あらすじ
東ロボくんは東大には入れなかった。AIの限界――。しかし、“彼”はMARCHクラスには楽勝で合格していた! これが意味することとはなにか? AIは何を得意とし、何を苦手とするのか? AI楽観論者は、人間とAIが補完し合い共存するシナリオを描く。しかし、東ロボくんの実験と同時に行なわれた全国2万5000人を対象にした読解力調査では恐るべき実態が判明する。AIの限界が示される一方で、これからの危機はむしろ人間側の教育にあることが示され、その行く着く先は最悪の恐慌だという。では、最悪のシナリオを避けるのはどうしたらいいのか? 最終章では教育に関する専門家でもある新井先生の提言が語られる。
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Posted by ブクログ
AIは東大に入れるか?を研究している数学者が、AIとは何か、AIが躍進すると世界はどう変わるかについて書かれている。
大変な偏見だが、理系の方の書かれた本は説明の道筋が整えられていて、説明が頭に入りやすいと感じる。
工場の手作業が機械による自動化に変わりつつある時代であれば、工場が機械化されたとしても、読み書き計算の教育すらままならない方は、工場での仕事が向いていて、ホワイトカラーの仕事は難しそうだ。
AIが次々仕事を奪いつつある現代でも、AIに変わられない仕事をやればよいのだが、それが難しい。なぜなら中高生の読解力が下がっているからだ。実際に行ったテストが数問乗っていたのだが、ちゃんと読めば分かる簡単な問題だったが、私も数問間違えている。文字は読んでいるものの、内容がなかなか頭に入ってこないことがある。これが読解力の低下か、と実感している。
読解力の高い生徒と低い生徒の違いで読解力を上げる方法はないか調べたが、本を読む、ニュースを見る、等の項目で大きな差はなく、そもそも読解力がないからアンケートすらまともに回答できていないかもしれない、と思って、この調査はあきらめた、というところはブーメランすぎて最高だった。
AIではなく生成AIがメジャーになっている現代ではどのように変わったのか、変化があれば知りたいところ。
読解力を上げる必要がある、という危機感は、常に持っていたい。
Posted by ブクログ
ちょっと前の本なので今はいろいろ変わってきてるのか、それともやっぱり本質的にはAIの苦手分野は変わっていないのか、さらに知りたくなった。
後半部分の教科書が読めない、読解力のないという部分を問題を解きながら自分にも当てはまらないから怖がりながら読んだ。結果として、注意しながら読んだからなんとか正解できたけれど、多分よっぽど集中しなければ間違えてしまう問題が多かった。
AIの苦手分野の人間らしい読解力や思考力を精一杯自分なりに高めていきたいし、もっともっとAIの使い方を論理的に理解して説明してうまく共存していきたい。頭を使うことをやめてしまうことは本当に怖いことだな。
Posted by ブクログ
AI vs.教科書が読めない子どもたち
本書はAI技術ができること、できないことを事例をもとに紹介する。
このAI技術の発展を前提に、人間はなにを生業にすべきか。
その大前提として何が大事なのかを説かれた本と理解した。
AIにできることは論理、確率、統計。
学校教育はAIにできることを教えているのに加え、成果が不十分。
成果が出る大前提に読解力がある。
ただ、読解力の高め方はわかっていない。
リーディングスキルテストの例示と結果統計を見ると、なかなか衝撃的。
ただ、自身の体験として賞罰のないテストってどのくらい真剣に取り組まれてるんだろうと思う。
0or100ではなく、程度の問題として。
やってもやらなくても変わらない程度の真剣さなら、ダニエルカーネマン的システム2が怠けきってる受験者もいたのではないか。
生成AIがホットワードな今、あえて以前の本を読むことに価値があると感じた。
(仕組みが変わってないなら、生成AIも論理・確率・統計で成り立ってることになるので、やっぱり意味は解してないのか?)
また、結論が資本論的(ようはビジネスをもて)な解釈が可能と思う。
これは、AIに代替される大人の仕事に対しても言えそうなことであろう。
Posted by ブクログ
自分にも子供がいて、タイトルのAIVS教科書が読めない子どもたちという言葉に危機感を覚えこの本を読みました。
前半は、AIの定義やAIのできることについて説明が書かれていてAIの最終ゴールがどこなのかが分かって良かったです。
後半は、中高生に行ったテストの一部紹介と結果について考察されています。
このテスト実際にやると恐怖です(笑)。
正解して当たり前のプレッシャーが、ハンパないです。
自分の子供たちにできることは、何かと思うと普段の会話から物事を理解し、自分で判断する能力を養う手伝いをすることだと思いました。
毎朝見るニュースに対してどう思う等の問いかけが大事かと思うので今後も続けて行きたいと思います。
Posted by ブクログ
初めから、「子供が教科書を読めない」という本題に入るのではなくそもそもAIとは何なのか、本題に入る前に今話題のAIについて簡単に説明されているため本の内容が理解しやすくなっている。
現在、Chat GPTの出現やAIが将棋の名人に勝利するなどAIブームが来ており生活が今以上に豊かになるのではという期待とともに、AIが人間を超え仕事がなくなる、最悪の場合滅ぼされるのでは?と予測するような人もいる。前半部分ではこの推測に対する筆者の考えが述べられている。読んで納得。僕自身もAIが人間社会を侵略するのではと考えるようなときはあったがよくよく考えればコンピュータとはそもそも計算機で初戦確率論での会話、思考になるから動物のように「本能」がない。そのためすべてが乗っ取られることはないなと思った。しかし、そうはいっても計算や自動システムに関しては勝てない。コンピュータの性質について知り、うまく使い最大限のパフォーマンスをしていくか考えていくのが大切だと思った。
また、この本のタイトルでもある「教科書が読めない」。実際に筆者がこの結論を導き足すための試験等を行った意図や問題、結果が統計的に示されている。普通の読解問題だが2択の問題では6割にも満たないような回答が多くあった。2択だと50の確率で当たるのにほぼそれに近い正答率だった。教科書というより文章が読めない子供、人が増えているのだなと感じた。国語だけでなく数学、社会でもそもそも問題が正しく読めないと解くことはできないし人とのコミュニケーションも取れない。自分で見つけ出すのは難しいとは思うが読み取って理解する力を身に着けることがこれからの時代を生きていく中で必要だと思う。
読み進めていくなかで実際に自分が勉強した情報技術がでてきて個人的には話に入りやすく読みやすかった。専門的な言葉も出てくるが、例えば音声認識ならSiri、機械学習には正解を与えるものや与えないものがあるよ、など情報技術の勉強をしたことない人にも分かるようにかみ砕いて説明しているため分かりやすい本になっていると思う。
Posted by ブクログ
2024/06/18
読んでみるとすごい面白かった。学力の経済格差を読んだ時にも思いましたが、主張が一貫していてそのためのデータ提示も分かりやすかったです。
我々が普段AIと呼んでいるもの、AIと聞いてイメージしているものがそもそも違っていてAI決められたことを高速で処理したり人間が作ったフレームの中でならとても人間を助けてくれる補助となるが、シンギュラリティはないし、AIが人間を超えていくこともありえないと著書の中で断言しています。
そもそも、その研究をしようと思ったきっかけが「子どもたちはもしかして教科書が読めていないのではないか?」というところからのスタートだったこと、調査を重ねていくことでその仮説が次第に真実味を帯びていくことを読み進めながら実感しました。
必要なのは読解力であるけれども、どうやったら読解力が向上するのか明確な基準や指標は今のところないとも言っています。
その代わり家庭の経済力と読解力には負の相関関係があることも示されていてとても興味深いものでした。気になる部分を中心にもっと読み返して内容を深く理解できたらもっと考える余地が広がっていく本だなと思いました。
ベストセラーだけのことはある。
前半は、AIで大学入試を受験した話で、いまのAIは魔法じゃなくてこんなにいろいろ限界があるという解き明かし。この業界の人であれば特に驚きはない。でも後半がすごくて、じゃあそのポンコツな今のAIに試験成績で負けてしまう学生たちってなんなのっていうことで全国の中高生に実際にテストをさせた話。驚愕の結果と分析をぜひ読んでほしい。
シンギュラリティは来ない。でもAIと共生する近未来はこのままでは危うい。
Posted by ブクログ
AIというワードしか知らない人に読んでほしい 仕事上、AI技術を用いた分析等を行っているが、自分でもうまく言葉に落とし込めていないAIの概念を説明してくれている。
さらに、単に技術を伝える本ではなく、未来のためになぜ読解力が必要なのか、どのようなことを子供世代中心に心がけて行くべきなのかのヒントを示している。
IT系技術者、教育者、子供がいる方、起業したいと思っている方にオススメの本。
Posted by ブクログ
AIにできること、できないことが明確に書かれていました。
AIはコンピューターであり、数学で動いている。
数学は、論理、確率、統計しかできない。
この3つで規定されていないことはAIにはできない。
もし、シンギュラリティが訪れるならば
それは人間の脳のすべてが解明された後の話になる。
これを別の言葉で置き換えると
1. 係り受け
2. 照応 → ここまではAIにもできる。
3. 同義文判定 → まだまだAIには難しい
4. 推論
5. イメージ同定
6. 具体例同定 → AIには歯が立たない
意味を理解することはないAIと学生の理解力の間に
あまり差がないというのは衝撃的でした。
要するに、学生は教科書の文章の意味を理解していない、ということです。
人間だから早とちりでミスをする
という可能性も排除できないとは思いますが、あまりにも衝撃でした。
AIに作業的なルーチンは代替される分
まだまだ働き盛りの自分は勉強し続けて、AIに仕事を奪われない自分でいようと気持ちを新たにしました。
人間にできること
一部ご紹介します。
・詰め込み教育では、読解力と常識は身に付かない。読解力がなければ、教科書もマニュアルも読めないし内容も理解できない。
・人間の存在意義を保つために、まずは読解力。次に体を動かす。モノに頼らない遊び。
・コンピューターは計算機。入力に応じて計算をして答えを出しているだけ。コンピューター自身が「意味」を理解しているわけではない。
・数学は、論理と確率、統計で、人間の認識や現象を説明する。逆に言うと数学は論理的に言えることと、確率、統計で表現できることしか説明できない。それが科学の限界だ。
・「意味」は観測不能。論理や確率、統計に還元できない。
・機械に仕事を奪われないためにも、意味を考える。それには、生活の中で不便に感じていることや困っていることを探すことだ。
それがAIに代替されない新しい仕事を生み出すきっかけとなるのである。
根拠を示した問題定義の本
AI技術について、面白おかしく盛り上げるような、釣りを目的とした本ではありません。作者の「現在の日本の人間たちが抱える問題点はこれだと思います、ぜひ知ってください」という内容の本です。
誤解しにくい文章で書いてあり、とても読みやすいです。数学者の本ですが、数学に苦手意識を持っている自分でも読めました。
中高生が受けたという、文章読解力を調べるためのテストの例題が数点載っていました。どんな問題で「教科書が読めない子どもたち」だと言っているのか、イメージしやすいです。正解率を見て、愕然・・・。頭が悪いという問題じゃないですね。障害があるごく一部の人以外は、語彙力の問題だったり、教えれば向上できる力が読解力だと感じました。
スマートフォンなどで、日々AI技術に触れる毎日。
日本の事や、自分自身の事をより良くするために、この大問題を多くの人に知って欲しいです。
アメリカに暮らす日本の中学生に
とても興味深い内容だった。考えさせられる点が多くあったと思う。
現在、アメリカの日本語補習校で中学生に国語を教えている。国語のワークの宿題にどんな意味があるのか。授業で触れていないことは出題されるべきではないのではないか。といった生徒の疑問に答えるのにこの本を紹介した。
AIがどのように問題を解くかを説明した上で、現行の限界を示し、実際のワークの中から誤答が出そうな問題を選んで、生徒たちに解かせてみた。AIにライバル意識を持つことで、いつもより、丁寧に問題を読み、機能語を意識し、文章全体から意味を取ろうとする生徒が多く出た。また「AIなら、こう間違えるよね。」といった声も聞こえてきた。AIにその間違いをおかさせない為にはどうしたらいいか、いずれその生徒がそのような視点に立つ日が来そうで、ワクワクした。
Posted by ブクログ
積読紹介キャンペーン中。
以前、ちょっと読んで興味はあるものの放り投げてた1冊。
序盤は筆者である新井紀子先生が制作に携わったAIの東ロボくんが東大入試を突破できるかと、試行錯誤する内容。その中でシンギュラリティで人間をAIが超えるか?という事を論じていく。
新井紀子先生がおっしゃる誤解を見事にしていた自分。ディープラーニングって、AIが自分で資料を探し出して吸収していくものと思ってた。でも、教師役が適切なインプットをしていかないとダメと知って、、、そのほかにも色々と理由があるが、それならシンギュラリティはこないだろうなぁと、、、
そして、後半は教科書が読めない子供達に焦点を当てた内容。数学や算数の文章問題が理解できない子供達が増えているという。いわゆる読解力の低下が問題だが、地を這うような偏差値の高校に通っていた自分ですら解けるのだから、確かに問題かも。。。
もっとも、興味深かった内容では、知らない語句があると、それを読み飛ばし理解しようとする習性があるという事。つまり、語彙力も大事だとという話。
とても面白かったが、今のところ3割ぐらいしか理解できてないなぁ。読み返してみたいのだが、いつになるかなぁ。
Posted by ブクログ
AIで東大合格を目指した作者による、現代っ子の読解力への警鐘を鳴らした1冊。文中で紹介される問題を、私が間違えてしまったことにも衝撃を受け、自信を持っていた「多読」を揺るがす事態にもなった。小さいこどもには多読でなく、一つの文章をしっかり読み込ませることも検討したい。
Posted by ブクログ
AIが得意なこと・苦手なことを通して、「読解力」の大切さを鋭く示してくれる本です。数字に弱い私でも理解できる部分が多く、教育現場の課題がよく見えました。
全国の先生に読んでほしい一冊です。
ちなみに。
この本を理解できる子どもは読解力があると言えるのだろうか。
Posted by ブクログ
AIを漠然としか捉えていなかった私には、極めて分かり易い入門書となった。
AIの出来ない事が解って安心しましたが1940年代に現れた原爆という新技術とは桁違いのリスクを人類は新たに負うかもしれないと感じました。悲観的な見方ですが……。
Posted by ブクログ
文章の文脈を読み取る、つまり論理構造に沿ってデータを構成するのを、実はAI人工知能は苦手にしている/
2011年、大学生数学基本調査
181わたしたちが「大学生数学基本調査」という恐ろしく手間暇のかかる調査に踏み切ったのには理由があります。大学に勤める教員の多くが、学生の学力の質の低下を肌で感じていたからです。日本では…大学に勤めている限りは、入試問題の作問や採点に毎年携わり、大学1,2年生の教養の数学の講義を受け持ちます…そういう中で、学生との論理的な会話、設問と回答との間で、会話が成立しないと感じるシーンがあまりにも増えている。そう多くの教員が感じている。そのため、実態を正確に把握する必要を痛感し、このような調査をする決断をしたのです。/論理的なキャッチボールができる能力を身につけないまま学生が大学に入ってきても、大学として教育できることは限られています…
大学生数学基本調査
偶数と奇数を足すと a. 偶数になる b.奇数になる c.場合による/理由を説明してください」←大学生1年生で正答率が理系でも46%、「やってみたらそうなった」と理由を書く者もいる/
185私はこの状況を社会に伝えなければならないと考えました。けれども、実施したのは大学生の数学基本調査です。正答率が低い原因の1つは読解力不足だということに確信はありましたが、あくまで推測に過ぎません…私は、中高校生の「基礎的読解力」を調査することにしました。
東大ロボくんの勉強をもとに、リーディングスキルテストを開発したのです。
方法論はありました。コンピューターや言語学の専門家らと一緒に、東ロボくんに読解力をつけさせるための挑戦を続けていたからです。
…自然言語処理研究者は、係り受け解析や照応解決のベンチマークを作って、AIに解かせることによってAIの性能を測っています。係り受け解析では、分野にもよりますが、80%程度の精度は出ています。これを参考にして人間向けのテストを作れば、基礎学力を判大学生数学基本調査
偶数と奇数を足すと a. 偶数になる b.奇数になる c.場合による/理由を説明してください」←大学生1年生で正答率が理系でも46%、「やってみたらそうなった」と理由を書く者もいる/定するテストになると思いついたのです。
(現状では100%にほど遠く難航している)
それ以外に、意味を理解せず、フレーム問題につまずき、常識のないAIにはできそうにないもの、つまり人間がAIに勝てる可能性がある重要分野として「推論」「イメージ同定」という課題を、新たに設定しました。
「MLBの選手のうち28%は合衆国以外の出身で、うちドミニカ共和国が最も多く35%/円グラフ4択で正答率中学生12%、高校生28%(ドミニカ35%合衆国28%を選ぶ誤答が多い)/2017年に行われた読解力テストだが、
2024「全国共通学力テスト」で、5年前に比べて有意の学力低下が確認された。コロナの影響か?事態は更に深刻化している
Posted by ブクログ
AIと脅威と限界を数学者が論理的に説明。
AIができるのは数学の論理と確率と統計のみで、AIは意味を理解できないのでシンギュラリティは来ない、という、若干安心させるのが前半の内容。
ただし、AIの得意とする論理、確率、統計でできる事は急速に発展し、人間の仕事の半分を奪う。
だとすれば、人間はAIにできない仕事をすれば良いのだが、実は日本人の多くがAIが苦手な教科書を理解する読解力さえなく、AI並みかそれ以下だという。ここに著書の危機感がある。
確かに基本的な文章さえ理解できなければ生きにくいし、騙されやすいかも知れない。
では読解力のない人に読解力をつけさせる為にはどうすれば良いのか?この答えが「シン読解力」にあるのだろうか?
Posted by ブクログ
本書は、人工知能(AI)についての考察を通じて、その現状と未来を鋭く論じている。著者は、AIが何であり、何ができるのかを明快に展開し、非常に歯切れの良いテンポで議論を進めている。
まず、著者は「AIは、まだどこにも存在していない」と断言するが、その一方で、実際にはさまざまなAI技術はすでに存在している。彼女はまた、数学者として、シンギラリティ(技術的特異点)が訪れることは「こない」と見解を示す。そもそも「人間の能力を超える」とはどういうことか、その意味もあまりはっきりしないという。著者の竹を割ったようなすっきりした意見は、面白い。
本書が刊行された当時は、生成AIがまだ登場していなかったため、その可能性や影響について十分な議論がなされていなかった。しかし、生成AIが登場し、その進歩は非常に速いことから、その評価も変わると思われる。事実、近年の技術革新により、AIの能力は飛躍的に拡大している。
著者は、2011年に「東ロボくんプロジェクト」として知られる、東大に合格可能な人工知能を目指すプロジェクトを開始した。このプロジェクトの目的は、AIの性能がどこまで達成可能か、そして人間にできてAIにできないことは何かを解明することにあった。開始から7年を経て、偏差値57.1の成績を達成し、MARCHの大学に合格できる水準に至った。
AIという言葉が生まれたのは1956年であり、そこからロジックセオリスト、エキスパートシステム、機械学習、ディープラーニング、強化学習、リアルタイム物体検出システム(例:YOLO)、そしてワトソンといった技術へと発展してきた。これらの技術は、人々の仕事を奪う側面も秘めている。たとえば、ドラマ『半沢直樹』における仕事の多くは、AIによって代替されると予想されている。2013年には、「数年後には半沢直樹のような仕事はなくなるだろう」と述べられ、それに伴い、全雇用者の半数が仕事を失う可能性も示唆された。半沢直樹は、倍返しできないことになる。
東ロボくんの失敗例としては、東大合格には至らなかったことが挙げられる。興味深いことに、東ロボくんに必要だったのはスパコンではなく、大規模データに基づくシミュレーションだった。過去問というビッグデータを用いることにより、一定の成果は得られると考えられるが、それには「ビッグデータ幻想」とも評される問題も存在する。GAFAをはじめとした巨大企業は、無料サービスを通じて膨大なデータを自動的に蓄積し、これらを資産として活用している。一方、日本には第5世代コンピュータの失敗経験がある。
コンピューターには意味を理解する能力がなく、AIは「意味がわかっているかのように振る舞う」こともできないのが現実である。たとえば、Siriは質問応答のための音声認識技術と情報検索技術、および自然言語処理を駆使しているに過ぎない。
一方、芸術や創作の分野においても、AIによる自動作曲や文章生成、絵画の創作が進んでいる。確率過程の理論を応用した作曲や音声合成により、ロマン主義風のピアノ曲やゴッホ風の絵画など、テーマやスタイルを模倣した作品も生み出されている。しかしながら、これらは数学的手法によるものであり、言葉や絵には単なる記号の羅列以上の深い意味が存在する。意味は観測不能であり、その価値や真意には目に見えない次元がある。
シンギラリティについては、「到来しない」と著者は断言する。AIは万能ではなく、ロマンに満ちた未来像でもない。すべての技術には可能性とともに限界が存在し、科学には謙虚さが求められる。確率や統計を超えた意味も存在するからだ。Googleは、Googleカーを販売せず、自動運転のプラットフォームとして位置づけている。AIは単なる計算機に過ぎず、人間に代替されることのない教育や創造の分野が残っている。
現在の社会において、人間にしかできない仕事は、コミュニケーション能力、理解力、読解力、常識、そして柔軟な判断力を求められる肉体労働である。特に、数学的な問題においても、問題文を理解して解く能力が不可欠であり、これができない者は今の学校教育の不足を露呈している。人間がAIに勝てる分野としては、係り受けや照応、同義表現の判定、推論、イメージの固定、具体例の選定など、意味を深く理解しないとできない作業(読解力がいる作業)が挙げられる。現代の高校生には基礎的な読解力が不足しており、その向上には生活習慣や学習習慣、読書習慣の見直しが必要である。基礎的な読解力を高める処方はまだ模索中である。
AI時代に求められる人材像は、「意味を理解する力」である。正解に辿り着く方法や、正解に至る思考法を身につけるために、アクティブラーニングを教育に取り入れる必要がある。現状の最大の問題は、多くの中高生が教科書を正確に読めていないことである。成人までに教科書を理解しきる読解力を身につけるための具体的な処方箋は未だ見つかっていないが、著者は仮説として、読解力は年齢に関係なく向上しうると考えている。
これまでの教育は、AIに代替可能な人材の育成を重視してきた結果、ホワイトカラーの職種において格差や分断が生まれている。介護や子育てといった高度知的労働も最終的には人間が担うべき役割として残るだろう。しかし、企業の消失や、ショールーミング現象の進行など、デジタル化の影響は大きい。経済学的には、「一物一価」「情報の非対称」「需要と供給の一致」が基本であるが、デジタル社会では、「一物一価」に加え、「情報の共有」という役割も重要となり、瞬時に最安値や情報を比較できる仕組みが発達している。
消費者の側も、自ら情報を検索、理解、比較できる賢明さが求められる。AIは、あくまでコスト削減や効率化のツールに過ぎず、新たな価値や創造を生み出すわけではない。そのため、AIが苦手とする分野や、人間ならではの能力を持つ者が重要な役割を果たす可能性が高まる。もしも、その能力を持つ人間が不足すれば、企業や社会は困難に直面するだろう。未来像としては、企業は人手不足に悩む一方で、社会には大量の失業者があふれるという矛盾も生じることが予測される。
最終的に、人間にしかできないことは、困ったことを見つけ出し、その解決に取り組むことである。人間の創造性と行動力こそ、生き延びるための唯一の道であり、変化の激しい現代社会においては、これらを磨き続けることが肝要である。
Posted by ブクログ
この本が書かれてから数年経っていて、ChatGPTなどの技術面で高度化はしているものの、根本的なAIの本質はそれほど変わっていないと思う。だから、改めてAIに対峙する人間側の問題を整理する上で本書は有用。
AIによる算出はあくまで分析の結果であり、創造的ではないということ、本質的な意志はないということ。だがしかし、人間も結局は経験していないことからは発想できない、発想は経験の積み上げであったり応用であったりするだけなので、もしかすると人間はAIに追いつかれるのかもしれない、表面的には。と改めて思った。
本書の指摘する、読解力は確かに問題であって、自身も図式化や雰囲気によって読んだ気になったりしているので気をつけたい。流し読みは考え無くなるから。また、日頃の問題意識を持つことも改めて留意したい。
Posted by ブクログ
東大合格を目指す東ロボくんプロジェクト(2011~)
AIのブーム
1次 計算能力を誇るコンピューター
2次 チェスの世界チャンピオンに勝利
→限定されたルールの中での計算力
ただし常識がないのがネック
3次 機械学習(ディープラーニング)
コンピューターは計算しているだけで(論理、確率、統計の範囲内)文脈的な判断が求められるものはできない
→東ロボくんでは国語や英語が難点
ただし日本人だけでなく世界全体を見ても読解力の低下
→教科書の読めない世代
(読解力の向上する手段は不透明)
求められるのは意味を理解できる人間
Posted by ブクログ
成人の自分も、文章を正しく読めていないのではないかと不安になった。
また、読めていないのにそれを自覚する機会がほぼないことが、より恐ろしい(成人後に国語のテストを受けることは基本的にないので、自己の言語能力の低さに気づくことは不可能に近いと思う)。
子供の読解力の低下はしばしば耳にするが、まるで自分は大丈夫であるかのように錯覚していないことを願う(でも多分読めていない)。
Posted by ブクログ
「意味のあるアクティブ・ラーニングを実施できる中学校は、少なくとも公立には存在しません。」(p239)
「教育の喫緊の最重要課題は、中学校を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることです。」(p241)
この2つのフレーズが心に残りました。
筆者は教育を貶めようとしているわけではありません。来るAI時代に向けてAIができること、できないことを正しく認識し、その上でAIに取って代わることのできない仕事をこなすために必要な力の一つが読解力だとしています。けれど、その読解力が低いという結果がRSTによって明らかになりました。「世界でトップレベルの学力がある日本の中高校生の読解力が危機的状況にある」のです。だからこそ、教科書が読めない学生にアクティブ・ラーニングはできないと説いています。また、「デジタルドリルに励んで『勉強した気分』になり、テストでいい点数を取ってしまうとそれが成功体験となってしまって、読解力が不足していることに気づきにくくなる」とも。
筆者は多読よりも精読、深読にヒントがあると考えているようです。また、困っていることを解決するビジネスを生み出すには個別具体的な問題解決能力が求められると示唆していました。
まずは自分から行動してみようと思います!
さて、こんなレビューを書いている私は、内容を正しく読解できたのでしょうか?笑
Posted by ブクログ
「AI時代に必要なのは、意味を理解する能力」
真の意味でのAIは、人間の一般的な知能と同等レベルの知能という意味であり、現在実現に至っていない。AIを実現するには、2つの方法がある。一つは数学的に解明して工学的に再現する方法である。もう一つは、工学的な実験により偶然生み出す方法である。後者は、飛行機の揚力の原理(ベルヌーイの定理)が現在においても数学的に完全に解明されていないことに似ています。
また、AIの開発競争が世界的に激化する一方で、現代の子どもたちの読解力の低さを問題視し、AIに代替されない人材はどのような能力を持っているかを教えてくれます。そして、社会においてもAIを活用できる人材の当面の有用性は維持される一方で、本当に重要なことはAIの強みや弱みを論理的に理解しているか否かであるため、その有用性の賞味期限は短めです。
AIに代替される仕事があるが、AIにできない仕事があなたにできるとは限らない。現実を受け止め、工場労働者からホワイトカラー、そして新たな人材への変化を渇望していく姿勢をつくることが必要になってくると考えさせられました。
Posted by ブクログ
AIとや呼ばれているものがAI技術であったり、
それらは万能ではなく、作業に特化した技術で開発されているという前提事項がそもそも初耳。
AI技術に取って代わられた後、職にあぶれた人々はどこに行くのか。
AI技術の話を読んでいたはずなのに、いつの間に戦慄が走る。
AIで作業効率がグッと上がるはずなのに、その利点が活かせない社会の構図になるというのが皮肉だ。
AIが人間に近づいていくイメージがあったご、
人間がAIに近づいていってる恐ろしさ。
国語教育の重要性を感じた…
Posted by ブクログ
教育関連本だと思って読んだけど、どちらかというとAIがメインテーマ。
読解力の低さに危機感を覚える……
ChatGPT以前の本なので、また状況も変わってきているかな。
Posted by ブクログ
AIに出来ること、出来ないこと、AIが得意なこと、苦手なことが、具体例をもとにわかりやすく説明されていて、読みやすい本だった。
AIにはできないけれど、人間にはできる仕事はほぼ読解力を有する仕事だと思う。
読解力を養うためにはどのようなことが有効か、この本には明確に書かれていなかったが、読解力が低下しているという日本の状況については、様々な工夫をして改善していく必要がある。
こんなふうに書きながらも、自分がこの本を著者が言う読解力を持って読み終えることができたのか少し不安になっている。
Posted by ブクログ
AIの仕組みを解き明かしながら、人間はどの部分がAIには敵わなくて、逆に何が可能なのかが書かれた一冊。「AI技術を使ったロボットは、東大に入れるレベルの知能を身につけられるのか」という壮大な実験から、人間側の教育、そして危機感について書かれている。
AIと聞くと、なんでも万全で、自分が思った答えをくれる夢の技術のように語られることが多いけれども、「一を聞いて十を知る」能力だったり、異なる文章を比較して、同義かどうか確かめたり、意味を読み取ることができないという弱点がある。とてもロジカルに書かれていて、AIがいかに数学と人間による細かい設定や教師データによって成り立っているかがわかる本だった。
個人的には本の中に書かれていた読解力テストをいくつか間違えてしまったことがショックだった。ちょっと考えればすぐに正解はわかるのに、悔しい。そして、この本が書かれて7年以上経った今、どこまでAI技術は進んできたのかがすごく気になるところ。
Posted by ブクログ
AIはただの計算機。数式化して枠組みを作れる対象にしか使えない。シンギュラリティは起きない。
読解力という点で、AIは人間に遥かに及ばない。
読解力の不足している子供が多い。
AIに代替されない仕事ができる人と、そうでない人に分断されて恐慌が起きる恐れ。人手不足と高失業率が併発するかも。
結局はやってくる現実に柔軟に適応するしかない。これから到来する社会の中で、不便を見つけて、それを解決するベンチャーを立ち上げるのは良い選択の一つではないかとのこと。
Posted by ブクログ
題名に惹かれてこの本を読んだ。つい先日OECDが公表した学習到達度調査で、日本の高校1年生の読解力が低下したというニュースを見たこともあって興味深く読めた。前半は東ロボくんという東大合格を目指したAIの開発プロジェクトでわかったAIの仕組みと限界について。後半は主に子どもの読解力調査の例題と正答率の結果について。その内容は衝撃的で、子どもを持つ親として「じゃあどうすればいいのか?」と思いながら読み進めたものの答えが書かれていなかったので少し不満が残った。最近出た続編を読んでみたい。
Posted by ブクログ
かなり前のものなので、一部陳腐化しているところもあったと思うけれど、全体として言いたいことは今でも通用する話だと思う。大変興味深く読ませてもらった。
ただ、全体的に皮肉や嫌味とも取れる言い回しが多く感じられ、若干鼻につくのが残念だった。
Posted by ブクログ
読解力が低くなっている、と。本当にそうなのかどうか、正直よくわからないけど、たまにネットで見かけるよくわからん言いがかりとか、真に受けたテイで炎上ネタか? ていうのは、本当に読めてない可能性があるのかも、と。ううむ、それは困るかも…。
Posted by ブクログ
AIは人間を超えるのか?国立情報学研究所の新井紀子氏が率いた「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの成果をもとに、AIの限界と、日本の子どもたちの読解力の危機に迫る一冊。AIが難関大学の入試問題を解けるようになる一方で、人間の子どもたちは教科書レベルの文章を理解できていないという現実を明かす。読解力の重要性を問い直す、衝撃の教育・社会ドキュメント。
本書を読んで改めて思ったのは、「AIが人間を超える未来=シンギュラリティ」は絶対に来ない、ということ。AIには明確な限界がある。たとえば「この近くのイタリア料理以外の店」と検索しても、イタリア料理店がずらっと並ぶように、AIは“意味”ではなく“パターンと確率”でしか答えを出せない。文脈を読んで意図を汲み取る力──つまり読解力は、AIには持ち得ない。
AIは文章を理解しているわけではなく、単語を分解(形態素解析)して、それに近いデータを引っ張ってきているだけ。意味や背景、文脈、意図といった「人間にしかできない読み取り」はできない。だからこそ、本質的に人間とAIは交わらない。
しかし、本書で衝撃だったのは、小中学生の3人に1人が教科書レベルの文章すら読めていないという現実。AIにはできないはずの「読解」が、今の子どもたちにもうまくできていない。AIに負けるのではなく、人間の側が“人間らしさ”を失っていっているのだ。
だからこそ、今こそ問われるのは「読解力の再教育」だ。言葉を深く理解し、人と対話し、自ら考える力。それはAIには絶対に真似できない、人間にしかできない能力である。AIにどう勝つかではなく、人間としてどう生きるかを考えさせられる一冊だった。教育関係者だけでなく、すべての親や社会人に読んでほしい。
基礎的な間違いが多い
まず、Siriは音声認識応答システムで、検索機能はない、検索は、Googleが行っている。https://japan.cnet.com/article/35107760/
Googleには「以外の」の検索能力がある
Googleで、周辺のイタリア料理店「以外の」レストランを検索しようと思えば 「イタリア料理店」の前に、半角英数字の「-」を付けて
「周辺 -イタリア料理店」で検索すれば、イタリヤ料理店は出てこない。
検索エンジンでは「-」符号が「以外の」を表す。
Siriが、「以外の」を検索できないのは、Appleの技術力の問題で、検索エンジンの問題ではない。
使い方が誤っているにも関わらず、検索エンジンが「以外の」を理解していないというのは、言いがかりだろう
結論としては、作者の熱意や危機感は理解できるのだが、上記のような、基礎的な事項の誤りをみると、作者の言い分が正しいのかどうかには、疑問を感じざるを得ない。