工藤隆雄のレビュー一覧
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工藤隆雄『定本 山小屋の主人の炉端話』ヤマケイ文庫。
著者が山小屋の主人や山を訪れた人びとから丹念に集めた34編を収録。ホラー色は少なく、山での人間模様を描いた短編が多い。
第1章は『ネバー・ギブ・アップ』。様々な困難や不遇に直面しても、決して諦めない山の人びとを描く。なんと言っても『ネバー・ギブ・アップ』が良かった。人は人生の中で何度も挫折し、再び立ち上がる。諦めたらお仕舞い。この話に描かれた若い男女の不屈の精神は関わる人びとをも良い方向に導いてくれる。『ネバー・ギブ・アップ』と対極にある話が『車いすで木道を』。自分の地元、福島県の吾妻山の山小屋を舞台にした物語。今や山でさえバリアフリーらしい。やり過ぎのようにも思うが、どうなんだろう。
第2章は『雷親爺』。最近の大人は若者や子供を注意することもなく、ちょっと手を上げれば暴力だという風潮が残忍な事件を生み出しているように思う。
『河童の頭』は若者たちに説教する山小屋の女主人を描いている。無論、話して解る若者も居れば、解らない若者も居る。
第3章は『雪女』。『雪女』はホラーだが、『人間が怖い』『詐欺師』『泥棒!』に描かれる人間が一番怖い。
第4章は『フーの秘密』。動物にまつわるあれやこれや。
第5章は『遭難救助』。山に付き物の遭難であるが、辛くもその時に命が助かったとしても、違う場面で呆気なく命を失う場合もある。
本体価格900円
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工藤隆雄『定本 山のミステリー 異界としての山』ヤマケイ文庫。
今月のヤマケイ文庫は、山の不思議を集めた作品が3冊も同時刊行。
著者が長年に亘り山小屋の主人や登山者たちから聞いて、集めた山の怪異56編を収録。2016年刊行の『新編 山のミステリー 異界としての山』を定本として文庫化。解説は田中康弘。山での霊体験や自然にまつわる不可思議などが紹介される。先に読んだ『マタギ奇談』と並び、面白い。
山では何故幽霊の目撃談や霊体験が多いのだろうか……まさか死ぬことを前提に山に登る人は居ないだろう。従い、幽霊となり、山をさ迷う人びとは全くの不慮の事故により図らずも命を落とし、自分が死んだことにさえ気付いていなかったり、この世に未練を残すあまりに山に居着いてしまっているのだろう。
山にまつわる伝説や言い伝え、不思議な話も興味深い。時折、自然や動物が見せる奇跡のような数々の不可思議や人間の想い。中でも『第22話 山の神に守られる?』にはジンと来た。
本体価格800円
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工藤隆雄『マタギ奇談』ヤマケイ文庫。
今月のヤマケイ文庫は、山の不思議を集めた作品が3冊も同時刊行というから何とも贅沢で嬉しい限り。ちなみに先月のヤマケイ文庫は矢口高雄と手塚治虫の漫画を3冊刊行している。
本作は、2016年に刊行された同名傑作の文庫化である。マタギたちが経験した山の不思議な体験を著者が長年に亘り取材し、まとめ上げた奇談29編が収録されている。
非常に面白い。自然と一心同体で生きるマタギにこそ、日本人本来の姿があるのだろう。物質文化に汚され、自然を蔑ろにする現代日本人の暮らしと、自然を畏怖し、自然の中に生きるための知恵と技術を研鑽し続けるマタギの暮らしとを対比するのも面白い。『第一章 歴史のはざまで』から見事にマタギの文化や風習、歴史の狭間でのマタギの活躍といったマタギの世界に魅了され、最後まで楽しめた。
『第一章 歴史のはざまで』で、最初に描かれた八甲田山雪中行軍遭難事件にまつわるマタギの奇譚は非常に興味深かった。確かに新田次郎の『八甲田山死の彷徨』では青森隊と弘前隊が山中で落ち合う約束の元、雪中行軍に向かったという設定であったのを覚えている。史実は違っていたようだ。
続く、50年間も東北や蝦夷地を巡った菅江真澄が幕府の密偵であったのではという話も面白い。幕府の密偵疑惑と言えば、松尾芭蕉がそうだったのではというのが有名であるが、弘前藩での菅江真澄の挙動を見る限り、疑惑はかなり深まる。
1972年の第一次ヒマラヤの雪男捜索隊にマタギが参加したという話も興味深く、マタギがその足跡から正体は猿ではないか、雪男の挙動から或いは熊ではないかと、現代の通説と全く同じ推理をしていたことに驚く。
『第二章 マタギ伝説』では、マタギの風習や文化や伝説・伝奇について描かれる
。マタギの風習や文化については、矢口高雄の『マタギ列伝』『マタギ』にも詳しく描かれている。
『第三章 賢いクマ』では、イタズの賢さや、マタギとイタズの知恵比べと死闘が描かれる。クマ好きには、なかなか面白い。
『第四章 山の神の祟り』は、マタギの厳しいオキテとオキテを破ったことで山の神の逆鱗に触れた話が紹介される。四つグマのオキテはクマが減少することを恐れ、無闇にクマを獲ることを戒めたものだろう。
『第五章 不思議な自然』は、タキタロウ伝説に山の木々が物言う話など奇談がてんこ盛り。自然の神秘を感じた。
『第六章 人間の不思議な話』は、マタギのオキテ破り、死者に呼ばれる話、老マタギと犬の感動の物語がつづられる。
『あとがき』に加えて、『文庫のためのあとがき』と高桑信一による解説『マタギと末裔たちの不思議な山語り』を収録。
本体価格750円
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Posted by ブクログ
熊を獲りすぎない、キノコを根こそぎ採ってしまわない、そうやって人間と山のバランスをとりながら生きる。のみならず、そうすることが山をメンテナンスすることにもなる、人を入れないようにしてしまうと逆に山が廃れる、という最後の章で語られていたことは印象的。
人間が自然の中で調整役を果たすということがあり得るのだろうか。いわば山と人間がお互いに頼りあう共存関係。ちょっと信じがたいが、マタギの歴史が先年も続く中でそのような特殊な関係が出来上がったのかも知れない。だとすればそれは人類の目指す先にもなり得る凄いことになのに、マタギ文化が消え行くのは残念。 -
Posted by ブクログ
いやはや、面白くって買ったその日に一気読み!
すっかりブームになった「山の怪談」を含め、人智を越える畏怖、自然の不思議、人間の不可思議さ、「山」にまつわるあれやこれをまとめたお得な一冊。
怪談はきちんと怖いし、天狗か神かそれとも?な不可思議な話は味わいがあるし、自然の神秘を味わう話もあり、人間にまつわる話はあまりに胸糞なものからほのぼの暖かいものまで、ついにはUFOまで飛び出す!とバリエーションが豊かで、次!次の話!と読み進めてしまった。
「山の怪談」が実話怪談の一ジャンルとして確立して、山=異界というイメージも某公共放送がそれを冠した番組を作ってしまうくらいメジャー?なものになったけれど、
まだまだ「異界」の一端を見たに過ぎない、と山登りもしない平地にいきる人間は思った次第。
そしてそんな平地人にとっては、何年も山小屋を経営し、人の死にも毎シーズンたちあうことになる山小屋の小屋番さんというのもまた不思議な存在に映った。 -
Posted by ブクログ
書名に"奇談"と入ってはいるが、山を舞台とするミステリーやいわゆる怪談の要素はほぼなく、主に白神山地のマタギの社会や風習にまつわるエピソード等が収められている。
著者が取材し、聞き及んだ内容を文章化したものなので、例えば久保俊治氏の、当事者たる猟師自身が体験し、感じ、考えてきた事柄がダイナミックに綴られた著作とはある意味で対極を為すルポルタージュだが、一歩引いた客観的な立ち位置から語られるからこそ、都市部に暮らす私たちの胸中にすんなり入ってくるという部分もあって、特に山津波に関する項は、却って静かな圧が増したような…。
ラストに置かれた小話、"老マタギと犬"は、まさしく本書の掉尾を飾るにふさわしい、普遍性を備えた名文である。
「国は、自然を守るというのは、誰も入れないことと思っている。そうなると、荒廃するだけでなく、動物が増えてたいへんなことになります。山のことを知っているマタギが調整してやらないとだめになります。それを知らないのですよ、机の上で考えているから見当違いなことばかりやっている。我々地元のマタギに話を聞こうともしない。白神が荒廃しないで今もあるのは、昔からマタギが守ってきたからなんです。それをわかっていない、というか、わかろうとしない」
1993年、白神山地は世界遺産に認定され、その11年後の2004年には全域が鳥獣保護区の指定を受けて、当地におけるマタギの文化は潰えたという。