トマス H クックのレビュー一覧
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以前にクックの「夜の記憶」を読んだことがあり、この作品はまあかなり、いわゆる「イヤミス」で読んだ後になんとも言えない気持ちになって、登場人物の名前を全く別のシチュエーションで聞いてもその気持ちが蘇るトラウマミステリーでした。
なので、なんとなくしばらく遠ざかっていたクックなのでした。
こちらの作品も形は違えど、遠い日に起こった出来事を深い悔恨をもって回想する、そして出来事の真相が明らかになる、という点では同様の展開。
他にも「記憶シリーズ」があるらしくて多くがこのようなパターンで展開されるお話との事、普通ならばワンパターンと感じてしまうところなのですが、これがクックの筆力にかかると仮にワ -
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ネタバレまさかのトマスHクック、緋色の記憶、版元を変えての新版。20年ぶりくらいに再読。
村に降り立った美術教師が同僚を愛した。その結果、悲劇が起こる。過去を悔やむ老弁護士が語る、チャタム校事件の真相とは。
過去を振り返る系の小説としては、完璧。最高の小説だと思う。
あの日あの時、誰が何をして、誰に何が起こったのか。徐々に明らかにする読ませ方が良すぎる。
全編を通して漂う悲劇の匂い。合間合間に幸せだった頃の思い出がカットバックする。そこがまた、最後の悲劇をより強いものとし、胸が締め付けられる。
ミステリというより、文学か。
緋色の記憶で海外ミステリの良さを知り、どっぷりとはまってしまうことに。感 -
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ネタバレこれは、ものすごく身につまされた。
周囲を見下し、孤高を保つ夫・サミュエル。
過剰な自意識。自分はこんなところにいるはずではない。
頑なに自分を守り、他人を排除する。
内心は不平・不満・怒りに満ちている。
これは学生時代の私か?
しかも私は、そのプライドの高さから、そんな自分すらも他人から隠していた。
自分の不平・不満・怒りは日記の中にだけ。
いや、年齢と共に頑なに自分の中に閉じこもっていく姿は、私の母のようにも思える。
感情が表面にあらわれることはなく、他者への興味・共感を失い、家族の心配に心を向けることはない。
いや、いや。やっぱりこれは夫婦の問題。
知らず知らずに変わっていくのは -
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泣かされる本には本当に困る。ガツンと音が出そうなくらいの痛みが、読後の充実感に変わって心の中に広がるとき、人間としての弱さを突かれたような驚きによって感動が一気に沸騰してくるようなケースだ。
時にそれは最後の一行であったり、最後の一シーンであったりする。この本に関して言えば最後の一ページだ。このページが心を銃撃する火薬量は生半可なものではなかった。
いつもながらの回想シーンの叙述と現在の状況とを交互に繰り出して、事件の全体像を抉り出す、丹念に仕上げられた木工細工のような誠実な仕事ぶりはクックそのものである。しかしこれまでと違うのは、現在の状況が裁判の初日の冒頭陳述に始まり、十日後の結 -
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土瓶さんの『夜の記憶』のレビューに触発されてトマス・H.クックを初読み。
平穏な村に美しい女性教師が訪れたことによって起こった事件は、どんな悲劇だったのか…
いや〜焦らされる。
こうして思い出すと…、あの時はまだ…、こんな恐ろしいことになろうとは…みたいな思わせぶりにずっと焦らされる。
「一体何が起きたのよ〜、早く教えて!」という思いからどんどん先へと読まされていく。
ヒロインの登場シーンは、色や音や空気感までもが映画のスローモーションのようにゆっくり描写されている。
クック作品の比喩で「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」と言われているのがすごい納得できる。
描写や言葉一 -
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ミステリーに分類されているが、ネタバレや謎解きに重きが置かれている訳ではない。
事件発生までの時系列に加えて、主人公の少年が老齢になった現代の描写や裁判の公判での証言を織り交ぜることで飽きの来ない展開がされている。
少年の一途な心理が描かれているが、大人の自分としては、彼が興醒めする大人側の視点で考えてしまう。学校長の父親に対する評価が、主人公の少年と女性教師で違っていたことが判明し、彼自身の成長に併せてそれも変遷していくことが描かれている。美人教師の赴任に端を発する事件の裏で展開される、親子や家族関係がテーマなのだろう。
一つ気になったのは、主人公の心理描写と重ねられて陰鬱に描かれているチャ -
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ある田舎町の学校に女性教師が赴任し、そこから起きた事件
田舎町の平穏だけど退屈な空気感
そこに現れた異質な存在に惹かれる少年(過去)と、それによって人生が変わり果てた老人(現在)が事件について語っていく。
真相がわからないまま進むが
引っ張り込むようなエンタメの要素は無い代わりに各場面静かで鮮明な描写と比喩に浸り、物語に引き込まれた。
意図してるものかはわからないけど、現在と過去を交互に読むうち老人と少年が混ざり切り替わりの境目が無くなる瞬間を何度か感じ、混乱するではなくて「語っている現在の主人公自身が過去と行き来している」ように読めた。 -
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ネタバレ1926年、アメリカ。ケープ・コッドにあるチャタム校に、新しい美術教師のミス・チャニングがやってきた。校長の息子ヘンリーは絵の才能を見込まれ、放課後や休日も黒池のほとりにあるチャニングのコテージを訪ねるようになる。だが、チャニングが同僚の文学教師リードと親しくなりはじめてから、少しずつヘンリーの世界は歪みはじめた。少年時代の記憶の澱を揺さぶるミステリー。
完成度が高くて面白かったんだけど、最後まで読んで語り手がやらかしたことを知ると、途中で何度も「しんどい記憶だけど、今思えばあれも青春だった……」みたいな感慨を漏らしてたのが後からムカついてくる(笑)。最終章は激しい罪悪感から生みだされた捏 -
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トマス・H・クックは、人間の内面に旅する物語が多いせいか、空間よりも時間を縦に穿孔してゆく作品が多い。それも鋭い鋼のメスでではなく、浸透する雨垂れの一滴一滴で、静かにしっとりと穿ってゆく文体で。
なので本書の内容には驚かされた。クックという、心を描くことでファンを掴んできた作家が、このように歴史や国や時代としっかり結びついた長大なスケールの物語を書いたということに対して。初めての試みに巨匠と言われる作家が取り組みを見せたことに対して。
そう言えば『キャサリン・カーの終わりなき旅』においても、この作家は神秘的ともオカルト的とも取れる新種の作品を書いて我々を驚かせたのではなかったか。今、 -
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新装版か~。キレイな表紙。
同著者の「夜の記憶」が良かったのでこちらも手にとってみました。
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞作。
老弁護士が語る少年の頃の記憶。
村にやって来た美しい女性教師。
そして起こる悲劇。果たしてその真相は?
★3の下。
うん。「夜の記憶」の方が好みだったわ。
いや〜〜〜!
さすがに焦らし過ぎ。
事件が起こるまでが長い長い。
純粋ミステリーってよりも文学っぽいのかな。
あまりにも丁寧に描かれているので話の展開が遅い。
まるで、脱ぎそうで脱がないストリッパーの如し。
(# ゚Д゚)コラ! ネーチャン ハヨヌガンカー!!
471ページだが半分くら