ピップ・ウィリアムズのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレあまりに美しくて最初から涙が出そうになる。「美しい」といったけどそれは外見に現れる「美」ではなくて日常に浮かんでいる、心が絵のように印象を切り取り溜め込んでいくそのシーンの美しさの事。言葉で文中説明されることのない主人公の感情の積み上げはこちらにぽつりぽつりと落ちて波紋をいくつも作るのよ。トニモリスンの「ラブ」を読んだ時の如く、直接説明せずに描ける方は本当に凄いなぁ。映画化されて欲しいくらいだが映画でこの美しさを表現できるのか?とも思う。本が好きな人も、言葉が好きな人も、女性である事に鬱々とする人も、メタな視点でいえば翻訳という事を楽しむ人も、何かしら見つけられると思う。そして戦争が日常に入り
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Posted by ブクログ
辞書は男の言葉でできている、そんなことに気付かされる物語。
全ての英語を記載する辞書を作る過程を描きながら、そこからこぼれ落ちる言葉に注目したという、それだけですごい作品。
女性たちの、”取るに足らない””学術的な価値がない”などとされていた言葉を拾い集めることで、それを使う人々の地位や出自、そして性別によって、残されるべき言葉が決まっているのかもしれない…。
言葉に取り憑かれたような女性、エズメの人生を描きながら、過去と現代を照らし合わせることで、見えていなかったものが見えてくる作品だった。
個人的には、なぜある言葉を”卑猥”と感じるのか、その視点がなかったので、本編と訳者のあとがきを読むこ -
Posted by ブクログ
ネタバレ読んでよかった。
ことばを持つこと、ことばを扱うこと、ことばを得ること。ひとつひとつが大切で、意味のあることだって実感できた。
すくいあげられない市井の人のうつくしさも素晴らしかった。
エズメは当時の女性にしては恵まれていたが、それでもやっぱり「女」であることからは逃れられなくて、「持つ者」としてのエズメと「持たざる者」としてのエズメ両方を描いているところが好き。
メイベルもディーダもガレスも好き。リジーはもちろん好き。リジーがいたからエズメは「ボンドメイド」ということばが引っかかったのだろうし、エズメがいたからリジーはいろんなことばを獲得して、ことばを通して心について考えたりできたのでは -
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読み始め、翻訳特有のとっつきにくさを感じ、完読できるのか不安になってしまい、ブグロクでネタバレの無い感想を先に読みました。ポジティブな感想が多く、それ以降は、ほとんどのめり込むように、本の世界に入ってる自分がいました。
日本の辞書編纂を題材とた船を編むは読んだ事がありましたが、やはりどの国でもこのテーマって愛されるんだなぁと思いました。
彼女の数奇な運命に私も何度も涙を流し、彼女を取り巻く様々な人の人生を垣間見て、私も力をもらい、彼女の人生に人しれず伴走して生き切った感じです。
辞書は、それを作った人達の熱意や、出典元となる言葉を提供してくれた人々の気持ちも全部乗せて、文字が組まれて印刷されて -
Posted by ブクログ
ネタバレエズメが大切に大切に言葉を集めたように、大切に大切に読みたかった。辞書編纂をめぐる壮大で、かなしくて、あたたかい物語。
「世界中のあらゆる書物から集めた言葉」が、書物の書き手がほとんど男であったために男が使う言葉に片寄っているのではないか?という視点は目から鱗だった。
編纂にかかった40年の間に第一次世界大戦があり女性参政権運動があり、それがエズメとOED編纂の物語に丁寧に織り込まれて、読みごたえがあった。(戦争の下りはもう過去の話として読めなくて、本当につらい)
翻って、物語の中にあったような女性の生きづらさが果たして今はなくなっているのか?と思うにつけ、なにも変わっていなくてびっくりする… -
Posted by ブクログ
とても良い本だった
ことばってとても大切なものだと私はずっと思っている
本来、ことばはことばそのものであり、良いものも悪いものもきっとないはずで
それに意味を見いだしてことばを使っていくのが私たち
以前、今もかもしれませんが女性の立場はとても低いものだった
それはことばでも同じ
辞書を作る、という事柄からいかに男性優位で女性が下位にいたのかがわかります
こういう本を読むと、いつも思うんです
女性運動に注目して書かれた本は少なくないのに、その本は大抵女性が書いている
男性にも、もっと注目してもらいたいなと思ってしまいます
辞書は歴史書でもある
本当にそう思います
以前とは、意味が異なっ -
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Posted by ブクログ
ネタバレいや、すっごいこの本は考えさせられた!
何か分からない言葉があったら調べる。
今はネットとかでサクッと調べるけど、より深く調べたり学校に通ってた時は辞書を使いなさいとよく言われた。
だから辞書の中には全ての言葉の意味が載っていると当たり前のように思っていたけど、そうでは無い事もある。
特に男尊女卑が激しかった昔に作られたオックスフォード辞典にはほぼ女性が使う言葉は無く仕事もほぼ男性の手によるもの。
女性も沢山編集に加わっていたものの、時代的に女性は手伝っていたとはみなされなかった。
さらに階級格差で比較的上流階級の人の言葉だけが採用されている。
辞書と言う物はそういう世の中の格差や差別等から -
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Posted by ブクログ
世の中ではあまり話題になっていないみたいですが「掘り出し物」でした.
何年か前に「博士と狂人」や「舟を編む」が話題になったのですが,これは前者と同じオックスフォード英語大辞典の編纂作業を背景にし,ただし,架空の名もなき女性がそこに陰ながら携わる姿を描いたものです.
背景には,女性参政権運動や第一次世界大戦があり,その中での主人公のほぼ一生を描いた大河小説です.
残念ながらオックスフォード英語大辞典にとって彼女はあくまでも”陰”で,彼女の名前がそこに残ることはありませんでしたが,エピローグでは彼女が言葉に対して捧げてきたことが見事に実を結んだ様子が描かれます. -
Posted by ブクログ
ことばを丁寧に包めたような書き出し。ああ、いい物語が始まる、とすぐに感じた。
言葉を歴史とともに正確に記録し、後世に伝えていく。
辞典編纂は、壮大な人類の試みである。
この作品は、そうした人々の熱意と、時代や社会に隠されてきた女性の存在、戦争によって失われそして生まれ変わった言葉たち全てを偉大な主人公として、書物という土台の上に建っている。
どんな「小さな」言葉にも物語があり、それはそれを手に取る全ての人にとって異なり、時代によって移り変わる。しかし、その言葉を記録した人々がいつかのどこかの人間であるという事実は永遠に変わらない。私のもとにやってきてくれてありがとう。 -
Posted by ブクログ
「オクスフォード英語大辞典」はもちろん大変価値ある偉業であるが、男性たちが男性たちの用例を集めて作っていること、そこには何人かの女性たちも加わっていたのに(祝賀の食事会でも外の席にされたことに象徴されるように)存在に光を当てられていないことに気づき、そこから想像を広げていく作者の視点が素晴らしい。史実と想像を織り込んで。ここまで豊かで生き生きと物語を紡いだことが素晴らしい。
捨てられたことば、置き去りにされた小さなことばを集めるエズメ。女性の参政権の獲得や戦争という歴史の波と、エズメの日々の暮らしや恋愛などを重ねて生涯が描かれ、それは体温と重みを持つ。謝辞も辞書のテイで、作者の辞書や言葉に対