唐の2台皇帝 太宗 李世民の話。
著者のデビュー作。有名だけど日本ではあまり歴史小説として登場しない李世民についての本だ。中国モノは登場人物の名前が覚えにくいが,本作品もその例に漏れない。読みにくい漢字名が多く,しかも振り仮名が余り無いため,ちょっとしんどい部分があった。所々に人物のきらりと光る一言や情景が記されているが,前後の脈絡から考えて,結構唐突感があった。これも,デビュー作ということで次作に期待してみよう。総じて歴史も追えて楽しい作品であった。1巻660ページと大作だが,たくさんの魅力的な武将や智将が登場するので,4巻程度楽しみたかった思いもある。また尉遅敬徳という武将が最後の方になって李世民の部下になるが,関羽と張飛を足して2で割ったような武将のようで,こちらについても,もう少し味方としての登場シーンが欲しかった。
李世民でも劉邦でもそうだが,やはり帝王となる人には徳と言うものが必要のようだ。その表情や言葉,声色,匂い,希望や悩みなどすべてに共感がただよい,あたかもその人と一体となったような錯覚に陥らせるような人格の持ち主なのであろうか。決して,完全な人間ではなく,ふと見せる人間臭さに,一瞬にしてとりこにされてしまうようである。
『将兵は無限のものではありません。武を鍛えるはそれを使わぬため。武を用いぬ政こそ真に志すものです』『漢の高祖も無学者でしたが張良や蕭何といった賢臣の言によく従っていました。対して,項羽は山を抜くほどの力を持っていましたが,自らを恃むことすこぶるあつく,范増を得ても用いる事ができませんでした。それが二人の差です。つまり天下を統一するには賢臣を得て,それを用いねばならぬです。』『正解を選ぶのではなく,選んだ方を正解にすればよい』『人は器量を超える地位を手に入れると,無意識のうちに保身にはしるのかもしれない。より高みを望んでも,今あるものを守ろうとして慎重になるのではなかろうか』