南川高志のレビュー一覧
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ローマ帝国の崩壊を、人々が「ローマ人である」という誇りを持ったアイデンティの衰退から説明している、と思われる。
人物名が多く、地理に馴染みがなかったので読むのに時間がかかり、理解できた自信はないが、物語の核はとても分かりやすかった。
トップの政策の失敗、汚職により体制が綻び始め、人々の生活が立ち行かなくなると「仮想敵」がいると呼びかけて団結を図ろうとする流れは、現代でも見られるだろう。
ローマ帝国の存続は、まさに人の流れに制限がほとんどなく、有能であれば徴用されて、出世ができたという文化にあり、それを自ら狭めてしまったのは生存可能性を自ら低くしてしまう行いであった。
この点は、組織論でも指摘が -
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古代ローマ・五賢帝時代の概説書。
五賢帝時代というと、ギボンの「人類が最も幸福だった時代」という言葉に象徴的に表されるように、一般的には
・「養子皇帝制」に立脚し、有能な皇帝が5代続いた政治的に安定した時代
・版図は最大化し、大きな軍事的な混乱のなかった時代
・上記に立脚し、人々はパクス・ロマーナを享受していた・・・
と言ったイメージが連想されるし、事実学校教育ではそれに近いことを習った記憶がある。
本書の特徴は、「プロソポグラフィー的研究」の手法を用い、後世書かれた史料からだけでは分かりづらい当時の政治支配層の動向を描き出し、そこから当時の政治状況を分析している点である。
この結果、本書 -
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ネタバレ「ローマ帝国の誕生」に続いて読んだけどこの本も良かった。五賢帝時代の話が本題だが、アウグスティヌスから五賢帝に至るまでの歴史も軽く触れられていて親切。平和と安定のイメージがある五賢帝時代にも皇位継承を中心に政治はごたついていて、皇帝たちはバランスをとるのに苦心していたという実態を、統計的な研究から浮かび上がらせている。優秀な養子による安定した皇位の継承は実際にはなく、実子がいないために起こった疑似的なもので、権力闘争を内にはらんだ危ういものだったという意外な分析が面白かった。皇帝や元老院の人々の親族関係はごちゃごちゃしすぎて難しかったけど、当時の人たちもしがらみが多すぎて大変だったんだろうなあ
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著者なりの解釈のローマ帝国衰亡史。
まず全盛期のローマ帝国がいかにしてあのような巨大な領土を成せていたのかを説明する。
そして、コンスタンティヌス帝以降の通史を追って、それがいかに崩壊していったかを説く。
曰く、全盛期の帝国には明確なフロンティアはなく、帝国を帝国たらしめていたのは「ローマ人である」というアイデンティティであったという。
そして、その基盤が揺るぎ始めるのがコンスタンティヌス大帝の治世であり、最後はわずか30年の間に一気に瓦解したことを描く。
政治史と社会史に重きをおいた論調。
ローマ帝国の紐帯の基盤を、人々の「意識」に求め、その「意識」を育んだ政治システムがいかに変容した -
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ローマ帝国の衰亡の原因を、寛容さの喪失であるとして論じている。
ローマ帝国というとゲルマン人によって滅ぼされたという印象をもつが、実際は魅力的な「ローマ人である」というアイデンティティーでもっていわゆるゲルマン民族などの外部部族をその内に受け入れ、帝国がまとまっていた。
それが、国家の危機に際して「排他的ローマ主義」が台頭してきたことが、急速に国家の魅力を失わせ、ローマ帝国が「尊敬できない国家」へと成り下がったとしている。
国家としての魅力を失ったときに国は滅びる。ある意味非常にわかりやすい話だが、その経緯はとても複雑だった。如何にして国家は滅びるのかについて考えさせられた。 -
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歴史の時間では、ローマ帝国はゲルマン人が北から侵入してきた
ことが原因で衰亡したと習ったように記憶している.本書では帝国の政治状況を加味した解説がなされており、非常に納得できた.このような記述がある.「北からの諸部族の移動の影響を最初に受けたのは帝国の東半だった.しかし崩壊したのは西半である.西半は在地の有力者が強く、東半は皇帝政治の権力が強かった.」 この権力者たちの心がローマから離れたことが衰亡した最大の要因だ.さらに「ローマ帝国の衰亡とは”ローマ人である”という帝国を成り立たせていた担い手のアイデンティティが変化し、国家の本質が失われていく過程であった」と結論を述べている.