あらすじ
読者を熱狂させ続ける伝説的webノベル、ついに待望の書籍化!
「俺の望みはお前を妻にして、子を産んでもらうことだ」
「受け付けられません!」
永い時を生き、絶大な力で災厄を呼ぶ異端――魔女。強国ファルサスの王太子・オスカーは、幼い頃に受けた『子孫を残せない呪い』を解呪するため、世界最強と名高い魔女・ティナーシャのもとを訪れる。“魔女の塔”の試練を乗り越えて契約者となったオスカーだが、彼が望んだのはティナーシャを妻として迎えることで……。
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Posted by ブクログ
著者初読。KU。
古宮九時著『Unnamed Memory 1』は、単なるライトノベルの枠を超えた、壮大かつ繊細な叙事詩のような読後感を与えてくれる作品である。王子オスカーと大魔女ティナーシャという、対照的でありながらも互いを映し合う存在が織り成す物語は、古典的ファンタジーの重厚さを湛えつつ、現代的な感覚で描かれている。そのため読者は懐かしさと新鮮さの双方を同時に味わうことができる。
特筆すべきは、ティナーシャというキャラクターの存在感だ。永い時を生きる魔女である彼女の背後には、語られぬ過去と深い孤独が漂うが、それを軽やかに覆い隠すような強さと知性がある。その姿に触れるたび、読者は彼女が纏う静謐さの奥に潜む情熱と悲哀を感じ取らずにはいられない。一方のオスカーは、若き王子としての矜持と宿命を背負いながらも、彼女に真摯に向き合おうとする。その姿勢は、彼の内に秘められた気高さと不器用な誠実さを鮮やかに映し出している。
また、物語の構成は300ページを超える大作でありながら、流麗で無駄がない。章ごとに展開されるエピソードは短編的な快適さを持ちながらも、全体として大きな物語を形作っていく。結果として読者は、積み重ねられる一幕一幕に没入しつつ、やがて訪れる壮大な物語の胎動を確かに感じ取ることができる。
『Unnamed Memory 1』は、愛と宿命、過去と未来、孤独と絆といった普遍的なテーマを、圧倒的な想像力と格調高い筆致で描き出す作品である。読み終えた後に残るのは、ただの面白さではなく、胸の奥に深く沈む重みと温もりであり、それこそが本作の最大の魅力といえるだろう。