コンラッドのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
辺鄙な場所に赴任したら、
空き家をタダで貸してもらえるとて、
一人暮らしには広すぎる田舎の一軒家で、
夜は虫の声を聞いて過ごす羽目になった人が言うには、
数日も経つと誰もいないはずの奥の部屋が
ざわめくことに気づいた、とか……。
もし、放り出されたのが電気も月明りもない、
真の闇の中だったら、どんな気分になっただろう。
そこにないはずのものが見えるような錯覚に陥ったり、
幻聴に怯えたりしなかったろうか。
これは19世紀末、ヨーロッパ帝国主義時代のアフリカで、
収奪に邁進した企業の
有能な社員が呑み込まれた暗黒についての話。
大変有名な映画(恥ずかしながらこれも未見)の
原案に採用された小説なので、
ストーリーは人口に膾炙しているが、
さて、実際はどんなものかと、
読みやすくて気に入っている古典新訳文庫版を
手に取ってみた。
船員マーロウは気心の知れた仲間たちと共に
遊覧ヨットに招かれ、一同に思い出を語った。
マーロウは、かつてベルギーの貿易会社に入って、
植民地であったコンゴ自由国へ向かい、
象牙の輸出に活躍する
クルツという名の責任者の噂を耳にして、
彼に強い関心を持ったという。
接触する者を激しく魅了するか、
または逆に――
仕事のやり方で意見が対立するためだが――
ひどい嫌悪感を抱かせるか、
両極端な反応を引き起こすクルツは、
得体の知れない深い闇に捕まり、
その色に染まってしまったらしい。
作者の経歴を反映したと思しきマーロウの、
育ちはいいが諸般の事情で荒くれ者に交じって働き、
時には喧嘩腰で事態を解決していく様が小気味よく、
彼のキャラクターに惹きつけられて
グイグイ読み進んでしまった。
マーロウはクルツが魅入られた深淵の正体を
恐れながら理解し、
囚われるも逃げ帰るも判断は紙一重だと考えた様子。
これは過去の忌まわしき時代の遠い地での物語だが、
彼らが覗いた闇の奥に潜む魔物は、
現代の我々の傍らにも蠢いているのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
(01)
人類学的な,ゆえに探検的な地誌を装った宗教経済小説(*02)として読むことは可能だろうか.
大航海時代を終え,西欧によって大陸は海岸から発見されていった.本書の書かれた19世紀の終末期には,まだいくらか大陸の内陸は残されていたし,南極北極や高地が目指されると,ヴェルヌやウェルズらのSFもとらえた深海や宇宙が目指される.水平から垂直への探検の志向の転換期に省みられた「奥」が本書の問題である.なお,原題は"Heart of Darkness"であり,「心奥」あるいは「中心」とも訳すことができるのかもしれない.
象牙経済とカリスマ的な支配の中心にいる,あるいは語り手マーロウ(*03)の人類学的な罪悪感の心裡に潜む,クルツという存在はとても創造的である.クルツの意志や能力は,クルツの所有になく,奥地に居座るクルツを取り巻く環境の側にある.つまり,クルツを創造したのは蛮人,叢林,森林の総体であって,クルツ自身ではない,というところが肝になる.闇の側には,クルツに経済的で宗教的な存在としてぜひとも支配してもらいたいという人類学的な事情があった.
ゆえに,クルツは死んでのちに闇から運び出されたのではなく,闇から運び出されたために死んだのである.
(02)
「巡礼」という隠語がこのあたりの事情を端的に表している.
(03)
クルツに対してマーロウとは何者か.合理的な思考の下では,クルツの存在について語るクルツの紹介者,そして伝道師のようでもある.
が,「俺の知り合いが」で始まる騙りが,「俺」自身の経験であることが日常的でもあるように,マーロウは,クルツへの憧憬を語ると同時に,クルツ自身である己を告白している.このように読んだときに,タイムリープな時系列が現れる.
冒頭のテムズ河での船上の待機は,すべての経験を終えたのちのマーロウの状態であるという合理的な読みの裏側には,すべての始まりの前,マーロウのクルツを求める旅程どころか,クルツ自身の旅のはじまりを予感させていることも読み込める.海を川を辿り,ところどころの中継地を経由し,奥へ奥へと進むこの道行を何度となく何人もいった,すべての同類たちの経験と予感でもあった. -
Posted by ブクログ
難解な小説(英文学)として認識していた
この本ですが、新訳で非常に読みやすく、わかりやすかった
です。でも一部難解な部分が残っている感じです。
うまく書くことができないですが、落語にもにた
一人語りの部分で、物事のたとえが高度になっていて
その部分がわかりずらい部分を残したのではないかと思います。
内容的には、聖人であったと思われるやり手の英国紳士が
アフリカの奥地で暴虐・残忍な略奪を繰り返していく様が、
植民地支配や人種差別の奥を描き出しているような
内容です。
誰にでもある残虐性とそれに対して、人生の最後に
恐怖を感じてしまう人間性がよく出ていると思います。 -
Posted by ブクログ
今月の猫町課題図書。恥ずかしながら、これが映画「地獄の黙示録」の原作とは知らず、途中から「なんかイメージが重なるなぁ」と思いながら読んでいた。
風景、人物、感情から小道具の一つ一つに至るまですべてのものが、未開(当時)のアフリカ奥地の魔境的なイメージを構成しており、一人称話者のマーロウとともに圧倒的な迫力とおどろおどろしい恐怖感を存分に堪能できる。社会派小説としての観点からは、人種差別、収奪に関する批判が徹底していないという評価もあるそうだが、これは純粋に小説として読んで、その凄さを味わいたい。
翻訳は光文社古典新訳の精神にのっとって、非常に読み易く、違和感のある箇所も少ない。しかし、訳者あとがきの自訳解説は、手品師が失敗した手品の種明かしをしているような印象で興醒め。こういうのは訳文を持って語らしめるべしとしたものだろう。 -
Posted by ブクログ
【本の内容】
アフリカの奥地に象牙採集をする人々の上に起こった事件を作者自身の体験にもとづいて書いた作品。
『颱風』『青春』と共にコンラッドの中短篇の代表作であるが、作品の芸術的根強さにおいて他の二つを凌ぐ。
ここには作者の原始に対する驚異と文明に対する呪詛とが熱病のような激しさであらわされている。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
1902年発表、ジョゼフ コンラッド著。船乗りマーロウが語る、アフリカ奥地への旅の記憶。象牙交易によって権力を得た人物クルツを救出するという目的の元、マーロウは遂にクルツに対面するが、彼は息絶えようとしていた。
まさに闇のようにぼんやりとした小説だった。
中盤あたりからマーロウの語りが崩れ始め、物語の確信にあえて触れずに、外側から怪しげに焙っていく印象を受ける。特に、普通であればスポットライトを当てるべきであろうクルツに関して、それを顕著に感じた。そもそもマーロウが到着した時には既にクルツは相当弱っているのだ。これでは全くお話にならない。
だが、それこそが本小説の中心主題なのだろう。西洋の植民地主義の闇、アフリカの大自然の闇、人間心理の闇、などのよく挙げられるテーマについて共通しているのは、闇が不可知であることと、その不可知とはある種のくだらない勘違い(例えば「伝聞」や「会話」などの情報伝達が曖昧にならざるを得ない状況における)によって成り立っている、ということだ。
そしておそらく、勘違いを剥ぎ取った挙句の闇には本質的に何もなく、徒労に満ちているだけであり、だが例えばクルツのような徒労の果てに狂気にいたった誰かの巻き起こす渦のようなものが、永久に人を惹きつけ続ける。マーロウはそういった一連の流れを目撃してしまったのだろう。ラストシーンで彼がクルツの死を偽った理由も、その目撃を彼自身が忘れるためだった、という気がするのだ。 -
Posted by ブクログ
19世紀,諸西洋籍の船舶(作品ではフランス)が“未開の地”アフリカへ渡り起こった『象牙』に纏わる出来事たち.
教科書に載った「事実」とは別の観点から眺めることで,当世の彼ら西洋人の高慢,貪婪,凶暴,盲目さが何より現実味を帯びて感じられる.
語り部のマーロウの口上は情緒に溢れ,一人の人間の感情と自意識が鮮やかに伝わってくる.彼の言動,苦悩は――私たちにはまず経験しえない,世にも哀しい侵略に向かう船上での物語だとしても――純然たる現実として,感情の深淵に強く訴えかけてくる.その愚かな高慢さまでも,我々に共感を呼ぶ不思議.
つまり私たちは誰でもマーロウになりうる.アフリカという原始の闇の世界,そして,人心の奥底に潜む闇は,21世紀の我々に対しても強い共感と教訓を投げかけてやまない.
どう見ても誤訳な瞬間も見受けられるが,訳者あとがきの腰の低さには噴く. -
Posted by ブクログ
19世紀の海外文学ということで難しいかもと身構えていたけれど、思っていたより文章は読みやすい。
訳者によってかなり読みやすさ変わりそう。
でも内容はやっぱりちょっと難しかった。
労働力として一緒に働いていた黒人に対しては少なからず言動の規制が緩かったり、命を落とした黒人にマーロウは悲しんだりと人間として扱う様子もあったけれど、それ以外の黒人に対しては「敵」とすら表現して支配し、搾取する。
この時代の白人は自分たちを文明人、黒人を野蛮人と差別しているけれど、黒人には黒人の「文明」があるわけで…
それをなんで理解しようとしないんだろう、なんで支配しようなんて考えるんだろうとも思うけれど、今私が生きている時代とは当然価値観が違うわけで、こういう考えの押し付けや不理解が差別の始まりなのかなと思ったり。
クルツの人物像など、理解しきれていない点がところどころあるので少し時間を空けて再読したいです。