小原晩のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
優しい。優しくて人一倍感情に敏感なのだ。
殆どの「うまくやれる側」の人間はずっと矢印が外へ向かっているでしょう。何かあっても深く理由は考えず、自分の方へ矢印を向けることはないと思う。他へ向けて、その向けられた相手もまた他へ向けて。
それでも他人の感情に敏感で、変なところで真面目なタイプの人間は、その矢印連鎖を自分のところで止めてしまいたいと思ってしまう。むしろ自分がその矢印の最終地点なのかなとも。なんとなくそんな印象をこの本を読んで感じました。
心のホウプと対話したい。自分の心に耳を傾けたい。
本当に何もかもが自分のこれまでの生活の中で実際にあったことと重なって、まるで自分の日記を読んでいるみたいだった。ひとつひとつ丁寧に、考えながら生きている感じなんだけど、でも考えすぎて一周回って何も考えられなくなったり、このまま入浴剤みたいにお湯に溶けてしまいたいって気持ちに激しく共感してしまった。
とにかく優しく繊細で布団みたいに包み込んでくれるエッセイで心が温かくなりました。 -
Posted by ブクログ
やっぱりこの人の文章が好きだ。前作と内容や登場人物が被る部分も多いのに、読みたくなってしまうのは、ひとつの出来事や同じ人物に対して、小原さんが特定の感情にこだわることなく、色々な感度から覗きこんで、色々な可能性を含んだ解釈をしているからだと思う。特に「ほんとうはやさしい子」「兄のサービス」なんかは、前作の兄への印象とは大きく異なっていてすごく印象に残った。生き様は真逆でも、同じ人間から生まれ、同じ家で、同じルールのもと育ったから共有できる感覚みたいなものをここまで表現できるのはすごいと思う。
それから、わさびとテストの話を読んでどこに江國香織を感じるのかまた少しわかった。恋人の善意を無碍にできず、涙を浮かべながらわさび入りの寿司を食べるなんて健気だし、それに気づいてほしいなんて意地らしくてかわいいなあと思った次の瞬間、「私はいつのまにかわさびを平気で食べられるようになっていた」とつづく。こっちが切なさを覚えた途端に突きはなされる。
テストの話もそう。苦手だった勉強に目覚めて、それまで雑に扱われてきた先生たちから認められた瞬間、「私はざまあみろと思って、すっかり満足し、また勉強に興味がなくなった」。人間くさくてリアルな一方で、熱が冷めて現実に戻る残酷さがある。
がんばって誰かの望む自分になるところまでは健気なヒロインそのものなのに、途中でぶりっ子(言葉のあや)をやめて「じゃ、私のスタンスに戻りますね」ってところに芯を感じるし、その温度差に惹きつけられる。
こういう、ふんわりした雰囲気のなか、最後にスッと真顔に戻る文章を書けるのも才能だと思うけど、何より小原さんは生きてるだけで勝手にドラマになる星に生まれてるみたいだ。三人暮らしの初日を祝っていたら居酒屋で救急車を呼ぶような喧嘩が起きるなんてあまりにもフィクション。三人暮らしのメンバーも個性豊かで、奇人の周りには奇人が集まるのかな、と思ってしまった。
p67
次へ行くと決めた人間というものは、そうやって、自然に、当たり前に、さらりと顔を合わさなくなるものであるのだと、私はそのとき知ったのだった。
p155
彼はたしかにやせている女のひとが好きだったけれど、たぶん、ほんとうは、彼は、彼のためにやせようとする私を見て、やっと彼へのきもちを確かめていたのだ。
小説の一文すぎる。エッセイでこの空気を出せる人を私はこの人と江國香織以外知らない…… -
Posted by ブクログ
前作につづき、小原晩さんの人柄が文章や選ぶ言葉に溢れており、この唯一無二の世界観が心地よくて、好き。
小原晩さんの豊かな感受性は、やり過ごしてしまうような何気ない日常、きっと相手にとってはほんのささやかな関わりの中からも、何かを感じ取る。その時の感情に向き合うことで、社会を知り、自分の心を育てていく。自身の等身大の言葉で綴られるエッセーにはリアリティや重みを感じて、感情移入させられた。
自分自身も日記を残したいと思った。日常で経験するどんな退屈、平凡に思うことさえも、何かを得ているんじゃないかと思わされる。自分の感性とも向き合って日々の棚卸をしていきたい。
p.s.
心が「無」である時の感覚表現がしっくりきて好きな一文。
"その間、心のなかは無である。からっぽ、というのとは違くて、心には無が満ちていて、それ以外はもう入る隙間がないという感じである。"(生きたくなるセット より) -
Posted by ブクログ
小原さんの日常を綴っただけのエッセイ。
なんだけど、やっぱりおもしろい。
彼女の周辺にいる人たちがコミカルで、魅力的だったり個性が尖りすぎていたりするので、実在するのか疑いたくなる。笑
りんごちゃんにめろんちゃん、部屋を片付けて五千円を置いてくれ、ノートにメッセージを残して連絡がつかなくなった妖精。髪型も服装もカタギじゃなさそうな美容室の代表。エイさん。煮卵。兄。
女3人暮らしの話が好きだった。ふざけ合ったりココアを作ってもらったりするのが幸せで楽しそうで、でももういまはなくて。
千里中央にある、ニューアストリアという喫茶店の描写。個性的な従業員さんと、注文したカツサンドA(野菜入り)とミックスジュース。
行ったこともない店内の様子が脳内で立ち上がり、食べ物は美味しそうで小原さんと気持ちがシンクロしたような感覚になる。綴られている言葉は多くないのに…お見事です。
あっという間に読んでしまったが、他の本と同様なんとも言えないいい余韻が残った。
次の本を読むのが楽しみになる人。 -
Posted by ブクログ
自費出版で大ヒットした同名エッセイの商業出版版。17編が追加収録されています。
前半の、20歳前後に美容師として働き、失敗を繰り返していた頃のエッセイが面白いです。
劣悪な寮環境、自転車操業のような金銭事情、それなのに誘惑に負けてアイスを買ってしまう。想像以上に壮絶でブラックな美容師時代を、飾らず淡々と書き記す文章が見事でした。
具体的なエピソードが豊富な前半はサクサク読んでいたんですが、お父さんの死を扱ったエッセイ辺りから「いや、もっと味わって読んだほうがいいんじゃない」と思いなおし、ちょっとずつ手に取って読むスタイルに変えました。
夜中にゆっくりと歩いてミッドナイトショーを見に行く。
深夜の公園でブランコに乗り、ジャングルジムの頂に座る。
朝3時まで友達とはしゃいで、翌朝、(ギリギリの体力で)始発で海に行く。
同年代の頃、僕も似たようなことを、やったりやらなかったりしたけど、綴られるそんな日々がまぶしく、そして愛おしかったです。
心象風景を綴ったような回は少し自分には合わない部分もありましたが、エッセイなので、気に入った文章に巡り合えればそれでよいかと思います。
のんびりしたペースで楽しむことをお勧めします。
追記:
お父さんが亡くなる回のエッセイは名文でした。
『なんでもない日に、当たり前のように死んだ。』
の一文がリアルで、悲しみがぎゅっと凝縮されているように感じました。