【感想・ネタバレ】文豪怪奇コレクション 綺羅と艶冶の泉鏡花 〈戯曲篇〉のレビュー

あらすじ

異界の美男美女が乱舞する鏡花戯曲の三大名作──「天守物語」「夜叉ケ池」「海神別荘」に加えて、友人の独文学者・登張竹風と共訳した初期の珍しい佳品「沈鐘」(ハウプトマン原作)、非業の死を遂げた〈お友達〉たちの秘密が明かされる「多神教」、吉原大火の記憶を池の蛙と緋鯉が語り合う「池の声」、三島由紀夫と澁澤龍彥を熱狂させた晩年の「山吹」、幽霊劇の極致「お忍び」を収録。日本文学の頂点を極める、必読の名作ばかりを蒐めた、不朽の一巻。

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Posted by ブクログ

 鏡花の幻想系戯曲の代表的な作品がほぼ読むことのできるお得な一冊。

 冒頭には、登張竹風と共訳したハウプトマンの『沈鐘』が収録。最初の舞台は樅の大森林。山姫ラウランデライン(朗姫)、池の精ニッケルマン(肉蝦魔)、森の精ワルドシュラアト(虞修羅)と登場人物の和訳名も面白い。
 名人鋳鐘師ハインリヒは自ら作った鐘を山上に運ぼうとしていたところ谷底へ落下してしまい大怪我を負うが、命を助けてくれた山姫に惹かれてしまう。妻子を捨てて顧みず、彼はまた鐘を作ろうとするが…。終盤の展開がなぜそうなるのか良く分からないまま結末になってしまったのだが、異界の世界と人間界との交わりならぬ交わりを描いた本作を、鏡花が気に入ったというのも納得できる作品だった。

 そして『夜叉ケ池』『海神別荘』『天守物語』の傑作3編。中でもやはり天守物語。白鷺上の天守夫人富姫と亀の城の亀姫という異界の住人同士の残酷でいて可愛い遊ぶ姿が一方にあれば、天守夫人と城内の家臣姫川図書之助との恋情が急展開に進む対比の妙が鮮やかな一品。

 さらに鏡花晩年の作品『山吹』『多神教』『お忍び』。この中では解説にも触れられているが、三島由紀夫と澁澤龍彦が高く評価したという『山吹』が実に不思議な一品。嫁ぎ先が嫌で逃げてきた奥さんが、お金でも何でもお前の望みを叶えてあげようと捨て鉢になって、たまたま出会った人形使に声をかける。するとその人形使いは、「雨傘を使って体を思い切り打ってくれ」と頼むのだった。何だ、この展開は、と驚いてしまった。奥さんが本当は好きだった人との出会いもあるのだが、思いがけぬ形で幕を閉じる、というもの。

 一見古臭くいと思われる鏡花だが、今読んでもとても面白い。また、初めのうちは読みづらく感じるかもしれないが、読み進めていくと、文章のリズムに酔いしれてくる。

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2024年08月10日

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