本書はスターリンの読書家としての一面に光を当てている。スターリンの蔵書は二万五千冊にも及び、彼の知識欲と活字への崇拝は並々ならぬものがあったらしい。そして、その膨大な蔵書に残された書き込みからスターリンの内面に踏み込んでいる。
しかし、スターリンの精神を覗くために、なぜそんな面倒な手続きをする必要
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それは、スターリンが自分について語らないからだ。政治家というのは自分の話ばかりしたがる人々である。しかしスターリンは自伝も日記も回想録も残さなかった。本書でも触れられているとおり、自分について語る言葉に対して非常に禁欲的で、その結果、意外とスターリンのまともな評伝はないのである。
蔵書への書き込みは、スターリンが残した数少ない活字であり、限りなく正直な言葉でもある。
スターリンは教条的なマルクス主義者だが、思いのほか度量はあり、さまざまな思想に触れている。著者を非難しても、書物の内容は受け入れる。こう書くとソ連の悲劇的な顛末がふしぎに思えてくるが、そもそもマルクス主義者たちは活字への傾倒が顕著なものである。
本書の紹介にあるような、スターリンによる本への書き込みからの洞察は、思ったよりも少なめなのだが、そもそも本への書き込みなどメモ程度のものである以上、致し方ないのかもしれない。ただ、それを補って余りあるリサーチがされているので、一読の価値はあると思う。