【感想・ネタバレ】峠(中)のレビュー

あらすじ

旅から帰った河井継之助は、長岡藩に戻って重職に就き、洋式の新しい銃器を購入して富国強兵に努めるなど藩政改革に乗り出す。ちょうどそのとき、京から大政奉還の報せが届いた。家康の幕将だった牧野家の節を守るため上方に参りたいという藩主の意向を汲んだ河井は、そのお供をし、多数の藩士を従えて京へ向う。風雲急を告げるなか、一藩士だった彼は家老に抜擢されることになった。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

p.20
「あいつは私情も私心も捨てているだけでなく、命もすててかかっている。そういう男に、文句のつけようがない」
p.207
(なにごとかをするということは、結局はなにかに害をあたえるということだ)
p.516
「とにかく意見がこうもまとまらないと」
「意見じゃないんだ、覚悟だよ、これは。
「覚悟というのはつねに独りぼっちなもので、本来、他の人間に強制できないものだ。
p.517
事をなすときには、希望を含んだ考えをもってはいけない

面白くなってきました

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2022年01月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻ではいけ好かない頭でっかち野郎だった河井継之助だけど、中巻になるとちょっと趣が変わる。
「幕府なんてもはや不要。
長岡藩は自立してやっていけるような経済力を身につけねばならない。」
と言っていたかと思うと、
「殿には、忠臣であるという筋を通させてやりたい」(つまり幕府のために忠義を尽くさせたい)
と言い、さらには
「殿がまず死んで見せなければ、藩の意見は一つにならない」
とまで言い出す。
どうしたいのだ、河井継之助。

幕府をあてにせず経済立国を目指すのだったら、さっさと薩長に付けばよかったのだ。
殿の心情を汲んで幕府に忠義を立てるというのなら、もっと早くから薩長の主張の矛盾を突いて論破しておけばよかったのだ。

とりあえず本心を押し殺したまま、藩政改革に乗り出す継之助。
誰にも本心を隠したままだから、すべてを自分一人でこなさなければならない。
船頭が多すぎると船が山に登ってしまうけど、ひとりでできることなんていくら有能な人物にだって限りはある。
身をすり減らしながら藩内外を奔走する継之助の言った言葉。

”「政治とは、本来寒いものだぜ」(中略)「政治をするものは身が寒い」ということに相違ない。わが身をそういう場所に置いておかねば、領民はとてもついて来ないということらしい。”

”理に合わぬ禁令が出ると、ずるいやつが得をする。政治が社会を毒するのはそういう場合だ。”
これは最近のワクチン問題とか、自粛問題とか、思い当たることがいろいろあるなあ。

福澤諭吉との比較
”福澤は乾ききった理性で世の進運をとらえているが、継之助には情緒性がつよい。情緒を、この継之助は士たる者の美しさとして見、人として最も大事なものとしている。”
福澤諭吉については、まあそうだろうと思うけど、上巻の継之助には情緒性はなかったよ。
何だか人物造形にぶれがあるような気がしてならない。

さて、かねてより幕府に近しかった島津斉彬の下で見いだされた西郷隆盛が、どうしてあれほど幕府に対して敵対行動をとるようになったのかがわからなかったのですが、ここに西郷どんの語った言葉が書いてありました。

”日本中を焦土にする覚悟でかからねばならない。天下は灰になり、民は苦しむ、しかしその灰と苦しみのなかからでなければあたらしい国家をつくりあげる力は湧いてこない”
灰と苦しみのなかから新しくつくりあげる。
さすが薩摩の人の言葉だ。

確かに、いい思い出を最後に残して別れた男には未練も残るが、最低最悪のクズ男だと思って別れたら、二度とよりを戻そうとは思わないもんなあ。

でもね、武士はいいよ。
戦うのが仕事だから。
その結果の灰と苦しみも甘んじて受ける覚悟はあるのだろう。
しかし、民衆はただ苦しむだけなのだ。
西郷さんは西南戦争の最後まで、武士の立場でしか動けなかったんだなあ。
「子分がいると、そうなる」と勝先生はおっしゃっていたけれど。

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2021年07月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 時刻が、移った。
 会議はまとまりがなく、だらだらとつづいている。
 継之助はもう、議事の進行に興味をうしない、柱にもたれ、煙管のやにをとったり、ふかしたりしている。
 そのうち会津藩の秋月悌次郎がやってきて、
「どうもあれだな、これはまとまらない」
 と、小声でこぼした。
 継之助はぷっと一服吹き、
「まとまらないんじゃないんだ。どの藩もはじめから意見などもっていないのだ」
といった。
 たしかに内実はそうらしい。しかし会津藩としてはどうしても抗戦へまとめてゆきたいという願望がある。
「そのように言われちゃ、実も蓋もない。かれらはこのように集まってきている。集まってきているということ自体、大いなる情熱のある証拠だとみたい」
(情熱だろうか)
 継之助は、くびをひねり、すぐ、
「韋軒先生」
 と、秋月を雅号でよんだ。
「水をかけるようでわるいが、それは甘い。かれらはたがいに他藩の顔色を見るためにきているのだ。他藩はどうするか、それによって自藩のゆき方を考えようとしている。要するに顔色を見合うための会合だ」
「そうだろうか」
 秋月は白皙の顔に、苦渋をうかべた。それではこまる。官軍はこの会議のあいだも、刻々と江戸にせまろうとしているのである。
「とにかく意見がこうもまとまらないと」
 と、秋月がなにか言おうとしたが、継之助は言葉を奪い、
「意見じゃないんだ、覚悟だよ、これは。官軍に抗して起つか起たぬか。起って箱根で死ぬ。箱根とはかぎらぬ、節義のために欣然屍を戦野に曝すかどうか、そういう覚悟の問題であり、それがきまってから政略、戦略が出てくる。政略や戦略は枝葉のことだ。覚悟だぜ」
「そう、覚悟だ」
「それが、どの藩のどの面をみてもきまっていない。これじゃ百日会議をやってもきまらない」
「どうすればよい」
「覚悟というのはつねに孤りぼっちな者で、本来、他の人間に強制できないものだ。まして一つの藩が他の藩に強制できることはできない」
「強制じゃない」
「ことばはどうでもいい。要するにてめえの覚悟を他の者ももつとおもって、そういう勘定で事をなすととんでもないことになる」
「そうだろうか」
「史書をみればわかる。韋軒先生ほどのひとがそれがわからないというのは、一個の希望が働いているからだ。事をなすときには、希望を含んだ考えをもってはいけない」
 継之助は煙管に莨を詰めた。

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2017年12月17日

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ネタバレ

福沢諭吉や福地源一郎といった文明人と議論し、その先見性を認められるほどの人材がなぜ自分の藩にここまでこだわるのか…
それは300年に及ぶ幕府という仕組みや侍の文化が根っこから染み付いてしまい、その価値観を変えられていないからだろう。彼は最終的に変わらないままであると思われるが、一つの凝り固まった組織に属する人間に対するアンチテーゼも感じる

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2024年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻では、主人公の河井継之助は、長岡から江戸へ遊学し古賀謹一郎門下となり、その後当時藩政改革で名を知られていた備中松山の山田方谷のもとを訪れる。修行をつみ、身から藩政改革のエッセンスを吸収し、再び長岡へ帰る。

中巻は、継之助が長岡に帰り、外様吟味という地方官に任命されるところから始まる。この抜擢を行ったのは、藩主牧野忠恭であり、抜擢された継之助は一途に藩政に尽くそうとする。

もともと継之助の発想が、いわば藩至上主義的であって、世の中がどのように動こうとも、まずは自藩の安定が第一という発想のように思われる。

彼はその直後、郡奉行へ昇格し、そのポストの権限を大いに活用して、藩政改革の初期活動を開始する。当世の金の流れに着目し、浪費を減らして藩の体力を強めようと、まずは賭博と買春を即刻禁止する。自ら現場で裏をとる摘発方法や見せしめ付きの必罰主義などで、なかば恐怖政治的に、改革を進めてしまう剛腕ぶりである。

そんな剛腕な河井継之助も、時代の流れに飲み込まれ、京や江戸での働きはそれほどぱっとしなかったというのが印象だ。

桜田門外の変以降、急速に幕府の権威は衰退し、倒幕の動きが加速されてくる。徳川の譜代である長岡藩の忠誠を示すため、藩主とともに継之助は京都へおもむくが、正直のところこの時代の流れがあまりにも大きくそして速すぎて、一藩の家老である継之助には、時勢の読みはできても、全く手が出ないといった感じだ。

そのまま慶喜の遁走とともに、長岡藩も江戸へ引き上げ、手をこまねくばかり。他藩に先駆けてせっかく買い付けた最新式の機関銃も使う機会なく、宝の持ち腐れ状態のような感想をこの時点ではもった。

江戸在留中に通訳士の福地源一郎の紹介で、継之助は福澤諭吉と直接話す機会を持つ。この二人の対話シーンは非常に面白く読めた。

世界に追いつけと日本一国の未来を語る福澤と藩至上主義の河井。まったく話がかみ合わない。ただ考え方が異なるだけではあるのだが、やはりスケールの違いとして感じてしまう。

やはり河井は、「藩」という閉じた概念から飛び出すことはできなかったんだなと感じる。その枠を超えて発想できる人物が偉大だっただけのかもしれないが。

いよいよ幕府の命脈が断たれようとする中、河井は長岡藩をどの方向へ進めていくだろうか。

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2020年12月12日

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