あらすじ
警視庁地下の取調室で重々しく響いた声は「弓成亮太、逮捕状を執行する」。強大な国家権力と「報道の自由」を訴えるジャーナリズムの全面戦争に沸騰する世論。ペンを折られ、苦悩する弓成。スキャンダル記事に心を乱し、家族を守ろうとする妻・由里子。弓成の不倫相手と注目され被告席でぐったりと目を伏せる元外務省の三木昭子と、それをじっと見つめる夫。そしてついに、運命の初公判──。戦後史の意味を問いつづける著者・渾身の巨篇、第2巻。
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Posted by ブクログ
沖縄返還での地権者への土地原状回復費に関する密約の外交文書漏えい事件を描いた小説。第二巻。
情報を得た記者が、情報ソースの事務官と不倫関係だったことから、争点は「知る権利」の問題からから一転して醜聞に。権力という虎の尾を踏むと怖いですね。少し違うのかもしれないですが、外務省がらみという事もあり、佐藤優氏の「国家の罠」をほうふつさせます。
Posted by ブクログ
いよいよ裁判が始まる。弓成の姿が痛々しい。プライドを傷つけられ、心休まる場所もなく裁判に臨む。妻・由里子は離婚を考え始める。事務官・三木はあまり登場しないが心神喪失状態?なのか。裁判での外務省の隠ぺい体質に驚いた。史実に照らせば証人達は偽証していることになるが、事実だとすればこれほど恐ろしいものはない。弓成は「虎の尾を踏んだ」と言っていたが事実を隠す国家との闘いに負けてほしくない。終盤で由里子のいとこに当たる人物が登場。流れがどう変わっていくか3巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
「イギリスの慣例法にクリーンハンドの原則というのがある、人をせめるものは自分の手がきれいなければならない」弓成の手がきれいであったかどうか、弓成の取材方法が適切であったかどうか、一方国民の知る権利は、ニュースソースを明らかにしないという新聞記者のモラルは、女性問題、女性の人権問題。渦巻く問題はそれぞれの見方で拮抗し、身動きがとれなくなる。権力は一方的に報道を抑えこもうとし、三木が弓成を苦境に追い込んでゆく。加速感のある展開に夢中で読み進む。
Posted by ブクログ
いわゆる『外務省漏洩事件』、『西山事件』を題材にする本作。
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第一巻では、特ダネ記者としてぶいぶい言わせる弓成が、外交官や政治家に食い込み、情報を取ってくる様子をビビッドに描写しています。
第二巻では、外務省からの情報漏洩につき、三木に続き弓成も逮捕され、彼らへの取り調べや尋問、弁護士とのやり取り、会社の弓成へのサポート、そして起訴・裁判の様子が描かれます。
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もっとも印象的なのはやはり弓成と通じていた三木の独白でしょうか。
弓成と肉体関係を結び、そのことを病身の夫にバラすとゆすらされた末の情報漏洩とする三木の独白。これは第一巻での三木と弓成との仲睦まじさとは正反対のトーンです。真実は分かりませんが、本作では三木は魔性の女として描かれていることになります。
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また、弓成家、特に奥様の心痛もまた印象的なところです。
今でいうところサレ女、そしてマスコミを通じての世間の関心は事をしでかした夫よりも家を守る妻に集中します。家柄はどうだとか、子どもたちはどうだとか。その呻吟する様子は実に痛ましいばかりです。
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そして最後の外務省の秘密主義。
検察の尋問にしらを切りとおす外務官僚のに対して、飽くまで批判的に筆者は描いています。
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第二巻も、歴史の振り返りとしてのみならず、議論のネタも多いものでありました。
公務員の守秘義務について、また家庭の維持とワークライフバランス(女性の過程でのありかた)等、一言でいえば昭和、ですが、それ以外にも考えるべきイシューがあるなあと感じました。
歴史、政治、外交、ジャーナリズム、ワークライフバランス等に関心のかる方にはお勧めできる作品であると思います。
Posted by ブクログ
問題の文書は、国益に影響を与える「国家の機密」なのか、国民の「知る権利」に基づき公表されるべきものなのか。
国民の税金の使い道にも繋がるものだから無論知る権利がありそうだが、全てを知らせる必要があるのか。
文書を入手した経路が記者と国家公務員の不倫関係からだったことが波紋を呼ぶ。
弓成氏はそそのかし罪に問われるのか。
裁判の内容はやはりわたしには難解であるが、「密かに情を通じー」という起訴状の文言は検察の上手な策やなあと思う。
2巻では何と言っても由美子さんの苦悩が読んでて辛い。
氏の思いやりのなさは言語道断だが、こういうマスコミの格好のネタになった家族は、心ない文字の暴力にさぞかし苦しめられるのだろう。
Posted by ブクログ
沖縄返還のさいにアメリカと結ばれた密約の内容とは、1971年当時、ベトナム戦争で火の車だったアメリカに対して本来アメリカが負担するべき沖縄の原状回復費用6億8500ドルを日本が肩代わりするというもの。これがいわゆる今もアメリカに支払われ続けている「おもいやり予算」のはじまりだとされる。この、まったく対等ではないとおもわれる密約を敏腕新聞記者、弓成亮太が外務省の女性事務官、三木昭子から入手する。ニュースソースを守るためそれをはっきりと記事にできない彼は、正義感から野党議員に機密文書を渡して国会で追及させようとするのだけれど、そこから逆にニュースソースが割れてしまい、弓成記者と三木昭子は逮捕される。ここまでが第一巻。
第二巻は、警察での尋問と裁判。「知る権利」の問題が、男女のスキャンダル問題へとすりかえられていく。司法がいまひとつ独立した力を発揮しなかったり外務省官僚があざとい証言をしていったり、やきもきさせて第三巻へ続く。ちょっとむずかしくて時間かかってます。
ただ、国民に対して「アメリカに強気に臨んで沖縄を返還させる」と、たとえポーズでも世論を気にしてアピールするだけ今よりましなんじゃないかと、錯覚してしまいそうになるほど沖縄の現状は厳しいとわたしには思える。当時の日本政府がしっかりと「ほんとうの返還」を要求しなかったからなんだけれど。
Posted by ブクログ
逮捕,起訴,証人尋問と裁判がクローズアップ。『白い巨塔』もそうだったけど山崎豊子の小説って法廷シーンがよくあるな。『不毛地帯』でも東京裁判の場面があったっけ。
ドラマとの違い。
・由里子の兄が登場。大手電気メーカーの技術者。
・ぎばちゃんがやってた大野木弁護士は,奥さんも弁護士で同期。由里子が離婚訴訟する場合に「私が不適格なら家内に担当させましょう」と言ってる。
・弓成が取り調べで受けた屈辱,ドラマより生々しい。現場検証(引き当り)で腰縄をつけられたまま,密会をしたホテルの部屋で,機密文書の受け渡しの様子を細かく言わされる場面。「機密文書を見せてほしいと哀願したのは、あの布団の中でか、それともこっちの座敷机の方なのかね」と聞かれて「弓成は舌を噛み切れるものならそうしたい恥辱に、肩を震わせ、無言で視線を逸らせた。」(p.199)だって。 ドラマに使えそうなシーンだけど,なかったよね,確か。
・法廷シーンは外務官僚の証人尋問が詳しい。内容が複雑なのでドラマでは切り詰められたんだろうな。裁判長は,官僚の証言拒否を想定して,法廷と外務省大臣官房の間にホットラインを敷いていた。証言承諾の可否と電話で問い合わせて,OKが出るも,「具体的に思い出せません」「書かれていること以上に理解は及びません」で逃げられちゃうんだけど。
『密約』読んだときに勘違いしてたけど,大野木弁護士は伊達判決の人じゃなかった。弓成の弁護団の団長が伊能弁護士という人で,こっちだった。「裁判官当時、砂川事件で米軍基地違憲の判決を下した憲法学者でもある伊能は、法曹界の重鎮と畏敬されているが、性格はフランクだった。」P.136-137