あらすじ
晋の内乱が鎮静し、重耳の弟夷吾(いご)が素早く君主に納まったが、軽佻不徳に人心は集まらず、重耳の帰国が切望された。刺客の魔手を逃れながら、飢えと屈辱の、19年1万里の流浪の末、ついに重耳は晋を再建し、やがて中国全土の覇者となった。──春秋随一の名君を描く、芸術選奨文部大臣賞受賞の名作。
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Posted by ブクログ
宮城谷さんの作品は「孟嘗君」「太公望」「楽毅」などを読んだ。
重耳は、それらの作品に出てきた英雄たちと比べると、かなり地味である。
それでもこの作品が面白いのは、やっぱり展開が素晴らしいからだと思う。
重耳という主人公自身は地味なのだけれど、彼を取り巻く環境や、彼が過ごす時の流れが峻烈極まりない。
なので全く飽きずに、春秋の一時代を、重耳と一緒に駆け抜けているような感覚に浸れた。
上巻ではあんなに小さかった重耳が、中巻から下巻にかけて半端ない苦労をなめて、最後には名君になっている。
報われたね〜、よかったね〜、と安心するとともに、ちょっと寂しくなった。
マイナーなアーティストを応援していたら、いつの間にか有名になっちゃって複雑……あの気持ちに似てる。
重耳の周りにいる人たちも、最前線で活躍したかと思ったら、年をとって、いつのまにか死んでいたり、誰かに殺されたり……
これぞ戦国の歴史という感じ。
その無常さがあるからか、重耳が先生である郭偃に再会するシーンはかなりホロリときました。
この小さな文庫本の中に、時の流れが詰まっていて、すごい密度だなぁと思った。
歴史小説は主人公が超ヒーローというのももちろん面白い。
けれど、歴史を追体験するという意味では、地味な主人公の方が、地道に生きている現代人には合っているのかも。
そんな新しい見方を与えてくれた素晴らしい作品でした。