松島芳彦のレビュー一覧
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【これは本書の結論でもある。プーチンが次第に正気を取り戻し、西側との融和を模索するだろうという期待を持つことは、もうできない。だからロシアと西側の融合という事業の終結を宣言したのだ】(文中より引用)
若い頃からロシア(当時はソ連)に親しみ、オバマ政権において駐ロシア大使を務めた人物の回顧録。米露関係の「リセット」を掲げた試みは、いかにして著者自身が認めるように「失敗」に終わることになってしまったのか。著者は、プーチン大統領から蛇蝎のごとく嫌われたマイケル・マクフォール。訳者は、ロシア関係の翻訳も多い松島芳彦。原題は、『From Cold War to Hot Peace: The Inside Story of Russia and America』。
ロシアを愛し、ロシアに飛び込み、そしてロシアとの関係を変えようと試みた著者が、「生涯をかけた仕事が失敗に終わった事実を認めねばならない」と書き記す時の無念を思うと、胸にとてつもなく重たく冷たい感情が去来するように感じられました。著者自身が客観視して自身の半生を振り返っており、分厚いですが読み応え抜群の一冊でした。
これは心から読んでよかったと思う☆5つ -
Posted by ブクログ
アイルランドの歴史家、ジェフリー・ロバーツによる、スターリン伝。
「図書室」というタイトル通り彼の蔵書を切り口にしつつ、ロシア革命〜スターリン政権下のロシアの歴史を丁寧に辿る充実した内容。
出典が示すとおり、近年の他の歴史家の記述を収集した感も少しあったが、過不足ない情報整理と深い洞察に、歴史家としての著者の熟練が感じられ、感服の思いだった。
スティーブン・コトキンやミロヴァン・ジラスなど、すでに読んでいる内容もあったが、本著での学びを3つ挙げておく。
1、共産主義と宗教
もともと神学校で学んでいたスターリンが、キリスト教東方正教から共産主義という新たな宗教へ宗旨変えしたが、その性質は近似する、という指摘は真実だろう。
共産主義に限らず、システムへの従属は少なからず信仰や宗教性を帯びる。
ユヴァル・ノア・ハラリの言葉、「カネとは歴史上最も成功した物語だ」は真理を突いている。
2、共産主義or国家社会主義
トロツキーとスターリンの半目を語る際の、決定的な思想の違いである。
レーニンの「国境なき共産主義社会」の原則を貫こうとした理想家・トロツキーと、国家という枠組みで動く国際社会の論理を冷静に見抜いた現実主義のスターリン。
二人の光と影の対比は、歴史のレッスンであり、結果として訪れる対ナチスドイツ勝利は、スターリンに対する感情的な嫌悪が当たらない最大の理由である。
3、ジョージ・ケナン
スターリンがジョージ・ケナンを認識していたことを改めて確認した。
駐露アメリカ大使だった際にペルソナ・ノン・グラータ(好ましからぬ人選)として帰任となり『大変ショックを受けた』と言うのは、彼の人生に少なからず影を落としたと思われる。
著者がケナンのロシア観を熟知し、アメリカ人としては数少ないソ連の理解者を失ったことを悲劇と記しているのは至極同意である。
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総じて、蔵書を切口に、スターリンの知性や知識を公平に分析する内容だが、結びは批判の言葉となっている。
本著にも引用されているジラスの『Conversations with Stalin』では、批判の最後にスターリンの功績の絶対性について言及したので、それとは逆の展開だ。
改めて、功罪併せ持つ人物である。
結語を引用する。
「スターリンは絶え間なく社会主義と共産主義を追求した結果、絶大な成果を上げたが、代償として途方もない過ちを犯した。彼がもっと優れた知性を備え、ボリシェヴィキ原理主義に凝り固まっていなければ、あれほど峻厳な行動はとらず、膨大な数の人命を奪わずに、より大きな業績を残していたであろう」
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Posted by ブクログ
本書はスターリンの読書家としての一面に光を当てている。スターリンの蔵書は二万五千冊にも及び、彼の知識欲と活字への崇拝は並々ならぬものがあったらしい。そして、その膨大な蔵書に残された書き込みからスターリンの内面に踏み込んでいる。
しかし、スターリンの精神を覗くために、なぜそんな面倒な手続きをする必要があるのか?
それは、スターリンが自分について語らないからだ。政治家というのは自分の話ばかりしたがる人々である。しかしスターリンは自伝も日記も回想録も残さなかった。本書でも触れられているとおり、自分について語る言葉に対して非常に禁欲的で、その結果、意外とスターリンのまともな評伝はないのである。
蔵書への書き込みは、スターリンが残した数少ない活字であり、限りなく正直な言葉でもある。
スターリンは教条的なマルクス主義者だが、思いのほか度量はあり、さまざまな思想に触れている。著者を非難しても、書物の内容は受け入れる。こう書くとソ連の悲劇的な顛末がふしぎに思えてくるが、そもそもマルクス主義者たちは活字への傾倒が顕著なものである。
本書の紹介にあるような、スターリンによる本への書き込みからの洞察は、思ったよりも少なめなのだが、そもそも本への書き込みなどメモ程度のものである以上、致し方ないのかもしれない。ただ、それを補って余りあるリサーチがされているので、一読の価値はあると思う。 -
Posted by ブクログ
1986年4月26日の未明に起きたチェルノブイリ原発事故について、事故の遠因、事故時の現場の対応、その後の対応や被害、さらには事故が社会に及ぼした影響まで様々な側面から記載されている。当時の原発職員、消防士、兵士などが放射能の危険を知ってか知らずか、結果的に大量被ばくになるのを顧みずに事故対応に当たったことと、旧ソ連の秘密主義的な対応により住民避難が遅れたことが印象的。
奇しくも事故日直前から読み始め、4月26日に行われた現地の追悼式典をニュースで見ることになった。それにしても、ウクライナはロシアの侵攻を受け、チェルノブイリ原発も攻撃を受けるなど、原発事故の悲惨な結果を忘れたかのようなことが行われている。本書では、福島原発事故にも言及され、2016年までの出来事が記載されているようだが、執筆・出版がもう少し遅ければ、2022年の軍事侵攻もチェルノブイリのその後として取り上げられたことだろう。