ダロンアセモグルのレビュー一覧
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なぜいま国家や地域によって経済や成長にここまで格差が生じているのかを考察した本。名著「銃、病原菌、鉄」では「近くにいた動植物がたまたま飼いならしやすいもので食料化し、かつそれらにいた病原菌を欧州民族が最初に抗体をつけたから」みたいな要因に格差が生じる根本原因を見出していたが、本書ではそれを社会システムに求めている。(歴史的偶然性である、というのはどちらも同じ結論なんだけど。。)
つまり、多元的・民主的政治システムは包括的システムであり、その下にはやはり包括的な経済システム、具体的には人々が発展することへのインセンティブが生じ、経済が発展すると説き、莫大な量の事例でこれを証明している。
慧眼というか最大のミソは、権威主義的あるいは絶対主義的な政治システム下でも権力の集権化に伴う効率性により経済はある程度発展するが、前者と後者の違いは破壊的なイノベーションによる許容度の違い、つまり権威主義、絶対主義的な政治システムの下では社会を根本的に変革し、自らの政治基盤を脅かすことにつながるイノベーションは結局のところ受け入れず、発展に限界が訪れることを指摘している点である。イノベーションを起こさせるインセンティブを人々に起こさせ、変化を国家自体も受け入れられるような多様な人々を意思決定の中に組み込んでおくこと、これがもっとも重要なようだ。
この視点から、現在の中国の開発独裁的手法には自ずと限界が訪れることを本書では指摘している。これが当たるかどうかが、本書の真価を問う場になりそうだ。
ある体制が崩壊し、新しい体制が生じる際に、その体制が社会のあらゆる階層や意見を多元的に受け入れているものかどうか、それが次の発展を規定すると本書では定義している。なぜならば前者と同じ性質の人たちが次の体制を構築する場合、よりひどい収奪的構造がそこに生まれることが多いことが歴史の多くの事例から証明されているからである。このことを正確に理解していれば、今後の国際情勢を見る上でのひとつのものさしになるような気もする。
いずれにしても、上下巻全部読むと、人類の社会、経済システム史に相当に詳しくなったような気にならせてくれる良書である。 -
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収奪の体制になると経済的な成長が止まるという理論。過去のいろいろな地域、国を事例として説明している。
政治体制によって経済体制が決まり、成長のインセンティブが働くなくなると国家は衰退する。国家の衰退を経済的な衰退ととらえている。
政治体制が民主的であれば経済成長が促される仕組みになっている。ただ、ローマを事例にとると民主から独裁へと移行しており、民主から他の仕組みに移行する可能性はある。
「隷属への道」では政治的な自由よりも経済的自由が重要と言われており、つながるところがある。というのも、収奪的な政治体制でなければ経済的な自由は保障されるので、民主主義にはこだわっていないと言える。 -
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「国家はなぜ衰退するのか」(上)は「国家はなぜ衰退したのか」「国家はなぜ繁栄したのか」「国家はなぜ繁栄できないのか」の事例のショーケースでした。包括的制度と収奪的制度という本書の提示するフレームワークのもと、産業のイノベーションが事業者に対してインセンティブをもたらす政治体制かどうか、というシンプルな視点で古今東西の国家の盛衰を語っていきます。初めに結論をハッキリさせておいて次々とサンプルを繰り出してくるのでテーマの重さの割りには一気に読めました。そういう意味では本書でも何回も言及されている「銃・病原菌・鉄」がゆっくり読み進まないとならなかったのと違いを感じました。西欧と東欧の違い、イングランドとスペインの別れ道、名誉革命と産業革命の意味、アフリカの苦しみ、中国の不透明性などなど、なるほどの連発です。ただ、その主張の分かりやすさが新自由主義的な市場礼賛にも繋がりかねないような気がしてヒヤヒヤしながら(下)に突入します。
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本書を読みながら、グローバルヒストリーという言葉が浮かんだ。
著者の、収奪的制度はインセンティブを起こさず、発展を阻むという理論の例証に、数々の国が登場する。日本も多くのページ数が割かれているわけでは無いが、ペリーの黒船が来航して以降、明治維新への流れが触れられている。ペルーでは、侵略者に対し、なぜ同じように抵抗し、打ち勝つことが不可能だったのか。もし、成功していればペルーは現在よりも豊かな国家となっていたのではないか。
それは、小さな相違と偶然性という言葉で表される。そして歴史の形態の一部であると。
横断的展開は、アフリカのシエラレオネやツワナのダイヤモンドへの対応、中国共産党の独裁制など幅広く及んでいく。
制度とは、繁栄とは、民主主義とは。本書は、考える種を与えてくれる好著だと思う。 -
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国家が繁栄するのか、貧困したままでいるのかを分ける原因を国家統治体制に求める大著の下巻。最終章である15章にこれまでの議論がおおよそまとめられている。
主張のポイントは、収奪的制度の下では一時的には成功したように見えることがあるが、その成功は大きく二つの理由から持続的でないということである。一つは、創造的破壊に伴う変化を嫌うためにイノベーションが発生しないことと、二つ目は支配層が持つ特権をめぐって争いが生じるための不安定さである。
そして、収奪的制度から包括制度には自然には発展しないということも強く主張する。日本やイングランドを含むいくつかの事例があるが、中国やロシアやアフリカ、中南米の貧困国が包括的制度の元で発展したような経済成長を現在のままの制度のもとで持続的に実現することは難しい、というのが著者の見立てだ。
人類の繁栄はなぜもたらせれたのかという興味深いテーマだが、ジャレッド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』、ウィリアム・バーンスタイン『「豊かさ」の誕生』、マット・リドレー『繁栄』と合わせて読むとよいだろう。この3つの方がお勧めではあるが。
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本書の中でも非常に重要なキーワードとなっている包括的制度と収奪的制度という対比される二つの制度原理が規定されているが、原文では次のようにきちんと対比された語となっている。
包括的 = inclusive
収奪的 = exclusive
これを直感的に日本語で理解できるようにするためには、今回採用した訳語は完全ではないが適切であったかとは思われる。ただ、原語ではワードとしても自然に対比させられていることを頭に置いて読み進められるべきであろう。しかし、この訳語の選定には相当に悩んだだろうな。 -
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地理的要因と家畜化および農耕化可能な野生生物種の存在を文明発祥の起源としての条件を提示したジャレット・ダイヤモンドの名著『銃・病原菌・鉄』に対して、その統治形態によって、国家の趨勢が決まるというのが本書の要点だ。
しかし、『銃・病原菌・鉄』のスコープと本書はスコープと論点が異なっており、明らかに互いに排他的な議論をしているわけではない。名が通ったものを恣意的な解釈のもとにアンチとして定義し、それ対して自らを対置することで正当性を主張する手のように見え、あまりいい印象を持つことができない。
著者の主張をまとめると、ごくシンプルで、統治形態が収奪的である場合は経済的繁栄は持続しないし、包括的制度である場合は繁栄する、というのが主張である。その事例としてスペインとイングランドの植民地政策の違いを歴史的に考察し、南北アメリカの違いを説明する。
スペインとイギリスの植民地政策の違いは、マクルーハンにも取り上げられて、決して新しい視点ではない。また、収奪的システムが経済的自立を阻害するのは、社会主義国家の失敗やアフリカの多くの独立後の国家の状況、さらには南北朝鮮の明白な違いを見れば明らかだ。
本書のテーマに対応する本としては『銃...』よりも、ウィリアム・バーンスタインの『「豊かさ」の誕生』を挙げる方が適当だろう。参考文献には挙げられていないので、著者が読んだかどうかは分からないが、そのスコープや着眼点は重なっている。成功した国家としてイギリスやオランダ、明治維新以降の日本を挙げている点も同じだ。『「豊かさ」...』では、「豊かさ」の発展の必要条件として「私有財産制度」、「科学的合理主義」、「資本市場の形成」、「輸送技術と通信技術」の4つを挙げている。本書では、おそらくはそれらに先立ち統治形態がより根源的な支配条件だと主張していると考えることができる。特に、「私有財産制度」と「資本市場の形成」は、包括的制度の必然の要素である。どちらの本に説得力があったかと言われると『「豊かさ」...』の方に自分とした軍配を挙げる。機会があれば合わせて読むとよいだろう。
また売れている本では、マット・リドレーの『繁栄』も対比できる本だが、『繁栄』では、人間が獲得した「交換」の能力が繁栄を約束したという。その要因をより根源的なものに焦点を当てているが、国家間で繁栄の差があることについては、あまり気に掛けていないように思われる。その意味で、両者は互いに補完するような関係にあると見ることもできるだろう。個人的には、『繁栄』の方が視点に意外性がありかつ根源的な問いかけがされていて面白い。
いずれにせよ上下巻に渡る大著である。もう少し短くできたかとも思うが、かなりの史料をベースにした真面目な本である。 -
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国が豊かかどうかを規定する因子を考察している。つまり、国民にインセンティブを持たせることができるか、どうか。それは、経済制度であり、政治制度が、どのような形をとっているのか。アメリカとメキシコの国境の街ノガレスを例に挙げ物語が始まる。
創造的破壊を拒絶するような絶対主義のもとでは、インセンティブは育たない。もちろん、創造的破壊によって、統治者やエリートは多くのものを失いうる。抜本的なイノベーションを導入するためには、常に新規参入者を必要とする。多元的なものを許容できる政治制度、つまり変化し続けることが生き残るための秘策なのだろう。
私のような基盤を未だ持たない者にとっては、本著はきわめて刺激的な内容に富んでいた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレマックスウェーバーは国家の本質を『合法的な暴力の独占』と定義した。中央集権していない国家は政情不安を招き、混沌となる。そしてその盛衰は文化や地理的気候が決めるのではなく、国家の政治・経済制度が決める。収奪的制度(≒共産主義?)を採る国は一部のエリートが富を得ることで、それ以外の人々との内紛や政情不安を必ず引き起こす。エリートは情報を操作し、自由な発想や創造的なものを破壊してしまうからだという。
つまり十分に中央主権された強力な国家と多元的価値観を認める政治・経済制度の共存が、繁栄できる条件なのだ。
植民地時代においても王に集権していたスペインと多元的なイギリスとの差がその後の繁栄を分けた。
更に植民地にされた国(特に資源が見込まれる国)は搾取を容易にするため、収奪的な政治・経済制度を強要され、繁栄を妨げられた。
人間の欲望が人間を支配する起源であることがよく分かる。
資源も少なく、タイミングよく明治維新が成功した日本は、こうした世界の潮流に飲み込まれなかったのかのように思えたが、やはり集権的な時代には数度の戦争に突入した。
集権・多元を繰り返すことが今後も国家の宿命なのだろうか。
まだまだ集権的な中国やロシアといった大国は、今後どのような方向に進むのか。
宗教で集権化されている国々はどうなっていくのか。
読んでいて根本的な問いが生まれるのは良書の証拠なのだと思う。 -
Posted by ブクログ
本書自体は膨大な歴史実証の本で大変素晴らしい内容であるが、上巻に比べると、ケーススタディばかり書いてあって上巻に加えた純な付加価値はほとんどなかった(つまり、オチが一緒だった)ので、読んでいて正直退屈であった。従って、本書を読む際は新たな理論的枠組みを知ろうという目的で読むと期待外れな結果になってしまうので、上巻の理論的枠組みの事例紹介の続きを読むような心持ちで読んだ方が良いと思った。言い換えれば、経済成長史の本として読むのが適切であろうということである。
個人的に付加価値があるなと思ったのは最終章(15章)で、ここでは本書の締めくくりのみならず開発経済学の観点から見て興味深いポイントがいくつかあった。この章のみは熟読する価値があると思う。