望月優大のレビュー一覧
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ネタバレ1911年蔚山生まれ、戦時期を東京で過ごし、1946年に密航で再び日本の地に渡った尹徳祚(尹致遠)とその妻・大津登志子、息子・泰玄と娘・逸己の生の軌跡をたどったドキュメンタリー。ライターの望月氏と研究者の宋惠媛氏との協働作業を通じて、戦争と国家・社会のはざまで翻弄された家族が懸命に生きた時間がたどり直される。戦後日本の入管管理政策と朝鮮人政策、戸籍制度がいかに場当たり的で矛盾に満ちたものだったか、そして、その事実に対して日本のマジョリティがいかに無知で無自覚だったかを改めて突きつけられた。そのひとびとも、マジョリティのすぐ近くで生きていたのに。
おそらくこの本と宋惠媛氏が世に送り出した尹致遠の日記がなければ、この作家は歴史の中で忘却されていただろうことは確実だ。尹の小説とエゴ・ドキュメントを組み合わせることで、公的な歴史だけでは見えてこない・数字に還元することができない個別的な生の足跡を生き生きと想像することが可能になる。そのことを通じて、そのような生を生み出してしまった国家と社会の課題を考えることも可能になる。まさに、文学研究者だから見える社会に対する問題提起だと思う。 -
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日本の植民地支配からようやく解放された人びとが、祖国朝鮮が貧困と分断、戦乱に陥る中、生き延びるために旧宗主国への「密航」という手段を択ばなければならなかった時代に、その体験を書き残すことができたほぼ唯一の作家、伊紫遠。極貧生活の中で洗濯屋の仕事の合間を縫って小説を書き、若くして死んだ彼とその家族の人生の足どりを、ていねいにたどりなおしていく。
国籍の剥奪や戸籍の変更など、おおまかな事実としては知っていた帝国日本の崩壊(と再編)にともなうさまざまな政策制度が、個人のうえに轍を刻むときにどれほど残酷なことをするのか、本書を読みながら何度も深くため息をつかなければならなかった。表紙のイラストは、貧しくとも仲睦まじい一家の様子を想像させるが、制度化された民族差別と貧困、ジェンダー抑圧は、家族の中にも深刻な葛藤をもたらしていた。
「埋もれていた朝鮮人作家」や「国籍を超えた家族」という安易な物語を拒否する本書は、決して明るい結論をあたえてはくれない。それでも、娘としてケア役割と生計維持労働を引き受け続け、今も近隣の人びとに目を配り、この優れたルポルタージュが生まれるための整理をひそかに続けてこられた逸己さんの、言葉少ないのに重みある存在に心揺さぶられた。
ほとんど聞き取られることのなかった朝鮮人作家のかすかな声を通して、自ら語ることなく「歴史を準備する人」たちの存在へと思いを至らせる本書を世に届けてくださった3人のお仕事に心から感謝したい気持ちだ。 -
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尹紫遠 ユンジャウォン
植民地期に12歳で渡日し、戦後に「密航」で再渡日する。日本女性と結婚。洗濯屋など仕事をしながら、作家としての活動も続けた。
彼の数少ない作品や日記,手紙,又三人の子供達のうち今存命の二人の子供達からのインタビューから浮かび上がって来る「尹紫遠」の人生を辿る“旅” 。まさしく二人の著者達と写真家は「尹紫遠」の足跡を一歩一歩訪ね歩く。
そこから彼と彼の家族が翻弄された“国家,戸籍,外国人登録。教育,労働、福祉,社会保障。”
戦後日本社会における少数者であるが故に彼らが受けた苦しみ。朝鮮の人々の民族史でもある。
日本の植民地期、戦前,戦後の朝鮮の人々の苦難については 少しは知っているつもりではあったが、、、
一冊の本に仕上げた著者達の粘り強さ!には頭が下がります。
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当たり前のことだけど、私たちは生まれたくて生まれてきたわけではない。いつ何処に生まれてくるかは、ただの偶然‥のはずなのに、なぜこの時代に生きた人々はこんなにも運命の神様に弄ばれるような人生を辿らなければならなかったのか。
立場と時期は違うけれど、私の両親もほぼこの家族と同世代。多くは語らなかったが京城での生活や帰国時に可愛がっていた犬を置いてきた話などが唐突に思い出され、読んでいる間ずっと「戦争だけはしちゃいかん。得をするのは遠くから指図する人だけ」と話す母の声が聞こえてくるようだった。今、世界で起こっている戦争は日本にいる私達と一直線に繋がっている。無関心、無関係ではいられない。
資料も多く、きちんと整理された写真、ご家族の話等、最後まで圧倒された一冊。 -
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残ってるものの赤裸々さと、残っていないもの、わからないことの重たさが、そのまま丁寧にまとめられていて、ここはわからないんだな、ということの方にむしろ締め付けられるような気持ちになりました。
家族には、記憶装置としての機能があると聞いたことがあります。お兄ちゃんは麻疹にかかったことあるよとか、おばあちゃんはコーヒーが好きなんだよとか、そういう、他の人にはどうでもいい記憶を、家族は価値判断せずに持っていられる、という意味だったと思います。
シンプルな幸せとは対極にあるように見える家族が、これほどの記憶を残し整理してきた事実が、意外でもあり、救いのようにも感じました。
ひとくくりにした属性ではなく、ひとりに注目する意味も、周辺化された人や物事に注目することの意味も、改めて感じました。おかしいなという感覚を、押さえ込まずにいようと思う本でした。 -
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発売当初から読みたいと思いつついつの間にか時間が経ってしまった本。やっと読めた。そして読んで良かった。
「移民」この言葉にはさまざまな定義があり得るがどんな定義をとるにしてもすでに日本には「移民」は多数存在する。
そのこと自体は知っていた。それこそ色々な意味合いで。私の育った地元は工業地帯があるためかそこで日系のブラジル・ペルー人が多く、小学校の同級生の5〜10%はにそうした日系移民の子どもたちだった。そして、都市部で居住する多くの人と同じように私も日々多くの外国人留学生バイトの方が支える店のサービスを受けて生活してもいる。
そして直接触れ合うことはないけれど「技能実習生」という制度が過酷なものになり得ることもニュースレベルでは知っていた。
とはいえ、そうしていくつも知っていても全体として「日本における移民とは?」と聞かれてもなんとも答えようがないというか、何をどう捉えて議論すれば良いのか分からなかった。
それが本書を読んでイシュー全体の構造を大まかに掴むことができた。
・移民や外国にルーツを持つ人たちには様々なレベルがあり、労働や生活面で様々な制約の違いもあること
・移民政策は採らないという自民党の保守政党としての建前と経済界からの労働力確保ニーズの狭間で本音と建前が分かれ、不合理や不条理が罷り通っていること
今後どうしていくか、という議論をする際にすでにある現状に向き合った上で考えていくべき問題であることを知れたことがとても良かった。 -
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タイトルは分かりにくい(それが本書の唯一の欠点)。サブタイトルこそが本書の内容を的確に表している。『「移民国家」の建前と現実』。
日本は「移民国家ではない」と言いつつ(建前)、大量の移民を受け入れている(現実)。それを本書は「フロントドアを閉ざしつつ、サイドドアとバックドアから移民を入国させている」と表現する。上手い例えだと思う。
そして、いないことになっている外国人労働者がいることによって生じる問題やリスクは(いない人に対する支援はできないから)、すべて外国人労働者に押し付けられている、という。
知っているつもりになっていたけど全然知ってなどいなかった。望月さんの文章はニッポン複雑紀行などで読んでいるけれど、その聡明さは本書でも健在だった。政府の政策や送り出し側の国や日本そして世界の経済状況といったマクロと、AさんBさんという一人一人のマクロの両方。数字(統計情報)と文章(エピソード)の両方がしっかりと説得力と彩りを携えていて読みやすく心にしみる。
以下、いくつか印象的な箇所の引用。
トルコ出身の政治学者であるセイラ・ベンハビブは外国人への政治的な成員資格の付与について「永遠によそ者であることは、自由民主主義的な人間共同体の理解と両立しない」と書いた。この言葉は、成員資格の付与だけでなく、むしろそれ以上に社会統合のテーマにこそ関わる。(p.30)
人によって賛否はあるだろうが、外国人労働者を受け入れる業種やスキルの水準について何らかの形で限定するというスタンス自体は存在しうる(中略)しかし、ここに根本的な欺瞞が存在することは明らかだ。表向きは「いわゆる単純労働者」の受け入れに伴う様々な懸念を表明しておきながら、裏側では「いわゆる単純労働者」をサイドドアから積極的に受け入れてきたのだから。自分自身で並べ立てたもっともらしい懸念は一体どこに行ってしまったのだろうか。(p.92)
実習生や留学生が陥る構造的な問題は、これまで真正面から外国人労働者を受け入れてこなかった日本のサイドドア政策自体から帰結した矛盾の現れだと言える。忘れてならないのは、その矛盾から生じるリスクを一手に引き受けてきたのが、彼らを受け入れる日本社会の側ではなく、外国人労働者たちの側であるということだ。実習先から「失踪」した実習生や、上限を超えて働いてしまった留学生の報道に触れるとき、このことを覚えていてほしいと思う。(p.140) -
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日本に住む外国人の方の急増や2018年のいわゆる「特定技能」という在留資格の創設などもあり、興味があったのでこの本を手に取りました。
在留資格のことなど、これまであまり理解できていなかったのですが、簡潔に整理されていてとても分かりやすかったです。とくにそれぞれの在留資格間の関係性や、そこに「特定技能」がどのように埋め込まれるものなのか、といった点です。
個人的には日本政府がいつまでも「外国の方を便利に使いたい、制度さえ作ればいくらでも来てくれる」というスタンスを今でも取り続けている(いろいろな方面へのポーズの部分があるにしても)のがちょっと信じられないです。いろいろな国で蓄積された取り組み(成功も失敗も含めて)も大いに参考にできるはずなので、今からでも遅くないですし、継続して考え続けてほしいです。
日本に住む誰しも関係があり、考えていかないといけないテーマであるので、新書という媒体にとても適した内容だったように感じました。 -
Posted by ブクログ
移民国家としての日本を統計や制度面からしっかり理解できる本。
ナショナルとグローバルの間にあるレイヤーで使い捨てられる外国人労働者たち。彼らへの視点もこの本を読めばきっと変わってくるはず。
特に「特定技能」についての章は、ニュースに触れていてもわかりづらい点を丁寧に説明してくれているので役立つ。
終章はこれから何度でも読み直したいほど示唆に富む。
「大いなる撤退」の時代というバウマンの問題提起が、今の日本にはピッタリ当てはまる。
『今、目の前にふたつの道がある。ー撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは「彼ら」の話ではない。これは「私たち」の問題である。』
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"植民地で生まれ育つということ。いびつな合わせ鏡となった在日朝鮮人と在朝日本人。様々な「密航」者たち。朝鮮戦争のトラウマ。朝鮮人と日本人の間の結婚。日常的な強制送還の恐怖。居住権と国籍問題。ジェンダー化された家庭。子どもにのしかかる貧困。
「密航」に至るまでのある朝鮮人男性の人生と、「密航」後に始まった家族の物語を辿る(略)"
エピローグより
いろいろ考えさせられた。在日朝鮮人の歴史について知らないことがとても多かった。
植民地にするだけしておいて、戦争に負けて、その後の対処の仕方が杜撰すぎる。申し訳ない気持ちになる。どれだけ黙って苦労してお亡くなりになった方が多いことか。
戦争は絶対に良くない。自国民だけではなく他国民にまで、自国民以上に犠牲を強いる。南北分断も解決しないままだ。
特に、乙先さん、登志子さん、逸己さんの人生について考えさせられた。より弱い立場の女性に皺寄せがいく。なかなか主体的に、能動的に動きにくい。今はマシになったとはいえまだまだだし、それも平和な時代であればこそで、この先も全く安心できない。
先行きの見えない暗い時節に、過去の暗い出来事を追体験し、より暗くなるのだが、過去から学んで、よりマシな選択をして、前に進むしかないだろう。
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Posted by ブクログ
装丁からは想像もせぬ壮絶さだった。敗戦時の密航やコレラ船。日本に住むことになってからの差別と困窮。記録されていないだけで、その当時の人の数だけ絶望があったんだよな…と思いを馳せる。描かれている、白人が黒人を蔑む冷たい目、米や露が東洋人を蔑む目、日本人朝鮮人が互いを憎み合う感情、そして徳永ランドリーでも男が女に手をあげる惨状。それで苦労したはずの登志子さんも、後年のボランティアではハンセン病のボランティアでは偏見があったようで…。少し手に障害がある娘の逸己さんが、全てを悟ったような印象で、影ながらこのご家族を支えてらしたように思えた。怒涛の時代の家族の記録。自分の中にもある無意識のうちの差別や偏見と、どう向き合っていけば良いのか、とても考えさせられる。