力を尽くして狭き門より入れ。
私が将来に求めるものは、幸福というよりもむしろ幸福に達するための無限の努力であった。
と主人公は語っている。幸福と徳は同一なものかどうか。これが本書の最大のテーマであろう。
愛に良いも悪いもない。愛は愛であり、許されぬ愛なんてものは相対的な評価に過ぎないし、そもそも
...続きを読む誰かを愛するという行為は絶対的なものなのだろう。
死は近づけることだと思うの。
とアリサは語る。地上の愛より天上の愛。
「誓いを立てるなんて、僕には愛に対する冒涜のように思われる。」
孤独なときこそ、課せられる辛い試練に朗らかな気持ちで取り組める。自らに対する試練として真摯に受け入れるきもち。
「ほんとの信仰ってものは、あんなに涙を流したり、声を震わせたりするものではありませんわ。」
「その震え、その涙こそ、彼の声を美しくしているものではないか。」
ここではアリサの信仰に対する考え方、極めて厳格な基準が垣間見えると同時に、ジェロームの文学的な側面がうかがえる。
不幸は過去の幸福の喪失である。幸福であり続けるためには幸福を手にしないことなのか。
「恋だって同じよ。みんな過ぎ去って行くものよ。」
「僕の恋は僕のある限り続くんだ。」
悲しみとは込み入ったものである。かつて私は幸福を分析しようとしたことがない。
首輪のついた犬がいる。飼い主と同じ方向にあるくぶんには問題ない。しかしことなる道を反発して選ぶとき、人は初めて苦痛を感じる。