あらすじ
「一生の仕事なんて、ありえないんじゃないんですか?」変わり続ける時代の中で、リストラ面接官の村上真介が新たにターゲットとするのは──英会話スクール講師、旅行代理店の営業マン、自動車の整備士、そして老舗出版社のゴシップ誌記者。ぎりぎりの心で働く人たちの本音と向き合ううちに、初めて真介自身の気持ちにも変化が訪れ……仕事の意味を再構築(リストラ)する、大人気シリーズ!
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Posted by ブクログ
4.5
シリーズ第3弾。真介は1の33歳から35歳に。相変わらず各業界の状況もわかり中々面白い。英会話業界、旅行業界、自動車整備士業界、雑誌記者の話。特に、車好きの個人的な顧客を持つ自動車整備士宅間の話は特に面白い。マツダの自動車を愛し真摯に向き合う姿勢は胸を打つ。それを慕って自動車好きが宅間を指名する。仕事の合理化でそういった仕事を受けられなくなりこのまま仕事が嫌いになるよりはと辞める決心した宅間に、真介の友人でもある山下を始めとする宅間ファンが集まり開業試算も含めて助けにくる。人に愛され、求められる仕事。そして、みんなの力。とても素敵で泣ける。
英会話業界はそんなに明るい感じもないらしい。オンラインの台頭や個人的なネット交流など。28歳の女性講師武田優子。とことん色んな仕事を経験して自分が満足できる仕事と待遇を探す。ボブディランの心のままに生きよ、ビューティフルドリーマー夢想家、虹を追いかける人。うまくいかないことも出てくるだろうが、虹を追いかける=色んな仕事を経験すること自体が快楽なのだから仕方ない。こういった生き方もあるのだろう。実際派遣を渡り歩く人もいる。その途中で天職を見つけることもあるだろうし、そうでない人もいる。
旅行代理店の中途入社古屋陽太郎。仕事はできるがやる気熱意が感じられない。実は執筆活動をしており新人賞を受賞する。
旅行代理店業界を除く全ての業界の平均粗利が3割程だが、旅行代理店業界は1.2割程度らしい。個人旅行から団体旅行まで手間暇かけて扱うこの業界では人件費が厳しい。東証一部の大企業で社長が社用車も持たずに電車通勤なのは旅行業界くらいらしい。中途採用面接での「一生働く気はないがいる間はちゃんと働く。ちゃんと働くとは、給料の約三倍がその社員にかかっている人件費、福利厚生費、オフィス比などを含めた維持経費。仕事では最低その3倍分は売上ではなく収益を出します」はなかなか面白い。垣根作品ではこの話はよく出てくる印象。「今の会社」「うちの会社」という表現でその人の帰属意識が分かる。単車は危険な乗り物という自覚を常に乗り手に強いる。油断すれば命を落とすという感覚は生きている実感に繋がる。
高学歴=優秀な人材とは限らない。学歴で証明できるものは、迅速な事務処理能力と答えの確定した事象への理解力、全般的な知識及び一般教養の高さ。大事な局面に立った時の判断力、ファジーな問題に対する洞察力、自らの進退を賭けたときの決断力は、個人のポテンシャルや気質に拠る所が大きい。それらの要素は、自分が生きていくうえでの仕事という主題をどういう風に捉えているかの一点に尽きる。