呉兢のレビュー一覧
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中国の古典といえば「守屋洋氏」である。 彼の訳を読んでいればまず間違いない。
普通であれば、長々とした時代背景や人物 施設名などが続くのだが、さすが一流の学者であり、同時に多くの著作を出しているだけあって、読者が何を必要としているかをポイントを押さえ軽く説明している。
「太宗のプロフィール」というのがまた上手い。そこだけでも、なんだか歴史に詳しくなった感じが得られるだろう。
第一章 治世の要諦
この最初で衝撃を受ける。
なぜ今の日本が悪くなっているのか?今の世界が悪くなっているのか?全ての答えはここにあった。
このシンプルな答えについて、最も初めに完璧に答えられていることに改めて驚かされる。
第二章 諫言の機微
諫言というものは、やれば良いというものではない。
人を見て行わなければならず、タイミングも合わせなければならない。
上司部下の関係、経営者と従業員の関係として読むと、これほどありがたいことはない。
「末期症状になれば手遅れだ。初期症状のうちに諫言してくれるのはありがたい」と、部下の諫言を素直に受け入れる姿は実に素晴らしい!
第三章 人材の登用
人材の登用については経営者の悩みであろう。 しかし、他人のせいにするのではなく自分が人格者であるかどうか?ということを太宗は気にしている。
能力がある無いではなく、善人か悪人かということが重要であるというのは、実に面白い視点であった。
元が善人で能力がなければ、ただ能力がないということで済むが、悪人であって能力が高ければ、その被害は知らないところで大きく広がる。だから能力で選ぶのは危険なのだ、ということが書かれていた。(意訳)
能力至上主義の弊害を既に指摘されているのがすごい!
第四章 後継者の育成
後継者問題というのは、どこにでも存在する問題である。特に経営者であれば悩みの一つであろう。
子供がいなくても問題であるし、出来が悪くても問題であるし、たくさんいても問題である。
「長子相続制において、長男が最も立派で、他の兄弟も、彼に従うようぐらい長男には人徳がある」というのであれば、何も問題がなさそうだが、現実には、そんなわけにはいかない。
実際、彼には40人も子供がいて唯一の問題点を「後継者問題だ」と指摘されている。
それ以外はむしろあなたに欠点はありませんよ、と言わんばかりの出だしから始まる。素晴らしい部下だ!
諫言を受け入れるように、自ら子育てに意識している姿など、何という人格者か!と惚れ惚れするばかりである。
第五章 名君の条件
誰でも名君と呼ばれたいだろうし、経営者であれば「尊敬する人間は?」と、第三者に聞かれて「我が社の社長です!」と言われたいものだろう。
しかしそう簡単には行かない。
だからこそ、名君とあろうとし続けなければ、名君であり続けることなどできない。
わがままし放題というわけにはいかないのだ。
「我が心は秤の如し」では、その精錬潔白さが現れている。
昔から顔馴染みだということで融通してもらおうという人は多くいるものだが、きっちりと言い返していとるところが名君と言える。
「忠言は耳に逆らいて行ないに利あり」
という有名な言葉の語源もここにある。
第六章 帝王の陥穽
最高権力者であるがゆえに「落とし穴」というのがある。
誰も自分に逆らうことができないからこそ、その落とし穴というものを自覚していなければ、どこまでも落ちてしまうのだ。
その注意事項が丁寧に書かれている。
第七章 学問の効用
権力者であるほど学問が重要である。
徳川家康が林羅山に教えを乞うたのも、この書を愛用していた彼の考えのベースはこの章にあるだろう。
文中にもこうある。
「卑しくも一国の君主は、この上ない高い地位にあって、何一つ自分の思い通りにならないものはない。しかしながら一つだけ 例外がある。それは国史だ。国史は君主の悪を凝らし、善を勧めるものである。
その国史が、ありのままの事実を記録しなければ、君子の子孫はやるべき規範を失ってしまう。」
だからこそ、歴史に学ぶということが必要なのだ。
第八章 刑罰の論理
今で言う法律にあたる原点となる。
厳しすぎれば反乱を誘発し、緩すぎれば舐められて、悪事がはびこる。
当時もやたらと厳しい取締を行って、己の成績を上げることばかり考えているものもいたらしい。現代の警察官に聞かせたいような言葉である。
公平で人柄の良い人物を司法官に任命したところ、4年間で死刑はたった29人にまで減った。
こうした事例は現代も学ぶべきである。
第九章 用兵の限界
昔なのでいくさ というのは当たり前にある。
軍事力というものをあまり考えないで機嫌よく生きていられるのも、今の日本ぐらいのものである。
武力で制圧されれば負ける。圧倒的暴力の前になす術がないのは、当たり前のことである。
だからこそ「兵の危険性」を太宗は理解している。
「兵は凶器になる」として戒めているのだ。
なので、反乱があったからと言って簡単に塀を動かすようなことはしていない。
第十章 守成の心得
創業者の苦労というものと、それを維持する苦労というものは全く別物である。
太宗が東方を巡察した後で、不手際があったと多くの人間を処罰した。それに諫言する言葉を 受け入れている。なかなかできるものではない。
「初めの志を忘れていませんか?」ということをしっかりと受け止めているのだ。
また、太宗が雨の日に狩りに出かけた時「濡れない服はないかね?」みたいなことを部下に尋ねたら「瓦で作った服であれば濡れないと思いますよ」と答えられている。
狩りというのは現代で言うゴルフのようなものである。
つまり部下は「ゴルフばっかりで遊ぶんじゃなくて、雨の日ぐらいは、きちんと瓦のある屋根の下で仕事してください」 という言葉を発しているのと同じである。
それを受け入れた太宗はやはり素晴らしい!
全体的に太宗が素晴らしいすぎて、現代の社長は何も参考にならないかもしれない。
自分の勤めている会社の社長にこれを求めても無理だと思われる。
しかし、自分自身が社長であり「このようにありたい!」と日々努力を重ねるなら、そうした雰囲気が醸し出されてくるであろう。
為政者がこの書を愛読せず、目指さなくなった頃から、やはりこの国や世界が悪くなってきたということがとても理解できる。
文化大革命以降の中華が、こうした名著を封印し、時代の知性階級を処罰してしまったツケが現れている。
わがままな欲望に翻弄され、日本の為政者もそれに倣っているようだ。
為政者がそうであれば、学校の先生や警察官も公務員なわけだから、そうなるに決まっている。公務員とはそもそも上に従うからだ。
人間としての価値を高められる極めて大きな一作品である。
現代という、年月に埋もらさせてはならない名著であると言えよう。 -
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「貞観の治」と呼ばれる理想的な治世を行った唐の太宗李世民と臣下の問答を集め、古来より読み継がれてきた「貞観政要」40篇の全訳註。各章毎に古典の出典や時代背景を解説、本編も読みやすい文章で訳されており、800頁近くのボリュームのある古典ながら、途中で飽きる事なく面白く読むことができた。著者は「貞観政要」を手放しに礼賛せず、虚飾性や正当化された箇所に対してはしっかりと指摘しており、流石は歴史学者による訳註だと感じた。治世当初の10年は人民の動向を恐れ臣下の諫言に素直であったが、その後は傲慢で直言を嫌がる様子も見られ、最終篇では魏徴によって「有終の美を飾れない十ヶ条の理由」を上奏されるまでになっている。「貞観政要」の抜粋ではこのような側面を読む事はできなかっただろう。あとがきでも述べられているが、「全て読む」事の大切さを実感した。以前から「貞観政要」を読みたいと思っていたが、数ある中で本書を選んで大満足。古典や古事の由来の解説はあるものの、春秋・戦国時代や漢、魏晋南北朝時代の基礎知識がある方が面白く読めると思う。再度通読するのではなく、時間があるときにランダムに章ごとに読みたい。
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ネタバレ唐代の名君の誉れ高い太宗(李世民)の言行録。
このちくま学芸文庫版は、全280篇のうち70篇のみを収録したダイジェスト的なものですが、「貞観の治」と言われた平和な時代の臣下達との問答から学ぶところが多い古典です。
日本においても徳川家康や明治天皇が強い関心を寄せた帝王学のテキストなのですが、あまりに面白いので連続2回一気に読み切ってしまいました。
まず、中国には諌議大夫という諫言専門の役職があったのが驚き。
中には諫言が過ぎて彼らを殺してしまう皇帝もいる中で、太宗は臣下の諫言を素直に聞き入れて、我が身を正そうとするのが素晴らしくもあり、微笑ましくも思えてしまいます。
そこいらのビジネス書では太刀打ちできないリーダーシップの教科書だと思いますが、以前読んだジェフリー・フェファー氏の「権力を握る人の法則」や「悪いヤツほど出世する」に描かれる現実のリーダーとのギャップがすさまじい(笑)
以下、備忘も兼ねて、印象に残った篇(タイトルは訳者による)とその中でもインパクトのあった原文を。
次は280篇の完全版を読んでみたいと思います。
・明君と暗君のちがい
君之所以明者、兼聴也。其所以暗者、偏信也。
・知りて寝黙するなかれ
唯唯苟過、遂無一言諫諍者。
・君は舟なり、人は水なり
君舟也、人水也。水能載舟、亦能覆舟。
・必ず極言規諫すべし
主欲知過、必藉忠臣。
・情を尽くして極諫せんことを欲す
公等亦須受人諫語。
・なぜ沈黙を守るのか
懐禄之人慮不便身而不敢言。所以相与緘黙俛仰過日。
・臣をして良臣とならしめよ
但願陛下使臣為良臣。勿使臣為忠臣。
・諫言をとがめるな
・地方長官の人選
・なんぞ人なしと謂わん
・忠言は耳に逆らいて行ないに利あり
忠言逆耳而利於行。
・流水の清濁はその源にあり
流水清濁在其源也。
・人道は謙を好む
凡為天子、若惟自尊崇、不守謙恭者、在身儻有不是之事、誰肯犯顔諫奏。
・言語は君子の枢機なり
・読書の勧め
不学牆面、莅事惟煩。
・政をなすの要は人を得るにあり
為政之要、惟在得人。用非其才、必難致治。 -
Posted by ブクログ
西の「君主論」東の「貞観政要」
ともに君主としての要諦を後世のためにに書き記したものではあるものの、「君主論」は他者を支配するのための書であり、「貞観政要」は他者を治めるための書、といった印象であった。
もちろん両方とも長年語り継がれてきただけあって名著である。なので、両方のエッセンスをしっかりと頭に入れておく必要はあるものの、今の時世から見ると「君主論」よりも「貞観政要」の方がリーダーの書として役立ちそうに思う。
本書は貞観政要の内容がすべて書かれているわけではないが、漢文書き下しの他現代語訳も用意されており、古典を読んだことがない人でも理解できる内容となっている。ただ、、例えば、出口治明さんの「座右の書『貞観政要』」などに当たると、より理解が深められるのではないか。
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Posted by ブクログ
ビジネス系の雑誌でたびたび紹介される帝王学の名著。何度も登場するとなると気になる。
人事は大事、とか、ダメなところを指摘してくれる人がいる環境を持て、とか、上に立つ人は自分を律して、足るを知るということを覚えろ、とか(だいぶ平たく言っているので、本当はこの100万倍は含蓄がある)様々な教訓が大宗のエピソードと共に語られている。
別に人の上に立つ立場ではないけれど、良いことが書いてあるし、背筋が伸びるので時々、本棚から取り出して読みたい。語られる内容からは太宗の人柄が出ており、とにかく謙虚で実直で誠実。かといって、完璧な人ではない事もエピソードや解説を見るとわかる。それがこの本を「皇帝という遠い世界の人が身につけていた倫理観・哲学」ではなく私たちにも地続きの生き方と感じさせてくれるので、親しみやすく読みやすかった。
ジョウガンセイヨウという読み方も、今回、読んでようやく覚えた。内心「ジョウガン? テイガン?」とちょっと読み方で自信が持てなかったので、スッキリした……。