小松由佳のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「人間の土地へ」を読んで感銘を受けたので、その後のシリアの情勢も気になり、アサド政権が崩壊した時も小松さんのことを思い出していた。
少し読むのが遅れたが、今回もこの本を読まなければ知らなかった、わからなかったことがいっぱいあって、よくぞ書いてくださったと思う。ただの?ノンフィクションでなく、自分のことも書いておられるので、遠い世界がグッと近く感じられる。
全く無知の私がいうのもなんだが、いつまで続くんだと思われた独裁政権があっという間に崩壊したのは驚きだった。2度と足を踏み入れられないと思われていた故郷に戻れたシリアのご家族を通して、そのほかのシリアの人々の喜びも伝わってくる。インフラも街全体も自宅も崩壊した状態から始めなければいけないし、政権も安定しないし、まだまだ苦労が続くだろうが、秘密警察や密告に怯えなければいけない日々から解放されて、本当に良かった。
2年後には解放されていると想像もできなかった2022年単独でシリアに入国され、パルミラに向かわれた第五章は、こんな言い方は失礼かもしれないがスリリングで、読み物としてすごく惹きつけられた。
小さな船で密入国を試み、失敗しても何度も試み、言葉も知らない国で生活を再建しようとする難民の逞しさ、力強さに、人間って強いものだと力づけられる。家族間、親族間の濃厚なつながりは今の一般的な日本人には想像がつかない。
そうするしかすべないから仕方なくとはいえ、平和に暮らしている国の人は、精神的にも肉体的にももっともっと弱いのではないか。
日本に生まれたから平和で幸せといった日々が、この先も続くのか。自分は難民になんかなるはずがないなんてことが言えるのか。そんなことも考えた。
政権批判しただけで、連行され、拘束され、拷問され、殺害されるなんてことは絶対に絶対にイヤなので、できるうちにダメなものはダメとしっかり抵抗しなければいけないと改めて思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ前回作では、登山家としての姿から、土地に深く根を下ろした人々の生活に魅力されていく姿が描かれていた。シリアの沙漠に住むベドウィンとその流れを汲むアブドゥルラティーフ一家と出会い、アラブ民族やイスラム教徒との文化的違いに直面しながら、人々の生活や想いを描いていて、異なる文化や宗教に関して感じることが多くあった。
一方で今作は、読み進めるのが躊躇われる、正に筆舌に尽くしがたいようなアサド政権下の蛮行も描かれていた。
難民としてフランスまで陸路で逃れ、密航船でドーバー海峡を渡ってイギリスへ逃れることを待ち望む人たち。著者がクルーズ船で数時間で渡れてしまう海を、彼らが大金を支払って命がけの航海を強いられる理由は、ただシリア人であるから。つい数日前に談笑した人々が、冷たい海で命を落とす現実。
当初、著者が惹かれて写真に収めようとしたものは、政局の不安定化とともに違うものを浮かび上がらせていく。故郷とは、国籍とは、人が生きる目的とは。
幼い子どもたちを預けてアサド政権下のシリアに取材に入り、秘密警察の監視下に置かれながら、許されるか許されないかのギリギリの交渉と撮影を行う姿からは、写真家ともジャーナリストともまた違う、何かに突き動かされ、追い求めずにはいられない差し迫るような熱情を覚える。
夫であるラドワンから見たシリアとその人々、家族への想いには、その土地で生まれ育ち、家族が住む故郷を離れ、難民や兵士として生きた経験をした者でなければ理解できないであろう心情もある。
シリアへ帰ろうと心に決めたであろう夫と、著者はこれからどんな人生を歩むのだろうか。 -
Posted by ブクログ
新聞の書評欄で知った本。
最初は、厚さに躊躇したけれど、無用な心配だった。写真家として活動を始めた筆者が、内戦前のシリアで出会った家族。その12男と恋に落ち結婚。筆者の目から見たシリアの14年間を描く。
しっかりした文章、丁寧な背景の説明、時にユーモアを感じさせる夫とのやりとりに、シリアについて無知だった私でも読み切ることができた。そして、今までニュースでしか知らなかった単語(シリア、アサド政権、アレッポ、ヒズボラ、IS)が何を示していたのか理解できた。
70年幸せに生きてきたガーセムの様なことが、もし自分におきたら‥と考えると本当に怖いと思う。理不尽だと思う。
退避勧告を受けながらパルミラに向かった小松さんの信念の強さに驚くとともに、無事でよかったとつくづく思った。と、同時に大使館の仕事も大変だと思った。派遣先の国による差が大きそう。
サイドナヤ刑務所の章はなぜ人はここまで残酷になれるのかと思い、学生時代に習った刑務官と囚人の実験を思い出した。
写真を踏めないくだりも、私は小松さんの気持ちが理解できるけれど、立場が変わったら理解できなくなるのかもしれない。
とても勉強になる本だった。
これからは、シリアのニュースを関心を持って見られそうだ。 -
Posted by ブクログ
この本は冒険研究所書店の荻田さんに選書して頂いた中の一冊でした
選書でなくては出会えない本でしたね
本当にありがとうございました
最初は、シリアの内戦等はニュースで耳にする程度で何も知らなかったし、興味が無かったので、果たしてこの本最後まで読み切れるだろうか?と不安だったのですが、世界で最も困難な山K2に日本人女性初登頂した話の冒頭スタートして一気に引き込まれました
しかしネパールの登山とシリアの話にどう繋ごって行くのかというのも疑問だったのですが、小松さんのジャーナリスト精神と地球に生きたいという気持ちがシリアに向かわせ、決して最初から内戦や政治について取り上げたいと思っていた訳では無かったので、シリアに興味の無い私も小松さんの行動に興味をもちどんどん引き込まれました
そしてシリアの現実がどんなに理不尽で酷いもの知る事ができました
警察が市民の為に働かず、例えば盗難があれば本人同士で解決するか警察に言うなら賄賂が必要だと、、、そんな国って現実にあるんだ
日本に、住んでいるから平和ボケという状態なんだろうけど、平和な日本が異常なのかシリアが異常なのか読んでいたら分からなくなってきた
こちらは2020年の本、この続きとして2025年に【シリアの家族】が発売されているので、早く買って読みたいです
そしてつくづく人種の壁、宗教の壁は高く、分かり合えないもんだな
移民受け入れ断固拒否!!!と思った -
Posted by ブクログ
世界中でシリア難民の存在が語られ続けた十数年であったが、そのシリアで何が起こっていたのかを命がけの取材をもとに記録した一冊が、日本人の手によるものだということに驚く。しかも彼女はシリア人と結婚しシリア人大家族の一員となっている。アサド政権崩壊は、様々な国際間の暗黙の了解のもとに行われたという彼女の分析も説得力がある。実際ロシアは、アサド政権を援助しなかったが、反政府勢力から引き続きシリア国内のロシア軍基地の使用を認められているのだという。国際社会のパワーバランスのもとで翻弄され、国土の荒廃を目の当たりにしたシリア人の美しいふるさとが、再びよみがえることを願ってやまない。そして自国の利益最優先の大国に翻弄されていく、全く行動できない国連の存在に強く失望と憤りを感じるばかりだ。
-
Posted by ブクログ
描かれている人たちのことが気になり、
1日もかからず読み終えた。読む前、読んでいる最中、読後と扉の写真を何度も見て、そこに映る人物を想像した。
シリアの国籍を持っているために、欧州をはじめとする豊かな国への入国が制限され、高額な費用を払い難民として命懸けで入国を目指さなければならない現実に衝撃を受けた。
アサド政権の闇を世界に告発した、シーザーファイルが公開されたのは2014年1月、アサド大統領がモスクワに亡命したのが2024年12月。
政権によるシリアの人々への残虐行為を10年以上も放置した国際社会の一員であることを、本書で知らされた。 -
Posted by ブクログ
シリアの独裁国家下で暮らす人々を写真と共に伝える素晴らしいノンフィクションです。
アサド政権崩壊だけではない、シリア人の夫に持つ著者だからこそ重く伝わる話が盛り沢山です。シリア人の家族や故郷への想い、女性蔑視が根強い男性主体の家族形態等、興味深い話も。
また、独裁国家がどのように運営され、崩壊していくのか、その過程も学べます。以前読んだ本に独裁者はランニングマシーンを走ってる様なもので一回乗ったら降りられない、と書いてありましたが、ロシアに亡命したアサドもいつも死と隣り合わせで、孤独なまま政権崩壊を外から見ていたのでしょう。
中東が混迷する昨今、この書籍から学べる事は沢山あります。
-
Posted by ブクログ
ネタバレシリアのことを全く知らなくて、そういえば高校の近代史の授業でアサド政権の独裁とか出てきた気がする程度の知識しかなかった。私の高校時代って20年くらい前なのに、そんな前から(もっと前から)ついこの前(2024年)までずっと独裁が続いていたのか!と思った。
そして、そんなにも長く続いていた独裁が、2024年に崩壊したなんて、大ニュースなのに、私は全く気にしていなかった。
シリア人と結婚した著者の経験として、興味深いシリアの文化や社会情勢を知ることができて面白かった。第二夫人事件も、日本人同士の結婚ではまず起きない出来事で興味深かった。それにしても、文化とはいえ、シリアの男尊女卑は、やっぱり私には耐えられないと思う。
2人の幼い子どもがいるのに、アサド政権下の危険なシリアに取材に行くのがすごいなと思った…。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ【シリアの家族】 小松 由佳 著
これはもう…壮絶。本年上半期の暫定第1位、文句なしのノンフィクション賞です。
写真家の著者がシリア人と知り合い結婚。シリア難民が国外に出ようとする惨状や英国に渡るまでの壮絶なルポ(この難民たちはボートが転覆して全員死亡)、アサド政権とこれを支援するロシア軍と反政府軍との戦闘、加えてISとの戦闘、反政府軍によるアサド政権の崩壊とその後のイラン・ヒズボラ対イスラエル戦争によるイスラエルからの空爆。これらを著者自身が肌で感じたことや、シリア親族・市民の動き、経済などを克明に描いて、全巻ハラハラ・ドキドキの連続です。国際政治に翻弄される国の姿や、『夜と霧』『エルサレムのアイヒマン』を彷彿させる極限状態での人々の生きざまも書かれ、シリアという国が如何に凄惨であったかがわかります。また、写真家である著者は、シリア内戦で荒れ果てた夫の故郷を撮ろうと単身乗り込み、秘密警察と交渉を重ねますが、こちらも緊張の連続。
笑ってしまうのは(いや、笑ってはいけないが)、そこまで苦労して戻ると夫から「第二夫人を娶りたいから、自分と彼女の生活費二人分、工面して」と言われる場面。著者も衝撃で「第二夫人騒動」として1章を割いていますが、この章はアラブと日本の価値観(書きたいが書けない内容含む)が如何に違うのかがよくわかります。
こうした惨状は、たった一人の指導者に起因し、その影響が如何に大きいかを思い知らされます。しかし、「独裁国家は、強力な独裁者が存在するから維持されるのではなく、それに同調し、従う民衆が一定数存在するから維持されるのではないだろうか。(中略)今置かれている状況は、ある意味、それを選び取ってきたシリアの人々の選択の結果ともいえるのではないか」という問いには、本書を読むと「YES」と言わざるを得ないと思います。
何だかんだ言っても平和に過ごせる日本に感謝と、自分には思いもよらない世界があるのだということを痛感させられた圧巻の1冊です。
PS
かつて、ヨルダン出張の際、地元料理を所望。「お前、マジか!?」と呆れられながら、砂漠を突っ切って、ベドウィン料理を食べに行きました。最初に出てくるのが、本書にも出てくる「マンサフ」。客人への最高のおもてなしと聞いて期待していたところ、出てきたのは、お皿の上にポンと置かれた羊の頭の丸焼き。「舌(一つしかない)⇒目(二つしかない)⇒耳(同様)」と目の前で切り出され、結局、どれも食べられませんでした…。 -
Posted by ブクログ
イラク対アメリカ&イスラエルの戦争のニュースが毎日トップニュースになり、ウクライナの戦争は相変わらず継続し、ガザは戦争こそ終わった(終わった?で良いのよね)もののまだまだ悲惨な状況は継続していて・・・そんな中、これを含め戦争関連の本を何冊か並行して読んでいた。
そして、思うのは、絶対の正義があるわけではない。それぞれの視点でそれぞれの言い分や正義があり、いかにそこを折り合っていくのかがとても難しいということ。
この本は、取材を通じて知り合った一家の息子(12男)と恋に落ち結婚した著者が、日本人としての感覚をベースに、家族となったシリア人(スンナ派で、庶民の側に立つ一家)家族を通して見たシリア内戦、そしてアサド政権崩壊に至る13.14年について書かれたもの。
今までは、ニュースなどで知っていただけだったので、アサド大統領も強権的な独裁者だし、ロシアやイランも絡んでいるし、ISもいるし、大変だし怖そうでとっても行けないところという印象だけで力関係も何もよくわからない感じだったが、これを読んで権力がどこと結びついていて、一般の人たちがそれにどう対応しつつ生きていたのかが、よくわかった。
また、よくとり沙汰されるシリア難民というものも、どういう経緯でどうやって生み出されていくのかもよくわかった。
何よりも、取材者としての外からの目線ではなく、著者が家族の一員でもあることで、ベドウィンの文化的背景を持った一家が、どういう考えのもとこういう行動をしているのかなどがよく伝わってきた。
自分たちを支配するものがコロコロ変わる中、物理的な爆撃などの被害を避けながらいかに家族で生き残っていくのか。政権側についていた人間がその崩壊後どういう態度をとり、また周りはそれにどう対応するのか。密告の危険、揚げ足を取られる危険からどう自分の身を守りつつ優しさをどう示すのかなどなど。ぬるま湯の日本で、のほほんと過ごしている私からは想像もつかない緊張感の中での暮らしというのも伝わってきた。
また、相手のことは尊重しつつも、文化的に隔たりが大きい夫との関係性、自分自身の打算的な部分も含めて正直に書いている著者の姿勢には好感が持てた。
著者の周囲のシリア人は、アサド政権崩壊時のシリア内のイラン拠点へのイスラエルの空爆を肯定している意見が多く、以前と比べて対イスラエル感情も変化していると述べている。今回はこういう反応になっているが、これもなかなか難しそうだ。今回、アサド政権をバックアップしてやりたい放題をしていたイラン軍に対してだからイスラエルの攻撃も好意を持たれても、もし誤爆が相次ぎシリアの一般の犠牲が多ければまた感情は異なるだろう。
相手に対する恨みが日常茶飯事の環境の中で、それでも自分が前を向いて生きていくためには秘めるべきものは秘め、切り替えることは切り替え、でも忘れないものは忘れない 中東は、本当にそれぞれがそれぞれの立場で、ぎりぎりを生きている土地なのだなと思う。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ第23回開高健ノンフィクション賞受賞作。
1935年生まれのガーセムを家長とするアブドゥルラティーフ一家は、シリア中部のオアシス都市パルミラに住む四世代、総勢70名近くからになる大家族。著者の夫はガーセムの子16 人の末っ子の12男。シリアの家族の物語は、著者の家族の物語であった。
内戦で荒廃していく故郷。秘密警察に囚われ、二度と帰ることのなかった6男サーメル、家長ガーセムはISに支配された故郷から避難民として国内を転々とし、最後はトルコへ入国。その後、一家の残りの家族も不法入国の斡旋業者のサポートのもと、谷や山、荒野を歩き、徒歩で国境を越え、シリア国境に近いトルコの街へ。しかしシリア情勢は改善せず、10男アブドゥルメナムと5男アーメルの長男エブラヒムは新たの希望を求めてイギリスへ。家族は少しずつバラバラに。
著者は2022年アサド軍事政権化のもと、一家の故郷であるパルミラへ「親族訪問ビザ」で取材に向かう。秘密警察に監視された「1985年」のような社会。ISの支配と、それからの奪還のために空爆されて破壊され尽くしたパルミラ。秘密警察の監視に抗いながら、必死の覚悟で写真を撮る著者。
そして、2024年12月8日のアサド政権崩壊から8日後に夫ラドワンと長男サーメルとともにシリアに入国。内戦で傷ついた人々、土地を訪ねる。
内戦の始まりから終わり、そして新しく始まった歴史の中を生きるシリアの人々、独裁者や外国勢力や過激派組織に翻弄されるシリアの人々を、著者の大家族を通じて描きます。
戦場の悲惨は、数字ではなく、その数だけの家族、それぞれ名前のある個人の悲惨であることを知らしめます。そのことに想いを馳せることです。