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1985年、アイルランドの小さな町。寒さが厳しくなり石炭の販売に忙しいビル・ファーロングは、町が見て見ぬふりをしていた女子修道院の〝秘密″を目撃し――優しく静謐な文体で多くの読者に愛される現代アイルランド文学の旗手が贈る、史実に基づいた傑作中篇
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Posted by ブクログ
アイルランドの昔の話だろうと読み始めたら、舞台は1985年代でわずかまだ41年前の事だった。読後、本書では”グッド・シェパード教会”となっている"マグダレン洗濯場”を調べてみた。”マグダレン洗濯場”とはどこかで見聞きした記憶がある。映画だっただろうか? "マグダレン洗濯場”は政...続きを読む府とカトリック教会が後援していて、恵まれない少女や女性が事実上監禁され、働かされ、虐待を受けた施設だったとある。200年以上も存在し、閉鎖されたのは1996年!アイルランドの闇を思わずにいられなかった。 ここまで書いたレビューを止めて、もう一度本作を最初から読みなおした。訳が堅く感じられて(久々の外国物だったからかもしれない)何ヶ所かで引っ掛かり躓き、最後まで引きずってしまい確実に理解できていないと考えたから。 やはり再読して正解だった! 今では素晴らしい作品に出会えたと心から思える。原題は『Small Things Like These』で邦題は「ほんのささやかなこと」。タイトルのほんのささやかなこととは正反対の意味合いがあるのではないかと推測する。主人公のファーロングは「非嫡出子」だったが、母親が働いていたウィルソン夫人の元で母親と共に育った。ファーロングが最後に選択し取った行動は自分の信条と良心に従ったまでと云うものの、ささやかどころじゃない。街を牛耳っている大きな権力に背を向けたのだから。彼がセァラを連れて我が家のドアを開けた途端に嵐が吹き荒れるだろう。でも、ファーロングが必ずやり遂げるのは確かなこと。 ファ-ロングの心境が語られている部分を抜粋した。 『互いに助け合わずに生きてどうする? そこにある現実に勇気を奮って立ち向かうことをせずに長いこと、何十年も、下手したら一生過ごしたうえで鏡の中の自分と向き合う事なんておれにできるのか?』 『最悪のことが起きるのはこれからだ、わかってる。すぐ隣で待ち受けている厄介な世界の気配をすでに感じるが、最悪の未来はもう後ろに置いてきた。起きかねなかったが、起きずに済んだことーもしそれを見過ごしていたら、死ぬまで悔いを抱えて生きることになったはずだ。これから出会う苦しみがなんであれ、それはいま横を歩いているこの娘がすでに味わってきた苦しみ、これから乗り越えるだろう苦しみからは、おそらくほど遠い・・・・』 一方、周囲の市井の人々が彼に耳打ちする言葉を足蹴にはできない。敵は近くに置け、悪い犬と共にあれ、良い犬は噛まない(味方より敵を近くに置いて見張る)。うまくやっていきたいなら、目をつむるべきこともあるはずよ。見過ぎ世過ぎ・・・など。 大方の人々はこのように従いつつがない暮らしを手に入れている。出自が重なるファーロングは見過ごせなかったのだろうが・・・。 ♪~♪~♪~♪~ アイルランドの小さな町。主人公のファーロングは妻のアイリーンと結婚し石炭の販売業を営んだ娘5人を育てていた。クリスマスが迫り、寒さが厳しくなるなか、石炭と木材の商人であるビル・ファーロングは最も忙しい時期を迎えていた。ある日、石炭の配達のために女子修道院を訪れたファーロングは、「ここから出してほしい」と願う娘たちに出くわす。修道院には、未婚で妊娠した娘たちが送り込まれているという噂が立っていたが―隠された町の秘密に触れ、決断を迫られたファーロングは、己の過去と向き合い始める。
これが史実に基づく話だとは恥ずかしながら知らなかった。 「マグダレン洗濯所」が実在したのが1996年までって…つい最近じゃん。 天候のこと、日々の食事のことなどと同等に、淡々とその事実を著者は記す。だからこそその事実が重苦しくのしかかる。 最後にファーロングがする決断があったから、歴史は少し動いたの...続きを読むかな。現実にも誰かが動いたのでしょう。 映画化「決断するとき」もぜひ観たい。
読みたいリストに入れていたら、どうやら映画が上映中のようで、慌てて読みました。地方のため、小劇場で一週間限定でしか上映されないので、「これは観ておきたい!」という映画は即決しないと見られなくなるのです、、 中編の静かな佇まいの一冊。内容も、無駄がなく、控えめで、多くを語らないという感じ。なので、よ...続きを読むくわからないところも正直あって、滑りだしは今ひとつだったのですが、次第に引き込まれていきました。 一般市民で、普通のささやかながら大切な生活を送っている主人公。巨大な権力には手も足も出せないのが世の常。主人公ファーロングは、偶然、権力に虐げられている人を目にしてしまう。一旦知ってしまったら、もう元の自分には戻れない。ファーロングはどうするのか?彼の心の葛藤が、読者の心に染み入ってくるように、地に足がついた言葉で描かれています。 少しは世の中良くなるだろうか、と期待してはどんどん悪い方に行っているように感じて、言いようのない不安に駆られるこの数年。 そんな情けなく路頭に迷っている心持ちに、少し光を当ててもらったような読後でした。 偽善でもなく、小手先の解決策でもなく、一人の人間が、その人間らしい良心からできるほんのささやかなこと。その一つひとつこそが、人々の目を覚ますのだ、という力強いメッセージを受け取った。いやー、読み終わった後に良さがジュワーとくる一冊だった。 映画版の「決断する時」も観たくなった。予告で主人公のキリアン・マーフィーの眼を見たとき、この人なら信じられる!と直感的に思えた。
クレア・キーガンは「Walk the blue fields」と「Foster」は原書で読んでいて、読むのはこれが3作目ですが、これまで読んだ3作品の全てが本当に素晴らしい。 丁寧な日常の描写の中にふと差し込まれる違和感と、主人公が自らの生い立ちを振り返って、後悔をしないための選択をするまで、彼の...続きを読む感情の流れを読みながら一緒に追体験できるような臨場感のある描写がすごく良かった。 この先、彼には多くの困難が待っているはずだけど、それでもなお、その選択は「後悔しないための決断」というよりも、彼が彼である以上そうするしかなかったもののように感じられた。 しかし、この出来事が1980年代だというのはなかなかに衝撃的 そして、さらに昔にとてつもなく大きな決断をしたであろうウィルソン夫人が特に印象深い
衝撃。1996年に施設が閉鎖されるまでこんな非人道的なことが国家規模で暗黙の了解でまかり通っていたなんて。2013年にようやく政府が公式謝罪したなんて。しかもこんな重大なことを記録に残すフィクションやノンフィクションがほぼ存在しないなんて。並行して読んでいるアトウッドの小説の世界とも完全にダブり、映...続きを読む画も現在上映中のようだからぜひみておこうと思う。犠牲になった女性たちの鎮魂のためにも。 ある平凡で幸せな一家の穏やかで誠実な父親の勇気と正義が風穴を開けるがその後この一家はどうなるのか。彼自身も未婚の母親の子供だったにも関わらず母親の雇い主である気概のある女主人のおかげで悪の施設に行かされることもなくそこそこ平穏に幼少時代を過ごせたのも彼に行動を起こさせた要因ではあるだろうが、教会と政府が結託した悪に対して一庶民として行動を起こせるか…権力に屈せず長いものに巻かれず、自身の良心だけに従って正しい道をいくことができるか… 厳格なカトリック、冬の厳しい寒さ、貧しさ、紛争などのアイルランドの閉塞感の中、ささやかながらも心浮き立つようなクリスマスのお祝いや素朴で真面目な住民の日常が読みやすい文章で丁寧に描かれる。そんな平凡で一見幸せな街に暮らす人々が、当たり前のように存在する残酷極まりない修道院やそこに囚われる女性たちの悲劇の実態を見て見ぬふりをせざるを得ない心情もまた慮るに難くない。 大きめな文字で静謐なタッチで綴られる中編小説で一日で読み終えられるほどの本当にささやかな告発だけど、読む者の胸に突きつける切先は鋭い。
早くも、2026年の小説のベスト候補となる小説に出会ってしまった。 日本語に不自然なところが多く、英語版と並行して読んだが、伝統的なアイルランド小説の流れを汲むと思しい散文的というか、1人称に限りなく近い3人称で思索の流れを中心に読者が主人公の思考に没入して類推していくことを強いるような文体で、翻...続きを読む訳が難しいところもあったのかと思った。 内容は、強い衝撃を受けた『ドイツ亭』を思い出さずにはいられない。社会的な事象を、一人の人間のあり方として具体化して示すことで胸がしめつけられるような思いを抱かせる。ラストも救うでもなく絶望させるでもなく、読者をただ複雑な現実に放り出す。ウイスキーをぐいっと飲まずにはいられないような読後感である。 原題は "Small Things Like These"。彼女の他の作品も読みたい。すぐにでも読みたいが、できるだけ原文で味わいつつ、その夜にじっくりとグラスを傾ける時間を確保して読みたい。
静かな物語です。 けれど静かな中に、作者の強い思いが伝わってきます。ほんの少し前まで実際にあった「マグダレン洗濯所」をモデルにして、その非人道的な活動、実態を皆んなに知ってもらおうと小説のかたちで書かれたもの。 カトリック教会とアイルランド政府が、手を結んで進めてきた社会の暗部に対し、主人公は自分た...続きを読むちの今の生活が、子供たちの将来も含めて厳しいものになるのをわかっていても、一人のキリスト教徒として見過ごせなかった。 そのあたりの苦悩がよく伝わってきました。 この作品に目を止めて、翻訳してくださった鴻巣さんに感謝します。 ささやかな小説ですが、たくさんのものが詰まった本でした。良かったです。
1985年、寒さ厳しい冬のアイルランド。家族とのつつがない暮らしを守る実直な石炭商人の男。世界が誰にとっても完全に良いものになることはないのかもしれないし、どんなに善く生きたいと願っていても誰ひとり取りこぼすことなく全ての人に手を差し伸べることはできないが、彼の選択に勇気をもらう。 自分を驕るでも...続きを読むなく、他人を羨むでもなく、これまでのささやかなことの積み重ねで今の自分があると知り自分でこれから進む方向を決めるって何よりも豊かなことだ。クリスマス飾りのように煌めく文章や描写の全てに、心が潤される。
ケルティッククリスマスというコンサートに行き、アイルランド関連本として会場で販売されていて、売り子さんがイチオシだったので手に取って読んだ本。ただ、ただ良かった。贅沢な暮らしをしているわけではないが、愛する妻と娘たち、重労働だがやりがいのある仕事をする主人公に、ふと、こことは違うが地続きの、裏の世界...続きを読むが見えてくる。それは自分の生い立ちにも関わる世界だった。そこに一歩を踏み出すことは、幸福な自分の足元が崩れてしまうかもしれない危うさを含んでいる。。。クリスマスのこの時期に読んで本当に良かった。ディケンズの『クリスマス・キャロル』を彷彿とさせる、新しいクリスマスの物語。日本語訳の素晴らしさは言うまでもない。引き続きこの著者の作品を読んでみたい。映画化される予定もあるそうで、それも楽しみだ。
自分の近くに社会的の闇があることに気づいたとき、どのような行動をとるべきなのだろうか。 果たして自分は、正しいコトができるのだろうか。『ほんのささやかなこと』を読んでそんなことを考えた。 1985年のアイルランドの小さな町のクリスマスシーズンの数日間を描いた物語である。 石炭と木炭商人のビル・ファ...続きを読むーロングが配送先の修道院で見窄らしい恰好で働く女性を見つけて助けを乞われることで、その社会の闇に気づき、といった話である。 アイルランドの「マグダレン洗濯所」という悲劇をモデルにした物語であり、恵まれない境遇の女性を取り上げている。 本書を読むまでは「マグダレン洗濯所」という悲劇を知らなかった。まず、このような出来事について、知れたことは、本書を読む価値であった。 著者のクレア・キーガンは良質な中編小説の作り手である。本書も頁数は120ページと短いが、一文一文が洗練されており、主人公の葛藤や心の変化が丁寧に描かれていた。本書のほかにFoster(『あずかりっ子』)という最近、映画化(「コット、はじまりの夏」)された作品もあるようなので読んでみたい。本書もキリアン・マーフィー(私の中ではノーラン版バットマンのスケアクロウ役)で実写化されたようなので一度見てみたい。
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