岩井克人のレビュー一覧
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マルクス『資本論』(主に第一巻と第三巻)をベースに、著者が貨幣の本質に迫るのが本書の内容である。貨幣とは何かという問いに対して、「単純な価値形態」、「全体的な価値形態」、「一般的な価値形態」、「マルクスの貨幣形態」、「貨幣形態」と順に追っていくうちに著者はある結論を下す。それは「貨幣とは貨幣である」というトートロジーである。つまり貨幣には本質的なものはなく、貨幣について考えれば考えるほど、ますますその存在理由がわからなくなるという。経済学を専門とする著者がこのような奇妙な結論を導いたことから、貨幣が単なるモノとは異なる独自の性質を帯びていることが読み取れる。
また、第五章危機論で言及された -
Posted by ブクログ
経済学者が自分の人生の歩みと合わせて経済学を語っています。著者の著作に慣れ親しんだ読者であれば、読んでみる価値は十分にあるでしょう。また、タイトルだけ見ると難解な印象を受けますが、インタビュー形式で進んでいくので、専門的な注釈を除いては、わりと読みやすかったです。
今回、この文庫版で再読してみると、経済学者というだけでなく学者として人生をまっとうしようとする姿勢が強く伝わってきました。アメリカの有名大学での研究生活を「絶頂」、その後の東京大学への就職を(少なくとも当時は)「没落」として捉えるあたりは、学者としての氏の人生観を反映しているように読めます。この点は、氏の妻であり作家である水村美苗 -
Posted by ブクログ
不均衡動学という言葉だけは著書の名と共に知っていたが、近づかなかった、というより近づけなかった。いわゆる近経は、数学を駆使して理論を作り、経済現象を科学的に分析するもの、とのイメージがあって、偏微分に挫折した自分には到底理解できないものと思っていたからである。
岩井氏の著作を実際に読んだのは、『会社はこれからどうなるのか』だったが、あの本の内容は面白く読んだ記憶がある。
本書は、岩井氏が自らの学問について、その歩みとともに、一般読者にも分かりやすく説いてくれた本である。著者の学問関心、先人との苦闘が非常に生々しく語られている。またマルクス、ケインズ、シュンペーターといったビッグネームの -
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「利益は差異性からしか生まれない」、「ポスト産業資本主義社会では新たな差異性を次々と創り出して行かなければ生き残れない」という言葉に暗澹たる気持ちになる。本当に創造性のない人間にとって生きづらい時代だと思う。そして不毛だ。
この本を読んで、
差異性とは具体的にどんなものだろうか?各企業はどのような差異性により利益を上げているのか?
なくならない差異性、なくなりやすい差異性は何だろうか?
差異性により利益を得るこの社会は、公平な社会へと向かっているのだろうか?それとも差異(格差)の維持を目論んでいるのだろうか?
もっとよい社会の仕組みはないのだろうか?
…etc というようなことが脳裏に浮かん -
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こういうバリバリ経済学者の経済の本はほとんど読んだことがなかったし、難しいところも多くてよくわかってない部分も沢山ある。それでも、何か知的興奮があったし、「もっと知りたい」という思いにさせられた。
経済って、もっと血が通ってなくてお金のことばっか考えてるんじゃないの?という私の経済学に対する幼稚なイメージをいい意味でぶっ飛ばしてくれた。
経済を考えてると、そんな哲学的問題に行き着くの?!法人の存在の仕方は人間存在の仕方とニアリーイコール?!「信託」の始まりはなんと修道院にあった?!経済の話とカントヘーゲルロールズアリストテレスってそんなに関係あるの!?…等々、新鮮な驚きのオンパレード。
岩井克 -
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Posted by ブクログ
北さんからの推薦本。
推薦されなければ読まなかったはず。
経済学に全く疎いにも関わらず、意外にも面白い。
結局、「貨幣とは何か?」の問いの答えは「貨幣とは貨幣として使われるものである」
「商品」でもなければ、何者かによって恣意的要因でもたらされた「制度」でもない。
循環論法によって自然発生的に存在したもの。いわゆる「奇蹟」である。
作者が述べている、貨幣であるための存在規定「未来永劫貨幣として信用される日々」が、覆る日(最後の審判)が訪れて、資本主義の終焉が訪れることはあり得るのだろうか?
本書が書き上げられてから24年。
今ではあり得ないことではないきがしてならない。
それにしても、商品 -
Posted by ブクログ
著者のエッセイや書評、『不均衡動学』の解説や補足をおこなった論考などが収録されています。
冒頭のエッセイ「ヴェニスの商人の資本論」は、著者の妻である水村美苗からアイディアを示された執筆に至ったとのこと。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』におけるアントーニオとシャイロックを、共同体の論理と資本の論理の体現者として読み解き、さらにこのストーリーを展開させる「トリックスター」としてのポーシャを、「貨幣の謎」を体現する人物として解釈しています。
「遅れてきたマルクス」という論考は、シュンペーターがワルラスの一般均衡体系からどのように離脱を図ったのかを明らかにするとともに、マルクス主義経済学の観点か -
Posted by ブクログ
会社についてとても丁寧にわかりやすく書かれていてとても良い本だと思います。
サラリーマンやサラリーウーマン、これから会社に入ろうとする若い人たちはぜひ読まれるといいと思います。かなり希望が持てる内容になっています。
コーポレート・ガバナンス(会社統治機構)やコア・コンピタンス(会社の中核をなす競争力)などのなんか流行りの言葉みたいなものもわかりやすく説明されていてそそられますし、エンロン事件やサーチ&サーチ社で起きた事例やマイクロソフト社の例など事実を摘示しての理論の展開がなされるので興味深く読めると思います。
しかも、差異から利潤を生み出す資本主義の原理から説き起こされて、ポスト産業資本