島口大樹のレビュー一覧
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ネタバレ極めて難解だった。
そして面白かった。読んだタイミングが良かった。
初めて読んだ作家だったが、まさかこれほどまでに素晴らしいものとは思っていなかった。ぜひ芥川賞を獲ってほしい。
文体は確かに特異なのだが、それよりも表現の、特に比喩の美しさが僕は好みだった。
苦しい小説だった。
ひとつになる瞬間がたしかにあった(p.68)ことが、この二者の主観が描かれる文体により明確になっている。だからこそラストにかけての苦しさはより大きなものになっている。
ただ一志の一人称のみから描かれていれば、杏さんへ怒りが湧いてしまうようになっていたと思うが、この書き方だとひたすら苦しい。
答えは出ていない。僕も考えてい -
Posted by ブクログ
映画を観た後に読んだ。
「この世のあらゆる暴力から、自分の範囲を守るんだよ」、「みんな表現者なんだよ」。
やっぱり台詞がかっこよくて惹かれる。
映画が余白多めだったのと対照的に、こっちはかなり細かく描写されてる。書き手の癖もあるけど。
彩人と日向の馴れ初めとか、治虫の心情とか。
大いなる喪失を抱えた機能不全の家族なんだけど、全員が背負って、向き合って、闘っている。
前頭側頭葉変性症の母親の症状を、過去をまだ見ているのだという風に表現していたのが気に入った。
不条理の中でも幸せだった過去は変わらない訳で。
風間家の原風景とも言える、庭での兄弟と父親でのミット打ちの風景が何度も家族を繋いでいる。
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Posted by ブクログ
児童養護施設で育った2人が再会し、失った記憶を取り戻そうとする。
視点人物が移り変わり、主語が変わる。それは2人の人が一つに溶け込んでいくような、2人の関係性が密になっていくのを表しているようにも感じる。
そして、2人が兄弟であったことが過去の記憶を知ることにより判明する。
そこまでは2人が1人であったような文体から、関係性はより強固な血縁の繋がりがあるのだとわかったのにも関わらず、2人が離れていく様が文体からも伝わる。
そして、最後の場面。
お世話になっていた児童養護施設長の言葉。
「あんまり覚えてねえんだけどなあ、お前さんがそう言ってくれるなら嬉しいこっだな」
記憶にこだわる登場人物とは、 -
Posted by ブクログ
大学生の等身大の哲学談義。の、ようなもの。
身につけた知識を自分の中に落とし込んで内省して、自分なりの「哲学」を作り上げる。
私にも身に覚えがある。世界を定義したり、心のありかを考えたり、人生を物に見立てたり。
私も彼らだったんだなと懐かしく振り返った。
確かに経験しているはずなのに明確には残っていない記憶があるというのは確かに不思議だ。
幼少期の神隠し、父親の自殺、死んだ後に美化される曽祖父の思い出、弟の失踪。
結局人間は、記憶は、自分にとって都合のいいようにできていて、身の回りのものに身勝手に意味を持たせようとする。
そして過去でも未来でも今この現在でさえも、「事実」を私たちが正確に掴む -
Posted by ブクログ
ネタバレ難しい。だがしかし面白い。
詩的で私的な文章。そのすべてを拾えてはいない。
だがここに敷かれている雰囲気は儚くも美しい青春の一回性を孕んでいる。
僕が生きる今は、過去から連続していて未来に繋がっている。しかし僕が生きているのは確実に、今だけ、なのである。
98 どこに向かうか誰が何をするかわからない常に惑い揺れ動く今を抱えた人間が交差し交錯して織りなす綱渡りが延々と繰り返される日常のワンシーン、その都度奇跡的でだからこそ危険性を孕む一回性。その先が見えなくとも暗闇の中で不安定な綱の上を歩く、歩こうとする一瞬のことを、高島は臨場感、すなわち、今って感じ、と呼んだ。
100 認めてあげない