あらすじ
後宮では賢さこそが美しさ。13世紀、地上最強の大帝国「モンゴル帝国」の捕虜となり、後宮に仕えることになった女・ファーティマは、当時世界最高レベルの医療技術や科学知識を誇るイランの出身。その知識と知恵を持ち、自分の才能を発揮できる世界を求めていたファーティマは、第2代皇帝・オゴタイの第6夫人でモンゴル帝国に複雑な思いを抱く女・ドレゲネと出会い、そして……!? 大帝国を揺るがす女ふたりのモンゴル後宮譚!
...続きを読む
怒りを原動力にすることは、強さにも弱さにもなる。
13世紀のイランで奴隷となった少女シタラ。彼女は自分を奴隷として引き取ったファーティマ家に最初こそ反発するも、ファーティマ家の息子ムハンマド坊ちゃんに知識の大切さを説かれ、勉強に身を入れるようになる。しかし、モンゴル帝国の襲来によってファーティマ奥様は目の前で殺され、ムハンマド坊ちゃんの消息は不明。自分自身もモンゴル帝国の奴隷となってしまう。モンゴル帝国の奴隷となったシタラは「ファーティマ」と名乗り、第四皇子の第一皇后に仕えるも、モンゴル帝国への復讐心をずっと抱え込んでいた。そんなとき、似た境遇の第三王子第六妃・ドレゲネと出会い、知恵を使って二人でモンゴル帝国の転覆を誓う。ところが、第二代皇帝の第一皇后・ボラクチンはまた別の立場から、モンゴル帝国をより強固なものにしようとする。
それぞれの大義が、そして、それぞれの感情がぶつかるモンゴル帝国の行く末は……。
シタラはこの時代に文字が読めることで、奇妙な縁に巻き込まれていく。ファーティマ家から受け継いだ知が、彼女の復讐を手助けすることは、美しくもあり悲しくもある。強大な権力によって様々な人の思惑が絡み合う重厚な人間ドラマから目が離せない。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
知らなかった事を後悔する面白さ
世界史の教科書ではさらりと触れただけの、モンゴル帝国のイスラム世界侵略。当時の奴隷身分だった主人公シタラの境遇や、主人である奥様との絆によってめちゃくちゃ感情移入させられるし、ムハンマドの「学び」に対する考え方に共感もさせられます。
見捨てればいいだけの奴隷を命懸けで庇った奥様……
「私の娘」という最後の言葉に涙腺が緩みました。
シタラの当面の目的は奥様の本を取り返す事でしょうが、シタラが仕える事になる「ソルコクタル・ベキ」もまた聡明かつ優しくて、シタラは奥様と同じ様に、いつの間にか彼女を慕うようになりそう。
知らなかった「世界史の裏のリアル」が知れる、読んでなかった事を後悔する面白さです!
Posted by ブクログ
13世紀モンゴル帝国の皇后に側近として仕えたファーティマ・ハトゥンを題材にした中央アジアの歴史を描く漫画の第1巻。
「このマンガがすごい!2023オンナ編」第1位受賞作品の謳い文句に恥じない読み応えがあった。
歴史漫画というとまず劇画調で描かれた緻密な絵柄を想像してしまうのだが、「天幕」の絵柄はデフォルメの効いたシンプルな線で描かれている。
あまり立体的な絵ではないが下手というわけではなく、むしろ装飾や文様はかなり繊細に書き込まれており、作画の労力のメリハリをきかせているように感じる。
作中の時代が13世紀なので平面的な絵柄が中世の西アジア~東アジアの絵柄をリスペクトしているようにも思える(考えすぎかも)。
こういうデフォルメの強い絵柄でも読ませる歴史漫画を描けるんだという点にまず驚いた。でもよくよく考えれば昔から少女漫画がフランス革命を扱ったりしてたしまったく不思議ではない。
今巻では、後のファーティマ・ハトゥンとなる奴隷少女シタラが、イラン東部(ホラズム朝)の学者の家に拾われ、その町がモンゴル軍によって破壊され、捕虜となったシタラがモンゴルまでの虜囚の旅を経て、チンギス・ハンの末子トルイの皇后に仕えるまでを描いている。
本作でたびたび強調されているのが知識の重要性だ。
身元を引き受けた学者の家では奴隷身分のシタラにも教育を施そうとするが(イスラムの教えでは奴隷にも相応の人間扱いをするよう規定されている)、奴隷としての価値が高くなると母のいた町から離れてしまうとシタラは当初教育も愛嬌も拒否しようとしていた。
学者の家の息子ムハンマドから「勉強して賢くなればどんなに困ったことが起きたって何をすれば一番いいかわかるんだ」と諭されてからは勉強して十分な教養を身に着ける。それがこのあと起こるモンゴル軍に起こる侵略の後の彼女を救うことになる。
単に教養によって出世ができるから、というだけではない。「相手を知る」という態度そのものが彼女の身を助けるのである。
モンゴル軍の侵略によって知人が多数死に、仕えていた女主人の大切にしていた書物も奪われ、復讐を誓うシタラだが、そこで「まずは彼らを知らなければ」という冷静な態度をとれたのがすごいのだ。日頃から知識を得ることを習慣としていなければ、彼女はここで激情に任せて生涯を終わらせていただろう。
不条理にさらされながらもそのさなかで自分がとるべき選択を冷静に見据え、相手を理解した上で最適な行動をとることができる、端的に言えば、運命を覆す力が知識にはあるのだということを本書は感情移入のしやすい物語として提供してくれる。
背景・装飾・習俗・道具・コーランなど、当時の社会基盤となっている諸要素の下調べを綿密にやってきたのがよくわかり、ひとつひとつの要素を深掘りしながら読んでいくのも面白いかもしれない(巻末に当時の情勢や習慣、地図の解説も掲載されている)。
聞き慣れない地名がたくさん出てくるので自分は世界史の資料集を手元に置きながら読み進めていった。物語に身を任せるのもよし、深い理解を求めてじっくり調べなら読むのもよしの良作なのは間違いない。
Posted by ブクログ
モンゴル帝国で、捕虜から皇后の側近にまでなった史上の人物、ファーティマ・ハトゥンを主人公にして物語が展開する歴史漫画。
手塚治虫を思わせるようなキュートな絵柄ながら、主人公や周囲の人々の表情の見せ方が巧みで、感情が生々しく伝わってくる。コマ運びなどの演出も、繊細かと思えば、大胆さも併せ持っていて、質の良い漫画を読む、という快楽をじっくり味わうことができる。
幼いファーティマがもらった大事な言葉、「でも 勉強して 賢くなれば」「どんなに困ったことが 起きたって 何をすれば一番いいか わかるんだ」にも表れているように、この第一巻は、思うように生きることのできない少女が、学ぶこと、現実を直視すること、そして生きる方策を考えることから始まっている。置かれた状況が過酷すぎて、主体的に生き方を選ぶ姿さえ痛々しいけれど、そこには潔さと知の美しさを感じる。
第二巻の展開はさらに過酷になるだろうけれど、時間をかけて読んでいきたい。
秀逸な歴史もの
作品の評判は聞いていて、今回は1巻最後まで、読めました。
この時期だと、確かに数学や自然科学の知識、イスラム圏の方が高水準でしょう。
モンゴルではチンギス・カン、当然英雄でしょうが、歴史上の英雄って裏を返せば大量虐殺者ですので、街ごと襲われて職人さんだけ捕虜になってあとは殺されたりもしています。
主人公は十二分に聡明で、学ぶべきことは学んできていますが、過酷な運命にはなかなか逆らえませんので……この先は作者のお手並みに期待したいです。
戦死者等、かなり出るので、こういう可愛らしい絵柄でないと重すぎるのかも、とも思う題材です。
女奴隷
侵略されてモンゴルへ連れて行かれた中東の女奴隷が知識を使ってモンゴルで成りあがっていく話です。
中東の女性差別ってキツイと思ってたけど、奴隷でも教育は惜しまないんだな。