ベルンハルト・シュリンクのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
個人の葛藤と世代的トラウマが折り重なる。
苦痛と困難の時代。
世界大戦、戦間期、再びの大戦、戦後。
近代から現代へ急速な変貌、それはオルガにとっても、彼女の世代にとっても苦痛と喪失を伴うものだった。
この物語に言うべき言葉はあまり見つからない。
喪失を乗り越えるために必死に生き、届くはずのない手紙を送るオルガ。
歴史は語られるものであって、読み解かれるものになる。
翻訳あとがき(松永美穂氏)の引用『「シュリンクは不愉快な問いを投げかけることを忘れない」』
まさしく、葛藤とは直面化したくないものだ。
しかし、その葛藤から洞察を得たいと思うのも健全な人間の文化だとも思う。
物語の構成はゲーテの『若きウェルテルの悩み』のように、語り部が変化する。
そして、オルガの人生の全容が明らかになる。
葛藤への苦しい直面化のために、こうした物語が作られ、それを読む事ができることに感謝。
-
Posted by ブクログ
いい本だった。
読むと分かるけど、この本には確実に伝えたい事がある。でもそれをオブラートに包むどころか、殆ど匂わないように封じ込めて、年の差カップルの恋愛としてお話が始まる。
第一部は、恋愛の行く末。私は女性だけど、主人公と一緒にハンナに恋をする。
第二部は、法学部教授である作者の本領発揮どころ。法学を学ぶ人が読むと、感じることが違うのではないだろうかとい思わせる内容。黒と白の狭間で揺れる主人公。
第三部は、ハンナとの穏やかな関係と意外な終焉。
ドイツというと、、、という話を想像したが、逆の立場からの話で私にはその方が共感できる。人は弱い生き物で、よく考えもせずマスコミに煽られ、現在の行動はどうなのかという人に対しても不用な同情心をもったり味方をしたりする。それに、勇気を持って(世間のあおりとは反対側に立っているように見える可能性もあるから)、穏やかに誰を責めるでもなく、こういう見方もあるよと提案してくれる良著だと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ禁断の恋愛関係がメインストーリーかと思いきや、中盤はナチス時代の話など非常に重たい部分が多かった。
翻訳だからか哲学的な文章が多い作者の傾向なのか分からないが少し読みにくさを感じた。
文盲であるというコンプレックスから冤罪を認めてしまのは拍子抜けしてしまうけれど、文章が書かれた当時の社会においてはわかる人にはわかる感覚なのかなー。
コンプレックスを少年に対してはさらけ出せて素直に交流が出来て良かったな、と心があたたまった。
物語の本筋とはずれちゃうけど、物理的にある程度距離感があった方が尊い関係が築けるっていうの、分かるなー。
「話の真実の中身は、ぼくの行動の中に含まれているのだから、話はやめてしまってもいいのだった。」
「ぼくたちの人生は何層にも重なっていて、以前経験したことが、成し終えられ片が付いたものとしてではなく、現在進行中の生き生きしたものとして後の体験の中に見いだされることもある。ぼくにはそのことが充分理解できる。にもかかわらず、ときにはそれが耐え難く思えるのだ。ぼくはやっぱり、自由になるために物語を書いたのかもしれない。自由にはけっして手が届かないとしても。」 -
Posted by ブクログ
親子ほどの歳が離れた二人の情愛と突然の別れ、そして戦争の影を伴う再会のお話
以下、公式のあらすじ
-----------------------
過去に犯した罪をどのように裁き、どのように受け入れるか――。
数々の賛辞に迎えられて、ドイツでの刊行後5年間に25カ国で翻訳され、
アメリカでは200万部を超えるベストセラーに。
15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」──ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。
現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。
-----------------------
15歳の主人公ミヒャエルが病み上がりの不調を介抱してくれるという偶然出会った36歳のハンナ
ミヒャエルはハンナと恋に落ち、学業に復帰した傍ら、彼女の家を訪ねては逢瀬を重ねる
出会う度に朗読をせがむハンナ
ただ、二人の関係はハンナの突然の引っ越しによって終わりを告げる
その後、大学で法律を専攻したミヒャエルは、ゼミで傍聴した裁判でハンナを見つける
彼女は、ユダヤ人の大量殺害事件に関わっていた疑いで告発されていた
真摯に受け答えをするハンナだが、何かを隠すようにやってもいない罪を認める
彼女が隠したかった事を察したミヒャエルは裁判長に進言しようとするが……
そして、その後のハンナとの再会
36歳と15歳のお姉ねショタはどうなんだ?
まぁ、ハンナはミヒャエルを17歳だと思っていたようだけど、それでも19歳差
20歳と41歳だとしたら許容できなくもないけど、これは流石にいけないのではなかろうか?
物語の序盤でハンナの隠し事は察しが付く
名前を敢えて尋ねるところとか、そもそものタイトルの朗読をせがむあたりはそうなんだろうなぁと容易に思い至る
失踪に至る過程にしても、もっとやりようはあったと思うけれども、彼女にとってはそうするしかなかったのだろうなぁとも思う
そして裁判所での再会というか、発見と彼女の過去の罪の発覚
ユダヤ人をアウシュビッツ収容所に送った罪
囚人の移送中に起こった火事で、教会の鍵を開けずに見殺しにした罪
他の看守達はハンナに罪を被せるような発言をする
事実とは異なる証言でも、隠し事を暴かれたくなくて受け入れるハンナ
彼女の隠し事を察し、その事を裁判長に進言すれば罪は軽くなるかも知れない
しかし、彼女が隠したがっている事を自分が暴露してもよいのかという葛藤
無実の罪を被ろうとしてでも隠したいという想いを汲み取るミヒャエル
大学に入学した頃は、まだハンナへの想いはあっただろうけど
裁判所でハンナを見つけた際には、明らかに気持ちが醒めているように思う
なので、既にこの時点で彼女への想いはとっくになくなっている
もし彼女と今後も何等かの形で関係を持とうと思うのであれば、裁判長に言っていたと思う
その後もコンタクトを取ろうとしないし、刑務所にも朗読のテープは送っていたのに、手紙は頑なに送っていない
なぜ手紙を書かなかったのか?という疑問もあるけど
恐らく、ハンナに対して疚しい気持ちや負い目、もしくは見下した感情があったのではなかろうか
ハンナが出所する際に所長から相談されたときの反応もそう
ハンナの面倒を自分が見るという事に対する戸惑いや困惑、もしくはある種の嫌悪感も読み取れる
だからこそ、ハンナの最終的な選択に至ったようにも思える
ただ、ハンナはその前から食べ過ぎであったり体を洗わなかったりと、自分を顧みない行動を取っているわけで
ミヒャエルの態度だけではない可能性もあるけど、それでもやはり最後の引き金であったように感じる
物語として読んでいるからこそハンナの隠し事には容易に気づく事ができるけど
実生活でこんな人に出会っていたら、私は気付けるだろうか?
ハンナの特徴に限らず、人は何か隠し事をしていても察する事ができないかもしれない
なので、周りから見て愚かな行動をしている人は、もしかしたら何か隠したいものがある人かもしれない」んだよな
前半の歳の差恋愛という雰囲気から、後半は戦争犯罪と世代間の問題がテーマになっている
戦争当時に生まれてすらいなかった世代に、罪や責任はあるのか?
若い世代に「罪」はないが、「責任」はあるというのがドイツの認識のようだけど
果たしてこれもどうなのだろうね?
日本でも同じ事が言えるだろうか?
特に、既に戦後80年が経過した現在において……
もちろん、当時の日本が犯した罪から目を背けてはいけないけれども
戦勝国に反省する要素はひと欠片もないのか?という疑問もある
そして、当時生まれていなかった世代の人間が背負わなければいけないのか?
国としての罪と責任はあるけど、ただその国の人として生まれただけの個人にそこまで責任を負わせる必要はないと思う
ただ、その国で生まれ育ち、どんな思想を持つのかというのは個人の問題だし
その結果、培われた思想はその人の責任だろうな -
Posted by ブクログ
前半の青年の妄想小説のような展開はなかなかインパクトがあるが、中盤以降、ムードは打って変わり、過去の隠された事実、ハンナを取り巻く悍ましい事実が明らかになる。前半が濃密な生の時間だとすれば、裁判以降の章は死の時間のような。時間は前に進んでいるはずなのに、主人公の意識は後ろへ後ろへと遡り続けている。ハンナを愛することは、先代の大きな過ちを肯定することになるのか?次代の子は過去にどのように対峙すればよいのか?もはや歳の差恋愛の物語にはとうに収まらず、加害の歴史をその直接の経験がない世代はいかに受け止めることができるかという、歴史認識のあり方を読者に問う物語だった。この問いは、日本人にも投げかけ考えさせるべきものだと思う。
-
Posted by ブクログ
赦しと別れ
癒しと別れ
目覚めと別れ
裏切りと別れ
若い時に絡まった糸は、歳をとってからでも解すことはできる。それはまるで、深いところにしまってあったものをもう一度表に出すように、別れ、離れていく。
死は別れのプロセスの終着点
その時点で別れられなかった事は、もうずっと離れない。
作者の淡麗でどこか妖艶な文章が彩る九つの物語は、確かに男目線である事は否定できないし、歳を取っても男性なんだなぁ。
自分が歳を取ってしまうと、老齢期を描いた物語は、古い日記を覗き見されたような妙な生々しさが伴ってしまう。
なんともいえず恥ずかしい。
でも、「老いたるがゆえのシミ」……現実では、こんな結末は滅多にないから……。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ主人公はほぼ全員男性だったが、読み進めるにつれて、それを意識させられる本だなと思った。もし女性目線の「別れの色彩」だったら、これほど昔の恋人や妻を振り返り、そこに湿っぽさを感じることはないように思ったけれど、どうなのだろう。
短編にも関わらず、どれも人生がきゅっと凝縮されているところはすごいと思った。
お気に入りは、自分のせいで障害者となった弟を持つ姉とその姉に恋をしていた主人公が再会する「姉弟の音楽」、夫婦で自殺した兄と兄ともてなかった繋がりに折り合いをつけようとする弟の心境を描いた「ダニエル・マイブラザー」。
(幼少期、病弱だったゆえに親戚の家に預けられていた兄。「クリスは別れを告げなければならないものをきっぱりと置いてくることによってのみ、それを克服できたのかもしれない」という弟の考察が興味深かった)。 -
Posted by ブクログ
オルガというポーランド系ドイツ人女性の人生を、第一部では主人公にして物語られ、次に彼女と親しくなった「ぼく」がその後のオルガとのかかわりを描き、第三部で、オルガ自身の書簡によって彼女の心の声を聴くことができます。戻ってはこない恋人にあてた手紙を、オルガの本当の人生を垣間見るよう気持ちで、主人公と共に次々と封を切って読みました。貧しい農村の生まれでありながら、誰にも頼らず一人で生き、第二次世界大戦を得ても自分の信念を曲げずに強く生きた女性。なんて強い人なんでしょう。最後の書簡ですべての謎が解ける仕組みに引き込まれて、飽きることなく読めました。心に残る作品です。