河野啓のレビュー一覧
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テレビの企画として栗城氏を取材していた著者。取材当初は彼の明るく人懐っこい人柄に惹かれるも、テレビ企画の競合における栗城氏の裏切りをきっかけに少しずつ違和感や不信感を覚え、彼に興味を失っていきます。
栗城氏の死を知り再び取材を始める著者。関係者たちからの声を集め、「彼はなぜ山に登っていたのか?」を探っていきます。
『七大陸単独無酸素』という虚偽表示を使いスポンサーを募る不誠実さ、プロの登山家とは言えない精神性や技術のなさに、かつて応援していた気持ちは薄れ、「観察者」として栗城氏の素顔を炙り出しています。複雑な思いや彼に助言や苦言を言えなかった自身の反省もまじえつつ、事実と感情がわかりやすくな -
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人間という生き物の複雑さが、とてつもなく細かい描写で描かれていた。また、人を表面のみで判断することの恐ろしさを感じた。ネット界で集まる人の印象に対する意見は、良くも悪くも『その人自身』を変えてしまう可能性があること、また、自分自身もそうならないとは言い切れないことを忘れずにいたいと思う。
「虚実皮膜」という言葉を初めて知った。
うそとまことの境界が微妙なところにあり、虚構があることによってかえって真実味が増す、という近松門左衛門の芸術論らしいが、snsが日常にある現代では、誰もがそれを創り出してしまえる環境にあると思う。それも意図せずとも…。
最後に。この本を通し、栗城さんの苦悩と生き様を知っ -
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登山家・栗城さんの訃報はなんとなく覚えている。
自分の登山する姿をネット配信するヒト、ぐらいの認識だった。
一人の人間が持つ魅力、エネルギー、挑戦、挫折、そして人間としての弱さを丹念に描いた文章にドラマ以上のドラマを感じた。
最後、それまで著者がその存在に胡散臭さを感じていた占い師との対話によって一気に解き明かされる本当の姿。
著者が栗城さんに対して抱く浅からぬ愛憎があってこそ、たどり着けた真実であるように感じた。
白くて大きく立ちはだかるエベレストに、ちっちゃなちっちゃな人間が挑む。
でもその人間自身もその人生の毀誉褒貶や、複雑な人間関係をはらむ、いわば小宇宙なのだ。 -
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栗城さんは、純粋な登山家というのではなく、山に登るインフルエンサーとでも定義すべき人なんだろうと感じた。
以前ならば自分で自分の業績を宣伝するには(あえて宣伝と書きます)せいぜい自費出版位で、しかも自費出版本などほとんど影響はないのですが、技術の進歩によりやり方によっては本当は内容が伴わなくても、影響を及ぼすことが可能になった。
しかしいいことばかりでないのは自明の理で、ある意味栗城さんの死はそれによって引き起こされた可能性だってある(それとなく文内でも暗示されているが)
報道に携わる人そして情報を受け取る我々も、この点はくれぐれも考えてゆく必要があると強く思った。 -
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ネタバレ2023/3/15 メトロ書店御影クラッセ店にて購入。
2023/6/1〜6/8
劇場型登山家?栗城史多氏の取材をしていた河野氏による、栗城氏のノンフィクション。第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。
活動当時から栗城氏の名前は知っており、毀誉褒貶の激しい人だなぁ、と思っていたが、こんな人だった(少なくとも河野氏の眼を通しては)んだな、ということがよくわかる。他分野でもこういうタイプの人は居ると思うが、私個人としてはあまり関わりたくない感じの人だと思った(栗城氏もそうであったように、近しい人にはものすごくファンも多いのかもしれないが)。なかなか、考えさせられる内容であった。 -
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栗城さんの活動の初期に取材で関わった著者が、没後、彼の周囲の方々を取材し、謙虚に丁寧に書き上げられた良書と思います。
私自身は、彼の夢の共有には一度も参加することなく、ネットの記事を追いかけていた程度の者です。興味はあったので、購入して、自分にとってはとても早く、3日ほどで読み終わりました。
孫正義さんの、「未来をつくるため、いかがわしくあれ」という、インタビュー記事を思い出した。
当時なかった登山のライブ中継や、動画配信、夢の共有といったキャッチーな行動が多くの人に受けいれられ、彼はいかに見せ、自分がどうあるべきか、登山そのものより、追求された。見え方を追求しすぎて、いかがわしさももっていた -
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河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』集英社文庫。
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。
亡くなった人物を批難したくはないが、1ミリも共感出来ない人物を赤裸々に描いたノンフィクションであった。栗城史多の『一歩を越える勇気』が恐ろしいまでに内容が浅く、酷い自己啓発本だったので、これは最初から解り切っていたことなのだが。
タイトルの『エベレスト劇場』はまさにという感じだ。ドラマチックなストーリー重視の最初から登る気の無い態度は現地のシェルパにも指摘されている。
巷で『下山家』と呼ばれた自称登山家の栗城史多の虚言と無謀な行動の数々が描かれている。始めのうちは『七大陸最高峰単独無 -
購入済み
危なっかしいが魅力的な人
栗城史多の従来のメディアでの派手な印象と、ひとりの人間としての葛藤とが両方うまく書かれている。時代が違えばそのバイタリティも違う方向に向いて命を落とすことなくビジネスなどで成功していたのかもしれない。彼が最初に注目を浴びた頃の印象しかなく忘れかけていたところで亡くなったと知った口なので、ネットなどで激しく叩かれていたことや自身の賞味期限に対する焦りのような暗い部分は今回初めて知った。人としてどうかと思われる記載もあるが嫌悪感はなく、あれだけポジティブに振る舞っていた人がこんなに人間らしい弱さを持っていたという点で親近感を覚えた。現代社会の生きづらさや色々な人生訓などを引き出そうと思えば学びはい
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栗城史多(くりきのぶかず)さんという、登山家(?)を追ったノンフィクション。
本の構成がうまくて、続きが気になって一気に読んでしまった。
登山というと、なんとなく真面目とか一途とか、神聖なもののようなイメージがあるけれど
一方でビジネスでもあるんだと思ったり。
やめたいのにやめられない。やめた後の自分が見えない。
自分にも思い当たることがあり、悲しくなってしまった。
栗城さんのご冥福をお祈りします。
以下メモ
・広義のヒマラヤ山脈は、東西2400キロにも及ぶ。日本列島とほぼ同じ大きさだ。
約5000万年前、インド洋の海底だった場所が地殻変動によって高山となった。
・私にはインターネ