月40万円という求人を見つけ看護師から介護ヘルパーへと転身した茜。仕事内容は山奥の屋敷に住み込み、寝たきりの女性を介護するというものだった。再出発に張り切る茜だったが、介護の際に決められた不可解な決まり事に不気味な空気を感じとる。
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発売前くらいからツイッターのタイムラインで話題になっていた小説。屍を介護するというなんともインパクトのあるタイトルである。後ろのあらすじを読んでも、不穏一色。頭に黒い袋をかぶり、枯れ木の様な肌を持つ女性の介護……。どこをとってもやさしい雰囲気漂う介護じゃない。山奥の洋館なんて、何かあったら逃げられないじゃないか。この洋館絶対なんかある、私知ってる。
人間関係のこじれとそれに伴う体調不良が原因で、看護職を辞し、介護ヘルパーへと転職した茜。たまたま見つけた求人で月40万円という破格の給料を提示している施設を発見した。
さっそく面接を受けに行くと、前職が看護師だったこともあってか、とんとん拍子で話が進んでいく。話がまとまり、本採用に至った茜は、看護師として働いていた際の知識を生かしつつ、新人として全力で頑張ろうと意気込む。
社長の母親である高砂の運転する車に揺られ洋館へ赴いた茜は、先に住み込みで介護にあたっていた、先輩二人と一緒に仕事を始めるが、クセの強い先輩二人と介護対象者である妃倭子の尋常でない姿、そして通常では考えられない介護内容に辟易してしまう。
それでも何とか馴染もうと懸命に働く茜であったが、館で過ごせば過ごすほど、様々な疑念が暗雲の様に立ち込める。
じわじわと迫りくる脅威を感じ取った茜は、館の秘密を暴き、非現実的な現状を打破しようと決意した。
読んでいて、非常に不安になる作品。読むほどに居心地が悪くなり、これから起こりうる事象を想像しては顔をしかめた。
だが、その一方で読む手が止まらなかった。ひた隠しにされる真相、分からないという事はなんと恐ろしい事だろう。私はこの結末を見届けたいと思う一方で、真相を知るのが恐ろしく読む手を何度か止めてしまった。しおりを挟んでは本を閉じ、先が気になって本を開いて、本を閉じというのを繰り返しながら読んだ。
最後の方などは数ページ読んでは心を落ち着かせ、また開いて、心を乱して読み続けてしまった。
読み進めていくごとに、様々な不気味で不可解な事実に疑念が胸にわきあがる。その疑問が作中の茜とリンクしてより一層その感情が搔き立てられた。
介護をするにあたって決められた、理解しがたい決まり事。どう考えてもおかしい介護内容を、何の疑いもなくこなしていく先輩たち、要介護者には家族がいるはずなのに、話すら出ることはない。
この館に関わる全てが闇の中に置き去りにされていて、端っこの部分だけが読者と茜の前に提示される。
それが疑念を呼び、解明しようとすればするほど、納得のいかない、理解できない事柄が置き続け、茜と読者を翻弄し続ける。
その真相を知りたくて読み進めるのだが、どう転んでもいい結果はありはしない。きっと知らない方がいい。
触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものである。
しかしこの禁忌めいた真相を私は知りたい!という思いに突き動かされながら読んだ。
なんかこう、もっとこの話はどこそこがこうなって、というのを言いたいのだが、あまり具体的なことを言うと面白くなくなりそう。読んだ人と感想を共有したい気持ちはあるのだけれど、未読の人の楽しさを奪うのは気が引ける。
だが、最後に一つどうしても言いたいことがあるのだが、茜が妃倭子の部屋を訪れた際に描写されていた、天井からぶら下がる黒い紙の描写がとっても好き。
私個人の感想だが、一瞬呪術めいた印象を抱かせて、もっと実は現実的なことだったという描写に非常にリアリティを感じた。
これは現実に起こっていることだぞ、と改めて言われている気持ちになった。
読み終わった後も、すごくあのシーンは気に入っている。
読み終わった後、いろいろ思うことはあったのだが、私にはなぜかあの場面が一番印象に残っている。
未読の人に読んでもらって、どうだった、こうだったと言い合ってみたい一冊だった。
面白さにあっという間に読み切ってしまう話なので、未読の方はぜひ。