クレアキーガンのレビュー一覧

  • あずかりっ子

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    お母ちゃんに又子どもが出来た。少女は赤ちゃんが生まれるまで、親戚の家にあずけられることになる。大家族の中で育った少女には、子どものいない夫婦の暮らしは、自然に囲まれて贅沢ではないけれど豊かな暮らしだった。

    夫婦にとっては、特別な事は何もしていない日常なのだろうが、ゆとりのない両親の元での暮らしている少女にとっては、新鮮な暮らし方だった。
    そして、夫婦は男の子を事故で亡くしていた事がわかっていく。短い夏の日々は、弟の誕生とともに静かに幕を閉じる。

    読み終わって、こんなに胸が熱くなるストーリーを久しぶりに読んだ。映画化されていることも知らなかった。映画も見てみたい。

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    2026年09月23日
  • ほんのささやかなこと

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    なんて染み入る小説だろうと思って本を閉じようとした矢先に、マグダレン洗濯所の事件が紹介され、実話を元にしていたことに度肝を抜かれた。
    マーガレット学院と訓練学校とが壁一枚を隔てて立っていることが、名付けができないけれど社会の上でのもしくは人のある側面での二項対立的な事象が、実際は紙一重であるということをシンボライズしているように思われた。
    キリアンマーフィー主演のこの映画も観たいし、クレアキーガンの他の本も読みたい。また偶然にも、この本の前に読んだヴァージニアウルフの「灯台へ」の訳者も鴻巣友季子ですっかりファンになりました。この方の他の訳書も読みたい。

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    2026年08月28日
  • ほんのささやかなこと

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    アイルランドの昔の話だろうと読み始めたら、舞台は1985年代でわずかまだ41年前の事だった。読後、本書では”グッド・シェパード教会”となっている"マグダレン洗濯場”を調べてみた。”マグダレン洗濯場”とはどこかで見聞きした記憶がある。映画だっただろうか? 
    "マグダレン洗濯場”は政府とカトリック教会が後援していて、恵まれない少女や女性が事実上監禁され、働かされ、虐待を受けた施設だったとある。200年以上も存在し、閉鎖されたのは1996年!アイルランドの闇を思わずにいられなかった。
    ここまで書いたレビューを止めて、もう一度本作を最初から読みなおした。訳が堅く感じられて(久々の外国物だったからかもしれない)何ヶ所かで引っ掛かり躓き、最後まで引きずってしまい確実に理解できていないと考えたから。
    やはり再読して正解だった! 今では素晴らしい作品に出会えたと心から思える。原題は『Small Things Like These』で邦題は「ほんのささやかなこと」。タイトルのほんのささやかなこととは正反対の意味合いがあるのではないかと推測する。主人公のファーロングは「非嫡出子」だったが、母親が働いていたウィルソン夫人の元で母親と共に育った。ファーロングが最後に選択し取った行動は自分の信条と良心に従ったまでと云うものの、ささやかどころじゃない。街を牛耳っている大きな権力に背を向けたのだから。彼がセァラを連れて我が家のドアを開けた途端に嵐が吹き荒れるだろう。でも、ファーロングが必ずやり遂げるのは確かなこと。
    ファ-ロングの心境が語られている部分を抜粋した。
    『互いに助け合わずに生きてどうする? そこにある現実に勇気を奮って立ち向かうことをせずに長いこと、何十年も、下手したら一生過ごしたうえで鏡の中の自分と向き合う事なんておれにできるのか?』
    『最悪のことが起きるのはこれからだ、わかってる。すぐ隣で待ち受けている厄介な世界の気配をすでに感じるが、最悪の未来はもう後ろに置いてきた。起きかねなかったが、起きずに済んだことーもしそれを見過ごしていたら、死ぬまで悔いを抱えて生きることになったはずだ。これから出会う苦しみがなんであれ、それはいま横を歩いているこの娘がすでに味わってきた苦しみ、これから乗り越えるだろう苦しみからは、おそらくほど遠い・・・・』
    一方、周囲の市井の人々が彼に耳打ちする言葉を足蹴にはできない。敵は近くに置け、悪い犬と共にあれ、良い犬は噛まない(味方より敵を近くに置いて見張る)。うまくやっていきたいなら、目をつむるべきこともあるはずよ。見過ぎ世過ぎ・・・など。
    大方の人々はこのように従いつつがない暮らしを手に入れている。出自が重なるファーロングは見過ごせなかったのだろうが・・・。

    ♪~♪~♪~♪~
    アイルランドの小さな町。主人公のファーロングは妻のアイリーンと結婚し石炭の販売業を営んだ娘5人を育てていた。クリスマスが迫り、寒さが厳しくなるなか、石炭と木材の商人であるビル・ファーロングは最も忙しい時期を迎えていた。ある日、石炭の配達のために女子修道院を訪れたファーロングは、「ここから出してほしい」と願う娘たちに出くわす。修道院には、未婚で妊娠した娘たちが送り込まれているという噂が立っていたが―隠された町の秘密に触れ、決断を迫られたファーロングは、己の過去と向き合い始める。

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    2026年05月04日
  • あずかりっ子

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    7歳くらいだという女の子の視点で書かれているので、その子の理解が追いついていないために状況がよくわからないところもあり、女の子の不安や戸惑いが伝わってくる。たぶん、これまで彼女はあまり親に甘えられるような環境で育ってこなかったのだろう。でも、ひと夏の間、女の子を預かることになった親戚の夫婦は、彼女をちゃんとケアが必要な子どもとして接し、子どもらしくいられるようにする。訳者あとがきに、ケアの精神が自尊心を育み、他愛につながるとあった。女の子は、その家での生活がずっと続くものではないとはじめからわかっていて諦めているようなところもあったけれど、短い間でも育まれて彼女の中に残るものがあったと思いたい。

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    2026年04月20日
  • ほんのささやかなこと

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    これが史実に基づく話だとは恥ずかしながら知らなかった。
    「マグダレン洗濯所」が実在したのが1996年までって…つい最近じゃん。
    天候のこと、日々の食事のことなどと同等に、淡々とその事実を著者は記す。だからこそその事実が重苦しくのしかかる。
    最後にファーロングがする決断があったから、歴史は少し動いたのかな。現実にも誰かが動いたのでしょう。
    映画化「決断するとき」もぜひ観たい。

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    2026年04月20日
  • ほんのささやかなこと

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    読みたいリストに入れていたら、どうやら映画が上映中のようで、慌てて読みました。地方のため、小劇場で一週間限定でしか上映されないので、「これは観ておきたい!」という映画は即決しないと見られなくなるのです、、

    中編の静かな佇まいの一冊。内容も、無駄がなく、控えめで、多くを語らないという感じ。なので、よくわからないところも正直あって、滑りだしは今ひとつだったのですが、次第に引き込まれていきました。

    一般市民で、普通のささやかながら大切な生活を送っている主人公。巨大な権力には手も足も出せないのが世の常。主人公ファーロングは、偶然、権力に虐げられている人を目にしてしまう。一旦知ってしまったら、もう元の自分には戻れない。ファーロングはどうするのか?彼の心の葛藤が、読者の心に染み入ってくるように、地に足がついた言葉で描かれています。

    少しは世の中良くなるだろうか、と期待してはどんどん悪い方に行っているように感じて、言いようのない不安に駆られるこの数年。
    そんな情けなく路頭に迷っている心持ちに、少し光を当ててもらったような読後でした。
    偽善でもなく、小手先の解決策でもなく、一人の人間が、その人間らしい良心からできるほんのささやかなこと。その一つひとつこそが、人々の目を覚ますのだ、という力強いメッセージを受け取った。いやー、読み終わった後に良さがジュワーとくる一冊だった。

    映画版の「決断する時」も観たくなった。予告で主人公のキリアン・マーフィーの眼を見たとき、この人なら信じられる!と直感的に思えた。

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    2026年04月18日
  • ほんのささやかなこと

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    クレア・キーガンは「Walk the blue fields」と「Foster」は原書で読んでいて、読むのはこれが3作目ですが、これまで読んだ3作品の全てが本当に素晴らしい。

    丁寧な日常の描写の中にふと差し込まれる違和感と、主人公が自らの生い立ちを振り返って、後悔をしないための選択をするまで、彼の感情の流れを読みながら一緒に追体験できるような臨場感のある描写がすごく良かった。

    この先、彼には多くの困難が待っているはずだけど、それでもなお、その選択は「後悔しないための決断」というよりも、彼が彼である以上そうするしかなかったもののように感じられた。

    しかし、この出来事が1980年代だというのはなかなかに衝撃的

    そして、さらに昔にとてつもなく大きな決断をしたであろうウィルソン夫人が特に印象深い

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    2026年03月31日
  • ほんのささやかなこと

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    衝撃。18世紀から1996年に施設が閉鎖されるまでこんな非人道的なことが国家規模で暗黙の了解でまかり通っていたなんて。2013年にようやく政府が公式謝罪したなんて。しかもこんな重大なことを記録に残すフィクションやノンフィクションがほぼ存在しないなんて。並行して読んでいるアトウッドの小説の世界とも完全にダブり、映画も現在上映中のようだからぜひみておこうと思う。犠牲になった女性たちの鎮魂のためにも。
    ある平凡で幸せな一家の穏やかで誠実な父親の勇気と正義が風穴を開けるがその後この一家はどうなるのか。彼自身の母親も未婚だったが雇い主である気概のある女主人のおかげで彼女は悪の施設に行かされることもなく母子一緒にそこそこ平穏な幼少時代を過ごせたのも彼に行動を起こさせた要因ではあるだろうが、教会と政府が結託した悪に対して一庶民として行動を起こせるか…権力に屈せず長いものに巻かれず、自身の良心だけに従って正しい道をいくことができるか…
    厳格なカトリック、冬の厳しい寒さ、貧しさ、紛争などのアイルランドの閉塞感の中、心浮き立つようなクリスマスのお祝いや素朴で真面目な住民の日常が読みやすい文章で丁寧に描かれる。そんな平凡で一見幸せな街に暮らす人々が、昔から当たり前のように存在する残酷極まりない修道院やそこに囚われる女性たちの悲劇の実態を見て見ぬふりをせざるを得ない心情もまた慮るに難くない。
    大きめな文字で静謐なタッチで綴られる中編小説で一日で読み終えられるほどの本当にささやかな告発だけど、読む者の胸に突きつける切先は鋭い。

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    2026年03月28日
  • ほんのささやかなこと

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    早くも、2026年の小説のベスト候補となる小説に出会ってしまった。

    日本語に不自然なところが多く、英語版と並行して読んだが、伝統的なアイルランド小説の流れを汲むと思しい散文的というか、1人称に限りなく近い3人称で思索の流れを中心に読者が主人公の思考に没入して類推していくことを強いるような文体で、翻訳が難しいところもあったのかと思った。

    内容は、強い衝撃を受けた『ドイツ亭』を思い出さずにはいられない。社会的な事象を、一人の人間のあり方として具体化して示すことで胸がしめつけられるような思いを抱かせる。ラストも救うでもなく絶望させるでもなく、読者をただ複雑な現実に放り出す。ウイスキーをぐいっと飲まずにはいられないような読後感である。

    原題は "Small Things Like These"。彼女の他の作品も読みたい。すぐにでも読みたいが、できるだけ原文で味わいつつ、その夜にじっくりとグラスを傾ける時間を確保して読みたい。

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    2026年03月20日
  • あずかりっ子

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    ネタバレ

    読みはじめてすぐ、アイルランド版赤毛のアンみたいなお話なのかなと思った。全然違った。
    「水が染み出すマットレス」のあたりで、キンセラ夫妻が大好きになっていて、そのあとはずっと、
    主人公や夫妻に傷ついてほしくなくて、幸せになって欲しいという期待と不安でドキドキしていた。

    主人公はおじさんとおばさんと一緒に過ごして、愛されて、手をかけられる経験をして、二人を好きになって、二人の喪失と哀しみの片鱗に触れる。かと言って、両親や兄妹と離れたいわけでもないし、まだ幼い彼女には自分の居場所を自分で決めることはできない。
    最後のシーンの大泣きには、二人から離れる(自分自身の)寂しさだけじゃなくて、自分がいなくなった後の二人の悲しみまでこもっている(あなたが悲しいと私も悲しい、的な)ようで。
    たぶん彼女は、この夏に二人と出会って大切にされて初めてそういう感情を知ったのかな、と思うと本当に胸が苦しくなった。

    役者あとがきを読んで、この物語は意図的に、背景や出来事を描写しすぎないよう配慮して作られたお話だと知った。
    主人公の名前さえも出てこない。描かれていない事柄は読み手側がそれぞれに想像しながら読む。そうすることで自然と自分の経験や感情が呼び起こされるから、より一層心が揺さぶられるのかな、と思う。
    削ぎ落とされた文章を訳すのはとても難儀だったと思う。素晴らしい翻訳をありがとうございました。
    映画化されているようなので、それも観てみたくなった。

    「いう必要のないことだと覚えておけばいい。だいたいひとってのは、口を閉じておく完璧な機会を逃して多くのものを失うものなんだ」

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    2026年02月28日
  • ほんのささやかなこと

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    静かな物語です。
    けれど静かな中に、作者の強い思いが伝わってきます。ほんの少し前まで実際にあった「マグダレン洗濯所」をモデルにして、その非人道的な活動、実態を皆んなに知ってもらおうと小説のかたちで書かれたもの。
    カトリック教会とアイルランド政府が、手を結んで進めてきた社会の暗部に対し、主人公は自分たちの今の生活が、子供たちの将来も含めて厳しいものになるのをわかっていても、一人のキリスト教徒として見過ごせなかった。
    そのあたりの苦悩がよく伝わってきました。
    この作品に目を止めて、翻訳してくださった鴻巣さんに感謝します。
    ささやかな小説ですが、たくさんのものが詰まった本でした。良かったです。

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    2026年02月16日
  • あずかりっ子

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    『ほんのささやかなこと』に続き、この著書を読んだ。全編を通じて語りすぎず、かと言ってそこはかとなくメタファーやが散りばめられていて、想像の翼を広げることができる。きつい労働、厳しい自然に黙々と生活する大人たち。そんな中で「手をかけられなかった」女の子が、悲しみの中に生きる夫婦に預かられ、自分に手をかけることの始まり知ってゆく。それは完璧な愛でもなく、むしろ不器用な、行ったり来たりの揺れる愛だ。それゆえにこの夏が、彼女の不思議な気持ちへの気づきに繋がり、人間味ある情緒の芽生えになったと分かる。読後は何やら暖かい気持ちが、自分の中に滲み出てくる。果たして彼女は今後どうなるのか、わからない、そして私たち読者もわからない生活に戻ってゆく。それが人生なのかもしれない。

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    2026年01月23日
  • ほんのささやかなこと

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    1985年、寒さ厳しい冬のアイルランド。家族とのつつがない暮らしを守る実直な石炭商人の男。世界が誰にとっても完全に良いものになることはないのかもしれないし、どんなに善く生きたいと願っていても誰ひとり取りこぼすことなく全ての人に手を差し伸べることはできないが、彼の選択に勇気をもらう。

    自分を驕るでもなく、他人を羨むでもなく、これまでのささやかなことの積み重ねで今の自分があると知り自分でこれから進む方向を決めるって何よりも豊かなことだ。クリスマス飾りのように煌めく文章や描写の全てに、心が潤される。

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    2025年12月24日
  • ほんのささやかなこと

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    ケルティッククリスマスというコンサートに行き、アイルランド関連本として会場で販売されていて、売り子さんがイチオシだったので手に取って読んだ本。ただ、ただ良かった。贅沢な暮らしをしているわけではないが、愛する妻と娘たち、重労働だがやりがいのある仕事をする主人公に、ふと、こことは違うが地続きの、裏の世界が見えてくる。それは自分の生い立ちにも関わる世界だった。そこに一歩を踏み出すことは、幸福な自分の足元が崩れてしまうかもしれない危うさを含んでいる。。。クリスマスのこの時期に読んで本当に良かった。ディケンズの『クリスマス・キャロル』を彷彿とさせる、新しいクリスマスの物語。日本語訳の素晴らしさは言うまでもない。引き続きこの著者の作品を読んでみたい。映画化される予定もあるそうで、それも楽しみだ。

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    2025年12月23日
  • あずかりっ子

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    ネタバレ

    クレア・キーガン2冊目。
    映画「コット、はじまりの夏」の原作。映画は観てないけど。
    ほんのささやかなこと、がとても良かったのでこちらも購入。

    アイルランドの子沢山な農家の女の子、わたしがお母さんが赤ちゃんを産んで安定する前までに親戚のおばさん/おじさんに預けられて
    愛情を受け、ケアされて成長するお話。
    とても切なくて、悲しくて、泣きながら読んだ。

    おばさん/おじさんは、子沢山で貧乏な…農家で育ったわたしをケアしてくれる。街に出て綺麗なお洋服を買い、言葉遣いを教え、体を綺麗に洗ってお風呂に入れて。
    中盤、おばさん/おじさんには実は子どもがいて、不慮の事故で亡くなってしまったことがわかる。わたしは幼児(7歳くらいなのかな?)、服のサイズからするときっとその子どもの方が少し大きいのかな。

    お父さんは、子どもや家族をケアしていないように見える。この作品においては。わたしを預ける時も、むかえにくるよ、など安心させる言葉は言わない。お母さんはきっと、子どものお世話でいっぱいいっぱいなんだろう。
    アイルランドでは1980年まで(!?)避妊具やピルが非合法で、中絶も禁じられていたらしい。子どもが労働力として見込まれるということもあり、農家…第一次産業では多産は珍しくなかったらしい。
    つまり、お父さんやお母さんは怠惰や愛情不足でわたしのケアをしていないのではない。それが、辛い。社会構造が理由。

    そう思うと、ケアしてくれる側のおばさん、おじさんの発言がやや無神経にも思える。お母さん、お父さんは〜をしてくれなかったの?とかね。
    物語の中盤で、わたしはおじさんと手を繋いで散歩をし、そのとたんに一度もお父ちゃんに手を繋いでもらったことがないと気がつく。
    この感じをを思い出さなくていいように、手を離してくれないかなと、わたしは思う。

    この子は家に帰って、日常を過ごしながら、どんな思いでいるんだろうなぁ?と考えてしまった。
    おじさん、おばさんによるケアで精神が成長した、心が豊かになったのは確かだろうけど。
    待っているのは現実で、続いていくのも現実。
    一度得たものをまた得られない(かもしれない)ことで、辛くならないかな。わたしの両親に対して、叶わないwillを抱いて、小石を飲み込むような気持ちになったりしないのかな。そうだといいな。

    おばさん、おじさんは?
    喪失を抱え続けて生きていくのは、どんな気持ちなんだろう。

    淡々とした文章で、かつ描写しすぎないからこそ、想像する余地がある。
    近々、再読すると思う。

    読みながら、フェアポート・コンヴェンションが1969年にリリースしたアルバム「Unhalfbricking」を聴いていたら
    物語の終わりに合わせて、「時の流れを誰が知る?」が流れた。とても良い組み合わせ。
    フェアポートはアイルランドじゃなくイギリスのフォークロックだけどね、、、

    And I am not alone while my love is near me
    I know it will be so until it's time to go
    そしてわたしは、愛する人がそばにいれば孤独じゃない
    時が来るまではそれが続くことを知っている

    この歌詞がぴったりで、なんというか…さらにグッときた。
    あとは、サニーデイ・サービスの海岸行き。良い読書体験でした。

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    2025年11月12日
  • ほんのささやかなこと

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    非常に短い作品だが、それ故に物語が閉じていない。これまでのこと、これから起こることに思いを巡らされるのは、同著者の『あずかりっ子』と同様だ。ほんのささやかなこと、ささやかな行動や言葉が、人の運命を変え、人を形作る。しかし世間の空気に抗い、少なからぬ犠牲が予期される中でなされるささやかなことに、どれだけ人の愛や勇気、人間性のなかのもっとも偉大なものが宿るか。こんなにも短いのに、物足りなさなく伝えている。

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    2026年10月04日
  • ほんのささやかなこと

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    1986年のアイルランド。修道院で行われていた若い女性への酷い搾取と、それを知ってしまった一人の善良な中年男性。身近なところにある不正や苦しんでいる人にどう接するか、読み手にもそっと問いかけてくる。

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    2026年09月26日
  • ほんのささやかなこと

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    2022年オーウェル政治小説賞
    2022年ケリー賞(アイルランド文学部門)

    誰かのほんのささやかな善意の積み重ねでいまの自分がいるんだと思える本だった。
    1996年までの、アイルランドのカトリック教会と国家の政治腐敗の実態と、母子収容施設で亡くなった人の多さに驚いた。
    町の不正と犠牲を見過ごしながらキリスト教徒として生きることに葛藤するファーロングの心情が胸に迫った。

    作中に出てきたアイルランドの伝統的なクリスマス菓子、ミンスパイを食べてみたい。

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    2026年09月18日
  • ほんのささやかなこと

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    ネタバレ

    ファーロングは真っ当な普通の人だ。妻と娘たちを愛し、妻を尊敬し、借金をせず、よく働き、親切にされれば感謝し、可哀想なものを見れば心を痛めて手を伸ばす。彼の行動には、屈折した人物のような心理的説明がほとんど要らない。こんな「ちゃんとした人」を主人公とした小説を読むことは久しぶりだ。

    街の人々が噂として知りながら目を背けていた修道院の洗濯場について、ファーロングはその実態を見てしまう。一度知った後も以前と同じ顔で生活することができず、最後にはセァラを連れ出す。それが善い行為であることは疑えない。誰かが「これはおかしい」と認識して動かなければ、現実に存在した洗濯場もなくならなかっただろう。ファーロングは立派だと思う。同時に、このことを手放しで「偉い、素晴らしい」と称賛するには、あまりに危ういと感じる。

    セァラを救うために彼が賭けたのは、自分の生活だけではない。アイリーンと娘たちの生活まで、相談なく危険にさらしている。私がアイリーンなら、少女を追い返せとは言えなくても、夫には断じてこんなことをしてほしくないと思うだろう。
    セァラと歩くファーロングは、自分の最良の部分が輝き出したような、これまでにない幸福感を味わう。信じていることと実際の行動が一致し、善きものと同化したような高揚だろう。代償を払うと覚悟しているが、その請求は家族にも届く。小説は、彼が最も美しく、まだ現実の代金を一円も払っていない瞬間で終わる。

    ファーロングは、たまたま知り、できないとは言い切れず、自分で選んでしまった人であり、それが立派だと思う以上に気の毒だ。他人事にする能力を持たない人には、世界が勝手に仕事を割り当ててくる。善良さは美徳だが、ときにその人へだけ高い代償を支払わせる。

    評価は4.5。静かな希望の物語というより、善い人が善いままでいることに伴う危険を描いた小説として読んだ。

    余談。訳者後書きで『クリスマス・キャロル』に準えられることもある、と紹介されているが、読みながらそれを感じた。ファーロングは3度修道女会を訪れる。クリスマスキャロルのように整然と過去・現在・未来とはなっていないが、これまでの噂の真相を知り、現在の苦痛を見て、娘の未来を案じるところは重なる。3度目に訪れた後、町の人から奇異な目で見られるところも重なる。幼い彼に『クリスマス・キャロル』を与えたのがウィルソン夫人なのも重要だと思う。彼女はファーロングに実際の庇護を与え、そのうえ、他人の不幸を想像するための物語まで与えた。ファーロングは大人になって、かつて受け取った二つをセァラへ渡し直す。そう考えると、あの本は単なる伏線ではなく、ウィルソン夫人の行為が彼の内部で長年かけて言葉になり、ついに行動へ戻るための装置なのだろう。

    『クリスマス・キャロル』に似ていると感じるものの、スクルージは富を配って共同体へ再統合されるが、ファーロングは善を行うことで共同体から排除されかねない。奇跡の後に幸福が保証されない、厳しい『クリスマス・キャロル』である。

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    2026年08月07日
  • ほんのささやかなこと

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     主人公の男はアイルランドの地で、メイドの私生児として生まれ、女主人の厚意により奉公先で育てられた。十分な教育を受け、社会に出た男はまじめに働くこと、誠意を持ち他人と接することを信条に、燃料店を営み家族を持つに至る。本書ではその男の働きぶりや心の持ちようが描かれ、ささやかなことを積み上げる大切さが伝わってくる。その様子はクリスマスイブに従業員たちと訪れた食堂の女主人にかけられた言葉に良くあらわされている 『あんたはわたしと同じで一生懸命働いて、その場所にたどりついた。…』

     主人公の男は燃料の配達時に修道教会が運営する洗濯所の過酷な労働状況を目にする。町の人々はうっすらと何が行われているか気づいているが、誰もアクションを起こさないでいたが、主人公の男は違った。逡巡の末、告発の一歩を踏み出したのだ。ささやかなことを積み上げてきた男の行動倫理から発生したものだが、男が積み上げてきたすべてを失う恐れもあるのに。前出の食堂の女主人の言葉は、彼の行動をいさめる言葉でもあったのだ。

     アイルランドでは修道協会が母子収容施設と洗濯所を運営し、そこでは非人道的な扱い、労働を強いることがあったようだ。本書のモデルは1996年に閉鎖されたアイルランドのマグダレン洗濯所だが、アイルランドには複数個所存在し、その存在を知らしめることと同時に、まじめに働く、誠意を持ち隣人と接する、男女で格差を設けない等国を越えた普遍性が描かれている。その普遍的でささやかなことがらは60歳を越えた日本の男性読者である僕の心を打ち、うなづき、涙しながらページを読み進めさせたのだった。

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    2026年07月06日