小松由佳のレビュー一覧
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ネタバレ冒頭のヒマラヤ登山の手記がとてもインパクトが強かった。以後も登山活動を中心としたドキュメントになるのだと思ったらそうじゃなかった。
内戦によって住む場所を破壊され、命の危険にさらされながらさまようシリアの人たち。求めるものはモノでもお金でもない家族とのただただ平和な生活。
独裁体制を固持し、民衆を顧みないアサド政権。そこに宗教観の違いや隣接する国の利権、利得に翻弄され続ける国に未来はあるのか。
2025年、アサド政権が崩壊し、状況は一気に変わりつつある。
ただ、このドキュメントはその5年前に書かれているので、重く先の見えない状況下で人々の求めているものは何か。人生で、生きる上で本当に大事なことは何かを問い続けて終わっている。
実はその答えはこの本の中ほどで著者が述べている。それは「人間は、最低限の生活が保障され、安全を手にしても、それだけでは生きるために十分でないのだ。大勢のシリア人が、いったん国を離れながら危険を顧みず、シリアへ帰るのは、そこが住み慣れた土地だからというだけでなく、人生を自ら選択する自由があるからではないだろうか。…日々の選択によって自分の生があるという実感。それこそが、“人間の命の意義”なのではないだろうか」
汚職と賄賂にまみれてそれを受け入れていかないと警察もあらゆる役人、軍人も動こうとしないし、窃盗を働き、その犯人が逮捕されても盗まれたものは返ってこないばかりか、警官がその盗品を金に変えて自分のものにするという理不尽さ。それがシリアという国柄なのだ。
淀みない整然とした文章でずんずん読める。アサド政権が崩壊した後のこの人のドキュメントがあればぜひ読んでみたい。
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小松由佳(1982年~)氏は、秋田市生まれ、高校時代に競技登山に打ち込み、国体やインターハイに出場。東海大学山岳部では海外遠征も行い、卒業後の2006年に同大学山岳部による世界第2の高峰K2登山隊に参加し、登頂に成功する(女性としては、日本で初、世界で8人目)。植村直己冒険賞受賞。秋田県県民栄誉章受章。その後、アジア各地の人々の日常を撮影するフォトグラファーに転身し、取材地のシリアで知り合った男性と結婚。
本書は、2008年に、シリアのパルミラの近くの沙漠でアラブ人の青年(ラドワン)と出会ってから、シリア内戦に翻弄されながらも、2012年にラドワンと結婚し、日本で2児の母となって生活する現在(2020年)までを綴ったノンフィクションである。(冒頭10数ページにK2登頂についての記述があるが、あくまでも導入である)
私は、普段ノンフィクションを好んで読み、本書についても、出版当初に書店の平台で目にしていたものの、帯に書かれている「K2登頂、シリア内戦、沙漠の逃避行。生きて還ることが、奇跡だった。」というコメントに、何となくテーマがぼやけた印象を受けて、購入しなかったのだが、今般改めて手に取る機会があり、ページをめくり始めたところ、一気に読み終えてしまった。
上述の通り、冒頭にK2登頂のときの話が僅かに出てくるが、これは、「小松由佳=日本人女性初のK2登頂者」というイントロが必要という配慮だと思われ、本書の読みどころは、著者がシリアに定期的に通うようになってからの、ラドワン、ラドワンの家族であるアブデュルラティーフ一家の人々、ラドワンの友人達との濃密なやり取りと、その中に見えるシリア人(アラブ人ムスリム)の信条・文化・生活、そして、そのシリア人の日常を根本から崩壊させたシリア内戦に関する、詳細な記述である。
私はノンフィクションの中でも、特に国際的な紛争や内戦に関心があるため、それらを取材した、長倉洋海、山本美香、佐藤和孝、高橋真樹、橋本昇、安田純平、藤原亮司、川畑嘉文等、多数の(フォト)ジャーナリストの著書を読んできたが、当事者たちの状況を、内側から、かつ、ここまで多面的に描いたものは稀で、大変興味深く読むことができた。
そして、最も印象に残ったのは、内戦前には、ラドワンと共に沙漠でラクダを放牧し、甘いお茶を飲みながら談笑していた仲間達が、ひょんなきっかけと成り行きで、内戦勃発後は異なる立場・境遇に置かれるという、残酷な現実であった。
戦争は、人間の行為の中で最も愚かなものであることは間違いない。しかし、現実には容易に無くならないものでもある。(私は理想主義者なので、人間は戦争をなくすことができると信じているが。。。)
そうした世界で、我々は何を拠り所にして生きればいいのか。。。それはおそらく、著者が最後に語っていることなのだろう。「人間がただ淡々とそこに生きている。その姿こそが尊い。・・・私は歩き続ける。・・・まだ見ぬ、人間の土地へ。」
厳しい現実の中に自ら身を置き、それを率直に描きつつ、未来への希望も感じさせてくれる好著である。
(2024年3月了) -
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シリアの内戦は2011年に始まり現在も続き、泥沼化している。
反政府勢力の戦死・犠牲者数は50万人、難民は400万人以上、国内避難民は760万人とも言われている。アサド大統領の政府勢力はロシアの支援を受けている。反政府勢力は、現在では欧米諸国に支持されていたが、一時はISやクルド人勢力が内戦に参加し、何がどのように戦っているのかも不明確な状態が続いていた時期もあったようである。また、最近ではサウジアラビアを含むアラブ連盟が12年ぶりにシリアの復帰を容認する等、外部の者にはにわかに何がどうなっているのかが分かりにくい状態が続いていると言える。いずれにせよ、シリア国民にとっては大災厄ということである。
筆者の小松由佳さんは、2008年夏に長い旅に出る。そしてその旅の途中で、内戦前のシリアに滞在、そこでアブドュルラティーフ一家と仲良くなる。また、その家族の一員であった、ラドワンという、シリア人男性と惹かれ合う。
本書は、内戦前後のアブドュルラティーフ家の姿を描くことにより、シリア内戦の実際を描くという軸と、小松さんとラドワンの男女、そして夫婦の物語を描くという軸の2つの軸で描かれている。
内戦の悲惨さや、それに翻弄されるアブドュルラティーフ家の姿も何とも言えず悲しいが、物語全体を通じて、ラドワンと人生を共にしようとする小松さんの強さに感銘を覚える。 -
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砂漠といえば、同じ景色が果てしなく続き、どちらかというと「死」のイメージが強かったけど、砂漠と共にある人々の営みや、砂漠が場所によって砂の特性などが違うことを知り感動した。
その豊かな日常が、悪化する圧政、ISの台頭に寄ってどんどん壊されていく様子は、生々しく恐ろしい。
すみ慣れた土地、築いてきた生活を奪われ、コミュニティを壊され、人々はその地を追われ、いつ終わるかわからない移民生活を強いられることとなった。
肉体的な負担はもちろん、精神的なダメージは想像するだけでも耐えがたい。
故郷を思う気持ち強ければ強いほど、その傷も深く、喪失感は計り知れないだろう。そういった点で、原発事故で家族ばらばらになったり、仕事を失ったり、生活、土地、故郷を奪われた福島の人たちと重なった。
シリアの人たちも今なお国を追われ、新たな生活の地を求めている。
これを他人事していてはいけない。日本に住む私たちができること、すべきことを考えなければ。この世界のアンバランスさを平行にするために。 -
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K2登頂から、シリアの砂漠地帯で生活を営むベドウィンの生活の様子、それから起きたシリア内戦の様子やまたその渦中の人々、そしてベドウィンの旦那さんとの結婚までの筆者のストーリーと彼女が経験したことがつづられていた。
この本を読んで筆者の小松由佳さんは本当にタフな人だなあと思った。自ら危険と隣り合わせの環境(K2登山やシリア内戦下での取材)に入っていけることがすごいと思った。なかなか普通の人が経験できないこと本を通して知ることができてよかったと思う。特にシリア内戦の悲惨さ、またそれに翻弄される人々の悲しみや絶望の気持ちをより自分と近くに感じることができたと思う。
やはりこのような戦争の状況をなるべく自分と近く感じて、戦争を起こしてしまわないように、日々学び、人間性を磨いていかなくてはと思った。
私は普段イスラム教徒の人と関わることが多く、由佳さんが書かれていたことと似たような場面に遭遇したことがあった。例えば、自分の宗教観を明確に相手に語ることや伝えることができないことや、イスラムの正しさを主張し、ほかの宗教を否定する人の主張を聞いて、もやもやすることがあった。
海外の人と接すると、宗教観について考えさせられることは避けて通れないことだと思う。またそのトピックを海外の人と共有する場面も出てくると思う。その時に自分の宗教観やアイデンティティを相手に伝えられる人てありたい。それでいてこそ海外の人と対等な立場で話し合えると思うし、常に自分の軸を持って様々な場面に対応していくことができると思う。由佳さんがイスラムに対して彼女自身が持っていた違和感や疑問を率直にベドウィンのお父さんに打ち明けていた場面があった。彼女のように、自分の相手に関するもやもやした思いも怖がらず、伝えることも大切だと持った(相手を傷づけることはよくないが)。こうやってお互いに聞きあって話し合っていってより相手のことを理解していこうと努めていこうと思った。
パルミラのベドウィンの家族みたいに、自分たちの生活の営み方や生き方に誇りを持ち、満ちた心をもっていることは本当に素敵なことだと思った。
私も、今いるところに感謝し、その時にできることをやって、その生活の中から、自分が満たされることを探していくのも幸せになれるかなと持った。どんな時でも幸せを見つけられる人になれたらそれは素敵だなぁ。
人間の「自由」は本当に重要なものなんだ改めて考えさせられた。ラドワンが難民キャンプで最低限の生活と、安全を手に入れても、そこを離れ、またシリアへ向かい、そこで戦争で貢献する選択を自らするように、自分で考え自ら選択し、決定する自由と権利があることは尊いことだ。 -
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ネタバレ「君はそう書かれていたらそのまま信じるのか?」
「今日は泊っていきなさい」=別れの挨拶
パルミラ遺跡の盗掘
先陣が残したものを見つけて生活の糧にする
シリア、
この国では先に警察を味方につけたほうが正義になる。 真実ではなく利益。
軍隊でも。秘密警察でも。
賄賂で自由と安全を買う。
越境ビジネス 2万円≒シリアの平均月給
ゆとりの時間ラーハが人生の価値
自給自足の放牧業 食費は収入の1/10
税金は払わない、電気水道は自分で引く
医療費教育無料、ガス石油資源豊富、
ハラール
神に許された屠畜か? ≠日本の肉 =すべての魚
IS
無差別空爆を行う政府軍とは異なり解放を説き、
支配、占領していった。
歳をとった木ほど土が違えば生きるのが難しい。
文化はすでにあるものを継承する要素の方がはるかに強い。 -
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遺跡は破壊されてもなお、人類の叡智を物語るのに十分な威厳を保ち、破壊されたことでむしろ、人間の歴史とはどういうものかを物語っているようでもあった。かくも美しく壮大な建築物を生み出すが、他方では否定し、一瞬で破壊する。人間とはそういう存在なのだ、と。
パルミラの住民は被害者だと言えるかもしれない。だが、状況に甘んじ、体制への協力を惜しまないことで、政府の支配を盤石なものにしてきた当事者だとも言える。この街に身を置くためには、そうせざるをえなかったこともわかる。
だが、そうした市民のあり方が、現在のシリアをつくってきたのではないだろうか。
その場所で生き残るために保身を図り、あるいは無関心を装い、為政者に同調し続ける。それが積もり積もったとき、何を生み出していくのだろうか。たとえ独裁政権下にあって、小さな声さえ上げられなかったとしても、それでも人は、いかにその支配のなかを生きるのか、そのあり方を選び取ることができると私は言じたい。
独裁国家は、強力な独裁者が存在するから維持されるのではなく、それに同調し、従う民来が一定数存在するから維持されるのではないだろうか。だから、シリアで起きてきたことや、今置かれている状況は、ある意味、それを選び取ってきたシリアの人々の選択の結果ともいえるのではないかと私は思う。その思いは、パルミラに立ったことでより強くなった。 -
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登山とは、登頂の可否以上に、目標に向かって精一杯努力し、進むというかていにこそ本質があり、誰とどのように、何のためにその山を目指すのかが肝心だ
チャンスには2種類がある。自ら生み出すことができるチャンスと、偶然の巡り合わせによって与えられるチャンスと。後者は、機を逃したら2度と巡ってはこない
遭難事故はたったひとつの要因だけでは起こらない”。大きな遭難事故の前には、大体において予兆のような小さな不協和音がある。そうしたささいな要因がいくつか重なり、状況がもはや後戻りを許さなくなった結果、致命的な事故へとつながる。
K2に登頂し、帰還したことは、ただ単に私たちが幸運だっただけなのだ。この山を登るために必死に努力もし、経験も積んできた。だがそうした努力や情熱以上に、この世界には運、不運とも言える大きな自然の流れがあり、私たちはその流れに生き死にを左右される不安定な存在にすぎない -
Posted by ブクログ
手島という香川の島に著者の小松さんがいらして写真を撮っていかれたようです。
台風だったこともあり、手島でおいてある本書を読みきりました。
K2登頂はプロローグのようなもので、シリアで知り合った現夫とシリアの内戦に翻弄される人生についての記述が大部分を占めます。
内戦による生活の変化。文化や宗教、考えの違いからの精神的な壁の困難。それらについて率直な意見が素直に綴れている本です。
シリアの現状について知らないこともたくさんありました。他者の考えに触れることができ、考えるきっかけにもなりました。読んでよかったなと思う本でした。
タイトルはサン・テグジュペリの『人間の土地』のオマージュです。そちらも面白いです。