金子光晴のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
日本て変わったなぁという気持ちと
人間て変わらないなぁという気持ちと、両方。
大正から昭和初期にかけての時代の空気に触れて単純に今との違いに驚いた。
成功も失敗も自己責任だよというドライな個人主義がないかわりに
目も当てられないような貧富の差や階級の差がある。
40年も前のことを振り返っているからか、
あくまで淡々とぶれも乱れもない確かな筆致で、
波乱万丈な内容とのギャップが素敵。
漢学の深い教養に裏打ちされている硬質な文体の合間に
詩心爆発の溢れる寸前で抑制された情緒を湛える色気のある文章が混じって
魅力的。この人の観察眼と文体は大好き。
続編の『ねむれ巴里』、『西ひがし』も読みたい。 -
Posted by ブクログ
すさまじい、としか感想の浮かばない、とんでもない放浪記だ。昭和のはじめ、金子光晴は、生まれたばかりの子供を日本に置いたまま、妻の森三千代を伴い、上海を皮切りとする5年間におよぶ放浪をはじめる。潤沢に資金があるわけではない、どころか、旅先でお金を稼がないと暮らしてもいけないような状態での放浪である。放浪する、というより、むしろ、どうやって「生きのびる」かがテーマになるような貧困の中での放浪だ。そのようなすさまじい放浪であるにも関わらず、筆者はそれを、あっさりと、むしろ淡々と記述している。それは、筆者がこの放浪記を書いたのが、旅を終えてから40年を経た後の筆者の人生の晩年であったからだろう。まるで
-
Posted by ブクログ
自伝三部作の第一弾。
詩集『こがね蟲』でデヴューをかざるも、先ゆきが見通せない境遇にあった著者が、妻となる森三千代と出会い、彼女とともに上海へわたり放浪生活を送った経緯をつづっています。
関東大震災のあと、画家の卵だった牧野勝彦のさそいにおうじて彼のいる名古屋に寄宿することになった著者は、文学や芸術に傾倒する若い仲間たちに囲まれて暮らしていたところ、牧野から三千代を紹介されます。女流詩人となることに願っていた彼女は、『こがね蟲』によって詩壇に登場した著者に寄り添うことになったものの、貧乏な生活は彼女のあこがれていたものとは異なり、著者のもとを出てしまいます。しかし著者は、そんな彼女に対する