【感想・ネタバレ】太宰治全集(2)のレビュー

あらすじ

パビナール中毒、入院、心中未遂……。なお惑乱と絶望の時期は続く。やがて訪れる転機。時に太宰、三十歳。生への意欲が燃え、文学への情熱が湧き上がる。名作「富嶽百景」他の諸篇が書きつがれ、書下ろし創作集『愛と美について』が生まれる。創生期 喝采 二十世紀 旗手 あさましきもの 燈籠 満願 HUMANLOST 黄金風景 姥捨 富嶽百景 Icanspeak 女生徒 懶惰の歌留多 葉桜と魔笛 愛と美について(秋風記 新樹の言葉 花燭 愛と美について 火の鳥)[初版本併録]創生期 HUMANLOST

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2023/06/16
桜桃忌が近いため、以下の作品を読んだ。

『燈籠』
冒頭で語られる痛々しい思いと、強く虚しく眩しい終わり方がとても好きだった。
この作品を読んだときのどうしようもない気持ちは、言葉では言い表すことができない。


『満願』
夏の穏やかな日々に、ふと差し込む眩しい光。
そんな情景がラストで描かれる。
私はこの作品を読むたびに、爽やかな青と白を思い浮かべる。


『葉桜と魔笛』
姉と妹の間で繰り広げられる優しい嘘に、胸が締めつけられる。
あの口笛はもしかしたら父親なのでは……と私も思ったが、高齢になった姉自身から語られる昔話は、口笛の正体は分からないままでもいいと思わせてくれる。
心に生まれる「もしかしたら」という思いと、神様のおかげだと思っていたい気持ち。
そのどちらも穏やかに包み込むような読み心地が好きだった。

待ち待ちて ことし咲きけり 桃の花
白と聞きつつ 花は紅なり

この作品に登場するこちらの短歌は、太宰さんが書を書くときに好んで書いた短歌だそうだ。
聞いていた色とは違う色だったという意外性と、驚き、喜び、面白みなどが感じられる短歌だなぁと思った。


『黄金風景』
のろくさくて、いつも下に見ていた女中・お慶。
語り手の「私」は幼少期、お慶をいじめていた。
そんなお慶には今、幸せな家庭があり、「私」のことを「親切に、目をかけて下さった」と言う。
「私」は落ちぶれてしまったというのに……。

そんな「私」の惨めで恥ずかしくて情けない感情、そして「彼らはそうでなければならないのだ」という思いが絶妙に描かれていて、読みながらやるせない気持ちが溢れた。


『I can speak』
たった文庫4ページで、こんなにも胸が締めつけられるのかと驚いた。
工場から聞こえてくる女の歌声に救われる。
そういう瞬間が、日常にはあると思う。

語り手が見かけた姉と弟。
その弟が言った「I can speak」という響きは幼いが、純粋で汚れていないもののように感じた。
姉は歌声の主かどうかは分からないが、「ちがうだろうね」という終わり方が優しく、少し愉快な感じを含んでいるようにも思えた。

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2023年06月19日

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