沖田森彦は大学の研究室でヒト体細胞クローン胚の技術開発のチームリーダーをしていた。
ヒト・クローンの研究はほぼ成功しており、あとは微修正を加えるのみの段階になっていた。
そんな時、突然森彦の一人息子・有基が事故で亡くなってしまう。
IQは180以上、けれど森彦の方針から普通の子どもとして育てられていた有基。
サッカーが得意で、木登りが好きで、素直な子どもっぽい性格をしていた。
ヒト・クローンを成功させる技術は森彦の目の前にあった。
有基を失った現実から逃れるように、決して許されない禁忌を森彦は犯してしまう。
たとえ遺伝子はまったく同じだとしても、亡くなった有基と生まれて来た透は別々の人間だと思うのは、他人事にしか思えないからなのだろうか。
それでも、透は透としか思えない。
不幸な偶然が重なり、巻き込まれて死んでしまった有基。
そして当時は事故だと処理された有基の死は、年月を経て事件として再捜査されることになった。
有基を殺したのは誰なのか?
不可解な出来事が続いたため、森彦は次第に疑心暗鬼になっていく。
不幸な子ども時代を過ごさなければならなかった犯人。
辛い記憶はその後の人生に大きな影響を及ぼしただろうと容易に推測できる。
でも、それは何も犯人だけではない。
裏でいろいろと画策しながらも、表向きは平然と過ごしていたことだけを見ても、すでに人間として大切な何かを失っていたはずだ。
最後の最後に透が発したひと言。
知るはずのない真実は、遺伝子の中に刷り込まれた隠された記憶なのか。
それとも、人知を超えた何かが働いたものなのか。
森彦の家庭があらたなリスタートすることが出来たことが、唯一の救いだった。
夫として父親として、真正面から透と向き合えるようになれて良かった。