あらすじ
貧困・孤独・狂気の渦巻く大都会のかたすみに、「理想的な」殺人をたくらむ青年が住んでいた。酔いどれ役人との出会い、母からの重い手紙、馬が殺される悪夢。ディテールが、運命となって彼に押し寄せる!歩いて七百三十歩のアパートに住む金貸しの老女を、主人公ラスコーリニコフはなぜ殺さねばならないのか。日本をはじめ世界の文学に決定的な影響を与えたドストエフスキーの代表作のひとつ、ついに新訳刊行。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
以前、新潮文庫で読みましたが新訳で読みたくなりこちらの本を手にしました。
とても分かりやすく、引き込まれる文章です。
新潮文庫で読み取れなかったことが解決しました。
2巻も楽しみです!
Posted by ブクログ
100分で名著でやるので積読本から掘り返した(笑)ドストエフスキーは初めて読んだけど引き込まれていくな〜。殺人の場面はかなり迫力があった。作者の色んな想いが込められているんだろうな〜って思いながらその後のラスコーリニコフの行動や感情を追って行ってしまう。第2部の最後の事件も夢中で読んでしまった(笑)続きも読んでいかないと(笑)
Posted by ブクログ
(全巻読み終えた感想をまとめて記載)
罪を犯したラスコーリニコフ、その母と娘、罪を暴こうと追い詰める捜査官。登場人物それぞれの信念や価値観、生き方、信条が深く描かれています。さらに、当時のロシア社会の風潮や思想、宗教なども表現されていて、登場人物たちの内面がより鮮明に浮かび上がるように書かれています。
特に、ラスコーリニコフが罪を犯し、追い詰められ、徐々に変貌していく様は、鬼気迫る迫力があります。こちらが引き込まれていきそうになる生々しい描写はとにかく圧巻です。
対話シーンでは、それぞれの思想や信条がぶつかり合っていて激しいです。長尺のセリフが多く、宗教や時代背景も絡んでとにかく難解ですが、だからこそ一語一語に込められた言葉の意味や、行動の真意などを読み解く醍醐味があるとも言えます。どんでん返しや小気味よい展開を求めるのではなく、その点をじっくりと味わえるかどうかで、評価が大きく分かれるかもしれません。
総じて文句なしの名作です。定期的に読み返したいと思える素晴らしい小説でした。
Posted by ブクログ
精神的に常に囚われている自分がラスコーリニコフに重なった。
久々に読む小説。歩きながらでも読んでしまいそうな勢いで熱中して読んている。
自分がドストエフスキーを読むとは考えたことも無かった。登場人物のロシア名すら覚えられないと感じていた。
しかし、この小説は凄い。引きずり込まれる。今後何度も読み返す予感がする。
今まで読まず嫌いだったのが悔やまれる。
Posted by ブクログ
なにこれ。すごい。面白すぎる。
ドストエフスキーは、高校時代にカラマーゾフの兄弟を少し齧ったっきり。
難解な話の展開(と、当時は感じた)と登場人物の多さに挫折したのを覚えている。
そこからはドストエフスキー文学とはちょっと気まずくて(?)、正直言って避けてた。
でも、今回たまたまこの「罪と罰」を手に取って読んでみたら面白い面白い。
意味のわからない展開もあるし、相変わらず名前も覚えられないのに、なんでこんなにドストエフスキーを面白く感じるんだろう。
私は今結構病んでいて、そんな闇の深い自分の心にとって、この「罪と罰」が多分すごくいい鎮痛剤のような本だったんだと思う。
多分、高校時代に読んでいたら「なんだこれ」で終わっていたに違いない。
よくわからなかったなあと思う人はぜひ人生に絶望しきっちゃってる時に再読してみて欲しいです。
Posted by ブクログ
命の価値によって殺人は許されるか?普遍のテーマに切り込む永遠の名作。あちこちで使われてしまうタイトル……元ネタはこちら。椎名林檎でもNintendo64でもないぞ!
これは面白い。難解な内容を想像していたが、犯行前後のサスペンスと犯人が心理的に追い詰められていく過程、深みのある人間関係のドラマに夢中になってしまった。
第1巻を読み終えた時点では、殺人の動機がまだぼんやりしているもののおそらくは、「多数の若者のために死んでくれこの老害!」ということだろうか。これは高齢化社会のなかで老人が命の価値をはかられる現状の日本にとってもリアルなテーマだし、犯罪を正当化する心理という意味では普遍的なテーマをはらんでいると思う。先が気になる展開な上、非常に考えさせられる内容に驚き、難解そうなタイトルに敬遠していた自分を説教したくなった。迷っている人は、とりあえずメッチャ面白いので読めー!
Posted by ブクログ
第一部あらすじ
7月の太陽が照りつけるペテルブルグの街中を、元大学生ラスコーリニコフは歩いている。
彼は殺人計画を立てていて、そのターゲット金貸し老女アリョーナの居室を下見の目的で訪れるのである。はたして実行できるのか、神経質にびくびくしている様子が描かれる。
いよいよ金貸しアリョーナの部屋に着き、古い銀時計を質草に金を借り、また訪れると予告して去る。
幾ばくかのお金を手にして居酒屋に寄るラスコーリニコフ。そこで、マルメラードフという飲んだくれの元役人に出合い、酔いに任せたおしゃべりで彼の家庭事情を聴かされる。再婚した妻の病気、子沢山、そして前妻との実娘ソフィアの稼ぎ(売春)に頼る生活。
ラスコーリニコフは酔っぱらったマルメラードフをそのアパートまで送り、貧困にあえぐとても悲惨な生活状況をつぶさに見る。
自分の下宿に帰ったラスコーリニコフは母からの手紙を読む。仕送りが途絶えた事情、妹ドゥーニャの家庭教師先での災難、ルージンという男との婚約を知る。しかし、その婚約は母や妹の貧困脱出の打算が見え、暗澹となる彼。
ラスコーリニコフは、自身の非力、むなしさに悲嘆・無気力で自堕落になっている様子、そして金貸し老婆を殺さなくてはいけない、という極端な思想に走る狂気的状態が描かれる。
いよいよ、息詰まる殺人実行の描写で、第一部は終わる
わたしの感想
ラスコーリニコフが殺人を実行するまでにどうして至ってしまうのか?あまりにも唐突で、ちょっと理解できなかった。ストリーが進むにしたがってわかるのだろうか。
それはむしろ、酒場で知り合ったマルメラードフという飲んだくれの独白。どうしようもない哀れな自虐話の内容。母親からの手紙の内容のおぞましさ悲惨さ。母・妹が彼に期待し犠牲に走る心理。それを知り怒り不甲斐なく思うラスコーリニコフ、そんな別物語が潜んでいるのを感じるのは、読む視点が変わったのだ。
第二部あらすじ
夢中で下宿に帰って死んだように眠っても興奮冷めやらないラスコーリニコフ。そこへ突然の警察からの呼び出し状にぎくりとする。
ドキドキしながら警察を訪れ、別件「不払い下宿代の催促だったとだった」と知る。警察の事務官ザメートフにラスコーリニコフが「自身が父親の早世による貧困で大学をやめざるを得なかった事情、下宿屋の娘との婚約、死別したために借金になってしまった」事情を語り、書類にサインするも、警察では「金貸し老婆殺人の話題」が飛び交っていて、精神が持たず失神してしまう様子。そこから彼の罰が始まる。
下宿で寝込み、友人ラズミーヒンや医師のゾシーモフたちが親身に介護するも、抜け出してアリョーナのところから盗んだものを隠したりする。妹の婚約者ルージンが下宿に来れば喧嘩したり、警察事務官ザメートフと危険な会話をしたり、街をさまよい懊悩する。
そのさなか、マルメラードフの事故死に遭遇、母から送金されたなけなしの25ルーブルをマルメラードフの残された家族にあげてしまう。
下宿に戻ると田舎から出て来た母と妹ドゥーニャが待っていた。
わたしの感想
あらすじを忘れていたからなのか、ジェットコースターのように変化にとんだ展開に驚く。さすが犯罪ミステリー小説の古典だ。それから、スラブ人のというか、ロシア人の極端な性格、熱するかと思いきや、氷のように冷める上がったり下がったりの行動の満載に圧倒される。『カラマーゾフの兄弟』もそうだったが、ドストエフスキーの骨頂だ。
Posted by ブクログ
ラスコーリニコフの慢性的な憂鬱感が作品を通して感じられ、現在は大学生でもなく、貧乏で何者でもないという立ち場の危うさと闘っているのが妙に生々しい。
『カラマーゾフの兄弟』が長編であり、ドストエフスキーの作品は「難解」で「文学上級者向け」というイメージがあったため、現段階でかなり読みやすく、楽しめていることに驚いている。『罪と罰』にもう少し早く出会ってもよかったなと思いつつ、もう少し読み進めることとする。
Posted by ブクログ
旧訳版を古本屋で見つけて読んでいたのだけど、上巻の終盤になって自分が話をまったく整理できてないことに気づいてよくわからなくなってしまったので、新訳版を買い直した。
旧訳は上下巻だけど新訳は3巻に分かれていて、最近の「100分で名著」のアンコール放送で、同じくドストエフスキー著の『カラマーゾフの兄弟』を解説してるロシア文学研究者の亀山郁夫さんが訳。
1巻は第一部と第二部。解説もついていて、登場人物の愛称を絞っていたり旧訳より行間も広くなっていたりで私にはわかりやすかった。
年取ってもう少し理解できるような力がついたら読み比べるのもありだなと思う。
わからなくてもとりあえず最後まで読んでみるぞという感じ。
がんばる
Posted by ブクログ
あの時代のロシアの社会が違うのか、ラスコーリニコフやソーニャが違うのか。ドストエフスキーが変なのか。俺の人生観が狭いのか。本を読み進めるたびに異様な世界に入らなければならなかった。
でも、“腐っても鯛”。へんな例えで申し訳ないけど、とんでもない登場人物たちは見事にロシア社会を描いているし、想像させてくれる。
そして生きている。この今の日本の多くの人たちよりずっと。
生誕200年。文豪と言われる所以が少しわかった気がする。
他の作品も読んでみるよ。ドストエフスキー。
Posted by ブクログ
罪と罰
P10
外出のたびに彼は階段に向かってほとんどいつも開け放たれている台所の脇を嫌でも通らなくてはならなかった そしてそこを通るごとに 何か病的とも言える 気後れ に駆られそのことを自分でも恥ずかしく感じてそのために また顔をしかめるのだった 下宿代がたまりにたまってたので女将と顔を合わせるのが怖かったのである
かつて彼はこんな風に臆病で いじけた青年ではなかったいやむしろ それと正反対なぐらいだったところが いつの時点からか心気症にも似た苛立ちやすい 張り詰めた状態に陥っていた あまりに 深く 自分の殻に閉じこもり 世間の人たちからも孤立してしまったため 下宿の女将 どころか相手が誰であれ 人と顔を合わせるのが怖くなった貧乏にも押しひしがれていたところが 近頃はそんな 切羽詰まった暮らしにも苦しさを感じなくなっていた 毎日の 差し迫った仕事を丸ごと 放り出し それに取り掛かる気にもなれなかった だから実のところ 自分にどんな魂胆を抱いていようと下宿のおかみ風情など屁とも思っていなかったのだ ただし 階段 口で呼び止められ 自分には何の関わりもない馬鹿げた 世間話 やらいつものしつこい下宿台の催促 やら 脅し やら泣き言 やらを聞かされると こちらもうまく返答を交わしたり周りのひとつも入れたり 嘘を ついたりしなければならず いやそんなことならいっそ 子猫みたいに 忍び足で階段をすり抜け 誰にも見られないようにこっそり抜け出す方がはるかに マシだった
しかし今日ばかりは表に出るなり債権者の女将と顔を合わせるの ここまで 恐れていたのかと我ながら 呆れ返った
《あんな 大それたことを決行しようとしているのにこんな愚にもつかぬことにビクついたりして!》奇妙な 含み笑いを浮かべながら彼は思った《なるほどそういうことか 人間ってのは全てを手中に収めながら それをみすみす逃してしまう それももっぱら 臆病のせいでこいつはもう 公理と言ってもいいぞ面白いのは 人間がいの一番に恐れるものって 何かってことだ 新しい一歩 自分の新しい言葉 人間は何よりもそれを恐れているんだ それにしてもおしゃべりがすぎるな 何もせずにいるのはこのおしゃべりのせいだ。いや 逆にこういうことかもしれん おしゃべりがすぎるのは何もしていないからだ 一日中 下宿に寝転がってそう ゴロフ王のことなんか考えながらこうしてしゃべることを覚えたのがつい このひと月 じゃないか ところでどうして俺は今歩いている本当に俺にあれができるのか 一体あれは本気なのか 何本気なわけがあるもんか そうさ 空想で自分で自分を慰めているだけさ おもちゃだなそう さどうやら おもちゃってところが正解 らしいぞ》
通りはひどい暑さでしかも 息詰まるような熱気と雑踏 あたり一面の漆喰 建築の足場 レンガ 土埃 そして別荘を借りる 余裕のないペテルブルグっ子なら誰もが知る あの夏 特有の 悪臭 これら全てがたちまち そうでなくとも調子の狂った青年の神経を不快にかき乱した
P24
暗く 汚らしい 居酒屋の住みに腰をおろし ベトベトするテーブルに向かった 彼はビールを注文し 最初の一杯を貪るように飲み干した すると たちまち 気分が楽になり頭の中もはっきりしてきた《何もかも くだらない》彼は心に光を感じながらそう 口にした《ドギマギする理由がどこにあったんだ 体調が悪かっただけのことだ ビールをグラスで一杯とカンパンのひとかけらで__ほら この通り頭 はたちまち しっかりし 考えもはっきりする計画も シャキッとしてくる ぺっ、何もかも くだらんことばかり!...》
だがこうして蔑むように唾を吐いてみたが 何か恐ろしい 重荷から急に解き放垂れたかのようにすっかり 明るい顔になり 周りに居合わせる人々に愛想よく目を走らせ始めた しかしこの瞬間 さえ 彼は何事もよく取ろうとする感覚 そのものも また病的なのだと ぼんやり予感していた
P35
「どうして勤めに出ないか じゃあ こんな無駄な暮らししてて私の心が痛まないとお思いですか ひと月前 レヴジャードニコフ氏がうちの家内を殴りつけた時も私は酔っ払って寝ていましたがね それで私が苦しまなかったとでも失礼ながら 学生さん 例えばそう 絶望的 借金っていうの使用となすったことが おありですか」
「ありますよ でも どう 絶望的なんです?」
「つまり まるきり 絶望的なんでございますよ 借金を申し込んだからってどうにもならないのが初めから分かっている例えば 倉庫の男この大層 高潔ですこぶる 有益な市民がですまかり間違っても金など 貸してくれないとわかっているだってそうでしょうが こっちこそ聞きたいくらいです どうして貸してくれるのか、ね?何しろ 相手はこっちが金を貸さないことぐらい 100も承知ですよ 同情から?でも 新思想を追っかけているレベジャードニコフ氏がついこの間も 説明してくれましたっけ 現代 じゃあ 同情なんてもんは学問上も 禁じられている経済学とかいうのが発展しているイギリスじゃ 現にそういう風になっている」ってどうして金を貸してくれるのか こっちこそ聞きたいところがです 貸してくれるはずがないと 初めから分かっているくせに それでも のこのこ 出かけていくで......」
「じゃあどうして出かけて行くんです?」
ラスコーリニコフは口を挟んだ
「でももし行く相手がなかったらこれ以上 行き先がなかったらどうなるか 人間誰しも どこか行き先がなくちゃ どうしようもない 何せ どこでもいい どこかに連れて行かなくちゃならない時ってものがあるもんなんですから うちの一人娘が初めて黄の鑑札のお世話で仕事に出て行った時はさすがの私も出かけていきましたよ......(なんせ うちの娘はこの鑑札で暮らしているんでございまして......)」
P38
「でもそう せめて一度くらいでもよしましょうよしましょう 何もかも虚しいことばかり話すことなんて何もありゃしません あやしません とも なぜ願いが叶ったことは一度ならずあったし 哀れんでもらったことも一度ならずあったただ これが私って男の本性でして生まれながらの犬畜生でして」
...
「これが私という男なんでして!いいですか あなた 私は ですよ なんと家内のストッキングまで酒代にしちまった靴 じゃありませんよ 靴 ならまだ話がわからないでもないストッキング そう ストッキングを酒代にしちまったヤギの皮でできたマフラーも酒代に当てちまった 昔人からプレゼントされたものでして私のじゃない 家内のもんですよで私どもの住まい といえば 寒い 貸間でして、この冬 家内は風邪をひいてしまい 咳が出始め 今じゃもう 血を吐いている始末です 子供は小さいのが3人おります もんでカテリーナさん 朝から夜遅くまで そこら を磨いたり 洗ったり子供達を家に浸からせたりと働きづめ なんです それと申しますのも これが根っからの きれい好き と来ているもんででも胸が弱くて結核の気があってそれは私も気にしております 私が気にしないとでも言うんですか 飲めば飲むほど気にかかるんです 私が酒を飲むのはこの酒を飲むってことの中に憐れみの念を憐れみの女王を求めているからでして快楽 なんかじゃない ひたすら 悲しみを求めているんです 酒を飲んでいるのは2倍 苦しみたいから なんです」そう言うと絶望に駆られたかのように テーブルに突っ伏した
「学生さん」再び 顔上げて彼を 話を続けた「あなたの顔には何か悲しみ みたいなものが 読み取れるような気がするんですよ ここに入って来られた時 それが頭にピンと来てね だからすぐに話しかけたわけですていうのもあなたに 身の上話を聞かせるのは そうでなくたって 何から何まで知っている野次馬どもに自分の恥をさらしたいからじゃない人の気持ちがわかり学もある人間を探しているから なんですいいですか うちの家内は誉れ高い 県立の貴族女学校で教育を受けましてね 卒業時には 県知事さん他お歴々の前でショールダンスを踊り 金メダルと 症状までもらってるんです そのメダルをです そう そのメダルを売り払っちまった ずいぶん昔のことですがね 症状は今も 相手のトランクにしまってありますが つい先だってもアパートの女将に見せびらかしてましたっけ 女将とは しじゅう 喧嘩が絶えないくせして誰かに自慢の一つも して幸せだった昔を伝えたくなったんですな 私だって 咎めだって する気などありませんよ ありません とも なにせ 家内の思い出で今も残ったものは これ一つ残りのものはみんな 泡みたいに消えちまったんですから そうそうなんです 気性が激しくて プライドが高くて負けず嫌いな女なんです 床 洗い しようが 黒 パンだけの生活だろうが自分に対する無礼だけは許さないだからですよレベジャードニコフ氏の乱暴な仕打ちを許そうとしなかったのは、ね であのことでレベジャードニコフ氏に殴られた時も殴られたからっていうより 悔しさのあまり寝込んで 待ったくらいですやもめになったあれを嫁にもらった時 ごく幼い子供を3人連れておりましてね 歩兵師間だった最初の亭主とは これで一緒になった中でして手に手を取って 親の家から駆け落ちしたってわけです 俺に惚れた 亭主でしたが ついにカード 賭博に手を出し裁判にかけられそのうち ぽっくり いっちまった 最後が近づくにつれ亭主はよく家内を殴ったそうですが あれだってそうは黙っちゃいなかった それについては 私もちゃんと 証拠を握ってるんですがそれでいて 未だに死んだ 亭主を涙ながらに思い出し 引き合いに出しちゃ 私のことを責め立てるんですわ でも私は嬉しいんです 嬉しいですよ たとえ 空想の中だって自分は昔 幸せだったと思えるわけですから で亭主が死ぬと家内は3人の幼い子供を抱えたまま 私がその頃住んでいた 遠い 辺鄙な村 里に取り残されたわけです それはもう 恐ろしい貧乏暮らしをしてまして 私もこの世の中でいろんな苦労は一通り見てきたつもりですがそれはもう言葉に尽くせないぐらい ひどいものでしたよ親戚という親戚から関東されましてね それに恐ろしく プライドが高いドハズレに高いと来てるでそこでですお兄さん 当時 やっぱりやもめ暮らしをしていて前の女房との間に14になる娘を抱えていた この私が結婚を申し込んだわけです その苦しみを見るに見かねてですよ 彼女の抱えている貧窮ぶりがどのぐらいだったかはれっきとした 家柄の腕で教育もあれは教養もある彼女がこんな私と結婚することに同意したってことからもお分かりになるはずです しかしとにもかくにも嫁になった 泣きながら 恩を泣きながら両手を揉み合わせながら嫁になった なにせ どこにも行き場がなかったからでして分かりますか 学生さん お分かりになりますか これ以上どこにも行き場がないってことが一体何を意味するか いやいや あなたなんかにはまだお分かりにならない それから 丸1年 私は自分の勤めを神妙な思いで大切に果たし これには指一本触れませんでした」そう言って彼は ウォッカの小瓶を指で小突いた「人並に情ってものがありましたからね ですが それでも家内を満足させることができなかったおまけに役所の職務を失ったこれだって私が悪いわけじゃなくて 定員改正のためですよでそこでとうとうこいつに手を出した ...」
P53
「あなたに したって 他の連中と同じできっとこんな話 ただのお笑い草にすぎんでしょう しこうしていじめったらしい我が家のうちわ 話を 細々と喋りちらしてはご心配おかけするばかりです でも私からすると こいつはお笑い草 なんかじゃないなぜって私にはこれが みんなひしひしと胸に答えるんですからね 私の人生の中の天国のような1日 あの日の 晩私自身 天にも登る思いで過ごしましたよ これで何もかもきちんと させ子供たちにも着るものも 着せてやろう 家内には楽をさせてやろう 1人娘のそうにゃを泥沼からすくい上げ 家族の懐へ戻してやろう......とです他にも いろんなことを本当にいろんなことをきちんとして仕方ないでしょうが お兄さんところが ですあなた」
マルメラードフは不意に身震いして頭を上げ 相手の顔をひしと見つめた
「ところがです その翌日 明日思いっきり夢を羽ばたかせた すぐ 翌日(つまり 今からちょうど5日前のことです)の夕方近く 私は コソ泥みたいにうまいこと騙して カテリーナさんのトランクの鍵を盗み出し 持ち帰った給料の残りを そっくり 抜き取りました 全部でどれぐらいあったか知りはしません さあ 私を見てください みんな家を出て これで5日目になりますが 向こうじゃ私を探し回っとります 役所勤め もこれでおしまい 制服一式はエジプト 橋のたもとの飲み屋にあります 代わりに頂いたのが この服ってわけで してね 何もかもおしまい なんですよ」
マルメラードフ は拳で コツンと 額を叩くと歯を食いしばり 目を閉じて テーブルにしっかりと肩肘をついたところが その1分後には顔つきがガラリと一変しどこかわざとらしい 高架下と取ってつけたような厚かましさを浮かべて ラスコリーニコフの方をチラリとみやり上にカラカラと笑い出した
「でも今日ソーニャのところへ行ってきたんですよ 酒代をせびりにです!は!は!は!」
「で、くれたのかよ?」入ってきたばかりの客の一人が横合いから大声で叫び ゲラゲラ笑い出した
「ほらここにあるこの小瓶 こいつが娘の金で買ったもんです」マルメラードフはもっぱら ラスコリーニコフの方に向かって答えた「なけなしの30コペイカ出してくれましたよ 自分の手でありったけの金です この目で見てましたからわかるんです 一言も言わず ただ黙って こっちを見るだけでした この世であんなん 目はしない あの世なら人間のことを思い 泣きはしても責めることはしない 責めることはしない!でも こっちの方がむしろ 答えるもんなんですな 責められない方が 余計 辛いってもんでして30コペイカか そうなんです なぜあの金は今 あの子にとっても必要な金ですえ?どうお思いです あなただってあの子は今 清潔を守らなくちゃならない身ですよ この清潔 ってやつは特別の清潔 ってやつは金がかかるもんでしてねそうでしょうが?分かりでしょう?大地 口紅も買わなくちゃいけないだってそれなしで 休まされんでしょ それに海苔のきいたスカートもそう ブーツだってそう水たまりを飛び越す時に ちらっと 足が見せられるようななるだけ かっこいいやつです お分かりですか お分かりですかあなた この清潔 ってやつが何を意味するか?ところがです この私は実の親でありながら この30コペイカを酒代にかっぱらった でこうして飲んだくれてるってわけです こうしてもうすっかり飲んで 待ったってわけです そうですとも 私みたいな男 どこの誰が哀れんでくれるもんですかそうでしょうが あなたは今 この私を哀れとお思いですか あなた いかがです 言ってみてください あなた 哀れか 哀れじゃないかは、は、は、は!」
彼はそこで ウォッカを注ごうとしたが もう1滴もなかった 小瓶は空になっていた
「お前なんか何で 哀れんだりする?」
再び側に姿を現した主人が大声で叫んだ ドットを笑い声が起こりそれに混じって 悪態も聞こえた話に聞き入っていた者たちも聞いていなかった者たち もこの退職役人の姿を見ただけで笑ったり 悪態をついたりしていた
「憐れむ 何でこの私を憐れんだりする!」
腕を前に突き出し まるで この言葉を口にするのを待ち受けていたかのように激しく 勢い込んでマルメラードフは突然大声でわめきたてた「お前さん どうして 憐れんだりするか って言うんだな そうとも 私を憐れむ 理由なんて何一つありゃしないんだ 私なんて 貼り付けにすりゃいい十字架にかければいいんで人に哀れまれる筋合いじゃない 貼り付けにしろ裁きの人 貼り付けに貼り付けにした上でくれその時は髪を私は自分から進んで 貼り付けになりにあなたの身元に参ります なぜならあなたが飢えているのは 快楽 なんかじゃなく悲しみと涙 なんだおい 親父 あんたこの私が こんな小瓶で憂さ晴らしができたとでも思っているのか 私がこの小瓶の底に求めていたのは悲しみなんだぞ 悲しみなんだぞ 悲しみと涙なんだぞ それは味わったんだ それを見つけたんだで 私たちを憐れんでくれるのは万人を哀れんでくれたあの人だけだ万人と 万物を理解されたあの人だけであの人はこの世に一人しかいないあの人こそ 裁きの人 だいずれ その時が来てこう お尋ねになるんだ『さて娘はどこにいる意地悪で結核持ちの継母や、幼い 他人の子供たちのために自分を売っ払ったあの娘は娘はどこにいる 地上の父親でろくでなしの 酔っ払いをその残念なふる前にも ひるまず 哀れんだその娘はどこに』そして こうおっしゃるんだ『来なさい お前のことはすでに一度許したことがある 一度許したことがある 今またお前のままである罪は許されるのだ あなたの人を愛したがゆえにだ』そして 私のソーニャを許してくれるんです許してくれるんです 分かってますとも許してくれるって事がさっきあの子のところに行ってきた時に心の中でそれを感じたんです それから全員を裁きにかけて お許しになる 善人たちも悪人たちも賢い人々も 穏やかな人々も そして全員に対する裁きを終えたところで私たちにもこうおっしゃるんだ 『あなた方も出てきなさい 酔っ払いは出てきなさい 弱虫は出てきなさい 恥知らずは出てきなさい』とですよ そこで私たちはみんな恥ずかしがらずに出て行き 並ぶんです するとこうおっしゃる『お前たちは豚である獣の姿と獣の印を帯びている だがお前たちも来なさい』すると賢い人々が理性ある人々が口々にこう言うんです『主よ 何故にあの者たちを受け入れるのです?』するとこう お答えになる『賢い人々よ あの者たちを受け入れるのは理性ある人々よ あの者たちを受け入れるのは あの 者 たち の 誰一人 自分がそれに値するとみなされなかったから なのです』そして私たちに両手を差し伸べ 私たちはそれにすがりつき 泣き出して全てを悟るんです その時全てを悟るんです そして全員が悟るんです カテリーナも彼女も悟るんです主よ 御国が来ますように!」
そこで彼は周囲の全てを忘れ 深く 物思いに沈んだかのように誰にも目をやらず ぐったりと 力尽きて 長椅子に腰を下ろした彼の言葉は何がしか 感銘をもたらしたらしく しばらく 沈黙があたりを支配したがやがて 前と同じ笑い声と悪態とが沸き起こった
P65
そこで 敷居の上に跪いている夫の姿に気づき 突然大声を張り上げた
「ああ!」彼女は無我夢中でわめきだした「帰ってきたのね!この罰当たり!人でなし!で金はどこだ ポケットに何が入ってるか 見せなさいよ 来てる服も違う あんたの服はどこだい金はどこさ?さあ 言いなさいよ」
そう言って彼女は夫に飛びかかり探しにかかった マルメラルフはポケットを調べやすくしようとすぐにおとなしく 両腕を広げた金は1コペイカもなかった。
「お金は一体どこなの?」
彼女はわめき立てた
「ああ、神様本当に全部 酒代 にしちまった!トランクに12 ルーブル もあったのに」そして いきなり逆上し夫の髪の毛を掴むと部屋の中に引きずり込んだマルメラードフもう後ろから おとなしく 膝をすり妻の骨折りをできるだけ楽にしてやった。
「これも私にゃ快感 なんです私にゃ苦しみなんかじゃなく、か、い、か、ん、何ですってあぁ、あなた!」紙を掴まれて 体を振り回され 一度は床にしたいをぶつけながらマルメラードフは叫んだ。床で眠っていた子供が目を覚まし 泣き出した部屋にいた隣の男の子は こらえきれずに体をブルブルブルブル震わせ わっと声を上げると発作にも似た 激しい 恐怖にかられた様子で姉に飛びついた年上の女の子は夢 うつつのままこのはのように震えていた
...
帰り際に ラスコリーニコフはポケットに金を突っ込み酒場で 崩した 1ルーブルの残りのどうかを何枚かつかめるだけ つかみ出すと気付かれないように 窓枠に置いたやがて 階段 口まで来たところでふと 思い直し 引き返しかけた
《俺は一体なんて馬鹿な真似をした》彼は考えた《奴らにはソーニャ が いるし俺の方こそ金に困ってるっていうのに》だが今さら取りに戻ることは不可能だし そうでなくとも 戻る気にはなれないと諦め 思い切りよく手を振ってそのまま アパートに向かって歩き出した。《ソーニャだって口紅がいるじゃないか》通りを歩きながら そう考え とげとげしい笑いを浮かべた。
《この清潔 ってやつは金がかかるんですよ、か......そうあのソーニャにしてももしかして今日にだって破産しかねないんだ 何しろ あれは高級毛皮 目当てのハンティングや鉱山探しとどっちこっちのリスクを抱えているからな だからあの連中はみんな俺の金がなかったら明日にだって 干上がってしまう ってわけさ えらいぜソーニャはそれにしても 何ていう井戸を掘り当てたもんだ それを のうのうと 利用している 実際 平気な顔で利用していると来た で なれっこになっている ちょっぴり涙を流したらもうすっかりナレッコだ 人間っていう卑劣な動物は何事にもなれっ子になっちまう》
彼はふと考え込んだ
「だがもし この俺が間違っているとしたら」不意にわれ知らず 叫んだ「もし人間が本当に卑怯者でないとしたら 人間 全部つまり 人間という 類が卑怯者でないとしたら他の残りは全て 迷信 ってことになる単に見せかけの恐怖に過ぎないてことになる それに障害など一切 存在しないってことになるそう そうなる 理屈だ......」
P77
神様のおかげで あの子の ひどい 苦しみも終わりが来ました 何が一体どうだったのか これまで隠してきたことを何もかも 知ってもらうため これから準備を立てて お話することにしますね 2ヶ月ほど前 お前はスヴィドリガイロフ氏の家の前でドゥーニャが色々ひどい仕打ちに耐えているという話を 人づてに聞いたとか言って 詳しい説明を求めてきたことがありましたね でもあの時私にはどうにも返事の書きようがありませんでした もしもあの時 洗いざらい お前にぶちまけていたらお前はきっと何もかも投げ打ってたとえ 歩いてでも家に帰ってきたでしょうからだってお前の気性や感じ方は私なりに 分かっていますしお前なら自分の妹が侮辱されるのを黙って見逃すようなことはしないからです
...
スヴィドリガイロフ氏ははじめ あの子にとても 横暴な態度を取り 食事 どきにも色々 失礼な振る舞いに出たり 物笑いの種にしたそうです でもそんな辛い出来事について あれこれ 細かく書き連ねるつもりはありません 今ではもう何もかも一段落し お前をいたずらに心配させる必要もないからですごくかいつまんで言うとスヴィドリガイロフ氏の奥さんのマルファさんや 同じ屋敷に住んでいる方々が色々と親切に気遣ってくださったりも関わらずドゥーニャはとても辛い思いをしていたのです 特にスヴィドリガイロフ氏が昔の軍隊生活の癖が出て広く先に酔われる時がつらかったそうですところが後になってとんでもないことが明らかになりました いいですか あの色きちがいはもう 前々からドゥーニャに強い恋心を寄せていてそれを押し隠すためにわざと乱暴で蔑むような態度を取り続けてきたのです もしかすると自分がもう結構な年で一家の父であることを知りながら そういう 軽はずみな 家賃を抱いたことを始め そのことを 恐ろしくも感じて心にもなくドゥーニャにつらく 当たっていたのでしょう でも もしかすると粗暴な態度を取ったりもの笑いの種にすることで自分のもろもろの心の秘密を他人の目から隠そうとしていただけかもしれませんが ところがついに歯止めが効かなくなって あからさまに 汚らわしい 申し込みをしたのですドゥーニャにいろんな 報酬を約束してあげく 全てを捨てて よその村かできれば 外国に一緒に駆け落ちしようと誘いかけた というわけです あの子の苦しみ ようはお前にも想像できるでしょう 突然仕事を辞めたりすることなど単に前借りしているお金のことばかりでなく何より マルファ さんのお気持ちを考えてもできない 相談でした そんなことをしたら当のマルファさんが急に不審 だってその結果 一家に騒動の種をまくことになるでしょう それにドゥーニャにとって非常に人聞きの悪い話でとてもタダでは済まされません他にもいろんな理由がありましたからおよそ6週間ドゥーニャはこの恐ろしい屋敷を逃げ出すことができなかったのです もちろんお前はドゥーニャのことがわかっています あの子がどんなに賢くてどんなにしっかりした性格の子か、ね。ドゥーニャはとても我慢強い子ですから どんな 窮地に陥っても持ち前の強さを見失わないだけの度量があります あの子は私にまで心配をかけまいとして しょっちゅう 頼りを交わしていながら その件については何一つ書いて汚しませんでした ですが 思いもかけず 破綻が訪れました 夫のスヴィドリガイロフ氏がドゥーニャを庭先で しきりに口説いているところをマルファさんが立ち聞きし それを何もかも 逆さまに理解してあの子が もろもろの元凶と思い込み 全てをあの子のせいにしてしまったのです 庭先ですぐに恐ろしい 一幕が持ち上がりましたマルファ さんはドゥーニャをたたき 何一つ 耳を貸そうとせず まる1時間も上向き続けた挙句ドゥーニャを今すぐ 粗末な 百姓 馬車に乗せ町にある自宅に送り返せと命じたのです そしてあの子の持ち物は下着から吹くから 手当たり次第 6に畳んだり 荷造りしないままに 場所に放り込まれたのでしたところがおりから 土砂降りの雨になりドゥーニャは散々 恥をかかされたまま まる17キロもの道をお百姓と一緒に 屋根 もない場所に揺られ 戻ってくるはめになったのです これでお分かりでしょう 2ヶ月前に受け取った お前の手紙の返事に私が何もかけずにいたのは 実はそういうことなのです 本当に何を書けばよかったでしょう 私自身 絶望しきっていました とてもお前に本当のことを書く気にはなれませんでした なぜかと言うとお前はひどく不幸な気持ちになって 落胆し 憤慨するに違いありません しかと言ってお前に何ができると言うんです?もしかしたら自分の身を滅ぼすようなことをしでかさないとも限らないし それにドゥーニャにも止められていたのですか といってあれほど辛い思いをしながら何か どうでもいいよもやま話でお話を濁すことも私にはできないことでした まるひと月の間町 はこの事件にまつわる噂で持ちきりで それがあんまり ひどくて私たちは 白い目で見られたりひそひそ話をされるのが嫌でしまいに 教会にも行けなくなりました 目の前で聞こえよがしに話をする人もいたぐらいです 知り合いの人達はみんな私たちを避け お辞儀もしてくれなくなりました 私はちゃんと知っているのですが 商家の番頭 やら 何人かの事務員たちが私たちのアパートの門にタールを塗って 卑しくも 私たちに侮辱を加え そのため 家主さんから 部屋の立ち退きまで要求されたんですよそれもこれも全てマルファさんが原因で町中の家を訪ねてはドゥーニャに罪を着せ 泥を塗って回ったからです あの人はこの町の誰とでも 知り合いで この人好き 頻繁に町に足を運んできたのですが結構 口が軽くおしゃべり好きな上家庭のうちわ 話や 特にご主人の愚痴を相手構わず こぼすのが趣味と来ているものですから事件の噂は 短期間に この街はおろか郡にまで広まってしまったというわけです 私は病気で寝込んでしまいましたがドゥーニャは私よりもしっかりしていました あの子が全てに耐え この私を慰め どんなに力づけてくれたか お前に見せたいくらいでしたよ あの子は天使ですところが 神様のご加護 で 私たちの苦しみは軽減されましたスヴィドリガイロフ氏が 思い直し 罪を悔いきっとドゥーニャを哀れんでのことでしょうドゥーニャが完全に潔白だと示す はっきりとした証拠を洗いざらい マルファさんに示したのです それは他でもありません そもそも マルファさんが 庭先で二人と鉢合わせする前 ドゥーニャ があの人の個人的な告白や密会の誘いを断るためやむを得ず書いてあの人に手渡した手紙です ドゥーニャ が屋敷を出た後スヴィドリガイロフ氏の手元に残っていたものなのです その手紙であの子は激しい憤りを込め それこそ ものすごく厳しい調子で あの人がマルファさんに対して 良識に反した態度をとっていると 責めた上彼が父親であり 一家の主でありながら そうでなくとも不幸で無力な娘を苦しめて 不幸にすることがどんなに 忌まわしい行為であるか確かめたのでした一言で言うと 愛するロージャその手紙は実に潔く切々たる 調子で書かれていて 私もそれを読みながらつい涙を流してしまい今だって涙なくして この手紙を読めないほどですそればかりか ドゥーニャの潔白を裏付ける 召使いたちの証言 も現れました 召使いたちはよくあることですがスヴィドリガイロフ氏当人が思っていたよりはるかに多くのことを見聞きしていたのです マルファさんはすっかり 度肝を抜かれて 本人の言葉を借りますと『改めて打ちのめされた』のですが その代わり ドゥーニャが 潔白であることをすっかり 納得してくださり 翌日の日曜日にはまっすぐ 教会に来られるなり 聖母様の前にひざまずかれ この新しい試練に耐え 自分の義務を果たす力をお与えくださいと涙ながらにお祈りしたということです その後 聖堂に出るとどこにも寄らず まっすぐ 私たちの家にいらして何もかもお話ください 激しく泣きじゃくった後心から後悔した様子でドゥーニャを抱きしめ どうか自分を許してほしいと ドゥーニャに頼んだのですでその日の朝からまあ おかずに私たちの家に出てそのまま街中の家を一軒一軒 訪ねて回り 行く先々で涙を流しては ドゥーニャの心を思いっきり くすぐるような言葉で あの子の身の潔白を明かしあの子の心根や振る舞いの立派さをほめそやしたのですそればかりではありません 会う人会う人に ドゥーニャがスヴィドリガイロフ氏に当てた 自室の手紙を見せて 声に出して読みその写しまで取らせたそうです(それはもう やりすぎだと思えるのだけれど)こうして あの人は数日間 立て続けに街中の人々を訪ねて回らざるを得なくなりましたというのも 他の人を優先したと言って機嫌を損ねる人が出てきたからです そんなわけで順番を決めることになり どの家ももう 前もって あの人が来るのを待ちわびこれこれの日はどこそこの家で手紙の朗読があるということを誰もが知っていましたので 朗読があるたび すでに何度か 自分の家や 順番が当たった様子の知り合いの家で聞いている人たちまでがまたもや 集まってくる有様でした 私に言わせるといろんなことが本当に余計でした でもマルファさんという人がそもそもそういう性分ですからね 少なくとも あの人はドゥーニャの名誉だけはすっかり 回復してくださり この事件にまつわる 醜聞は全ての張本人である あの人のご主人が悪いということになってあらゆる知力をあの人が引っかかることになりましたから帰ってお気の毒になったくらいです だってあの非常識人に対して少し厳しすぎる仕打ちが加えられましたからね ドゥーニャにはいくつかの家から家庭教師をお願いしたいとの声がかかりましたが あの子は断りました 総じてあの子に対して急に特別な 尊敬が払われるようになったのです 主にこうしたことがきっかけで行ってみれば 私たちの運命を一変させる思いもかけない出来事が起こったのでした 愛する ロージャ実はドゥーニャに結婚の申し込みがあり あの子はもうそれに同意していることを 取り急ぎ 知らせますね お前に何の相談もせず こんな話になってしまったけれど でもきっと この私にも妹に対しても反対はなさらないと思います お前にも分かってもらえるだろうけど ことが ことだけにお前の返事を待って 先延ばしにするのは不可能だったのですから それに お前だって 手紙で全てを正しく判断することはできなかったでしょうし その経緯とはこういうことです 相手の方は ピョートル ルージン という 七等文官で今回 この件にあれこれ 骨折りくださったマルファさんの遠縁にあたる方ですそもそもの 馴れ初めは このマルファさんを通して その方が私たち一家と近づきになりたいという希望を示され形通り それをお受けしてコーヒーをお出ししたのですが 翌日にはもう手紙をよこされ 大層 丁寧な調子で結婚のお申し出をなさり 早急にはっきりとした返事をいただきたいと書いてこられました 何分 実業家で忙しいお方ですので これから急いで ペテルブルグにお出かけになるとのこと そのため 一刻を争っていたのです 当然のことですが 最初は私たちも本当に驚きました 何しろ 何もかもがあまりに急に唐突に生じたからです その日1日 私たち二人してあれこれ考え 思案しましたお相手は信頼できる 裕福なお方ですし 2箇所に勤め先を持ち すでにそれなりの財産を蓄えておいでです なるほど お年はもう45ですが外見もなかなか気持ちがよく女性にもまだ好かれそうですし それに 総じて 大変 押し出しが立派なのと礼儀も正しい岡田です ただ少しだけ 気難しいところがあっていたけだかな感じがない ではありません でもそれにしたってもしかすると 第一印象でそう見えるだけかもしれませんそこで愛するローじゃ 前もって言っておきますが きっとかなり近いうちに ペテルブルグでその方と会う機会が来ると思いますが その時に もし一目見て 何か気に入らないところがあっても お前の癖であまり ムキになってせっかちに判断を下すようなことはしないでくださいね お前もあの方にはきっと良い印象は 受けるだろうと信じていますが念のためにこれだけ言っておきますね その上 さらにどんな相手でも人をきちんと見極めるには 一歩一歩 慎重に アプローチして後になって直したり 修正したりすることが難しい間違いを犯したり偏見に陥ったりしないようにしなくてはいけませんよ でもルージンさんは少なくともいろんな点から見て 大層 立派な方です
...
あの方ははじめ私にどことなく トゲトゲし感じがしたのですがそれは あの方が一本気な人だからそうなのかもしれません きっとそうに違いありません 例えば2度目の訪問の時すでに ドゥーニャから承諾の返事を得ていながらです あの方は話し合いの中で自分としてはドゥーニャを知る前から 誠実ながら持参金のない 一度は貧しい境遇を味わったことのある娘さんを嫁に迎える 心づもりでいたというようなことをおっしゃったのです それというのは あの方の言い分 ですと夫は妻にどんな借りを作ってもいけないし 妻が夫を自分の恩人と考えてくれる方がずっとベターだからなんだそうです 付け加えておきますが あの方は私が書いたよりも 幾分 ソフトない優しい言い方ですをおっしゃいました 何しろ 私は実際にどう行ったか その言い回しを忘れてしまい 覚えているのは言った 中身だけ おまけに あの方はそれをわざとおっしゃったわけではなく話に熱が入る あまりつい口を滑らせたので後から何とか言い直しをし言葉を和らげようと努力 なさったのです
P98
手紙を読んでいる間もう 冒頭の1行からラスコーリニコフの顔はずっと涙に濡れていた しかし 読み終えるとその顔は青ざめ 痙攣に引きずり 苛立ち の混じった 重苦しい 冷笑が唇のあたりに這うように浮かび上がった
ひしゃげた 汚い 枕に頭を埋めて本当に長いこと考え込んでいた心臓は激しく 脈打打ち 思いは恐ろしく 波打っていた やがて 戸棚か トランクを思わせる この黄色い小部屋にいるのが 息苦しく窮屈な感じになってきた目と心は広々とした 戸外 を求めていたやがて 帽子を掴み通りに出たがその時はもう 階段で誰かと出くわすことなど意に返してはいなかったそんなことはもう忘れ去っていた
...
いつもながらの癖で道順 など 気にせず ブツブツ と呟いたりともすると大声で独り言を言ったりして 行き交う人をひどく驚かせた 大抵の通行人は彼が酔っ払いだと思った
P107
我が身のため安逸のため自分の命を破滅から救うために自分を売ることはしないがそう 他人のためなら自分を売る 愛する人のためなら 尊敬する人のためなら自分を売る これこそが全てのからクリ ってやつで兄のため母のためなら自分を売る 何もかも 売り渡してしまうそう時に人間っていうのは自分の道徳心 だって 押し殺し 自由も 平安も いや 良心だって何もかも一切合切 蚤の市に持って行ってしまう自分の一生なんてどうなってもいいってな具合に
自分たちの愛する人たち さえ幸せになってくれさえすればそれでいいそればかりじゃない 自分勝手な理屈をひねりだしイエスズ会に弟子入りしたりして良い 目的がちゃんとあるなら これでいい 実際にこうでなくちゃならないと言い聞かせ 今しばらくは自分を安心させる。俺たち人間ってのはだいたいが こんな風で万事火を見るより明らかってわけさ
P109
この世の続く限り 永遠のソーニャ君たち二人は 犠牲の重さを犠牲の何たるかをちゃんと測ってみたのか それでいいのか 耐えられるのか 得になるというのか 理屈に合ってるのか分かってるのかドゥーニャルージン某と一緒になるお前の運命と 弾き比べ ソーニャの運命が 汚らわしいなんて 一言も言えないぞ 愛情などあるわけではありませんと母さんが書いている もしも 愛情どころか 尊敬の念も持てないで逆に 県央や軽蔑 や象しかないとしたら一体どうなる そうなったら つまりは お前も清潔にしている必要が出てくるんだぞ そうじゃないか 分かってるのか お前本当にわかってるのか この清潔にしているというのが どういう意味かわかっているのか ルージン 相手の身繕いがソーニャの身繕いとと同じでもしかすると むしろもっと集約で毛がらしく卑劣なものかもしれないってことがだってドゥーニャ、お前の腹にはやっぱり少しでも楽したいっていう計算があるのに あっちの場合はそれこそ 飢え死にするかしないかの ギリギリの問題なんだぞ 高くつくんだよドゥーニャ高くね この清潔さってやつは デーハートになって 我慢 もつき 公開するはめになったらどうする どれぐらい お前は嘆きと悲しみと呪いと涙に 人知れずくれることになるか どれくらいだってお前はマルファペトローヴィチとは違うのだから でいざそうなった時母さんはどうなる だって 母さんはもう今でさえ 心配して苦しんでいるっていうのに 全てが明らかになった暁には どうなる そしてこの俺は 実際 お前はこの俺のことを一体どう考えたドゥーニャ俺はお前の犠牲なんて欲しくない母さん欲しくないんだ 俺が生きているうちは断じて そんな真似はさせないさせるもんかさせるもんか この俺が 承知しない》
不意に我に帰り 足を止めた
《させるもんか だぞ ならそうさせないために お前は一体何をする 禁じるでも一体何の権利がある その権利を手にするのと引き換えに自分から何を二人に約束してやれるっていう大学を出て就職した暁に自分の運命 自分の将来 すべてをあの2人に捧げる だと そんな冗談 聞き飽きたぜ 何 の後にもならん話じゃないか それよりも 今どうするか だだって今すぐ何らかの策を講じなくちゃならないんだぞ それぐらいわかってるだろ なのに お前は今何をしてるって2人を食い物にしてるだけじゃないか だってあのお金は100ルーブルの年金とスヴィドリガイロフ家での勤めをかたになんとか手に入れたものだろう 未来の億万長者どの2人の運命を司っている ゼウス君スヴィドリガイロフ家やアファナーシーアフルーシンのやからどうやってあの二人を守ってやれる10年後にだってそう10年も経てば 母さんも エリマキアミの仕事でいや 多分 涙の流しすぎで目をやられてるだろうし それこそ食うや食わずの生活で骨と顔だけになっているだろうさ それじゃあ 妹はどうなる さあよく考えろ 10年後 いや この10年間に妹がどうなっているか 察しがついたか》
こんな風にして彼はある種の快感すら覚えながら そうしたトイレ 自分を追い詰め 時にはからかって見せた しかしながら これらの問いは別に 目新しいものでも不意に湧いてきたものでもなく かねてから救っていた古い 問いであった それらの問いが彼の心を苛み ズタズタに引き裂き始めたのはもうだいぶ 以前のことだった今 この 憂鬱が心のうちに芽生えたのはかなり昔のことで それが いつしか 大きくなりつもり積もって最近ではすっかり 熟しきって凝縮し恐ろしい機械で幻想的な問いの形を取るようになった それが彼の心と頭を苦しめ 否応なしに解決を迫るのだった そして今 母からの手紙が突如雷のように彼を打ちのめした 明らかなのは問題は解決できないと判断して 憂鬱になったり受け身に苦しんだりしているところではない 是がヒレもいます できるだけ早く何かしなくてはならないということだった 何が何でも決行しなくてはならない せめて何か さもなければ......。
《さもなければ一切人生を諦める!》
彼はふと我を忘れて声を上げた
《一度きりの あるがままの運命をおとなしく受け入れ 行動し 生活し 愛する権利を全て断念して自分の中にある全てを絞め殺してしまう!》
《わかりますか 学生さん お分かりになりますか これ以上どこにも行き場がないってことが一体何を意味するか》彼はふと 昨日のマルメラードフが出してきたという思い起こした《人間誰しも どこか行き先がなくっちゃ どうしようもない》
彼は不意に ぎっくりとした 昨日と同じ 1つの考えがまたしても 脳裏をかすめたのだがぎくりとしたのはこの考えが脳裏をかすめたからではなかった この考えが必ずや 脳裏をかすめることはわかっていたし予感すらしてすでにそれを待ち構えていたからだ それに その考えは昨日初めて浮かんだものなどではなかった ただ 違い といえば ひと月前 いや 昨日ですら それは単なる 絵空事に過ぎなかったのに今は今や 突然 絵空事ではなくなりある新しい恐ろしい自分には全く持って 未知の姿をとって現れ 自分でも不意にそれを意識したことだった ガツンと頭をやられたように感じ 目の前が真っ暗になった
P117〜
「ほら見てくださいよ すっかり酔っているさっきまで この並木道を歩いていたんですよ どういう 筋の女かは分かりませんが どう見たって商売*じゃない 術中泊 どこかで酒を飲まされ騙されたんですきっと 初めてです おわかりでしょうそうやってそのまま通りに放り出されたってわけですよ 見てください服がこんなに 破れている それにどうです この服の着方は つまり 自分で来たんじゃなくて 人に着せられたってことですよ それも不器用な男の手でね そうに決まってますでほら 今度はこっちを見てくださいこの伊達男 さっき僕が喧嘩しようとした相手です 今初めて会ったばかりで 僕の知り合いなんかじゃない でもこの男もきっとここに来る途中 酔っ払って 正体 なくしているこの娘に目をつけたんですよで奴はこの娘がこんな状態なのに付け込んで なんとかこの娘に近づきものにしてやろう どこかに連れ込んでやろうと 夜勤になっていたんです これはもう そうに決まっています 本当にそう 僕の勘違いなんかじゃない 現にこの目で見てたんですから あいつが この娘を観察し 様子を伺っているのをねただ僕に邪魔されたもんでさっきからあの調子で 僕がここから行ってしまうのをずっと待っているんですよ ほら 今ちょっと離れてタバコを巻いているようなふりをして立っているでしょう どうしたら奴の手に渡さずに済みますか どうしたら この娘を家に送り届けてやりますか ちょっと考えてくださいよ」
...
「いやはやかわいそうに」
首を横に振りながら彼は言った
「まだ まるっきり 子供なのにな 騙されたんだな それしか考えられん もしもし お嬢さん」巡査は娘を呼び始めた「どこにお住まいです?」娘は疲れきって どんよりとした目を開け 声をかけてくれる相手の顔をぼんやりと 見合ってから うるさそうに手を振った
「もしもし」ラスコーリニコフ は言った
「ほら(そう言って彼はポケットの中を跨り20コペイカを掴み出した持ち合わせがあったのだ)さあ 馬車を呼んで家まで送ってやってください せめて 住所 くらいわかれば!」
「お嬢さんねえ お嬢さん」
巡査は金を受け取るとまた声をかけ始めた
「これから 馬車を呼んで私が家まで送ってあげますからお家はどこです ねどこのアパートに住んでらっしゃるんです」
「あっちに行ってよ うるさいんだから」
娘はそう つぶやき 払いのけるように片手を振った
「いやそれは良くない なえ 恥ずかしくないんですかお嬢さん 本当に恥ずかしいことですよ」恥ずかしさと 憐れみと怒りを覚えながら 巡査は再び 頭を横に振った「こいつは本当に困りましたな」と彼はラスコーリニコフの方を振り向きついでに また 足元から頭まで じろりと 寝 目回した確かに 奇跡だ こんなボロ服をまとっているくせに自分から金を差し出すなんて そんな気がしたのである
P121
娘はいきなり目をカット 開き 相手を睨みつけたが何かを悟ったらしく ベンチから立ち上がると 元来た道を引き返し始めた「ふん、この恥知らずがしつこいんだよ」
娘はまた手を振ってそう呟いた 足早に歩き出したが相変わらずひどく ふらついていた伊達男は 娘から目を離さず 並木町の向こう側を後から歩き出した
「ご心配は無用です 渡しゃしませんから」
ヒゲの巡査はきっぱりそう 言い放つと2人の後ろから歩き出した
「全く乱れた世の中になったもんだ」 巡査はため息をつきながら聞こえよがしにそう言った
その瞬間 ラスコリーニコフは何かに チクリと胸を刺されたような気がした すると たちまち 気分がガラリと変化した
「おおいちょっと待って」ヒゲの背中に向かって叫んだ
巡査は振り返った
「ほっといたらどうです あなたと関係ないでしょ ほっときなさい奴に楽しませときゃいいんだ(そう言って 伊達男を指さした)あなたの知ったことじゃないでしょう?」
巡査はわけもわからず大きく目を向いた ラスコーリニコフ は 笑い出した
「ええい!」巡査は空手を振ってそう言うと伊達男と娘の後から歩き出した おそらく ラスク オリニコフ を きちがいか それより タチの悪いバカか何かと思ったのだろう
《俺の20コペイカ持って行きやがって》一人になると ラスコーリニコフ は忌々しげにつぶやいた《何あいつからもむしり取って娘ともども 無罪放免 ってことにすりゃいい それで済むことさ それにしても何だって俺は人助けなんか買って出た この俺が人助けするからか そもそも 人助けする権利 なんて俺にあるのか あいつら 勝手に 共食いさせときゃいいのさ 俺の知ったことか それにしても 気前よく20コペイカくれちまってあれがお前の金だって言うのか》
こんな 奇妙な言葉を口にしてはいたが心の中はひどくつらい気分になってきた ポツンと残されているベンチに腰を下ろしたが一向に考えがまとまらなかった それに だいたいこの瞬間 それが何であれ 考えるということが煩わしかった 忘我状態に入って全てを忘れそれから目を覚まし 1からすっかり 出直したかった
《あの娘 かわいそうに》空になった ベンチの隅を見やりながら そう呟いた《正気に戻り 一泣きし それから母親に知られる 初めは軽くビンタを払えるぐらいでも いずれ こっぴどく それこそ 恥も外見もなく無知で叩かれるんだことによると 家から追い出されるかもしれない追い出されずに済んでも どのみちダーリヤフランツェヴナみたいな女衒に鍵つけられ いずれあの娘もあっちやらこっち やらに出没し始めるんだ でたちまち病院行きってわけだ(ごくごく 堅気の母親と暮らしながらこっそり 親の目を盗んで火遊びする娘に限って常にそうなる)で その後はその後もまた 病院行き 酒 タバコ そしてまた病院23年経つうちに廃人になって 19か18 そこそこであの余裕 きってわけだ そんな女たちを この俺だってずいぶん 見てきたじゃないかでどうしてそんな風になったかそうとも ああしてあなた それだけの話だ ちぇ、どうぞご勝手にだ そうなって当たり前と言うじゃないか 毎年 これぐらいのパーセントは失うな くちゃならんのさどこへ 多分 悪魔のとこだ 他の連中を生成させるため他の連中の邪魔にならないようにだ パーセントね 確かに 他の連中にすりゃ悪くない言葉だ 結構気が腫れる し 科学的 だし パーセントって言っておきゃ 心配は何もない それが 別の言葉だったら おそらく 少しは気になるところだぞ でもしもドゥーニャが何かの拍子に このパーセントに取り込まれたりしたらこのパーセントじゃないにしても他の数に》
P131
もう長いこと ウォッカを口にしていなかったので グラスいっぱい飲んだだけでたちまちの家に 酔いが回ってきた 急に足が重くなり激しい眠気が襲ってきた家路に着くことは歩き出したがどうにか ペトロフスキー 島まで来たところでヘトヘトに疲れ果てて立ち止まり道から外れて 藪の中に入ると乗っとう 草地に倒れ込みそのまま すぐに眠り込んでしまった
病的な状態にある時見る夢はしばしば 異常なまでの鮮明さと明晰さが際立ち 現実と驚くばかりか 似通ってくる時としてグロテスクな光景が生じることもあるがその場合 夢の中の状況や プロセスのすべてが真に迫り 微に入り 細を穿ち唐突ではありながら 場面 全体と芸術的に見事に調和のとれた ディティールを備えることになるそのため 夢を見る 当人がたとえ プーシキンや ツルゲーネフ のような芸術家でも現実に到底考え出すことができないぐらい見事なものになる そういう夢 そういう病的な夢は常に いつまでも記憶から離れず 錯乱し 興奮しきっている人間のオーガニズムに強烈な印象をもたらすものなのだ
ラスコーリニコフが見たのは恐ろしい夢だった自分がまだ小さな田舎町に住んでいた 幼い頃の夢だった 6日 7つの歳で祭りの日の夕方近く 父親と連れ立って待ち はずれを散歩している どんより曇った蒸し暑い日 で自分の記憶に残っている場所と 寸 分 変わりがない いや 記憶の方が今夢に現れている風景よりもはるかに霞んでいた
ラスコーリ ニコフが見たのは恐ろしい夢だった自分がまだ小さな田舎町に住んでいた 幼い頃の夢だった 6つか 7つかの歳で祭りの日の夕方近く 父親と連れ立って待ち はずれを散歩している どんより曇った蒸し暑い日 で自分の記憶に残っている場所と 寸 分 変わりがない いや 記憶の方が今夢に現れている風景よりもはるかに霞んでいた その田舎町は何一つ 遮るものはなく 手に取るように はっきりと見え 柳の木 1本 なかった どこかひどく 遠い空が果てる辺りに小さな森が黒ずんで見えた 町外れにある菜園から数歩ほど歩いたところに 酒場が一件 立っていたが 父と散歩しながら 脇を通り過ぎるたびに少年はその大きな酒場に不愉快極まる印象というか 恐怖に似た 思いすら 抱かされるのだった そこにはいつも大勢の男たちがたむろし 大声でわめいたり笑ったり 罵りあったり しゃがれ声で下手くそな歌を歌ったり しょっちゅう 取っ組み合いの喧嘩をしていた 酒場の周りにはいつもひどく酔っ払って恐ろしい 人相をした男たちがうろついていた そんな連中と顔を合わせるたびに少年は父親にしっかりと しがみつき 体中をブルブル震わせたのだった 酒場の脇を通る道は 村道でいつも埃が立っていたが その誇りというのが常に真っ黒だった道はくねくねと曲がりながら先に伸び 300歩ほど行ったところで町の墓地を迂回するように 右手に折れていた 墓地の中央には緑色の丸屋根をいただいた石造りの教会があって少年は年に2度ばかり だいぶ前に亡くなられて一度も顔を見たことがない 祖母の法事が営まれる時 血と母に連れられて 祈祷式に出かけて行ったそんな時 父と母は常に白い皿に盛った蜜飯をナプキンに来るんで 携えていくのだが その見つめし というのが 砂糖入りで 米飯の中に 干しぶどうを 十字の形に押し込んであった少年は この教会やそこに安置されている大部分が 飾り 縁のない 古い聖像や頭をいつも ブルブル震わせている 老司祭が好きだった 平らな 墓石が置かれた祖母の墓の横には生後6ヶ月で死んだ弟の小さな墓があった 少年はこの弟のことも全く知らなかったし 覚えているはずもなかったただ自分に幼い弟がいたという話を聞かされてからこの墓地を訪れる旅に厳かな経験 な気持ちで その小さな墓に十字を切り お辞儀をしては口づけをした
さて彼が見たのはこんな風な夢だった少年は墓地に続く道を父と歩いているうち 酒場のそばに差し掛かる少年は父の手を握りしめ 恐る恐る 酒場の方に目をやる そこで 異様な光景に注意を引きつけられた ちょうど祭りの日 らしく着飾った町の女や 百姓 娘 そしてその亭主 たち その他いろんな連中が群がっていた 誰もカモが酔っ払って 歌を歌っている 佐川の表 階段のわけには荷馬車が1台 待っているのだが それが何とも奇妙な 荷馬車 だった それは何と思うの大きな運 相場をつけて 貸し物や 酒樽 などを運ぶ大型の荷馬車 だった少年は たてがみが長い 太い足をした大きな運送 馬がまるで荷物がないよりあった方が楽とでも言わんばかりに山と積み上げられた 荷物を少しも 力まず穏やかな 規則正しい足取りで引いていく姿を見るのが好きだったところが 奇妙なことに そんな大きなにわさに今繋がれているのが 小ぶりで痩せ細った 葦毛の百姓馬なのだそれは彼はよく見かけたことがあった 牧や 干し草を高く積み上げた荷物を引き特に 荷馬車がぬかるみは轍にはまり込んだりすれば たちまち 激しく喘ぎ出す 哀れな生まれ そんな時 百姓たちに激しく 時には 鼻先や目まで こっぴどく 打たれるのが 杖だった少年はそんな光景を見ているとかわいそうでたまらず今にも泣き出しそうになったところでいつも母親に窓のそばから引き離されるのだったところがそこで急にあたりがひどく 騒がしくなった酒場から赤と青の上着に街灯を引っ掛け グデングデンに酔った 大柄の百姓たちが大声を張り上げて歌いバラライカ をかき鳴らしながら出てきたのだ
「さあのれみんな乗るんだ!」体操 首が太いニンジンのように赤く 油切った顔をした まだ若い一人の百姓が叫んだ
「みんな 連れてってやるぜ さあのれ」ところが直ちに 笑い声 と叫びがどっと響き渡った
「そんな痩せ馬に引けるってのかい!」
「おいミコールカ、てめえ 正気か こんな でっけえに馬車にこんなちんけな馬つけやがって」
「だってこの葦毛もう二十歳過ぎた ばばあ馬じゃねえか」
「まあいいから乗
Posted by ブクログ
初のドストエフスキー。150年も昔に書かれた作品。
元大学生のラスコーリニコフは、近所に住む高利貸しの老女殺害をもくろむ。
よくわからないけど、惹きつけられる。中毒性あり。
何が面白いのか言語化できないのがもどかしいけど、段落の少ない文字で満たされたページも、あらゆる登場人物が行う一人語りも、ずっと読んでいたくなる。
不思議な切実さ。緊迫感。切羽詰まった語り口。
それに痺れる。憧れるゥ。
Posted by ブクログ
はじめてのロシア文学ということで、少々難しく感じる部分もあった。そもそも海外文学に慣れていないのもある。
殺人を犯すまでが長々しく、これから何が起こるのか、何が起こっているのかわからない状態が長い。それでも、殺人を犯してからはスルスルと読めた。
続きが楽しみ
Posted by ブクログ
カラマーゾフの兄弟からの流れでよんだ
カラマーゾフの兄弟のおかげでロシアのテンションには慣れていたのでカラマーゾフよりはすんなり読めた が、 特段面白いとは感じなかった覚えがある でも面白いとゆう投稿がたくさんあるからまた読んでみようかな
Posted by ブクログ
エピローグ付きの六部からなる長編小説 第一巻(収められているのは第一部、第二部)
1865年夏当時のロシア首都サンクトペテルブルクが舞台
元大学生の青年が金貸しの老女を殺害する話
貧困と精神的な行きづまり
心気症に似た鬱的な状態で
金貸しの老女を憎むようになる
「ある考え」(殺害)を実行に移すかどうか逡巡し、重なり合う様々な偶然により犯行へと導かれる様子が主人公(ラスコーリニコフ)の心の声、セリフなどで語られる
殺害は老女だけでなく、その妹も計2人
孤独かと思いきや心配してくれる友人ラズミーヒンや、世話をしてくれるナスターシヤがそばにいて意外。
巻末に訳者亀山郁夫の読書ガイドがあり、作品誕生の経緯や当時のサンクトペテルブルクの環境、また地図で主人公ラスコの家や盗品の隠し場所まで記されていて興味深かった。
なんだかひと昔前より、だいぶ読みやすいよう解説されているのは新訳ならではないかと思う。
登場人物を記した栞が付いている(カタカナ登場人物多し)
脱落せずに読みきることができてよかった。第二巻も読む。
Posted by ブクログ
長大な物語を饒舌な会話の力で一気に押し切るという本作の技法は、現代のエンターテインメントにとっても参考になるだろう。読者にとっては、程よい長距離走のような読書体験であり、読後には大きな達成感が得られる。
ただし、「殺人」というテーマの是非については掘り下げがやや不十分かもしれない。ソーニャへの悔悟に関しても、まだその入口に立ったに過ぎない。
Posted by ブクログ
ずっと読みたかった本。描写が細かくゆっくり読めば状況をイメージしやすい。平易で無理のない表現のため読みやすい。しかし人名が多くなかなか大変。メモしながら読むしかない。これからどんな展開になるのか、なぜラスコーリニコフは殺人を犯したのか、すごく気になる。3〜6章も楽しみだ
読書ガイドの細かさが光文社古典新訳文庫で買って良かったなと思った。
Posted by ブクログ
まんがで読破シリーズで読んだ。
あっちゃんのYouTubeより視聴。
サクサク読めたから軽い感じがしたけど、小説だったら重厚感ありそう。
罪悪感を抱えながら過ごすって苦しいよなあ、、、
ソーニャみたいな懐の広い女性ってほんまにいるんかなあ
Posted by ブクログ
ドストエフスキーの歴史的名作。老女を殺害した青年の心理描写の変遷を描く。ロシア革命前夜のソドムのようなペテルブルクの様子や、そこで暮らす人々の品位水準や生活様式がよくわかる前半の描写が見事。外的要素や事実が発覚するたびに右へ左へ上へ下へ揺れ動く青年の心理はサスペンス要素が強く、いま読んでも全く飽きずにぐいぐい引き込まれる。
Posted by ブクログ
威勢のいい会話、特に気の良い(いい人すぎてつらい) ラズミーヒンの存在が思いのほかこの作品を明るくしていて、個人的には「カラマーゾフの兄弟」よりも大分好き。犯罪前、現場、事後の嫌な感じをずっしりと追体験できる点で、無茶なことに走りかねないような状況に陥った人にぜひ読んでほしい。
Posted by ブクログ
古典作品と呼ばれるものがどうして読み継がれているのか、この歳にしてようやくわかった気がした。
ラスコーリニコフの苦悩、その時代に流行った思想を先鋭化しているという意味では、ロシアの帝政末期の人間しか持ち得ない苦悩なのかもしれない。けれど、普遍的な、簡単に言ってしまえば、自分という存在の価値を信じきれない人間の苦悩、がその根底にあると思った。キリスト教の思想を言語化できるほど理解をしていないので、ラスコーリニコフと宗教の関係性について深く考えられないことがとても悔しいが、ラスコーリニコフがソフィアに対して抱いていたある種の畏怖と乞いたい赦しは共感できる気がしており、罪を打ち明ける場面、自首をしにいく途中で跪く場面、エピローグでソフィアの膝に頭を預ける場面、泣けてしまった。
ロシア史とキリスト教史を学んでからもう一度読んで深く潜りたい。
Posted by ブクログ
罪と罰と聞くと今まで何やら堅苦しい感じがして敬遠していたが、思っていたよりは簡単に読め、ハラハラしながら読む事が出来た。
ただリザヴェーダを殺すところがピークで、その後は若干眠くなった。細かい心理描写とか古典作品が好きな人は面白いんだろうけど、、、
ブリヘーリヤならレベシャートニコフやら人の名前が覚えにくいけど、登場人物とその概要が書いてあるしおりがあって助かった。
1巻ではラスコーリニコフが病気から復活する所で終わった。最終的には捕まるのか逃げ切るのか。それとも自殺エンドなのか、、、
2巻を早く読みたい
Posted by ブクログ
罪と罰に苦手意識を持っていたけどこの訳は良くわかるし、ペテルブルグの陰鬱な雰囲気をなんとなくコミカルに描いているのでクスッと笑ってしまうところもある。ドストエフスキーで笑える自分、
成長したな、と思う反面やはり訳が素晴らしいのだなとも思う。
Posted by ブクログ
先日の『悪霊』に続いて『罪と罰』も亀山郁夫氏の新訳で読んでみたくなり。
『罪と罰』は高校生の頃に読んだ新潮文庫の工藤精一郎訳、数年前に読んだ岩波文庫の江川卓訳に続いて3回目となります。
Posted by ブクログ
興奮した
面白いのだ!遠い昔の少年時代に読んだときはちんぷんかんぷんだった記憶が薄らとある
途中で投げ出してしまったような気もする
国語のテストの問題文でしかない物語だった気がする
しかし今回は分かる、分かるというかちゃんと面白い
すばらしい新訳のおかげなのか、自分が人生経験を重ね渋みのある大人の男に成長を遂げたのか
もちろん後者に決まっている
ミルフィーユのように経験を重ねいやミルフィーユは甘いからこの例えは違う
主人公ラスコーリニコフはとにかくいかれている
最初からそうだったのか、なにかの罰としてそうなったのかとにかく支離滅裂だ
その支離滅裂な心理描写がとんでもなく巧みだ
とてつもい説得力だ
いかれた男の心理など経験したことないので分かるはずもないのに、それはこういう心理に違いないと思わせる
すげーなドストエフスキー!
Posted by ブクログ
『同志少女よ敵を撃て』を読んで、久々にロシアふに触れたくなり10年以上ぶりに再読
光文社の新訳版は初めて
訳が良いせいか、この作品はこんなに読みやすくて面白いストーリー展開だったかと認識を改めた
Posted by ブクログ
3部まとめての感想。
この文庫本は最後に訳者からのヒントみたいな解説が載っているので、満遍なく理解できた。
その上で...全編飽きることなく面白かった。
ドストエフスキーの表現だったり構成がとても面白いと思うのだけど、日本語にしても面白いのは訳者の努力だと思う。
ドストエフスキーの表現力というので言えば、ラスコーリニコフの具合の悪さや卑しい感情に対する表現が抽象的なんだけど、妙に分かる感覚が多くて、読んでるこっちまで具合悪くなった。
Posted by ブクログ
まさか文学と無縁の私がこの本を手に取ろうとは、二十代の私であれば夢にも思わないだろう。
中古で3冊セットで、800円で買いました。
ロシア文学はもちろん初めてで、時代も150年以上前の話。1部と2部でそういった背景も含めて、雰囲気を感じ取ることができました。
Posted by ブクログ
ドストエフスキーは『地下室の記録』から二作目。
再び亀山郁夫さん訳。
いつか読もうと思っていたところに、本の交換会で頂いたので、早速。
一分冊目の感想としては、前出の『地下室の記録』と似たモチーフで、これがドストエフスキーの作風なのかと改めて感じた。
思弁癖が強く、プライドと自己嫌悪にさいなまれる主人公。
物語で重要な役割を果たす娼婦という職業と存在。
ナポレオン戦争勝利後になお、「ロシア」と「ヨーロッパ」の間で揺れる19世紀ロシアの知的世界という背景。
『地下室の記録』を読んだ際にも感じたが、この自己嫌悪の主人公はドストエフスキー自身だろう。
そこに天才作家の人間らしいところも見えるのだが、あまり健康的でない作風は、自分の好みとは少し違うところもある。
第二分冊以降楽しみに。
Posted by ブクログ
全く何の話をしているのか分からないときと、わかる!!!みたいなときがあって、自分はこれを読み終えれるのか!?みたいになっていた 読み終わってから数ヶ月経ち、続きが読みたいと思うようになった
よくわからない
ラスコーリニコフは何がしたいのだろうか。
他の登場人物の感情の起伏にもついていけない。
国も時代も違うのだから仕方ないことだが。
きっと、人間に普遍なテーマがあるのだろう。
それを期待して、次の巻を読もう。