井波陵一のレビュー一覧
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主人公の宝玉が、彼の理想とする少女たちとの宴を楽しんだ第63回あたりを境にして、主人公一族がついに没落の道筋をたどりはじめる。一族に関わる人々の関係がぎくしゃくし始め、ある者は病に倒れ、ある者は死を選ぶ。いびり殺し、殺されたようなケースも一つだけでない。様々な悲劇が矢継ぎ早に起こり、それは、大観園の夢を打ち壊す持ち物検査と主人公の侍女晴雯の死で、ひとつのクライマックスを迎える。悲劇はその後も、次巻からの補作に引き続き描かれるが、本巻だけでも十分、破滅のカタルシスを味わうことができる。それまでの一族の繁栄と宴の描写がとてつもなく長かっただけに。
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Posted by ブクログ
大観園をめぐる環境は一気に厳しく変わる。賈宝玉と林黛玉の二人は会う機会が減り、史太君、王煕鳳の策により、宝玉と薛宝釵の結婚が進められていく。黛玉はその噂を知り絶望するが病状はどんどん悪化。宝玉の結婚の瞬間に生命を失う黛玉の悲劇の最期はドラマティック。侍女の紫鵑そして、駆けつけた探春と李紈だけに見守られて・・・。椿姫の最期に似ている。妙玉と宝玉が黛玉の琴の音と憂いに満ちた詩を吟じる声に静かに耳を傾ける情景が悲しく美しい。悲劇へ向けた序奏である。(87回)宝釵の賢女ぶりが健気で可愛く、それだけに彼女にも悲劇を感じる。薛宝釵の兄・薛藩の殺人事件を巡る裁判の場面を通して250年前の中国の法治国家ぶりが