象的に定式化されていった。本書は、数学の意味・こころを語る達人である著者が、1950年代、60年代、70年代に、位相をめぐって書き綴った「位相解析入門」「位相用語集」「位相構造」という3つの文章からなる。著者の名調子に乗せられて、位相のこころを体感してみよう。
  • 集合論入門
    4.0
    「ものの集まり」や「連続」という素朴な概念。ここから広がる世界は実に深遠だ。19世紀にカントールが集合論の基礎を築くと、ラッセルを筆頭に様々な数学者がパラドックスや難題を発見した。それから現在に至るまで集合論は大発展を遂げ、今やその基礎概念は現代数学のみならず、論理を駆使する哲学にも欠くことができない。本書は古典的集合論の基礎を「集合の代数」「濃度」「順序数」の三部に分けて解説。コンパクトながら懇切丁寧な叙述で独習用としても最適。『数学序説』の著者による、定評のある入門書。
  • シュメール神話集成
    3.6
    世界四大文明のひとつであるメソポタミア文明。この「肥沃な三日月地帯」に栄えた文明の基礎を築いたのが、チグリス・ユーフラテス川の下流域に生活していたシュメール人であった。彼らは独特の楔形文字を使って粘土板に神話や叙事詩を刻み、その世界観は後世の周辺地域に絶大な影響を与えたと言われる。旧約聖書の「ノアの方舟」へと継承された「洪水伝説」のほか、「イナンナの冥界下り」「ウルの滅亡哀歌」など、神話を中心に16の文書を精選。他では読むことのできない重要な原典に、充実の注・解説を付したアンソロジー。
  • 読書の学
    5.0
    言語は、事実のコミュニケーションのための媒体であるばかりではない。言語自体がまた人間的事実であり、そこに集約されている著者の態度が精密に読み込まれてはじめて、読むことは十全な読書となる。論語・史記から契沖、宣長、徂徠にいたるまで、漢籍や和書を縦横にし、著者の内部に生起し蓄積する感情・思考・論理を通して内的事実に降り立つ実践を展開する。事実に触発される意識をたどり、読書論を超えて学問論にいたる。著者の悠然たる文学的逍遙につき随って、その思考の筋道をつぶさに経験する一巻。
  • 日本陸軍と中国 ──「支那通」にみる夢と蹉跌
    4.5
    中国スペシャリストとして、戦前の対中外交を率いた陸軍「支那通」。その代表的人物・佐々木到一は、孫文はじめ中国国民党の要人と深い親交を結び、第二次北伐に際しては国民革命軍にも従軍した。しかし、その後、支那事変(日中戦争)では南京攻略戦に参加して、いわゆる南京「虐殺」の当事者となり、戦後、激しい批判にさらされることになる。革命に共感を寄せ、日中提携を夢見た彼らが、結果としてなぜ泥沼の支那事変へと両国を導くことになったのか。われわれは、どこで道を誤ってしまったのか? 「支那通」の思想と行動を通して、戦前の日中関係の深層に迫る。
  • 英米哲学史講義
    3.7
    英米哲学の諸潮流は、「経験」を基盤に据えるという発想に導かれている。それは、ロックやヒュームらの「経験論」を共通の源泉とするためだ──。ベンサム、J.S.ミルに発する「功利主義」。フレーゲとラッセルを先駆に、ウィトゲンシュタイン、クワインをへて現代に連なる「分析哲学」。パースが提唱しアメリカを体現する思想となった「プラグマティズム」。そして、ロールズやノージックらの「正義論」。本書は、こうした英語圏の哲学的系譜を、経験論を基点として一望のもとに描き出す。主要哲学のつながりを明快にとらえる、入門書決定版!
  • 増補 性と呪殺の密教 ──怪僧ドルジェタクの闇と光
    5.0
    性行為の歓喜が心身の力を極限まで高め、究極の智恵をもたらすという理論を根拠に、修行に導入された「性的ヨーガ」。不正義の人が悪事を成す前に、浄土に送り届けることは救済にほかならないという思想に基づく「呪殺」。チベット密教には、いまだ秘匿された教義が数多く存在する。なぜそうした奥義がチベットで歓迎されるに至ったのか。その背景を解き明かしつつ、知られざる神秘に迫る。国や地域と時代を問わず、宗教にあまねく内在する暴力とエロティシズムの原理にまで鋭く切り込んだ一章を増補。宗教の本質を抉り出す驚異の密教入門書。
  • 社会科学としての経済学
    4.0
    資本主義のメカニズムを明らかにするために、経済学はどこまでも科学的でなければならない──。戦後のマルクス研究を主導した宇野弘蔵。彼は教条的な『資本論』読解を批判し、純粋な科学として再構成することを企てた。本書では、経済学が取り組むべき根本課題から語り起こし、自然科学と社会科学の違い、マルクス理論の核心を踏まえたうえで、三段階論に代表される自らの理論を紹介していく。さらにマルクスの一連の著作をコンパクトにまとめた論考も収録。今日の資本主義を分析するために、マルクスをどう活用できるのか。その可能性がもっとも明快に示された一冊。
  • ギリシア文化史1
    5.0
    現代のさまざまな国家形態、政治思想、さらに哲学、弁論、文学・芸術の諸ジャンルにおける精神活動は、原型をほとんど古代ギリシアに見いだすことができるだろう。この天才的な民族の創造物にあらゆる面から深い考察を加え、文化史家としての力をすべて結集することで、ブルクハルトの『ギリシア文化史』は成立した。その史観の類を見ぬ深刻さ、厳しく率直な人間観、深い洞察力と広い視野により、古今の史家の試みをはるかに凌駕して、この畢生の大著は歴史の真実に肉薄する。第1巻は、ギリシア人とその神話、ポリスとそこで展開された僭主制や民主制を語る。
  • 大乗とは何か
    -
    幅広く衆生の救済を目指す大乗仏教運動は、西暦紀元前後にインドで胎動し始め、東アジアを覆うほどの伝播をなして今日に至る。「釈尊の初期仏教に立ち返れ」と説く般若経を先駆経典とし、その中心思想「空」はナーガールジュナ(龍樹)によって基礎づけられた。「大乗諸仏と私」「大乗の展開」「大乗の諸相」の三部からなる本書は、「菩薩」という言葉の来歴、空の考え方、経典成立の問題など、大乗の諸側面に迫った、仏教学の泰斗最後の論考集である。仏教入門としてもまたとない書。
  • 親鸞からの手紙
    -
    親鸞が、もっとも信頼する人びとや、最愛の弟子たちと交わした、胸を打つ手紙の集成。その現存する手紙全42通の現代語訳と解説で親鸞の心中に迫る。最新の親鸞研究の成果にもとづき、全書簡を書かれた順に構成。これにより、子息善鸞の義絶事件などの人間的苦悩と、煩悩具足の凡夫であることの自覚から、ひたすら阿弥陀仏の本願(専修念仏)に帰命する姿が、より鮮明に立ち現れる。それは、仏教を貴族や支配階級のもとから解放し、真に民衆のものとして、多くの衆生を獨世から救おうとする姿にほかならない。現代にも脈々と生きる、親鸞の力強い実践思想へのこのうえない入門書。
  • 親鸞・普遍への道 ──中世の真実
    -
    親鸞はいかなる人物か。その思想はどのような今日的意義をもっているのか。親鸞に親しむほどに既成教団を否定せざるをえず、浄土真宗の末寺に生まれながらあえて寺院を離れた著者が、一市民として全存在をかけて親鸞の求道に分け入る。自己の無力を知り弥陀の本願に依ることでどのような者も救われるという「絶対他力」の教えは、ケガレを忌み、占い、苦行や作善、祖先崇拝に救いを求めた中世人に、いかばかりの衝撃をもたらしたか。中世の「聖なる世界」の構造をトータルに把握し、そのなかで親鸞が切り開いた「絶対他力」という「普遍への回路」を明らかにする、渾身の著。
  • 読む聖書事典
    3.3
    天地創造、アダムとエバの楽園追放、モーセの十戒、イエスの誕生、最後の晩餐──聖書には有名なエピソードは多いが、その全容はあまり知られていない。本書では多くの人名、地名、用語をとりあげ、物語のつながりや深層がわかるように説く。豊富な図版とともに読めば、西洋・中東文化にいまも色濃く影を落とす歴史の背景が目に見えるように浮かんでくる。巻末には旧約・新約聖書の内容や成り立ちをはじめ、ユダヤ・キリスト教の基礎を押さえられる解説、年表、関連地図などを収録。用語事典としてはもちろん、読み物としても楽しい、聖書入門書の決定版。
  • ケガレの民俗誌 ――差別の文化的要因
    4.5
    被差別部落の白山信仰、血穢の性差別、非常民の世界、民俗概念としてのケガレ。これまで日本民俗学が避けてきた問題、ケガレと差別の底に潜むものは何か。ハレ・ケ・ケガレの民間信仰の意識構造のなかで、ケガレが不浄なるものへと変化する過程を究明し、経血にまつわる女性差別の要因である血穢の虚構をあばく。また、死穢というもっとも大きな不浄観はどのような時空間で発生するのかなど、その基底にある民俗儀礼の奥底を明らかにする。ケガレとはたんなる汚穢ではなく、ハレを喚起する力なのだ。日本民俗の深層に根付いている不浄なる観念と差別の問題を考察した先駆的名著。
  • 禅のこころ ――その詩と哲学
    -
    禅とは何だろうか。古来、仏の悟りの真髄をこころからこころへと伝えてきたため、その世界に参入するのはなかなか難しい。本書はこの難問に応える。禅の世界は、坐禅修行を通して真実の自己とは何かを究明し、同時に現実世界において平常心に生きる道であることを解き明かす。そこに開かれる、自然や他者との不二の境地は、まさに詩となり、味わいに富む言葉に結晶する。その禅的境涯にひそむ理路は、「言語」「時間」「身心」「行為」などの哲学的探究の展開ともなる。禅を、今を生きるための思想として、多くの人の身近なものとすべく意図された、他に類例のない入門書。
  • いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか
    4.4
    霊学研究の諸成果に関心を寄せる人々の中には、そのような人生の高次の謎を口にする者が一体どこからその知識を得たのか、という点に疑問をもたざるをえない人もいるであろう。本書はまず第一にこのような人のために役立ちたいと望んでいる。霊学は人生の高次の謎の本質に深く係わろうとする。この霊学からの発言の根底にある諸事実を吟味しようとする人は自力で超感覚的な認識を獲得しなければならない。本書はそのための道を記述しようとしている。四大主著の一冊。
  • 工場日記
    4.0
    新進のうら若き女性哲学教師が教職をなげうち、未熟練の女工として工場に飛び込んだのは、市井の人びとの疎外状況を身をもって知るため、というだけではなかった。「人間のありのままの姿を知り、ありのままを愛し、そのなかで生きたい」という純粋かつ本質的な欲求による、やむにやまれぬ選択であった。だが、現実には激しい労働と限りない疲労に苛まれ、心身は限界に達する。過酷な日々を克明に綴った日記は問いかける、人間性を壊敗させる必然性の機構のなかで、はたして人間本来の生は可能なのか――。これは極限の状況下でひとりの哲学者が自己犠牲と献身について考え抜いた、魂の記録である。
  • モーツァルト
    -
    驚異の神童として名を轟かせながら、貧困のうちに不遇の晩年を送った天才作曲家―世に広く根付いているモーツァルトの姿は、誇張されたフィクションだった! 新たな視点から資料を読み直すことにより、作品がその生涯と手をたずさえ、ますます美しい輝きを獲得してゆく。才能を誇りとも重荷ともしながら、史上初のフリー音楽家として各ジャンルに革新をもたらした青年音楽家が、苦闘の末、野心から解き放たれて満ち足りた調べを奏でるまで。知られざる真の姿をあざやかに描く。厳選15の名曲・名盤紹介つきのモーツァルト入門決定版。
  • 自発的隷従論
    4.3
    なぜみずから屈し圧政を支えるのか。圧制は、支配される側の自発的な隷従によって永続する――支配・被支配構造の本質を喝破した古典的名著。シモーヌ・ヴェイユが本作と重ねて20世紀の全体主義について論じた小論を併録する。
  • 贈与論
    4.1
    ポトラッチやクラなど伝統社会にみられる慣習、また古代ローマ、古代ヒンドゥー、ゲルマンの法や宗教にかつて存在した慣行を精緻に考察し、贈与が単なる経済原則を超えた別種の原理を内在させていることを示した、贈与交換の先駆的研究。贈与交換のシステムが、法、道徳、宗教、経済、身体的・生理学的現象、象徴表現の諸領域に還元不可能な「全体的社会的事象」であるという画期的な概念は、レヴィ=ストロース、バタイユ等のちの多くの思想家に計り知れない影響とインスピレーションを与えた。不朽の名著、待望の新訳決定版。人類社会のアルケーヘ。
  • 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
    3.9
    筆下し、水揚げ、若衆入り、夜這い……。ムラであれマチであれ、伝統的日本社会は性に対し実におおらかで、筒抜けで、公明正大であった。日本民俗学の父・柳田国男は“常民の民俗学”を樹ち立てたが、赤松は、「性とやくざと天皇」を対象としない柳田を批判し、“非常民の民俗学”を構築し、柳田が切り捨ててきた性民俗や性生活の実像を庶民のあいだに分け入り生き生きとした語り口調で記録した。『夜這いの民俗学』『夜這いの性愛論』の二冊を合本した本書は、性民俗の偉大なフィールド・ワーカー赤松啓介のかけがえのない足跡を伝える。【解説:上野千鶴子】
  • どうして英語が使えない? ――「学校英語」につける薬
    3.2
    『試験に出る英単語』と『基本英文700選』で大学には合格した――でも少しも英語ができるようにならなかったあなたへ。英和辞典が気づかない英日一対一対応という幻想と、学校英語・受験英語の人工言語化が日本人の英語力を低くしているのではないか。英語のシャワーでこれまで習い覚えた英語を unlearn する必要がある。アクション映画で決まり文句と生の発音を体得し、TIME の記事から60%の理解で速読・粗読する独自の方法を提示する。学校英語の害毒を中和するための Modest Proposal。
  • モーセと一神教
    4.5
    フロイトはその最晩年、自身の民族文化の淵源たるユダヤ教に感じてきた居心地の悪さに対峙する。それは、〈エス論者〉として自らが構築してきた精神分析理論を揺るがしかねない試みであり、「生命と歴史」という巨大な謎と正面から格闘することでもあった。「もはや失うものがない者に固有の大胆さでもって、……これまで差し控えておいた結末部を付け加えることにする」――ファシズムの嵐が吹き荒れる第二次世界大戦直前のヨーロッパで、万感の思いを込めて書き上げられた、巨人の恐るべき遺書。
  • 向う岸からの世界史 ――一つの四八年革命史論
    4.5
    1848年、パリで勃発した二月革命はドイツ・オーストリアの三月革命へと発展し、やがてヨーロッパ全域へと拡大する。本書はウィーンとベルリンにおける革命の実態を克明にたどりながら、それまで「歴史なき民」と蔑まれてきた少数民族やプロレタリアートに光をあて、彼らこそが歴史の真の担い手であり、革命の主体であったことを明らかにする。丹念に収集された史料図版と独自の1848年革命史研究を通じて、西欧近代中心主義的歴史観を超える新しい歴史像を示そうとした逸品。
  • 重力と恩寵
    4.4
    「重力」に似たものから、どうして免れればよいのか? ――ただ「恩寵」によって、である。「恩寵は満たすものである。だが、恩寵をむかえ入れる真空のあるところにしか入っていけない」「そのまえに、すべてをもぎ取られることが必要である。何かしら絶望的なことが生じなければならない」。真空状態にまで、すべてをはぎとられて神を待つ。苛烈な自己無化の意思に貫かれた独自の思索と、自らに妥協をゆるさぬ実践行為で知られる著者が第二次大戦下に流浪の地で書きとめた断想集。歿後に刊行され、世界に大反響を巻き起こした処女作。
  • ジンメル・コレクション
  • 無常
    5.0
    今も昔もわれわれの美意識や倫理観の奥底には「無常」が生きている。女流文学に登場する「はかなし」が歴史の転換とともに「無常」へと姿を変える。「無常」はよく言われるような「色はにほへど散りぬるを」といった感覚的・心理的なものではなく、日本中世に盛んになった大乗仏教のなかから生まれた形而上学が発見したものだった。「かげろふの日記」から始まり「平家物語」を経て「正法眼蔵」へといたる精神の歴史と、「無常仏性」に表わされる道元の哲学を明らかにした名著。
  • 世界史のなかの戦国日本
    4.0
    サハリン・沿海州貿易を手中に収めようとする蛎崎氏、琉球王国を狙う島津氏、南蛮貿易のためにおたずね者まで取り込む松浦氏、世界基軸通貨=銀貨をめぐり暗躍する倭人ネットワーク……。15、16世紀の日本では、商業圏拡大という覇権争いが始まっていた。「グローバル・ヒストリー」の先鞭をつけた歴史学の名著。
  • インテリジェンス ――国家・組織は情報をいかに扱うべきか
    4.1
    ますます過剰化、多様化する情報の渦のなかを国家は、組織は、そして国民はどう生き抜いていけるのか。意思決定者や軍が正しい行動をとるために、情報機関にいま必要とされていることはなんなのか?気鋭の防衛省の研究官が、「インテリジェンス」の歴史から、各国情報機関の組織や課題を詳述。イランクが大量破壊兵器を保持しているという、なんの根拠もない「事実」が信じられるに至るまでの情報の誤った伝達や歪曲、スパイ・ゾルゲの活躍の裏側など、著名な歴史的事件をはじめ、豊富な事例を通して易しくわかる、インテリジェンス入門の決定版。
  • 乱数
    -
    「乱数」とは、サイコロを振って出る目のように「規則性のない数字(の列)」のことである。フォン・ノイマンは、コンピュータを使って乱数らしきもの(疑似乱数)を作り出す方法を考案した。疑似乱数は、数値実験や標本抽出などの統計的諸手法にとっては、数の頻度分布の「一様性」が満たされていれば十分である。本書は、このような意味での乱数列の作り方や、正規分布などの頻度分布に従う乱数列への変換法、さらに得られた乱数列が実用上許容できるものかどうかの統計的検定法を基礎的理論から実用的な計算法までをバランスよく記述した「乱数」を体系的に学べる日本でほとんど唯一の入門書。
  • 中国の城郭都市 ――殷周から明清まで
    3.0
    ときに長さ数十キロ・高さ十メートルを超える城壁で都市全体を囲んだ、中国の巨大な城郭都市。はやくは四千年以上前に作られ、一部戦乱期を経て継承・増改築された数々の城壁は地表・地中にその跡を遺し、現在も発掘調査が行われている。本書は、殷から清までのおもな城郭都市の構造を、史料と考古資料をもとに網羅的に紹介する類のない入門書。長安城、洛陽城、北京城など皇帝の住む都城から、地方行政の中心である州城・県城まで。城郭都市の発生、その構造の変遷から浮かび上がるのは、政治や戦争、人々の暮らしの変化だ。豊富な図版とともにあまたの城壁を渡り歩く、ダイナミックな中国都市史。
  • 死にいたる病
    3.7
    絶望とは、人間の精神のみが罹る「死にいたる病」である。キリスト教会の欺瞞を批判しつつ、無限なる神との関係における有限なる自己(単独者)をめぐって、絶望と罪との諸形態を徹底的に分析し、考え抜く――精神の教化と覚醒のために。自己疎外に陥った現代人の魂の、その核心への肉薄が、今なお鮮烈に読む者を捕えて離さない実存主義哲学の古典。20世紀の思想に広範な影響を与えたキルケゴール晩年の思索を、デンマーク語原点から訳出し、詳細を極める訳注と解説を付す。
  • 女王陛下の影法師 ──秘書官からみた英国政治史
    4.8
    ヴィクトリア女王、エリザベス2世、そしてチャールズ3世まで、イギリスの歴代君主に仕えた君主秘書官たち。多くは君主の青年時代からの側近であった彼らは、国内外の様々な問題を君主に報告し、時に助言も行い、有事に際しては公正中立な立場から君主と政権をつなぐ重要な架け橋でもあった。本書では、彼らが登場した歴史的経緯を踏まえつつ、手紙や日記などの史料を交えて秘書官と君主との物語を描く。貴族政治から大衆民主政治への転換、二度の大戦、王室のスキャンダル……。激動の時代を経てなぜ今も君主制が存続するか。その謎に迫るユニークなイギリス近現代政治史。
  • 朝鮮の膳/朝鮮陶磁名考
    -
    浅川巧は日本に朝鮮半島の工芸のすばらしさを伝えた先駆者として知られる。ものだけではなく、ものを生み出した民族全体を愛する姿に、民藝の父・柳宗悦は打たれ、生涯の友となった。そして浅川と柳は当時誰からも評価されていなかった李朝工芸に美を見出し、ソウルの景福宮内に「朝鮮民族美術館」を設立する。本書収録の『朝鮮の膳』は膳の歴史や産地、形態、用途、材料、製作法などを紹介したもの。『朝鮮陶磁名考』は器物の本来の名称とその用途などを記録したもの。いずれも90年以上前の著作だが、朝鮮工芸に関する比類なき名著として、日本でも韓国でも読み継がれている。
  • 「おのずから」と「みずから」 ──日本思想の基層
    -
    日本語において「おのずから」と「みずから」は、ともに「自(ずか)ら」とあらわす。成ることと為すこと、物と自己、自然と自由を意味するが、截然と分けられず、両者には交差・共和・相克する「あわい」がある。そこに見られる日本人の基本的発想とは何であり、それはまたどのような思想文化を育んできたのか。本書は、思想・宗教・文学・芸能の諸領域を広く深く行き来しながら、日本人の自然と自己との相関的認識、超越と倫理との関わり、そして無常観と死生観を根源から問いなおす。倫理学者・日本思想史家である著者の代表作。
  • 道徳および立法の諸原理序説 上
    -
    イギリス近代を代表する思想家にして法学者ジェレミー・ベンサム(1748‐1832)。本書は、近体功利主義の創始者として知られる彼の代表作と目される記念碑的著作である。ここでベンサムは、人間の快と苦痛のみに基礎づけられた功利性の原理をもとに個人と共同体のありようを徹底的に解析し、そこから真に普遍的な法体系を導出しようと試みる。その挑戦はわれわれをどこに導くのか? 刊行より200年以上経てもなお倫理学、法哲学、政治思想など広範な分野に圧倒的な影響を与え続けている名著を、このうえなく清新かつ平明な訳文で送る。上巻は「第13章 罰すべきでない場合」まで。文庫オリジナル。
  • プルースト 読書の喜び ──私の好きな名場面
    -
    よく知られた“紅茶とマドレーヌ”やヴァントゥイユの小楽節との再会、海辺の乙女たち、祖母の死――。20世紀最高の小説『失われた時を求めて』から、著者が鍾愛してやまない場面を読み解き、この大作へ読者をいざなう。なぜプルーストはかくも多くの人々を魅了するのか。人間を見る際の認識が精細を極めていることはもとより、知覚対象がもつ生命の再創造を小説の言葉によって成し遂げたこと、それが読む者に精神の躍動、つまりは幸福感をもたらすからである。傑出したプルースト学者が、読書の愉悦をあますところなく伝える珠玉のエセー。
  • 東方キリスト教の世界
    4.5
    東方キリスト教は、ロシア正教など東ヨーロッパを中心に広がる東方正教会や、主に中東で広まった東方諸教会などを包括するものである。使用言語も多岐にわたりその歴史も複雑なため、日本語での情報は限定されてきた。本書はそうしたなかで、長らく基本情報を提供してきた名著だ。西洋古典学・ビザンツ学・スラヴ文献学の横断的研究で傑出した業績を残した研究者が、東方キリスト教全体を扱いつつも、教義や歴史にとどまらず、巡礼・神秘思想・教会建築・イコン・天国/地獄表象など幅広く信仰文化にまで踏み込む。
  • 江戸 食の歳時記
    3.0
    和食の原型は江戸時代に形作られた。そう聞くと江戸の料理は素朴なものだったと思われるかもしれないが、さにあらず。魚は天然、野菜は有機、その上調理方法にも技巧が凝らされており、江戸の食文化はとても豊かだった。例えば刺身一つとってみても今はたいてい醤油を添えるが、江戸時代は魚の種類ごとに煎り酒や生姜酢などの各種調味料を使い分けていた。薬味もわさびだけでなく、からし、おろし大根、蓼など多様だ。本書ではそんな豊かな江戸の料理と食材を季節ごとに紹介し、各種行事食の由来も解き明かす。第一人者による人気連載を初書籍化。江戸時代の図版も約150点収録。
  • 遊歴算家・山口和「奥の細道」をゆく
    -
    中国から輸入された数学的知識は、江戸時代には「和算」として大きく花開き、後期になるとその愛好者は、地方や庶民層にまで及んだ。その牽引車となったのが、旅をしながら数学を教えた遊歴算家だった。当時の主流、関流の実力者・山口和が遺した遊歴の記録『道中日記』をもとに、数学の魅力や愛好者たちの思い、さらに歌枕を訪ねた芭蕉との共感まで含めて、主人公の人間的成長を生き生きと描いた和算時代小説。文庫オリジナル。
  • 卵のように軽やかに ――サティによるサティ
    5.0
    《3つのジムノペディ》で知られるサティ。彼はこんにちの実験音楽・環境音楽の先駆けをなす創作を試みた音楽家だったが、それだけではない。コクトーやピカソらと交流し、写真家マン・レイにインスピレーションを与えるなど、音楽の枠を超える自由な創作を楽しみ、それゆえ音楽史においては常に“異端児”のように扱われてきた。サティとは一体何者? 本書は彼の書いた音楽評論・エッセイ・詩・戯曲などを精選。時にユーモラス、時にシニカル。軽妙洒脱なエスプリをご堪能あれ。
  • 交響する経済学 ――経済学はどう使うべきか
    4.0
    世の中には名だたる経済学の古典がいくつもある。しかしケインズは、経済学者であるからには学術専門書ではなく、パンフレットのようなものを書くべきだと述べた。経済学者は日々変化する経済情勢をつかみ取り、それに対処し続けなければならないと考えたからだ。本書では経済政策の表舞台に立った当のケインズをはじめ、スラッファ、シューマッハー、ミュルダール、セン、ハロッド、都留重人らによって書かれた様々な問題への、今こそ注目すべき処方箋を紹介。あわせて無数に枝分かれした各経済学派の特徴と、その目指すところも解説する。経済学に興味のあるすべての人へ。学芸文庫オリジナル。
  • 装飾と犯罪 ──建築・文化論集
    3.0
    ハプスブルグ帝国の末期に生まれ育ちながら、近代建築の地平を切り拓いた先駆者ロース。その装飾を排した建築作品は、当時のウィーン社会において物議を醸すことになる。文筆活動においても舌鋒鋭くラディカルな文化社会批評を展開したが、本書はそのうち重要な論考を精選した一冊である。有名な「装飾は犯罪である」をはじめとした過激な発言に満ちている一方で、ギリシャ・ローマを範とするような古典主義的な思考も随所に覗く。幅広い交友関係を反映して、シェーンベルクやココシュカなども登場。急速な変化を遂げる激動の世紀末・20世紀初頭のウィーンを中心に、モダニズムの強い息吹に触れることができる。
  • 宋詩選
    -
    唐詩の時代より、「詩」という形式が広く親しまれるようになり、作者も作品もはるかに数多かったと言われる宋代。本書では、この安定した中国的国家体制が敷かれていく時代を、北宋と南宋に大別し、おのおの約30人ずつの数作を選ぶ。自分が好きな詩に限って選んだと述べつつ、王安石、黄庭堅、蘇軾、陸游ら、偉大なる詩人たちの名作を解釈し訳出する。巻末につけられた編訳者による「解説」は、親しみやすい調子で書かれた充実の宋詩論かつ漢詩概説にもなっている。
  • 戦国乱世を生きる力
    4.0
    応仁の乱以降の中世日本は、まさに戦乱の時代であった。民衆は、殺害、略奪、放火の危険にさらされつつ、無法地帯を生き抜いていかねばならなかった。戦国大名も自身の野心のためだけに行動できたわけではなく、「国を静謐せしめる」(平和の秩序を回復する)ことにその存在意義が求められた。「土一揆」から「宗教」、「天下人の在り方」まで、この時代の現象はすべて平和を願い、なんとか乱世を生き延びようとした民衆の姿と切り離して考えることはできない。「乱世の真の主役としての民衆」を焦点とした戦国時代史。
  • 十五年戦争小史
    4.0
    戦争は、誰によっておこされ、どのように展開したか――。本書では、1931年の柳条湖事件の謀略に始まり、45年ポツダム宣言受諾と降伏文書調印によって終わった一連の戦争を「十五年戦争」と呼び、その曲折に満ちた過程と全体像を克明に描く。アジア覇権主義を掲げる日本軍部と対米英協調路線の宮中グループとのせめぎ合い、マスコミの報道によって国内で急速に高まる排外主義、アジア太平洋戦争へと向かう御前会議のありよう………。満州事変、華北分離、日中戦争、アジア太平洋戦争で構成される各部には年表、関係地図を付し、制度や組織の変遷、人事の系統図なども適宜配した。長年読み継がれてきた画期的通史。
  • インドの数学 ──ゼロの発明
    -
    サンスクリット文化圏の数学は、多様性と創造性に溢れ、数学史においても大きな足跡を残してきた。「ゼロの発明」はとりわけ有名であるが、それにとどまらない。本書は、ヴェーダ祭式の祭場設営に由来する最古層の幾何学に始まり、ジャイナ教徒の数学と哲学・世界観との関係、数学と天文学、7世紀以降のアルゴリズム数学と代数の確立など、各時代に開花した数学を概観し、その発展の過程を探る。終章では、三角関数、ホロスコープ占星術、筆算法、和算などのトピックを通して、インドと他文化圏との数学の伝播を考える。
  • 内村鑑三交流事典
    -
    近代日本を代表するキリスト者・内村鑑三。一見孤高の思想家に見えながら、実は内村は、日本人のなかでは類例がないほどの文化的「山脈」を形成していた。宗教界から、教育界、文学界、社会事業界に至るまで、多くの分野に及ぶ交流のさまを追うことによって、一個の精神と時代の姿が浮かび上がってくる――。本書は、序章で質的漸進を遂げていった内村の生涯を記した後、生前に関係した人物二百数十名を対象に、両者の交流を事典形式で紹介。巻末には詳細な内村の年譜も収録する。文庫オリジナル。
  • シェーンベルク音楽論選 ──様式と思想
    4.0
    現代音楽の最初の出発点を切り拓いた音楽家シェーンベルク。十二音技法の開発を通して無調音楽への扉をひらき、作曲活動はもちろん『和声学』『対位法入門』などの理論書でも知られる彼が、音楽的信念を熱く綴った論集が本書である。ここでは内から突き上げる創作への力を重視し、作曲技法がマニュアルに堕することを批判する。激動のヨーロッパ史、大衆音楽の興隆、グローバリゼーションと民族性の相克などを含めてクラシック音楽が大きな結節点を通り過ぎていくさまを通し、20世紀芸術が経験した思想的葛藤を目の当たりにすることができる。音楽そして芸術を考えるための必読書。
  • 大名庭園 ──江戸の饗宴
    -
    小石川後楽園、六義園、浜離宮等、大名家が誇った名園はどのように造られ、そこではどのような社交や饗宴が催されていたのだろうか。自然の地形や植生の利用、潮入りの池のような大泉水、回遊様式など、日本庭園の魅力的な特徴を備えた大名庭園。そこを舞台に繰り広げられた茶事から趣向をこらした酒宴など多様な遊興と社交に、本書は注目する。大名庭園は京の公家文化と武家社会をつなぎ、当時の芸能、芸術全体を取り込んで成立したことが明らかになる。西洋の宮殿庭園とも機能を比較する他に類をみない文化史。
  • 代数的構造
    3.5
    よく似たしくみをもつもの同士を同じものと見なす「パターン認識」。それは数学的な構造としては20世紀に深化発展した。数や多項式、関数などから、群・環・体などの有用な構造が取り出された。本書は抽象代数の基本概念を、歴史的背景をおりまぜつつ、ていねいな叙述でひもとく。随所に登場する卓抜な比喩は理解を助け、ガロア理論の意味まで望見させる。「体Σ/Kは地上に生えている大木に似ている。……基礎体は木の根に当たる。ガロア群は木を揺さぶる外からの力に比べられる」「秘密を探るのに、まずそれを揺さぶってみる……ここにガロアの理論のもつ射程の大きさがある」と。
  • 関数解析
    5.0
    関数解析学は微分方程式や積分方程式などの問題を解くための方法として、20世紀初頭に誕生した分野である。現代では偏微分方程式のほか、数理経済学や数値解析など幅広い方面に応用範囲をもつ。本書はバナッハ空間の解説から始まり、一様有界性定理・開写像定理・閉グラフ定理などの基本定理を証明。そして話題はボッホナー積分や線形作用素の半群にまで及ぶ。証明の式変形は非常に丁寧で、論理展開を追いやすいように書かれている。関数解析の基礎を過不足なくおさえた名教科書。
  • 定本 武江年表 上
    -
    1~3巻1,265~1,320円 (税込)
    武蔵国江戸(武江)300年の詳細な記録。「年表」とはいっても、たんに歴史上の事件を年代順に列記した無味乾燥なものではなく、各時期の江戸の地理の沿革、坊間の風俗、事物の権輿、韵士・墨客・伎芸の動向、気象の変化など、その背景とともに生き生きと記録された、壮大な大河小説にも比肩されうる不朽の名著。本書は、斎藤月岑の刊本を底本とし、それに喜多村いん庭、関根只誠、朝倉無声の補訂を加え、さらに、校訂者今井金吾の補注・解説・詳細な索引を付して完璧を期し、全3巻としたものである。歴史や時代小説に関心ある者の必読書。上巻は、天正18年より宝暦13年まで。
  • 啓蒙主義の哲学 上
    4.0
    啓蒙主義は、すでに乗り越えられた浅薄な思想なのか。のちの思想家たちから「反省哲学」「過去の思想」という烙印を押されてきたが、はたしてそうか。18世紀啓蒙主義の「明るい鏡」を現代批判の鏡として位置づけ、自らそれとの内面的対決を果たした著者は、批判精神に満ちた鋭い洞察力で、啓蒙主義の思考形式から「美学」の誕生までの諸側面を余すところなく分析し、その統一的結びつきを解明する。哲学者カッシーラーが従来の批判を排し、啓蒙主義思想の再評価を打ち立てた古典的名著。文庫化にあたり全編改訳。上巻は啓蒙主義の思考形式、自然観と自然科学、心理学と認識論、宗教の理念を収録。
  • 科学の社会史 ──ルネサンスから20世紀まで
    5.0
    科学(science)──それはもともと「知ること」を意味する。哲学や宗教を包含した知的営みであった中世以前の科学は、やがてルネサンスの訪れを機に次第にその姿を変えていく。啓蒙主義、フランス革命、産業革命、そして世界大戦といった政治的・文化的出来事の影響を受けた科学は、社会的位置をたえず変化させながら「制度化」の道をたどってきたのだ。複雑にからみあうさまざまな社会的要素を解きほぐし、約400年にわたる西洋科学の変遷を明快にまとめた定評ある入門書。図版多数。
  • 独立自尊 ──福沢諭吉と明治維新
    4.0
    福沢諭吉は、西洋文明との対比のなかで、日本文明の特質を根源的に考察し、国家の発展には何が必要かを問い続けた。そして、脈々たる熱情をもって人々に精神の変革を訴えかけた。本書は、中津藩時代から晩年まで、因習に挑み、明治国家建設に邁進した生涯を描いたものである。『学問のすゝめ』『文明論之概略』の論評や朝鮮問題の再検討など、随所に示される著者の見解は、国家の歩みとともにあった人物の統一的把握をもたらすだろう。福沢の思想の真髄を明快に伝える最良の評伝。
  • ブリタニカ草稿 ──現象学の核心
    3.0
    現象学の始祖エトムント・フッサールが、『ブリタニカ百科事典』の求めに応じ、「現象学」の項目のために執筆した、ドラマチックな推敲のあとが窺える四つの草稿の集成。変化しつづけたフッサールの思索が成熟した時点で書かれた本書は、まさに“現象学とは何か”その核心を語る。そのため、完成稿(第四草稿)は、始祖自身による最も完備した好適な入門書ともなっている。これら草稿は、ハイデガーとの共同作業を経て完成したが、とくに第二草稿には両者の一致と相違が如実に現れていて、20世紀を主導した両者の現象学的哲学の本質を考えるための重要なヒントもここにある。詳細な訳者解説を付す。
  • 「きめ方」の論理 ──社会的決定理論への招待
    3.6
    ある集団のなかでみんなの意思がうまく反映された決定を下すには、どうすればいいだろうか。特に、各人の考えがバラバラで、にもかかわらずそれらを集約して一つの判断を下さなければいけないとき、望ましいきめ方とはどんなものだろうか。これを探究するのが社会的決定理論という分野である。様々な投票方式が生み出す矛盾から、アローの一般可能性定理、さらにはセンの自由主義のパラドックスやゲーム理論まで、この理論が含みもつ広範な内容をかみ砕いて丁寧に解説。社会的決定における「公正さ」「倫理性」とはどのようなものか検討する。最良の入門書として長年親しまれてきた比類なき名著。
  • 現代数学入門
    4.3
    現代数学は数学者だけの高度なものと考えがち! だが、じつは考え方そのものは日常の生活のなかでよく経験している。著者はそういって、集合・関数・構造・群・位相などの概念の本質を、古代からの数学の歴史をたどりつつ、卓抜な比喩で解き明かす。本書前半「数学は変貌する」では、読者はその名調子に身をまかせ安心して聞きほれることができる。堅苦しい数学観も一変するにちがいない。学校数学になじんだ理系学生にも、その闊達な筆致のデッサンは魅力だろう。後半「現代数学への招待」はその詳論。解説はらせんを描きながらより高みへと読者を誘う。
  • 増補 ハーバーマス ──コミュニケーション的行為
    3.0
    人間には暴力・抑圧に支配されず対話を交わし、相互理解に到達する理性の力が与えられている。宗教や因習など非理性的な力を脱した近代社会において、民主的な原理はようやく一人立ちしたが、同時に支配のシステムは強大に、そこから生じる人間疎外も強固になり、コミュニケーション的理性の可能性は十分には実現できなかった。異なる利害を持った人間が意思を疎通し、行為を調整しあうにはどうしたら良いのか。あくまでも人間のコミュニケーションへの信頼を保とうとするハーバーマス。その全貌をとらえた一冊。
  • 中世賤民の宇宙 ──ヨーロッパ原点への旅
    4.7
    差別はどこから生まれてくるのだろうか? ヨーロッパにも職業差別・身分差別は存在したのだろうか? 本書は、『ハーメルンの笛吹き男』で西洋中世の被差別民の存在に初めて光をあてた著者が、賎視と身分差別の問題に正面から取り組んだ、阿部史学の代表的著作である。西洋中世において、キリスト教の浸透による時空観念の一元化と死生観の転換によって、畏怖の対象であった職業を賎視するようになる過程を考察する。「ヨーロッパ中世賎民成立論」のほか「ヨーロッパ・原点への旅」「死者の社会史」等も収め、“小宇宙”と“大宇宙”をキーワードに西洋中世の人々の心的構造の核に迫る。
  • 物理現象のフーリエ解析
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    熱伝導の研究から、「任意の周期関数は三角関数の無限和で表される」ことを発見したジョゼフ・フーリエ(1768-1830)。実際その級数展開の方法は、熱伝導のみならず、さまざまな物理現象をときあかすために欠かせないツールであることが明らかとなった。本書は熱・光・音の伝播という身近な現象から、線形応答理論や量子論におけるフーリエ変換の応用まで、具体例を多数紹介。丁寧な筆致で、読者を多様な物理の世界へといざなう。
  • 呪われた部分 ──全般経済学試論・蕩尽
    3.0
    「“全般経済学”とは、生産よりも富の“消費”(つまり“蕩尽”)のほうを、重要な対象とする経済学のことである。」経済合理性の範疇に収まらない蕩尽・祝祭・宗教・エロス・芸術は、人間の喜びの本質が有用性の原理に拠って立つ生産・蓄積過程にあるのではなく、消費・蕩尽にあることを示す。本書は人間が不可避的に内包せざるを得なかった「過剰」を考察の対象にして人間存在の根源に迫り、生を真に充実させるために、蕩尽・神聖・恍惚に代表されるこの「呪われた部分」の再考を鋭く強く促す。意識の「コペルニクス的転回」に賭けたバタイユ作品の新訳。巻末に先駆的重要論文「消費の概念」を収録。
  • 鉱物 人と文化をめぐる物語
    3.0
    「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えてゐる。」(『銀河鉄道の夜』)。冒頭の「宮沢賢治はなぜ石が好きになったのか」からはじまり、ミケルアンジェロと竜安寺の関係、モーツァルトが石の名前になったわけ、吉良上野介の墓石など、鉱物の深遠にして、不思議な真実が次々と披瀝される。石に対する深い愛と学識に裏打ちされ、優しい語り口で紹介される「砂漠のバラ」、「火星の石」、「黄鉄鉱」、「ラピスラズリ」は、愛好家ならずとも思わず魅了される。「珠玉」のエッセイ。図版多数収録。
  • 中国史談集
    -
    中国小説、なかでも怪異譚や笑話など庶民文学研究の第一人者が、多くの資料に目配りを利かせ、洒脱な筆さばきで歴史の表面に浮かび上がってこなかった知られざる裏面を独自の視点から鮮やかに掘り起こす。採りあげられる話題は、皇帝、彫青、にせ倭寇、流言、筆禍事件等と多彩で、特に仏教の僧侶、道教の張真人、宗教結社の問題は、現代中国にも密接に連なるテーマ性を兼ね備えている。
  • ユダヤ古代誌1
    4.5
    ヨーロッパのキリスト教徒や知識人たちにもっとも広く読まれてきた『ユダヤ古代誌』。天地創造から説き起こし、紀元後66年のユダヤ戦争直前までの記述で終わる全20巻は、ヨセフスが敗軍の指揮官のひとりとしてローマに降ったのち、皇帝の厚遇のもとに書かれた。政治的には親ローマ派であり、思想的にはユダヤ教、ユダヤ文化の弁護者であったヨセフスの大著は、ユダヤ史を知るうえできわめて貴重な史料であるばかりでなく、イエスと同時代の散逸した記述を数多く含む文献として、キリスト教徒たちの関心をひきつけてきた。原著1~4巻までを収める文庫版第1巻は、天地創造からアブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフをへてモーセの事蹟に言及する。
  • 道教とはなにか
    -
    中国は儒教の国ではない! 道教こそが今でも生き生きと脈打ち、人々から篤い信仰を得ている。「道教がわかれば、中国のことはまるごとわかる」と魯迅は言ったが、中国人の精神構造を知るための鍵は道教なのである。では道教とはなにか? この問いに対する答えは単純ではない。なぜなら、道教は教理、哲学、経典を中心にした宗教体系ではなく、呪術、儀礼、戒律を基礎とした民族宗教であって、文献・資料からだけではその全貌を窺い知ることができないからである。本書では文献による歴史的理解は当然のこととして、東南アジアの華人街の現地調査も踏まえ、中国人のこころの拠りどころとしての「気の宗教」の本質を紹介する。冒頭に初学者のための「道教をめぐるQ&A」を付す。
  • ベクトル解析
    4.3
    ベクトル解析は、電磁気学・流体力学などを学ぶ学生に必須の課程で、しばしば工学・物理系の応用数学とみなされがちである。しかし見方をかえて、基礎的な「1次元の線形代数学」から多次元への発展、「1変数の微積分」から多変数関数の微積分への発展、の段階の解析学と考えれば、大学教養課程の結節点ともみなしうる。それはより抽象度の高い、多様体へのゆるやかな第一歩である。本書では、そのような展開性のある位置づけのもとに、森一刀斎が「ベクトル解析のココロ」を開陳する。最終章に新たに、教育的側面を明らかにした「なぜベクトル解析なのか」を加えた。
  • 中国説話文学とその背景
    -
    「私のこの書は私の心を惹かれた中国古典の説話、随筆、短篇小説、歴史の断片などを蒐集して、私の得た新鮮な驚き、感動、あるいは哄笑などを多くの人と頒ち合いたいために書かれたものである」(本書「あとがき」より)。世界的数学者が、その本業の傍ら、永い年月をかけこつこつと集め、訳し、解説を施した“私の「収集展示館」”。原作者の意図や歴史的背景に迫る記述は、随所に新発見、新説、新釈が見られ、新鮮で奥深く、かつ滋味あふれる中国説話文学への誘いとなっている。書き下し文庫オリジナル。
  • 中世の星の下で
    4.0
    遠くヨーロッパ中世、市井の人びとは何を思い、どのように暮らしていたのだろうか。本書から聞こえてくるのは、たとえば石、星、橋、暦、鐘、あるいは驢馬、狼など、人びとの日常生活をとりまく具体的な“もの”との間にかわされた交感の遠いこだまである。兄弟団、賎民、ユダヤ人、煙突掃除人など被差別者へ向けられた著者の温かい眼差しを通して見えてくるのは、彼らの間の強い絆である。「民衆史を中心に据えた社会史」探究の軌跡は、私たちの社会を照らし出す鏡ともなっている。ヨーロッパ中世史研究の泰斗が遺した、珠玉の論集。
  • 魔術的リアリズム ──メランコリーの芸術
    4.0
    1920年ドイツ。表現主義と抽象全盛の時代に突如現れ、束の間妖しく輝き、やがてナチスの「血と大地」の神話の陰に消え去った、幻の芸術があった。歴史の狭間に忘れ去られた画家たちの軌跡を克明にたどり、仇花のごとき芸術の誕生と死を通して、ある時代の肖像を鮮やかに描きだした名著。
  • ルベグ積分入門
    3.0
    ルベグ(ルベーグ)積分は20世紀初頭に登場したまったく新しい概念である。従来のリーマン積分ではどこに問題があったのか、そしてルベグ積分を定式化するにはどんな基礎概念が必要になるのか。リーマン積分では扱いきれない関数の「反例」のほか、点集合論や測度論などの予備知識を紹介しつつ、丁寧に定理を証明していく。著者は『零の発見』で知られる名文家でもある。本書においても筆さばきは明快そのもので、叙述はまったく古びるところがない。名著のほまれ高い教科書がここによみがえる。

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