及川茜のレビュー一覧
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「宝をめぐって闘うことは、宝そのものより重要だ」
地球へ向かう輸送艦、老いた艦長から老いた火星総督への伝言、物語はここから始まる。
舞台である「火星と地球」は、火星独立時の事情から、「統制管理と経済支配」という社会構造の相違から、再び戦火を交える直前にあった。その様子は、まるで現代の「社会主義と資本主義」を比喩しているよう。
人の幸せとは何か
自由と保護は相反するのか
そしてこの大きなテーマは、主人公達の葛藤という内面でのテーマとも通じている。
「自由とはなにか」主人公ロレインたちの迷い……。
自由、それは束縛からの離脱、独立。離脱したのちにあるものは、自らが作る新たな束縛?
レイニ -
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『闇に包まれた穴の底には、龍が横たわっているような気がした。(中略)年寄りたちの言うには、そうした穴は龍が冬眠をする穴ぐらだそうで、龍は夏になると穴からはいずり出てきて天空に飛び立ち、冬になると再び穴に舞い戻ってくるという。穴の付近の雪が解ける理由は、龍の吐く息が穴から噴き出してくるせいらしい。ぼくはその言い伝えを知っていたので、穴の底でひとりぼっちにさせられたとき、龍に食われてしまうんじゃないかと怖くてたまらなかった』―『ラシャムジャ/穴の中には雪蓮花が咲いている』
「絶縁」というテーマのアンソロジー。村田沙耶香が作品を寄せているというので読んでみたのだけれど、その他のアジア圏の作家の短篇 -
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日本の作家と共作しませんかと問われた韓国の作家チョン・セラン氏が「アジアの若手世代の作家が同じテーマのもと短編を書くアンソロジーはどうか?」と編集部に逆提案。それで編まれたのが本書だとか。
今回のテーマは“絶縁”。人によって、国や地域によって、こんなにもいろんな“絶縁”があり、それぞれが自分だけの「生」に翻弄されながらそれでも生きていくしかないのだな…。誰かに代わってもらうわけにはいかないものね。
作品ごとに作者紹介に加えて訳者解説やあとがきがあるのがうれしい。世界が広がるような一冊でした。テーマを変えたり執筆者の顔ぶれを入れ替えたバージョンも読んでみたい! -
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私が今まで読んできた小説とは違う、新しいもの、知らない感覚に触れた、という読後感があった。これは読書において私がとても大切にしていることだったのでとても嬉しかった。
この作品だけでなく過去のさまざまな作品も、自分の内部や世界を見つめるために実験的に書いているのかもしれない。著者の後記を読んでそう思った。
全てを理解することなんて到底できない「自然」という大きな存在だけれど、個人の物語の中にどうにか落とし込んだときに、彼の場合はこういう物語になるのだろう。表紙や挿絵の神秘的な雰囲気も作用して、読んで見て色んなことを感じ取ることができた、素晴らしい読書体験だった。
ネイチャーライティング(・フ -
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『「経験の中にないんだ。 前に読んだ哲学書に書いてあった」 阿賢は言った。 「人間は自分の経験の中でしか生きられない。でも今朝の俺たちは自分の経験の中にはいない」 小鉄は自分には永遠に阿賢のようなことは言えないと思った』―『// // アイスシールドの森』
六つ(プロローグも数えれば七つ)の、バラバラだが緩やかに符牒を通して繋がり合う短篇に共通するのは、「クラウドの裂け目」と呼ばれるコンピュータ・ウィルスによる厄介な現象と、そのウィルスから届く鍵を使って、他人の、だが近しい人の、内面にも似たアーカイブを覗くことで振り回される主人公たち。豊かな(複雑で乱雑な)自然の営みの傍らで、空想科学小説に -
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明晰で硬質な言葉によって書き留められた自然描写のなんと素晴らしいことだろう。
自然は、うちに秘めた合理性と、完璧な精緻さによって僕等をいつだって驚嘆させる。
顕微鏡が捉えたかのような完璧さを、柔らかく滲ませて、水彩絵の具を何層も重ねていったかのように透かして見える奥行きを与えるのは、ひっそりと降る雨だけではない。
細密画には書き込めない、網膜に映らないものが自然の中には確かにあるのだ。
季節や天候の移ろいに、動植物の営みに、人は意味や徴しを見いだし、記憶や自己を重ねてゆく。つまりそれは、世界に物語りを付与するということ。
そうやって人は、目に映るあるがままの自然から、己のためだけに差し出さ -
Posted by ブクログ
草や木、海や山、鳥や獣や昆虫に混じって、人が物語を奏でる。
背景ではなく物語のkeyとして……
六つの中短編と挿し絵が一冊の物語としてまとまる。
これは、「ネイチャーライディング(自然書写)とフィクションの融合」だそうです。
でてくる自然は台湾由来のものを示すが、登場人物の名前は一様に漢字表記ではない。これも台湾という土地の歴史が物語ること。
少し現実に引き戻される事柄として「クラウドの裂け目」「鍵」がどの物語にも登場する。
主人公をもう一つ不思議な事へ誘うkeyとなる。
……正直、なんだか安易で、よくわからないかな〜
お気に入りの作者だけに、やや不満。 -
Posted by ブクログ
雨が降らなくなってしまったために、餌となる虫を食べられなくなってしまった知り合いの鳥「胖胖」のために語った、とされる六つの物語が入った長編小説。
人とうまくコミュニケーションを取れないミミズ研究者と鳥類行動学者。恋人を失ったツリークライマーと、無差別殺人で妻を失った弁護士。絶滅したクロマグロを探す男と、囚われた虎を解放しようとした青年。それぞれの物語では、対になる似た傷を負った人たちの傷が癒されるまでが語られる。
プロローグでは、雨が多かった島に、雨が降らなくなってしまったことで、畑が死にかけていることが語られる。そのため、この物語において雨は、命を救う恵みの雨として描かれる。
「雲は高度二 -
Posted by ブクログ
東アジア~東南アジアの若手作家による『絶縁』という共通テーマのもとに書き下ろされたアンソロジー。
かなり読みごたえがある。
読み終えるのに結構な時間がかかった。
同じ時代を生きているのに、その国の政治・社会状況によりこんなにも違った世界が広がっているとは、想像もしなかった。そう、同じテーマのもとに書かれているにも関わらず。
作家の個人的な傾向もあるだろうが、それとてその国の社会情勢に影響されることは少なくないだろう。
村田沙耶香、チョン・セランの作品は、読みながら(村田沙耶香のはディストピアのようだったが)その状況や心理が掴みやすかったのは、やはり似通った社会構造の国の作家だからだろうか。 -
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