何でも率直に自分の感情をぶちまけなければ気がおさまらない一種の中二病患者アルセストの大変残念な恋の物語である。
しかしこいつときたら良く分からない。
誠実な人間以外は寄るな触るなとうるさい割に、彼が恋焦がれるのは行き遅れの聖女ではなく、甘い言葉と毒舌とをしっかり使い分ける小悪魔ガール(笑)なのである
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人間態度の在り方について色々ご高説を垂れつつ、結局ブスは無視して美人の尻を追いかけまわしているのだ。実にしょぼい。その時点で、己の思想を透徹した者に与えられる潔さの魅力もないのである。セリメーヌにあっさりと振られるのもむべなるかな。エリアントをあっさりかっぱらわれるのもむべなるかな。
自分から人に剣突を食わせておきながら人に裏切られたと嘆くアルセストを見ていると、なんだか己の底を覗き込んでいるようで痛々しい。彼の矛盾は全国津々浦々の中二病患者達の抱えるいかにも残念な矛盾である。
一方で、アルセストの傍若無人さにもめげずに彼の面倒をみるフィラントのイケメンっぷりが光る。おべっかと誠実さを適度に混ぜて使い分け(好かぬ奴には当たり障りなくおべっかで、友人にはあけすけな誠実さで接するのである)、悪口雑言を浴びせられてもさっぱりめげず、最後に美味しいところをしっかり持ってゆくタフなしっかり者である。
コミュニケーション能力とは実に大事なものであるなぁ、全部あけすけはさすがに駄目だよね、とフィラントにいたく感じ入る本。