草野原々のレビュー一覧
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ネタバレ 購入済み
なんでもありの設定が面白かった
やはり草野原々はやってくれたな、という感じと、なんでもありが簡単に現実に敗北しているのはちょっと引っかかる。
劇中、なんでもありでもって現実に中指立てたシーンが一番さすが草野原々と思っただけに残念な感じがする。
言語的な自由、すぐにまた別の現実に包摂されてしまうとしても言語的な自由さこそが、人の営みが現実を改変する先導してきたから、なんでもありはその性質上、普通に現実に一発パンチを入れられるのではないかと思う。 -
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この小説でいう「アイドル」は変数の箱であり、その中に入るのはツインテールの若い女子であったり、人とも肉塊ともつかない怪物であったりする。それでも箱に貼られたラベルはアイドルだから、これはアイドルの話なのだ(表題作)
全体として、この本は生物と宇宙の話だ。ものすごく難しい生態系の話をアイドルやソシャゲの概念を持ち出すことで分かりやすく噛み砕いてくれる、のではなく、実際はアイドルを餌に読者を誘い込んで未知の生態系に引き摺り込み捕食してくる。
意味を持つ単語と単語が接続詞という糸で結ばれて複雑な網を作り、もし単語一つの意味を知っていたとしても、織り上げられた網の全体像を理解することは一般的な知識を持った人間では不可能に近い。
我々はこの小説が作り出した網に囚われる進化途上の虫にすぎない。
でも大丈夫。我々には魂がある。
単語の意味がわからなくても、ぶっ飛んだ展開についていけなくても。魂で「なんとなく感じて楽しく読める」から。
理科が好きだと尚いいだろう。 -
Posted by ブクログ
普通に面白かった。期待していた学園ラブコメよりもむしろ、こちらの方が好みだった。
登場人物はかなり多いが、意外と誰が誰だか分からなくなるというようなことはなく、物語を楽しむことができた。キャラクターたちには色々な関係性があって、意外としっかり百合をやっていた。最初にして最後のアイドルよりもなお。
原々の作品では一番読みやすかったようにも思う。ガジェットの構造には馴染みがなく、イメージしづらいのはご愛嬌だが、それでもだいぶ抽象的な観念によった描写は抑えられていると感じた。
同氏の著作では、女の子が割とさらっと酷い目に遭うので今回はどうなのだろうと思っていたけれど、読んで安心した。どちらの意味で安心したかは、是非自分で確かめて見て欲しい。 -
Posted by ブクログ
"学園ラブコメ"の主人公・高城圭は、この世界の構成力が弱まり、"なんでもあり"による侵略の危機に瀕していると伝えられる。さらに、干渉を始める"学園ファンタジー"や"SF"。果たして圭は"学園ラブコメ"を全うできるのか。
物語は通常、語られるキャラクターと、それを読む読者という2者によって成立する。しかし本書では読者とキャラクターの間に、ラブコメやSFといったジャンル概念や、虚構を作る力そのものといった新たな階層が登場する。むしろラブコメなどの概念こそが本書のキャラクターであり、表紙の描かれるキャラたちは作中作のキャラと言えるかもしれない。
フィクションという概念そのものをフィクションという枠に落とし込むことで、そもそもフィクションとか、物語とは何なのか、その構成要件を探る実験的コメディ。
冒頭で違和感を感じるかもしれないが、そのまま32ページまで読めば、ハイテンションで最後まで引きずられます。 -
Posted by ブクログ
俺の考えた最高の地球滅亡巨大感情百合SF短編集。
「最後にして最初のアイドル」
原因不明の太陽フレアによって地球が滅亡しかけている中で、その環境に適応したよくわかんない生命体の技術を使って人間を殺したりなんやかんやして大好きな女の子をアイドルとして蘇らせるにこまき。
生まれ変わったアイドルは宇宙一のアイドルになるために生命をアップデートしてゆく。
アイドルとは何か?ファンとは何か?そして人間の意識とは?という話。めちゃくちゃな話だけれど一応なるほどーと納得する。私こそがアイドルである。
「エヴォリューションがーるず」
古代生命擬人化ソシャゲにズブズブの中毒者が死んでゲーム世界に転生、転生した先では単細胞生物。命を対価にガチャを回して生命を進化させ、この世界とは何か?意識とは何か?を学ぶハートフル壮大女と女の巨大感情百合。
ソシャゲ廃人の描写はソシャゲをやったことがある人間には心に深く響くはず。そして王道のトラックに轢かれた先で転生というよくある二次創作小説のストーリーを結びつけるのがすごい。こういうジョークが好きでしょう、とわかって書いているんだろうなあと思うけど、そこがいい。
「暗黒声優」
エーテルが充満している世界でエーテルを震わせることによって無限のエネルギーを生成できる存在=声優という話。主人公のアカネは声優をいつか救いたい、最強の声優になりたいと考えていて、そんな中地球の重力が消滅してめちゃくちゃに世界消滅して宇宙に行く。
よくわからないけどなるほど!人間がたくさん死んで強くなっていって世界は救われます。ちゃんとこの世界でのエーテルが何か?とかの説明をきちんとして終わるのですごい。
俺が考えた最強の人生終末がメインであり、その中で女(女の意識だったもの)が女(女の意識だったもの)と壮大な感情のぶつかり合いを魅せ、そして宇宙と意識と世界について語るという流れはどれも一緒である。
そしてその「俺の考えた最強の人生終末」の描写の細かさ、理屈(いやほんとはよくわかんないけど)、筋が通っていてなるほどー!となる人を納得させるめちゃくちゃな世界の描き方が強烈。
「百合SF」とこの作品について語っている人をたくさん見たけれど、百合とは何か…と考えてしまった。
確かにめちゃくちゃに百合だけど、出てくる人物は女ではない。アイドルとしてアップデートを続けた最強かわいい異形の化け物と、最強の生物になるために何らかの生き物を殺しまくって合成しまくった何らかの生き物と、最強の声帯を持っていてたくさん人間を殺しまくる声優。どうしてそれらを「百合」だとするのか?一人称が女性だから?
私は、女と女の感情、愛だったり可愛いと思ったり美しいと思ったり憧れたり、そういう気持ちを抱いた末に相手にぶつけたり自分のうちに抱いたりする、感情のやりとりを百合だと感じるのかもしれない。感情こそ百合である。感情描写は百合である。よくわからないけど。
あとこの人の作品はテンポが早く、時の流れが速い。一行ではい数万年、はいガチャを回して数百年、はいたくさん人を殺して数十年。
それがとても好きだと感じた。
人間なんて古い、身体なんて不要!これからは精神の時代!
そういうめちゃくちゃな理論に振り回されてえげつないけどたぶん作者おちゃらけてかいてるよね?というグロ描写が好きな人にとてもオススメ。
でもしょせんバカSFでしょ?百合とかSFとか言って、アニメのよくわかんない考察とかする人間が読むようなふざけた小説でしょ?って思っていたのだが、すごく良かった。めちゃくちゃなのが、良かった。
最後に前島賢があとがき解説を書いていて、その一文をこの本を読む前の私が見たらすぐに読んだろうな、と思ったので以下に載せておきます。
『「ただの冗談」と現実のあいだに、精緻な理論と考証でもって橋を架けたとき、その作品はSFとなる。その論理と考証を支点に、「ただの冗談」を、宇宙の彼方まで飛躍させた時、その作品は傑作となる。』 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作『最後にして最初のアイドル』、『エヴォリューションがーるず』、『暗黒声優』の三篇が収録された、SF界の新星(僕自身あまり“通”ではないのだけど)草野原々氏による短編集。デビュー作にして、問題作。
ともすれと児童書と見まがうような、かわいらしい表紙に騙されるなかれ。本書は三篇が三篇とも、「ガチ」のSFである。
以下、ネタバレあり。
一篇目、表題作は元々「ラブライブ」の二次創作として書かれた短編を改稿したものらしい。僕はあまり明るくないのだけれど、その面影はあまり残っていないように思われる。精々、主人公がスクールアイドルをやっている、くらいのもので、最初に読んだときは「パロディなんだな」程度に感じたくらいだ。
草野氏はこの作品を「アイドル百合SF」だ、なんて言っていたけれど、とんでもない。百合を期待して読むと一篇目から大やけどする。僕はした。
あたまの方は、まあ百合と言えなくもない。美しき少女たちの友情だか偏愛だかが繰り広げられる。素晴らしい。死んだ主人公の脳髄が、親友に引き抜かれて冷凍保存されるところまでは、まあ良しとしよう。百合の範疇だ。けれど、一体どこに「肉屋の廃棄物」と比喩されるアイドル主人公がいようか。あまつさえ、体中からパイプの飛び出まくった老婆とのカップリングなど。ビジュアル化した時点で、ユリスキウス一門のみならず、平常な感性を持つ者ならば、まず目をそむけたくなるような光景に違いない。これを百合などと、とてもとても…。
とはいえ、ただのグロテスク偏愛小説には収まらない。彼女らがこのような姿に変貌してしまっているのは、地球に起きた環境の変化が大きく関わっているのだけれど、主人公・みかは、放射能にさえ適応しながら、どんどん形質を変化させてゆく。一見突拍子もない設定なのだけれど、理路整然と並べられる理論や、科学的考証に基づいた説明などが、それに説得力を与えている。気が付けば、草野氏の独特と呼ぶにもあまりある世界に浸りきって、最後のページに辿り着いてしまう、そんな短編が『最初にして最後のアイドル』なのだ。
その他二篇についても書きたいのだけれど、ひとまずは軽くですませておきたく思う。
三篇とも、サブカルチャーのパロディに氏のエッセンスを注入して、既存の言葉に新しい定義を与えることから始まるSF小説で、骨子はよく似ている。序盤でばらまいた設定が終盤に大きく広がり、そして物語を通じて描かれたテーマに結論がもたらされる、といった風である。
『エヴォリューションがーるず』は、あるソーシャルゲームの虜となったOLが主人公。このゲームは、昨年一世を風靡した「あるアニメ」のパロディだろうと思われる。ガチャ廃人となった主人公が、ゲーム世界の中に入り込み、ガチャによって「タンパク質」などの形質を獲得して進化してゆく…というのが大筋だが、こちらもまた全く色気のない話である。
一篇目と比べるとやや百合っぽさは上がったかな、という感じはある。(可愛くない)ガールズたちの、お互いへの思いや感情のぶつけあい、そして終盤のスケールの大きな理論展開は見どころである。
『暗黒声優』は、声優という言葉に独自解釈で全く新たな意味を吹き込んだ小説であると言えよう。この世界における声優は、のどからぶらさげた袋によってエーテルを操り、熱や光、果ては重力まで操ることができる、宇宙船の操縦士のことを指す。前二篇と比べると、俺たちの戦いはこれからだ、感のある終わり方ではあったが、能力バトル、宇宙旅行、百合、なんでもござれのスペクタクルだ。個人的には、お気に入りの一篇である。
どれほど魅力を伝えられたかは不安だが、とりあえず満足したので、筆をおきたい。