小松由佳のレビュー一覧
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ネタバレ著者はドキュメンタリー写真家。2006年、世界第2位の高峰K2に日本人女性として初登頂した登山家でもある。
2008年、彼女は、写真取材で、シリアのパルミラで100頭のラクダを放牧し、半遊牧的生活を送るアブドゥルラティーフ一家と知り合う。
一家は、4世代、70人近い大世帯。毎年のように一家を訪れる中、2013年には、一家の16人兄弟姉妹の末っ子・ラドワンと恋に落ち、結婚、二人の子どもをもうける。
シリアでは、2011年から民主化運動が拡大、アサド政権による市民への弾圧に端を発し、内戦状態に突入する。
ラドワンは徴兵され政府軍兵士になったが、市民に弾圧を加える罪悪感から2012年に政府軍を脱走、ヨルダンへと逃れ、6男サーメルと9男ジャマールは民主化運動に参加、逃亡生活に入っていた。
2015年にはパルミラをイスラム国(IS)が占領、政府軍・ロシア軍による空爆で市街地が破壊され、一家は、避難生活に入り、トルコへ逃れる。
トルコでは大量のシリア難民を受け入れ、トルコ国民の不満が爆発、難民たちはヨーロッパへの移動を目指すが、不法難民としてエーゲ海やドーバー海峡を渡ることは命がけだった。
著者はトルコ南部のシリア難民コミュニティを取材していたが、アブドゥルラティーフ一家の長だったガーセムが亡くなったこともあり、2022年、11年ぶりに彼らの暮らしたシリアへ向かう。
彼女を待ち受けていたのは秘密警察の監視と親族による軟禁。それでも、それらをかいくぐって、パルミラの一家が暮らした家にたどり着く。
命がけの写真取材から帰還すると、夫から、「第二夫人を娶りたい。自分と第二夫人の生活費を出してほしい」との驚愕の告白があった。
このあたりは、著者にとって波瀾万丈の展開。第二夫人騒動は親族たちの猛烈な反対で終結するが、男性は4人まで妻を持てる、男性と女性は明確な役割分担があり、男性が女性に大事にされて幸福になるという文化があることを著者は尊重すべきだと感じる。
2024年12月8日、反体制派がダマスカスを制圧し、アサド政権が崩壊したことから、著者は夫とともに、再度、シリアへ向かい、消息不明となっている6男サーメルを捜して、収監されていたとされるサイドナヤ刑務所を訪れる。この刑務所では収容者の75%が生きて帰れなかったと言われており、奇跡的に生還した元囚人から残酷な拷問話を聞く場面が実に生々しい。
全体を通して、著者がなんと強い女性であるかと驚きながら、自らの実体験を通じて、シリアの内乱や難民生活の実態を等身大の人間として、わかりやすく描いた内容に圧倒され感服せざるを得なかった。
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第23回開高健ノンフィクション賞受賞作。「人間の土地へ」の続編というか完結編。
シリア難民はイギリスを目指す。ドーバー海峡を渡るのに、パスポートを持ってさえいれば90分35ポンドの安全な道のりのフェリーなのに、難民たちは1000ドル支払い自分達だけで対岸を目指して5時間のボートに乗る。ボートは高い確率で転覆するので、ドーバー海峡の露と消える人もいれば、ようやく着いても難民として認定されるのに1-2年かかる人もいる。子供だけでは家族を呼び寄せることは不可能なのにそれも知らない。
筆者はその後、夫家族の暮らしていたパルミラの夫の実家跡を訪ねる。日本の外務省からは心配の電話が入り、即時退去をお願いされるが、毎日報告のメールを送ることで決着する。
秘密警察がやってきて、一挙手一投足を監視され、やりたいことも全て妨害される。それでも撮影しようとする筆者に周囲は苛立つが、なんとかゴリゴリの交渉を経て撮影に成功するが、たった10分で追い出される。
そして2024年12月8日、アサド大統領のロシア亡命にていきなりの政権転覆がおこる。すぐさま筆者は夫と息子とともにシリアに入り、まず首都ダマスカス近郊にあるサイドナヤ刑務所にいく。夫の兄のサーラムがここに収監されて亡くなったとの情報をもらっていた。多くの収監者たちが拷問で命を失う中、5年もの収監を経て国際機関からの勧告で出所して生きながらえている人の話を聞く。
そして故郷パルミラへ。秘密警察もイラン国軍もいなくなっていた。よほど急いだらしく、いろんなものが放り出されている。秘密警察に至っては自分たちの記録だけ焼き払い、協力者や密告者の記録などは放り出してある状態である。 -
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ネタバレ第23回開高健ノンフィクション賞受賞作.。
ニュースではアサド政権による毒ガス兵器やロシアによる空爆、ISの残虐な支配など断片的にしか伝わってこないシリアの現状。著者は、写真家として2008年にシリアを訪れ、その後総勢70人の大家族の一員である十二男ラドワンと結婚、その後のアサド政権の弾圧による、自身の家族やシリアの人々の苦難を通じてシリアの状況を描いている。
「沙漠の薔薇」と謳われたオアシスの街パルミラで幸せに暮らしていた一家は「アラブの春」後のアサド政権による弾圧と内戦により、六男は秘密警察に逮捕され行方不明、一家も難民としてトルコに避難を余儀なくされる。
著者は2022年9月、「親族訪問ビザ」を使い11年ぶりにシリアに入国。秘密警察とのやり取り、パルミラに残った親族の本音を隠した複雑な言動、空爆によって破壊された街など、内部に入らないと描けない緊迫した情景を見事に伝えている。
2024年12月のアサド政権崩壊後すぐに夫とシリアに入国。悪名高い「サイドナヤ刑務所」訪問、元囚人へのインタビュー、パルミラ訪問などからアサド政権の残した傷跡の大きさがわかる。
また、本書を読むと、幸せに暮らしていた家族が国を離れざるを得ない状況もよくわかり、難民問題についても理解が深まるように思う。 -
Posted by ブクログ
とても登頂の難しいK2から帰還したあと、ヒマラヤのシスパーレ登頂を中断してから、作者は写真家として人々の生活を撮るようになった。シリアのオアシス、パルミラには度々足を運び、未来の夫となるラドワンと知りあう。
アブドゥルラティーフ一家は父と母と16人の子供たちとその子供たちによって構成され、家を建て増し、隣にも家を作って、日々ラクダを放牧したり、乳を絞ったり、料理し洗濯し掃除し、さまざまな日常の会話や噂話などをして平和に過ごしている。しかしそこに内戦が起こる。
シリアはオスマン帝国から第一次大戦後にフランス領になった。一応独立したものの、クーデターや軍事政権などの時代を経て、ろくな民主主義を身につけないまま、内戦になってしまったので、目指す民主主義のあり方がみつからないのだ。反政府軍にISも加わり、虐殺まで至る所で行われている。人々は難民となり、トルコや隣国のヨルダンなどに逃げまどっている。 -
Posted by ブクログ
K2を日本人女性として初登頂した著者による半生の物語。
主にシリアでの取材体験から始まり、その後に勃発するシリア内戦で苦しむ家族とのやりとりや難民の生活の記述が進んでいく。
著者の感性や文章力は素晴らしく、とても頭が良く行動力のある方なのだとわかる。
国際結婚で深まる文化の違い、それをいかにして乗り越えるか、経済的には恵まれていなくとも精神的には豊かに暮らしていたシリア内戦前のアブドュルラティーフ家族、内戦で多くのものを失っても強く生きようとするシリア難民、日本は相対的に経済的には恵まれているが本当に日本人は豊かなのか、多くのことを考えさせられた。
自分の知らない暖かな生活が簡単に破壊されるのだということ、文化の違いをいかに尊重するか、何が本当に幸せにつながるのか、新たな視点や価値観を学ぶことのできる良書だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『ラドワンはシリアで何を見たのだろう。その後、幾度となく尋ねたが、彼は決して語ろうとしない。記憶を封印し、消し去ろうとさえしているようだった。・・・確かなのは、そこで彼が、耐えがたい絶望を経験したことだ。
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「結局、政府軍も反体制派も同じだった」』
NHKで著者である小松由佳さんのインタビュー番組を拝見して、彼女に魅了され、『人間の土地』を是非とも読みたいと想う。しかし、テレビの" 戦争・難民 " などのニュースもあり、心が重く、しばらく頁を開くことができなかった。
だが今は、様々な想いを味わい、涙しながらも読み進めて、本当に良かったと想う。
わたし自身を大きく揺さぶる。自分自身を顧みる。
『人はなぜ、何のために生きるの』
『 " 人間の命の意義 " 』
『相手を理解できないということを理解することの大切さを学んだ。』
『シリアでは、家族や友人とのゆとりの時間(ラーハ)こそが人生の価値でもあった。だが日本では、ゆとりではなく、夢の実現や人間的成長に価値が置かれている。』
『自分の文化にのっとって相手を判断しよえとするから、相手の本質を見誤ってしまうのだ。』
『土地から与えられる人間のルーツというものは、もっと根深いものではないだろうか。私はことあるごとに、ラドワンが" 砂漠の人 " だと捉えることで、悶々とした思いを払拭するに至った。民族的背景の違いを、相手の尊厳として認めることで、私たち夫婦は共存しようとしている。』
『私に " 命が存在することの無条件の価値 " を気づかせてくれた。
人間がただ淡々とそこに生きている。その姿こそが尊い。』
彼女の心からの結びの言葉が続く。
淡々と綴られる言葉の重みを、涙とともに感じる。
読み終えた今も、頬をつたう。胸が震えた。
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10年ほど前のことですが
「アフリカ」方面をお得意とする
旅行会社に勤める友達と語ることがあった
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いゃあ 最近の「一人旅」は
断然 女性ですね
荷物一つを背負って
世界の辺境へ旅に出て
面白かったぁ
と 話してくれるのは
今や女性、しかも20代の若い人
いゃあ
いま 世界を股にかけているのは
女性です
という言葉を
思い起こしました
小松由香さんが
そうであったかどうかは わかりません
でも
その実行力、思考力、能動性
そして卓越した問題解決能力
には脱帽です
小松由香さんのような方を
ほんとうの国際人と
言うのでしょう
気持ちがいつも
外に開かれている人は
やはり
素晴らしい -
Posted by ブクログ
すばらしい本だった。
おそらく泣き喚きたくなったであろうことも含め、感情的になりすぎず、ただそこに居合わせた観察者としてまっすぐにシリアを綴っている。作者が何かを分析したり価値づけたりすることがなく、自分の存在の小ささを知る者の謙虚さがにじみ出ている気がした。一方で、その小さな人間一人ひとりが悠久から脈々と受け継いできた大きなものの存在についても語られる。
シリアの砂漠を愛する人たちの姿が目に浮かび、会ったこともない人たちを愛おしく思った。またISISが地元の人たちにとってどんな存在であったかなど、よく伝わってきた。そして、動乱が内戦ではなく革命と呼ばれることなどを、今ミャンマーで同じ言葉を耳にする者として、衝撃をもって読んだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレTRANSIT VOICE~旅するポッドキャストの#7
を聞いて、小松さんの人生の話に魅了されて購入しました。
全体を通して思ったのは、小松由佳さんの生命力の強さ。ポッドキャストを聞いていても思ったけれど、文章を介して、より彼女のパワーが伝わってくる。
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わたしには同じに思えても、生命に溢れ四季もある砂漠の美しさや、ラクダとの戯れ。お茶や食事をゆっくり時間をかけて囲み、家族や友達とゆっくり休息をとること、「ラーハ」の時間を多くもつ人生を幸福だと捉える、人々の暮らしの様子が鮮やかに描かれていた。
前半の彼らの暮らしが鮮やかだった分、シリア内戦勃発後が余計に辛い。「難民」とひとつに括られる存在だけれども、彼らにも、それまでの人生で紡いできた文化や価値観があるから、新しい土地に適応するのは本当に大変だと思うし、そもそも、難民キャンプでこの先の希望が見えずに自国に戻っていく人も沢山いることを初めて知ったのだけど、その選択をする人々の気持ちは分かるかもしれない。
あと、シリアの市民が、どういう動機でISに参加するのか昔は、不思議に思っていたけれど、そこも描かれていた。
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また時間を空けて読みたい。
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Posted by ブクログ
まず著者がすごい人。K2登頂だけでもすごいのに、その後の生き方がまたすごい。というか、たまたまシリアに縁ができ、今の夫、夫の家族との付き合いが始まったところにシリアの内戦が始まり、シリアの人々の苦難に沿うことになった。
どう解決するのか、いつ解決するのか、全く見通しが立たない。
遊牧民の大家族の幸せな暮らしが一変してしまったのがとても辛い。
シリア人の一族を通して、シリアの人々のことを考えさせてもらったことに感謝する。今後の家族のこともとても気になる。ものすごく逞しく生きていらっしゃるが、逞しくならなければ生きていけないということでもあるだろう。
何かできることがあるはずだが、とりあえず今はシリア内戦について、シリア難民について関心を持ち続けよう。
コロナ禍で、どの国も自分の国のことを考えるのが精一杯という中で、難民でいるということはどれほどの絶望だろう。 -
Posted by ブクログ
本書の冒頭にいくつかの写真が載っている。
著者の家族や移民の人々、廃墟と化したパルミアという街、アサド政権下での収容所。これだけ見ると報道写真のようで、たしかに悲惨さには痛切なものを感じるものの、それだけで読み流してしまうかもしれない。
しかし、本編を読んでいくと、そのような流れに身を任せることを許されなくなる。
写真に映るものの背景が深掘りされていく。そこに映る人々や街には、それぞれの当たり前の人間的な日常があり、そしてそれが破壊されていく過程が延々と描かれる。
読み終えたあとに冒頭の写真を見直すと、ただの報道写真のように見えなくなる。シリアといわれてもあまり想像がつきにくいが、ここで描かれる人々は(良くも悪くも)われわれの想像の外にあるような人々ではない。本書内で時折挟まれるちょっとしたユーモラスに聞こえるエピソードは、それを加速させる。 -
Posted by ブクログ
シリアの総勢70名の大家族「アブドゥルラティーフ」一家の十二男と結婚された小松由佳さん。
主には日本で暮らされているが、シリアの家族の一員でもあるため、家族から聞いたであろうシリア人の視点で見る国の状況や、それらに対する思い、またどうやってシリアの人々は自分の命を守ってきたかなど、今まで知らなかった視点からのシリアについて書かれた1冊。
またシリアの国自体が、その時々でどんな状況であったのかなども、色々な説明も交えながら書かれているので、「ニュースで聞いたことはあるけど。」程度の知識だった私でも、読み易い感じだった。
正直、シリアの人々がこんな過酷で苦しい状況を過ごしていたのかと思うとショックが大きかった。
また、日本で生活している私がどうこうできることではないとはわかっていても、この酷い状況について無知であったことに申し訳なさを感じた。
特にサイドナヤ刑務所の話は衝撃的だった。
遠い国のことではあるものの、他人事としてではなく知るべき現実が書かれており、たくさんの人に読んでほしいと思う内容だった。