ベルンハルト・シュリンクのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
何かの書評での紹介を見て興味を持って読み始めた。短編集だが、言葉が極めて多い、読み続けるのに難儀する類の本だった。様々な人と人との出会いや別れが描かれていているが、日常の細々した出来事というより、季節の流れや長い歴史を持つ小都市の街並みを背景として描きながら、ひたすら回顧したり思索したりする話だった。人物が抱える困難な状況や哀しみも、複雑で一筋縄ではいかないものばかりだった。ヨーロッパやアメリカの小都市の街並みや郊外の自然に馴染みがないのでイメージが膨らまないというのは、鑑賞する上で障害になった。また、なかなかアイロニカルな展開や結末が、新鮮だが共感しづらく、普段読む日本の短編集と違っていて
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Posted by ブクログ
感想。ベルンハルト・シュリンクは「朗読者」の著者。そんな事忘れていたけれど。9つの短編集なんだけれどどの話も年老いた人々が何かしらの「別れ」に遭遇した時の話。亡くなった人に対するもの、随分昔に別れた恋人にまた出会うもの、ご近所の幼い頃から見守り続けていた少女の死にで会うもの。そんな別れの時に脳裏に浮かぶのは思い出で、その思い出も明るさがあるだけではなく、後ろめたさや自己欺瞞、焦燥、そんな向き合いたくないものをちょっぴり混ぜ合わせながらつらつらと脳は過去を浮かび上がらせる。そんな別れの一つ一つが身に染みるのは私もそんな歳に近づいていっているのがわかっているからなのだろう。
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Posted by ブクログ
ネタバレ感想がまとまらない…
ドイツに、ドイツ国内で戦争犯罪を犯した人たちを裁いた時代があることを初めて知った。
戦争は経験していないけど、二度と繰り返してはならない罪の歴史として教育された、親や愛した人が戦争の当事者でありえた世代の人たちは、身近な人が犯罪者であることに、どれだけたくさんのことを考えたんだろう…
ヨーロッパの真ん中にあるドイツが負の歴史を抱えていることが、ヨーロッパの人たちにとって、どんなに身近な出来事で、記憶や文化として残っているのか、ナチズムを扱った本を読むたびに考える。
日本も決して蚊帳の外の話ではなく、かつて戦争の時代を生きた人がいて、その子どもの世代があって、今がある…戦争 -
Posted by ブクログ
わぁ、こういう本だったのか。
第一章を読んでいるときには、まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。
めちゃくちゃに重いテーマ。
・時代や状況が違ったあとで、過去の事柄を裁くことができるのか。
・大切な人を守るために、その大切な人の守りたい秘密をつまびらかにしてしまう権利はあるのか。
そして第三章、ハンナの選んだ選択肢
ドイツ文学を読んだことが今までなかったけれど、これはドイツ人であるが故に書けるテーマ。
戦時を生き抜いてきた親世代を子世代が軽蔑する権利はあるのか。口先だけで生きてはいけない。
もちろん、命が無意味に奪われていいわけがない。
人類は色々な経験をしているのに、後に活 -
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ネタバレオルガの愛情深さに尊敬。自立心に共感。
愛する幸福を愛される幸福より上におくゲーテに対しての、愛されている保証のうちに生きている人はそんな詩が書けるというオルガの感想が好き。
死んだ人は貴族も農民も関係なく平等だから墓地を歩くのが好きなオルガが好き。
中盤から散りばめられた謎が気になって、深夜まで一気読みしてしまった。
後半の手紙はただただ切ない。
オルガの揺れ動く心情がものすごく伝わってきて涙が止まらない。
元の文章自体読めないけれど、翻訳者の人が上手な気がする。するする読める。
そして改めてつくづく戦争は滑稽だと思う。
これまでの歴史がすべてを物語っている。
戦争反対。 -
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ハンナを理解することは難しい。戦時はナチの看守として勤務し、移送中の事故の折にはとらわれていた人たちを見殺しにした。その後、ふとしたきっかけで出会った15歳の少年と関係を持ったというと、道徳心のない人物のようだけど、実際のハンナは激しやすくやや不安定とはいえ、普通の人に見える。「あの時私はどうしたらよかったの?あなたならどうしましたか?」という問いかけは切実だ。また罪が重くなることより文盲が知られることが彼女にとって耐えられなかったこと、恩赦を前に死を選んだこと、理由は想像できるが…。幸せいっぱいではないかもしれないけど、静かな余生を送ることもできたのに。理解が難しい。
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Posted by ブクログ
第一次大戦前のドイツ、祖母に引き取られたオルガは、農園主の息子ヘルベルトと仲良くなるが、農園主に反対される。ヘルベルトは英雄を夢見て北極圏の冒険に出かけるが、音信不通になってしまう。オルガは、祖母の反対を押し切り師範学校へ行き教師になる。行方のわからないヘルベルトに局留めの手紙を書きながら、オルガは第二次世界大戦を迎える。
第一部は、オルガとヘルベルトの若い日々と、ヘルベルトがいなくなったあとのオルガの日々をオルガが語る。
第二部は、大戦後オルガが親しくし家で裁縫をしていた家庭の息子フェルディナンドが、年老いたオルガを語る。
第三部は、オルガの死後フェルディナンドが手に入れたオルガのヘルベル -
Posted by ブクログ
個人の葛藤と世代的トラウマが折り重なる。
苦痛と困難の時代。
世界大戦、戦間期、再びの大戦、戦後。
近代から現代へ急速な変貌、それはオルガにとっても、彼女の世代にとっても苦痛と喪失を伴うものだった。
この物語に言うべき言葉はあまり見つからない。
喪失を乗り越えるために必死に生き、届くはずのない手紙を送るオルガ。
歴史は語られるものであって、読み解かれるものになる。
翻訳あとがき(松永美穂氏)の引用『「シュリンクは不愉快な問いを投げかけることを忘れない」』
まさしく、葛藤とは直面化したくないものだ。
しかし、その葛藤から洞察を得たいと思うのも健全な人間の文化だとも思う。
物語の