あらすじ
第23回開高健ノンフィクション賞受賞作
選考委員大絶賛!
書き手自身を取り巻く「人間」を、シリアの政治と歴史への深い理解とともに厚みをもって描ききった。 加藤陽子(東京大学教授・歴史学者)
大家族の幸せな記憶、その一瞬の光芒が眼前に浮かんできそうだ。名作である。 姜尚中(政治学者)
もはや言葉にすらできぬ過酷な日常を現実として生きた/生き続ける女性がいる。 藤沢 周(作家)
世界が抱える矛盾を独自の視点で描ききった秀作。 堀川惠子(ノンフィクション作家)
秘密警察も移民となったシリア人も政府軍兵士もイラン軍兵士も、すべて等身大の人間として描かれている。 森 達也(映画監督・作家)
※五十音順/選評より
風土に根差して生きる人々を撮り続ける著者は、シリアの沙漠で総勢70名という大家族アブドゥルラティーフ一家と出会い、その十二男、ラドワンと恋に落ちる。
やがて「アラブの春」から始まるシリア内戦に巻き込まれ、ラドワンは徴兵され、六男サーメルは政治犯として逮捕される。一家は故郷パルミラを追われ、難民として散り散りになってしまう。
脱走兵としてヨルダンに逃れたラドワンと結婚し、「シリアの家族」の一員となった著者は、異郷に生きる難民たちの取材を始める。
難民となりトルコで暮らして5年。一家の長である義父・ガーセムが、故郷に帰る夢を叶えることなく永眠した。アブドゥルラティーフ家の故郷パルミラの今を見たい・・・・・・。著者は11年ぶりにシリアに向かい、秘密警察の監視や親族による軟禁をくぐり抜け、かつて一家が暮らした家にたどり着く。
命がけの取材から帰還した著者を待ち受けていたのは、夫ラドワンの「第二夫人を娶りたい」という驚きの一言だった・・・・・・。
2024年12月、生きて故郷の土を踏むことはないと思っていたラドワン、そして多くのシリア難民に転機が訪れる。半世紀以上にわたって独裁を続けてきたアサド政権が崩壊したのだ。
政権崩壊から8日後、著者はラドワンと長男と共にシリアに入る。逮捕されたサーメルの消息を求め、「人間虐殺の場」と呼ばれたサイドナヤ刑務所を訪れる。その現場で目にしたもの、そして数少ない生存者が語った言葉は衝撃的なものだった。
激動のシリアを生きた市井の人々の、等身大の姿を描くノンフィクション。
小松由佳(こまつ ゆか)
ドキュメンタリー写真家。1982年、秋田県生まれ。2006年、世界第2位の高峰K2(8611m/パキスタン)に日本人女性として初めて登頂し、植村直己冒険賞を受賞。風土に根差した人間の営みに惹かれ、草原や沙漠を旅しながら写真家を志す。12年からシリア内戦・難民を取材。著書に『人間の土地へ』(20年 集英社インターナショナル)など。日本写真家協会会員。
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シリアの男性と結婚した 写真家の日本女性の
眼から見たシリア内戦、そしてシリアの家族を
描く。
夫の家族は 両親、15人の兄姉、甥姪の四世代で暮らす総勢70人程の大家族。
ラクダ100頭を飼う ベドウィン一族。
そこにアサド政権による市民の弾圧が襲う。
夫の家族にも。6男と9男が民主化運動に参加。
逃亡生活を。6男逮捕され行方不明。夫は 徴兵され政府軍兵士になるも 軍を脱出。難民に。
シリアの家族は 砂漠を転々とし、トルコへ。
10男と甥は 欧州を目指す。
アサド政権やシリアの内戦は 日本でもさまざま
報じられ 酷い状況だとは知っていた。
所詮 遠い国の出来事。憤る以外何にも出来なかった。
この作品は シリア難民の妻、二児の母、写真家として シリア、シリア人のリアルを描く。
読んでいる途中 何度 彼らの置かれた理不尽さ、過酷さに涙し、悲嘆したことか。
54年間にわたって支配したアサド政権は倒れた。しかし 彼らの国は破壊し尽くされてしまった。500万人と言われる難民は故郷に帰れても
待ち受けるのは まだまだ苦難な生活。
一部の強欲なトップ達によってもたらされる内乱、戦争は 何ももたらさない。国の崩壊と
辛酸を舐める人民のみ。
歴史は繰り返す。どうしてその歴史から人間は学ばないのだろう。
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「人間の土地へ」を読んで感銘を受けたので、その後のシリアの情勢も気になり、アサド政権が崩壊した時も小松さんのことを思い出していた。
少し読むのが遅れたが、今回もこの本を読まなければ知らなかった、わからなかったことがいっぱいあって、よくぞ書いてくださったと思う。ただの?ノンフィクションでなく、自分のことも書いておられるので、遠い世界がグッと近く感じられる。
全く無知の私がいうのもなんだが、いつまで続くんだと思われた独裁政権があっという間に崩壊したのは驚きだった。2度と足を踏み入れられないと思われていた故郷に戻れたシリアのご家族を通して、そのほかのシリアの人々の喜びも伝わってくる。インフラも街全体も自宅も崩壊した状態から始めなければいけないし、政権も安定しないし、まだまだ苦労が続くだろうが、秘密警察や密告に怯えなければいけない日々から解放されて、本当に良かった。
2年後には解放されていると想像もできなかった2022年単独でシリアに入国され、パルミラに向かわれた第五章は、こんな言い方は失礼かもしれないがスリリングで、読み物としてすごく惹きつけられた。
小さな船で密入国を試み、失敗しても何度も試み、言葉も知らない国で生活を再建しようとする難民の逞しさ、力強さに、人間って強いものだと力づけられる。家族間、親族間の濃厚なつながりは今の一般的な日本人には想像がつかない。
そうするしかすべないから仕方なくとはいえ、平和に暮らしている国の人は、精神的にも肉体的にももっともっと弱いのではないか。
日本に生まれたから平和で幸せといった日々が、この先も続くのか。自分は難民になんかなるはずがないなんてことが言えるのか。そんなことも考えた。
政権批判しただけで、連行され、拘束され、拷問され、殺害されるなんてことは絶対に絶対にイヤなので、できるうちにダメなものはダメとしっかり抵抗しなければいけないと改めて思った。
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作品ももちろん素晴らしいけど、著者のこの作品を書くための態度(当然この本に書かれている)が恐れ入りましたといった感じ
この著者の名前「小松由佳」は自分の記憶に最高のライターとして永久にとどまり続けるだろう
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前回作では、登山家としての姿から、土地に深く根を下ろした人々の生活に魅力されていく姿が描かれていた。シリアの沙漠に住むベドウィンとその流れを汲むアブドゥルラティーフ一家と出会い、アラブ民族やイスラム教徒との文化的違いに直面しながら、人々の生活や想いを描いていて、異なる文化や宗教に関して感じることが多くあった。
一方で今作は、読み進めるのが躊躇われる、正に筆舌に尽くしがたいようなアサド政権下の蛮行も描かれていた。
難民としてフランスまで陸路で逃れ、密航船でドーバー海峡を渡ってイギリスへ逃れることを待ち望む人たち。著者がクルーズ船で数時間で渡れてしまう海を、彼らが大金を支払って命がけの航海を強いられる理由は、ただシリア人であるから。つい数日前に談笑した人々が、冷たい海で命を落とす現実。
当初、著者が惹かれて写真に収めようとしたものは、政局の不安定化とともに違うものを浮かび上がらせていく。故郷とは、国籍とは、人が生きる目的とは。
幼い子どもたちを預けてアサド政権下のシリアに取材に入り、秘密警察の監視下に置かれながら、許されるか許されないかのギリギリの交渉と撮影を行う姿からは、写真家ともジャーナリストともまた違う、何かに突き動かされ、追い求めずにはいられない差し迫るような熱情を覚える。
夫であるラドワンから見たシリアとその人々、家族への想いには、その土地で生まれ育ち、家族が住む故郷を離れ、難民や兵士として生きた経験をした者でなければ理解できないであろう心情もある。
シリアへ帰ろうと心に決めたであろう夫と、著者はこれからどんな人生を歩むのだろうか。
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あらゆる角度からシリアという国と日本を照らす作品
戦争や独裁政権の悲惨さ恐怖
シリアという国の文化や歴史
日本との違い
家族をベースに精度高く描き出す
傑作
Posted by ブクログ
新聞の書評欄で知った本。
最初は、厚さに躊躇したけれど、無用な心配だった。写真家として活動を始めた筆者が、内戦前のシリアで出会った家族。その12男と恋に落ち結婚。筆者の目から見たシリアの14年間を描く。
しっかりした文章、丁寧な背景の説明、時にユーモアを感じさせる夫とのやりとりに、シリアについて無知だった私でも読み切ることができた。そして、今までニュースでしか知らなかった単語(シリア、アサド政権、アレッポ、ヒズボラ、IS)が何を示していたのか理解できた。
70年幸せに生きてきたガーセムの様なことが、もし自分におきたら‥と考えると本当に怖いと思う。理不尽だと思う。
退避勧告を受けながらパルミラに向かった小松さんの信念の強さに驚くとともに、無事でよかったとつくづく思った。と、同時に大使館の仕事も大変だと思った。派遣先の国による差が大きそう。
サイドナヤ刑務所の章はなぜ人はここまで残酷になれるのかと思い、学生時代に習った刑務官と囚人の実験を思い出した。
写真を踏めないくだりも、私は小松さんの気持ちが理解できるけれど、立場が変わったら理解できなくなるのかもしれない。
とても勉強になる本だった。
これからは、シリアのニュースを関心を持って見られそうだ。
Posted by ブクログ
世界中でシリア難民の存在が語られ続けた十数年であったが、そのシリアで何が起こっていたのかを命がけの取材をもとに記録した一冊が、日本人の手によるものだということに驚く。しかも彼女はシリア人と結婚しシリア人大家族の一員となっている。アサド政権崩壊は、様々な国際間の暗黙の了解のもとに行われたという彼女の分析も説得力がある。実際ロシアは、アサド政権を援助しなかったが、反政府勢力から引き続きシリア国内のロシア軍基地の使用を認められているのだという。国際社会のパワーバランスのもとで翻弄され、国土の荒廃を目の当たりにしたシリア人の美しいふるさとが、再びよみがえることを願ってやまない。そして自国の利益最優先の大国に翻弄されていく、全く行動できない国連の存在に強く失望と憤りを感じるばかりだ。
Posted by ブクログ
独裁政権下内戦での厳しさと苦しみ、そして
悲しさがこれでもかと描かれていているが、
この本には生きた人間とが刻み込まれている
だからこそ悲しさだけではないとも言えるが
逆に悲しさが際立っているとも感じた
Posted by ブクログ
描かれている人たちのことが気になり、
1日もかからず読み終えた。読む前、読んでいる最中、読後と扉の写真を何度も見て、そこに映る人物を想像した。
シリアの国籍を持っているために、欧州をはじめとする豊かな国への入国が制限され、高額な費用を払い難民として命懸けで入国を目指さなければならない現実に衝撃を受けた。
アサド政権の闇を世界に告発した、シーザーファイルが公開されたのは2014年1月、アサド大統領がモスクワに亡命したのが2024年12月。
政権によるシリアの人々への残虐行為を10年以上も放置した国際社会の一員であることを、本書で知らされた。
Posted by ブクログ
シリアで実際に何を見たのか、筆者の個人的な体験や意見も交えて書かれている。知らなかったショッキングなことも多々あった。命懸けの取材による貴重な文章と写真。ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊。
Posted by ブクログ
シリアの独裁国家下で暮らす人々を写真と共に伝える素晴らしいノンフィクションです。
アサド政権崩壊だけではない、シリア人の夫に持つ著者だからこそ重く伝わる話が盛り沢山です。シリア人の家族や故郷への想い、女性蔑視が根強い男性主体の家族形態等、興味深い話も。
また、独裁国家がどのように運営され、崩壊していくのか、その過程も学べます。以前読んだ本に独裁者はランニングマシーンを走ってる様なもので一回乗ったら降りられない、と書いてありましたが、ロシアに亡命したアサドもいつも死と隣り合わせで、孤独なまま政権崩壊を外から見ていたのでしょう。
中東が混迷する昨今、この書籍から学べる事は沢山あります。
Posted by ブクログ
まさに著者の命をかけた作品。
内側にいるからこその視点でシリアが描かれている。
日本から遠く離れたシリアでの出来事はどうしても他人事になってしまう。
当たり前だか、現地の人々にも感情があり家族があり、かけがえのない命があることを感じた。
恥ずかしながらシリアについての知識がなさすぎる。シリアやイスラム教について、もう少し勉強したい。
Posted by ブクログ
シリアのことを全く知らなくて、そういえば高校の近代史の授業でアサド政権の独裁とか出てきた気がする程度の知識しかなかった。私の高校時代って20年くらい前なのに、そんな前から(もっと前から)ついこの前(2024年)までずっと独裁が続いていたのか!と思った。
そして、そんなにも長く続いていた独裁が、2024年に崩壊したなんて、大ニュースなのに、私は全く気にしていなかった。
シリア人と結婚した著者の経験として、興味深いシリアの文化や社会情勢を知ることができて面白かった。第二夫人事件も、日本人同士の結婚ではまず起きない出来事で興味深かった。それにしても、文化とはいえ、シリアの男尊女卑は、やっぱり私には耐えられないと思う。
2人の幼い子どもがいるのに、アサド政権下の危険なシリアに取材に行くのがすごいなと思った…。
Posted by ブクログ
【シリアの家族】 小松 由佳 著
これはもう…壮絶。本年上半期の暫定第1位、文句なしのノンフィクション賞です。
写真家の著者がシリア人と知り合い結婚。シリア難民が国外に出ようとする惨状や英国に渡るまでの壮絶なルポ(この難民たちはボートが転覆して全員死亡)、アサド政権とこれを支援するロシア軍と反政府軍との戦闘、加えてISとの戦闘、反政府軍によるアサド政権の崩壊とその後のイラン・ヒズボラ対イスラエル戦争によるイスラエルからの空爆。これらを著者自身が肌で感じたことや、シリア親族・市民の動き、経済などを克明に描いて、全巻ハラハラ・ドキドキの連続です。国際政治に翻弄される国の姿や、『夜と霧』『エルサレムのアイヒマン』を彷彿させる極限状態での人々の生きざまも書かれ、シリアという国が如何に凄惨であったかがわかります。また、写真家である著者は、シリア内戦で荒れ果てた夫の故郷を撮ろうと単身乗り込み、秘密警察と交渉を重ねますが、こちらも緊張の連続。
笑ってしまうのは(いや、笑ってはいけないが)、そこまで苦労して戻ると夫から「第二夫人を娶りたいから、自分と彼女の生活費二人分、工面して」と言われる場面。著者も衝撃で「第二夫人騒動」として1章を割いていますが、この章はアラブと日本の価値観(書きたいが書けない内容含む)が如何に違うのかがよくわかります。
こうした惨状は、たった一人の指導者に起因し、その影響が如何に大きいかを思い知らされます。しかし、「独裁国家は、強力な独裁者が存在するから維持されるのではなく、それに同調し、従う民衆が一定数存在するから維持されるのではないだろうか。(中略)今置かれている状況は、ある意味、それを選び取ってきたシリアの人々の選択の結果ともいえるのではないか」という問いには、本書を読むと「YES」と言わざるを得ないと思います。
何だかんだ言っても平和に過ごせる日本に感謝と、自分には思いもよらない世界があるのだということを痛感させられた圧巻の1冊です。
PS
かつて、ヨルダン出張の際、地元料理を所望。「お前、マジか!?」と呆れられながら、砂漠を突っ切って、ベドウィン料理を食べに行きました。最初に出てくるのが、本書にも出てくる「マンサフ」。客人への最高のおもてなしと聞いて期待していたところ、出てきたのは、お皿の上にポンと置かれた羊の頭の丸焼き。「舌(一つしかない)⇒目(二つしかない)⇒耳(同様)」と目の前で切り出され、結局、どれも食べられませんでした…。
Posted by ブクログ
著者はシリア人男性との結婚によって、内戦前から内戦後に至るシリアの人びとを至近距離から取材できる立場にあった。それが本書を他にはない臨場感のあるレポートにしている。内戦下のシリアの人びとの多様なあり方になるほどと思わされることも多々あったが、何と言っても全編から滲み出る著者の取材者としての野心とタフさである。特に夫との関係性についての記述からは目が離せなかった。面白い!
Posted by ブクログ
自分が生きているこの時代に、こんなことがあったのかと驚き、リアリティ溢れる文章が、印象的だった。テレビニュースでは報道されない、親族の写真家だからこその経験は読んでいて没入感がすごいし、戦争が終わってからも家族にとっての家や故郷に対する苦しみはまだ続いているんだと考えさせられた。
Posted by ブクログ
イラク対アメリカ&イスラエルの戦争のニュースが毎日トップニュースになり、ウクライナの戦争は相変わらず継続し、ガザは戦争こそ終わった(終わった?で良いのよね)もののまだまだ悲惨な状況は継続していて・・・そんな中、これを含め戦争関連の本を何冊か並行して読んでいた。
そして、思うのは、絶対の正義があるわけではない。それぞれの視点でそれぞれの言い分や正義があり、いかにそこを折り合っていくのかがとても難しいということ。
この本は、取材を通じて知り合った一家の息子(12男)と恋に落ち結婚した著者が、日本人としての感覚をベースに、家族となったシリア人(スンナ派で、庶民の側に立つ一家)家族を通して見たシリア内戦、そしてアサド政権崩壊に至る13.14年について書かれたもの。
今までは、ニュースなどで知っていただけだったので、アサド大統領も強権的な独裁者だし、ロシアやイランも絡んでいるし、ISもいるし、大変だし怖そうでとっても行けないところという印象だけで力関係も何もよくわからない感じだったが、これを読んで権力がどこと結びついていて、一般の人たちがそれにどう対応しつつ生きていたのかが、よくわかった。
また、よくとり沙汰されるシリア難民というものも、どういう経緯でどうやって生み出されていくのかもよくわかった。
何よりも、取材者としての外からの目線ではなく、著者が家族の一員でもあることで、ベドウィンの文化的背景を持った一家が、どういう考えのもとこういう行動をしているのかなどがよく伝わってきた。
自分たちを支配するものがコロコロ変わる中、物理的な爆撃などの被害を避けながらいかに家族で生き残っていくのか。政権側についていた人間がその崩壊後どういう態度をとり、また周りはそれにどう対応するのか。密告の危険、揚げ足を取られる危険からどう自分の身を守りつつ優しさをどう示すのかなどなど。ぬるま湯の日本で、のほほんと過ごしている私からは想像もつかない緊張感の中での暮らしというのも伝わってきた。
また、相手のことは尊重しつつも、文化的に隔たりが大きい夫との関係性、自分自身の打算的な部分も含めて正直に書いている著者の姿勢には好感が持てた。
著者の周囲のシリア人は、アサド政権崩壊時のシリア内のイラン拠点へのイスラエルの空爆を肯定している意見が多く、以前と比べて対イスラエル感情も変化していると述べている。今回はこういう反応になっているが、これもなかなか難しそうだ。今回、アサド政権をバックアップしてやりたい放題をしていたイラン軍に対してだからイスラエルの攻撃も好意を持たれても、もし誤爆が相次ぎシリアの一般の犠牲が多ければまた感情は異なるだろう。
相手に対する恨みが日常茶飯事の環境の中で、それでも自分が前を向いて生きていくためには秘めるべきものは秘め、切り替えることは切り替え、でも忘れないものは忘れない 中東は、本当にそれぞれがそれぞれの立場で、ぎりぎりを生きている土地なのだなと思う。
Posted by ブクログ
第23回開高健ノンフィクション賞受賞作。
1935年生まれのガーセムを家長とするアブドゥルラティーフ一家は、シリア中部のオアシス都市パルミラに住む四世代、総勢70名近くからになる大家族。著者の夫はガーセムの子16 人の末っ子の12男。シリアの家族の物語は、著者の家族の物語であった。
内戦で荒廃していく故郷。秘密警察に囚われ、二度と帰ることのなかった6男サーメル、家長ガーセムはISに支配された故郷から避難民として国内を転々とし、最後はトルコへ入国。その後、一家の残りの家族も不法入国の斡旋業者のサポートのもと、谷や山、荒野を歩き、徒歩で国境を越え、シリア国境に近いトルコの街へ。しかしシリア情勢は改善せず、10男アブドゥルメナムと5男アーメルの長男エブラヒムは新たの希望を求めてイギリスへ。家族は少しずつバラバラに。
著者は2022年アサド軍事政権化のもと、一家の故郷であるパルミラへ「親族訪問ビザ」で取材に向かう。秘密警察に監視された「1985年」のような社会。ISの支配と、それからの奪還のために空爆されて破壊され尽くしたパルミラ。秘密警察の監視に抗いながら、必死の覚悟で写真を撮る著者。
そして、2024年12月8日のアサド政権崩壊から8日後に夫ラドワンと長男サーメルとともにシリアに入国。内戦で傷ついた人々、土地を訪ねる。
内戦の始まりから終わり、そして新しく始まった歴史の中を生きるシリアの人々、独裁者や外国勢力や過激派組織に翻弄されるシリアの人々を、著者の大家族を通じて描きます。
戦場の悲惨は、数字ではなく、その数だけの家族、それぞれ名前のある個人の悲惨であることを知らしめます。そのことに想いを馳せることです。
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説得力、迫真性が緊々と伝わるノンフィクション作品。シリアの人々の悲しみが、頁を捲る度に胸に迫りくる。光彩を放つ筆力で、戦場や人間を描く強靭な小松由佳さんに感服。素晴らしい作品に出逢えて嬉しい。
第23回開高健ノンフィクション賞受賞作。
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日本ではあまり馴染みのない国の出来事なので、正直最後まで興味を保てるか少し不安だった。でも、宗教や文化、歴史、政治といった背景がとてもわかりやすく描かれていて、気づけば物語の中に引き込まれ、一気に読み終えていた。命懸けともいえる取材の重みが伝わってくる一冊。著者は写真家になる前に、K2に日本人女性として初登頂した経歴を持つという。その行動力と、危険な状況でも冷静に判断する強さが取材にも生きているのだと感じた。他の著作もぜひ読んでみたい。
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著者はドキュメンタリー写真家。2006年、世界第2位の高峰K2に日本人女性として初登頂した登山家でもある。
2008年、彼女は、写真取材で、シリアのパルミラで100頭のラクダを放牧し、半遊牧的生活を送るアブドゥルラティーフ一家と知り合う。
一家は、4世代、70人近い大世帯。毎年のように一家を訪れる中、2013年には、一家の16人兄弟姉妹の末っ子・ラドワンと恋に落ち、結婚、二人の子どもをもうける。
シリアでは、2011年から民主化運動が拡大、アサド政権による市民への弾圧に端を発し、内戦状態に突入する。
ラドワンは徴兵され政府軍兵士になったが、市民に弾圧を加える罪悪感から2012年に政府軍を脱走、ヨルダンへと逃れ、6男サーメルと9男ジャマールは民主化運動に参加、逃亡生活に入っていた。
2015年にはパルミラをイスラム国(IS)が占領、政府軍・ロシア軍による空爆で市街地が破壊され、一家は、避難生活に入り、トルコへ逃れる。
トルコでは大量のシリア難民を受け入れ、トルコ国民の不満が爆発、難民たちはヨーロッパへの移動を目指すが、不法難民としてエーゲ海やドーバー海峡を渡ることは命がけだった。
著者はトルコ南部のシリア難民コミュニティを取材していたが、アブドゥルラティーフ一家の長だったガーセムが亡くなったこともあり、2022年、11年ぶりに彼らの暮らしたシリアへ向かう。
彼女を待ち受けていたのは秘密警察の監視と親族による軟禁。それでも、それらをかいくぐって、パルミラの一家が暮らした家にたどり着く。
命がけの写真取材から帰還すると、夫から、「第二夫人を娶りたい。自分と第二夫人の生活費を出してほしい」との驚愕の告白があった。
このあたりは、著者にとって波瀾万丈の展開。第二夫人騒動は親族たちの猛烈な反対で終結するが、男性は4人まで妻を持てる、男性と女性は明確な役割分担があり、男性が女性に大事にされて幸福になるという文化があることを著者は尊重すべきだと感じる。
2024年12月8日、反体制派がダマスカスを制圧し、アサド政権が崩壊したことから、著者は夫とともに、再度、シリアへ向かい、消息不明となっている6男サーメルを捜して、収監されていたとされるサイドナヤ刑務所を訪れる。この刑務所では収容者の75%が生きて帰れなかったと言われており、奇跡的に生還した元囚人から残酷な拷問話を聞く場面が実に生々しい。
全体を通して、著者がなんと強い女性であるかと驚きながら、自らの実体験を通じて、シリアの内乱や難民生活の実態を等身大の人間として、わかりやすく描いた内容に圧倒され感服せざるを得なかった。
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激動のシリアを描いたノンフィクション。シリア人を旦那としている筆者が描くシリアの姿は驚きの連続であり、実情を描いてくれることに感謝してもしきれない。アサド政権下の2022年にシリアへ潜入した部分の描写は読んでいるこちらもヒヤヒヤする内容で読み応えがある。シリアの文化的側面も知ることができ、男尊女卑な考え方がどのように生まれるか、隠れている部分にどんな感情が潜んでいるかも知ることができ、とても勉強になる。アサド政権が打倒され、今後のシリアがどうなっていくか。
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本書の冒頭にいくつかの写真が載っている。
著者の家族や移民の人々、廃墟と化したパルミアという街、アサド政権下での収容所。これだけ見ると報道写真のようで、たしかに悲惨さには痛切なものを感じるものの、それだけで読み流してしまうかもしれない。
しかし、本編を読んでいくと、そのような流れに身を任せることを許されなくなる。
写真に映るものの背景が深掘りされていく。そこに映る人々や街には、それぞれの当たり前の人間的な日常があり、そしてそれが破壊されていく過程が延々と描かれる。
読み終えたあとに冒頭の写真を見直すと、ただの報道写真のように見えなくなる。シリアといわれてもあまり想像がつきにくいが、ここで描かれる人々は(良くも悪くも)われわれの想像の外にあるような人々ではない。本書内で時折挟まれるちょっとしたユーモラスに聞こえるエピソードは、それを加速させる。
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シリアの総勢70名の大家族「アブドゥルラティーフ」一家の十二男と結婚された小松由佳さん。
主には日本で暮らされているが、シリアの家族の一員でもあるため、家族から聞いたであろうシリア人の視点で見る国の状況や、それらに対する思い、またどうやってシリアの人々は自分の命を守ってきたかなど、今まで知らなかった視点からのシリアについて書かれた1冊。
またシリアの国自体が、その時々でどんな状況であったのかなども、色々な説明も交えながら書かれているので、「ニュースで聞いたことはあるけど。」程度の知識だった私でも、読み易い感じだった。
正直、シリアの人々がこんな過酷で苦しい状況を過ごしていたのかと思うとショックが大きかった。
また、日本で生活している私がどうこうできることではないとはわかっていても、この酷い状況について無知であったことに申し訳なさを感じた。
特にサイドナヤ刑務所の話は衝撃的だった。
遠い国のことではあるものの、他人事としてではなく知るべき現実が書かれており、たくさんの人に読んでほしいと思う内容だった。
Posted by ブクログ
ほんの10年程前、こんな理不尽な残忍な独裁国家があったことに慄く。
が、今なお日々中東では、侵略、紛争、難民のニュースが絶えないのに。見ているつもりだったけれど、本当に理解していただろうか、と考えさせられた。
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「心のきれいな人は、みんなパルミラから離れたよ」と著者の夫、ラドワンの言葉。著者は23人子どもがいるガーセム家の12男の妻。彼女はジャーナリストビザでなく親族訪問ビザという自分にしかない切り札を使い取材撮影する。いつ殺されてもおかしくない状況に乗り込む姿に圧倒される。信じない、駆け引きする、利用できるものは全て使う、だからこそ生き延びているんだろうな。アサド政権での刑務所内拷問、全く知らなかった。体力にも精神的にもタフな彼女が事故に巻き込まれないことを願う。
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遺跡は破壊されてもなお、人類の叡智を物語るのに十分な威厳を保ち、破壊されたことでむしろ、人間の歴史とはどういうものかを物語っているようでもあった。かくも美しく壮大な建築物を生み出すが、他方では否定し、一瞬で破壊する。人間とはそういう存在なのだ、と。
パルミラの住民は被害者だと言えるかもしれない。だが、状況に甘んじ、体制への協力を惜しまないことで、政府の支配を盤石なものにしてきた当事者だとも言える。この街に身を置くためには、そうせざるをえなかったこともわかる。
だが、そうした市民のあり方が、現在のシリアをつくってきたのではないだろうか。
その場所で生き残るために保身を図り、あるいは無関心を装い、為政者に同調し続ける。それが積もり積もったとき、何を生み出していくのだろうか。たとえ独裁政権下にあって、小さな声さえ上げられなかったとしても、それでも人は、いかにその支配のなかを生きるのか、そのあり方を選び取ることができると私は言じたい。
独裁国家は、強力な独裁者が存在するから維持されるのではなく、それに同調し、従う民来が一定数存在するから維持されるのではないだろうか。だから、シリアで起きてきたことや、今置かれている状況は、ある意味、それを選び取ってきたシリアの人々の選択の結果ともいえるのではないかと私は思う。その思いは、パルミラに立ったことでより強くなった。