クレアキーガンのレビュー一覧

  • ほんのささやかなこと

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    著者の名は知らなかったが、役者の鴻巣友季子さんのお名前に見覚えがあったので手に取った。思っていた以上の良書。私が訪れたアイルランドはよく晴れた空にミモザがここにもそこにも咲溢れていたが、この小説からは薄暗い曇り空と寒風を感じる。身近な人の愛情に育てられた主人公が、自らの手で掴み取った平凡な幸せに飽き足らず、言われない苦しみを味わっている少女を救済すべく一歩踏み出す。現実にも似たようなことがかつて起こっていたと知り、憤りを覚える。特に、女性が、なぜ同性の庇護すべき存在を虐待するのか、理解に苦しむ。

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    2025年05月27日
  • ほんのささやかなこと

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    ファーロングという男性が、不遇の女性(少女)のために行動を起こすのがよかった。そこに至るまでの彼の過去、現在を丁寧に中編にまとめているのもよかった。彼が未婚の母のもとに生まれながらもウィルソン夫人たちの加護のもとに育ったこと、家族を持てたことで問題意識をフラットに、熟慮することができたのも大きいのではないかもしれない。声高に日々、活動する訳では無いが「ささやか」ではあるものの、それが誰かの心や命を守る大きな一歩だと感じた。

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    2025年04月04日
  • ほんのささやかなこと

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    アイルランドの小さな町で日々働いて一家を養う主人公ファーロング。彼の出自以外は退屈といってもいいくらいのささやかな日常生活が淡々と語られるのだけれど、どこか落ち着かないというか不穏なものを感じさせられる。
    最初はファーロング自身が抱える自分の来し方や将来への漠然とした不安なのかと思っていたが、それだけではなかったことに驚き。そして実話を元にしていることにまた驚き。
    ラスト、決然と一歩踏み出したファーロングの姿に勇気づけられた。

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    2025年03月17日
  • ほんのささやかなこと

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    世界の中に、このようなものの感じ方をする人間がいて、それを小説として世に出してくれて、極東の国で翻訳され、噛み締めることができる、という奇跡。

    さらに映画化もされ、来年公開されるという。
    昨年見た映画「コット、はじまりの夏」の原作者だと知って、膝を打った。いい映画だった。親からの愛を感じられない少女が過ごす一夏の叔母夫婦での思い出。机のビスケットが繋ぐ叔父との心の交流。
    あの静謐な作品と確かにテイストは似ている。
    予告編を見たけど、映画を見るのが今から楽しみだ。

    こういう小説を読むと世界は繋がっているなと思う。アイルランドの「マグダレン洗濯所」の歴史を知ることもでき、クレア・キーガンの見つ

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    2025年01月19日
  • ほんのささやかなこと

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    「知ること」の大切さ。

    こんな話を聞いたことがある。
    関心のない国や土地については、地名は知っていても、地図で書いたり場所を指し示したりすることができない。つまり、自分の世界ではその土地がなかったことになっている。

    これは見事に自分に当てはまっていて、知っているつもりでいたこと恥ずかしく、また恐ろしくも感じた。関心がないということは、無視しているのと同じことなのだと。

    この本は、訳者・鴻巣友季子さんのX投稿で知った。
    1985年のアイルランド話。それは1996年まで続いていた。中世の出来事でない。
    だからこそ驚いた。

    この知らなかったことを知る驚きは、
    韓国の映画「タクシー運転手」でも

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    2024年12月29日
  • ほんのささやかなこと

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    著者はアイルランドの代表的な現代作家さんらしい。

    舞台はアイルランドのとある都市、1985年のクリスマス。
    ファーロングは父を知らぬ私生児として育ったものの、今は燃料店を切り盛りし、
    妻と五人の娘に恵まれている。
    ところが、クリスマスの直前、女子修道会に付属する施設で
    その実態を目の当たりにしてしまい・・・
    自らの生い立ちと重ねつつ、葛藤する・・・

    アイルランドには、1996年まで各地に「マグダレン洗濯所」という
    施設があった。
    母子収容所を併設し、政府の財政援助を受けながら運営されていたものの
    実態は女性への虐待と労働力の搾取・・・名ばかりの職業訓練所だったとか。
    ファーロングは、その実

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    2024年12月20日
  • ほんのささやかなこと

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    「青い野を歩く」の著者の新刊と聞き、楽しみに購入。あとがきに〝ブッカー賞候補史上もっとも小さな本の一つ〟と書かれている通り、読み始めたら薄い上に字も大きい。ただ最後数ページはまさに圧巻。

    堅実で慎ましやかながら、幸せな家族との暮らしの中で、世の中の影に気づいた時、私たちはどうすべきだろう?

    この本に書かれた影、〝マグダレン洗濯所〟のような場所は、世界に、日本にもまだあるかもしれない中、主人公の周りの人々のように、自分はなっていないだろうか。

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    2024年10月25日
  • あずかりっ子

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    ちょっと、西の魔女が死んだを思い出した。
    子供にとってひと夏という短い時間が、一生の中でどれだけ大切なものになりうるかが、さらっと描かれた文章の中に詰まっている。

    楽しいときを留めておけないくらいなら、いっそ素っ気なく振る舞う感じ。
    願望や喜びの感情をあえてセーブすることで、避け難い現実からのダメージを大したことではないかのように、やり過ごす感じ。
    そんな子どもならではの心の防衛反応が、あぁ分かるなーと思う。いろいろと思い出す。
    だからラストの一言が、ぐっとくるね。
    ここは、クレア・キーガンがうまい。実に鮮やか。
    映像やセリフでは、この一言に込められた想いの半分も伝えられないのではないだろう

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    2025年11月22日
  • あずかりっ子

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    シェーンの「カムバアアアック!」とか、時かけの「いっっけええええ!」見たいな。

    しかしおじさんおばさんいい人すぎて、その反動で、父ちゃん母ちゃん含め周りの市井の人たちがなかなかのイヤな感じだったな。。

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    2025年11月12日
  • ほんのささやかなこと

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    1985年、アイルランドの小さな町。
    クリスマスが迫り、寒さが厳しくなるなか、
    石炭と木材の商人であるビル・ファーロングは
    ある日、石炭の配達のために女子修道院を訪れる。
    そこでファーロングは「ここから出してほしい」と願う娘たちに出くわす。
    修道院には未婚で妊娠した娘たちが送り込まれているという噂が立っていた。
    隠された町の秘密に触れ、決断を迫られたファーロングは
    己の過去と向き合い始める。

    そんなあらすじ。この物語を読むまで存在すら知らなかった。
    1996年まで存在したマグダレン洗濯所。
    婚外交渉により身ごもった女性ばかりでなく、
    堕落する可能性があると恣意的に判断された女性、
    身寄りのな

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    2025年10月08日
  • ほんのささやかなこと

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    “「女の子のなにがいけないのでしょう?」ファーロングはつづけた。「わたしの母もかつては女児でした。お言葉ではありますが、院長もそれに当てはまるでしょう。人間の半分に当てはまります」”(p.85)

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    2025年04月23日
  • ほんのささやかなこと

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    ほんのささやかな毎日を過ごすような静かな作品。扱うテーマはささやかではなく、重く厳しい。マグダレン洗濯所が実在したことに衝撃を受けた。

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    2025年03月26日
  • ほんのささやかなこと

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    アイルランドのある町で、石炭商を営んでいるファーロング。ファーロングの母は未婚の母なのだが、雇い主のウィルソン夫人のはからいで、そのまま夫人の家で暮らすことができ、苦労もあったが結婚し5人の娘に恵まれて暮らしている。ある年のクリスマス、町の女子修道院に石炭を納めに行くと、小屋に閉じ込められていた娘からここから出してほしいと頼まれる。

    未婚の母への偏見、修道女たちへの疑惑。この時代に、とまどいながらもとったファーロングの行動は、心があたたまる。

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    2025年02月27日