あらすじ
三蔵の凶星はいまだ消えず。鎮海禅林寺でわずらいつくと、すっかり気弱になり、唐の天子に遺言を書く始末。またも弟子たちに手をひかれ、ようようたどりついた先は滅法国。そこでは和尚一万人を殺すという国王の願掛けが、あと四人でめでたく満願になるところ。一行は頭巾であたまをつつみ、長持にもぐりこむ。改版。(全十冊)
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Posted by ブクログ
中国明代の白話(口語)文学の代表格にして、「四大奇書」の一つとしても知られる小説『西遊記』の日本語全訳。唐代の僧玄奘(三蔵法師)のインド取経の故事を題材に、孫悟空・猪八戒・沙悟浄の三妖を従えた三蔵の波乱万丈の旅を描く。第9巻では第八十一回から第九十回までを収録する。
本書は、岩波文庫から刊行されている『西遊記』日本語訳シリーズの第9巻である。鎮海禅林寺にてまたしても女怪の難に見舞われる三蔵一行、托塔李天王を告訴する騒ぎにまでなりながらもどうにか事を収めて西へと旅を続ける。和尚一万人を殺す願を立てる滅法国、妖王南山大王が支配する陰霧山を抜け、辿り着いたは霊山まします天竺国。だが御仏の国に至っても艱難は止まず。鳳仙郡では旱魃にあえぐ人々を救うべく悟空が奔走し、玉華県では弟子三妖が王子たちの武芸の師となるもそれが思わぬ騒動を巻き起こすことになる――。
長きにわたる西天取経の旅もいよいよ終盤、三蔵一行がようやく天竺国入りするのが本巻である。物語のゴールも見えてきて、頁を進めるペースも勢い付いてくる。ただやはりネタ切れ感の指摘されがちな『西遊記』終盤とあって、前巻に引き続き各篇の出来の凹凸が目についてしまうのも正直なところではある。三蔵三度目の女難、師を攫った女怪を追い回す中で李天王・哪吒一家の家庭事情も明かされる地湧夫人編、三妖が人間に武芸を伝授しまた妖怪軍団と一大合戦が繰り広げられる玉華県編がある一方、単話完結でオチもあっさりとしている滅法国編と鳳仙郡編、これまでの妖怪退治譚を平均したような話運びの南山大王編、という具合である。とはいえここまでの九十回を読み進めてきた読者ならそれくらいのことは気にせず、最終巻へ向けて物語を走り抜けてほしい。