あらすじ
「私はこの短編集一冊のために、十箇年を棒に振った。まる十箇年、市民と同じさわやかな朝めしを食わなかった。……私はこの本一冊を創るためのみに生れた」(「もの思う葦」)。第一創作集『晩年』(昭和十一年刊)と、それにつづく“苦悩の時期”に書かれた諸篇を収める。晩年(葉思い出 魚服記 列車 地球図 猿ヶ島 雀こ 道化の華 猿面冠者 逆行 彼は昔の彼ならず ロマネスク 玩具 陰火 めくら草紙)ダス・ゲマイネ 雌に就いて 虚構の春 狂言の神
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Posted by ブクログ
印象に残った言葉たち
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きようと思った。(葉 p.11)
安楽なくらしをしているときは、絶望の詩を作り、ひしがれたくらしをしているときは、生のよろこびを書きつづる。(葉 p.28)
私は、すべてに就いて満足し切れなかったから、いつも空虚なあがきをしていた。私には十重二十重の仮面がへばりついていたので、どれがどんなに悲しいのか、見極めをつけることができなかったのである。そしてとうとう私は或るわびしいはけ口を見つけたのだ。創作であった。ここにはたくさんの同類がいて、みんな私と同じように此のわけのわからぬおののきを見つめているように思われたのである。作家になろう、作家になろう、と私はひそかに願望した。(思い出 p.57)
感想
まず、第一巻を読み終えた感想として、太宰治は自分を切り売りして小説を執筆しているという印象を受けた。自分の自殺未遂事件、友人、師匠、読者からの手紙、家庭、生い立ちをすべて小説にぶつけている。なので、その時々の太宰治の生の感情を味わうことができる。
しかし、如何せん内容が暗い。人が死んだり、破滅願望が見えてきたりする。ぶっ続けで太宰治全集だけ読んでいると、死の世界に引きづり込まれそうな感じがする。ちょっと、危ない気がするので間に生に対する明るい小説、ビジネス書などを挟んで二巻以降も読んでいこうと思う。