天野健太郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
台北に1961年から1992年まで存在した長さ1kmのショッピングモール「中華商場」を舞台にし,そこで暮らす子供たちを主人公とした10の短篇(と1編のオマケ)からなる.多くの話に「歩道橋の魔術師」が狂言回しとして登場し,また,ある話の主人公は別の話にエキストラとして登場する.
日本に売り込む際には「三丁目のマジックリアリズム」というコードネームだったと書かれているが,確かに南米の作家のような不思議な味わいがある.ただ我々と同じ東アジアが舞台であり,不思議な味わいである一方で,描かれる光景が身近に感じられる.
自分より下の世代にはピンとこないかもしれないが,台湾では1987年まで戒厳令が敷かれ,政治活動や言論の自由は厳しく制限され,市民の逮捕・投獄が横行していた(戒厳令が解除された,というニュースはリアルタイムで見た).本書で死が頻繁に登場するのは,そういった時代の空気が描かれているのかもしれない. -
Posted by ブクログ
これは面白かった。
香港を舞台にした警察小説。
6つの短編が収録され、全体で一つの物語となっている。
最初は、シャーロックホームズの劣化コピーかと思われたんだけど、いやいや、読み進めていくうちにどんどん面白くなってくる。
また、ストーリーも現代から過去に遡っていくという展開で、なかなか意表をつく。
主人公は香港警察の伝説の刑事『クアン』。
彼を主人公として彼が携わった6つ事件を解決していくというものだ。
ちなみに、この本の題名『13.67』ってなんなんだろうと思っていたのだが、読み進めていってやっと分かった。
「13」は「2013年」
「67」は「1967年」
を意味しているんだね。そして2013年から1967年に遡っていくという意味の題名なのだ。
香港がイギリスから中国に返還されるという香港の激動の時代を見事に描き切り、そこに香港警察の一警察官の人生を投影させながらストーリーを展開させていく。
香港の歴史や地理をもっとよく知っていればさらに楽しめるのだけれど、僕のようなあまり香港の歴史を知らない人間にも十分に楽しめたり、本格推理小説としても及第点以上だろう。
中華文学はいままで読んできたことはなかったが、『三体』や本書などを読むと、今後チェックすべき作家が結構いるのだと思い知らされる。
いやはや、読書人の世界は深くて広すぎるなぁ(笑)。 -
Posted by ブクログ
陳浩基『13・67 下』文春文庫。
各種ミステリーランキングで上位に輝いた珍しい華文ミステリー。
香港警察の伝説の刑事クワンを主人公にした連作短編集。上下巻に全6編が収録されている。2013年を舞台にした上巻の最初の短編でクワンの警察人生最後の仕事が描かれるが、その後1967年まで順に時代を遡るという特殊な構成の物語。香港の歴史を背景にクワンが解決した数々の事件が描かれる。
英国の植民地時代から中国への返還という特異な歴史に翻弄された香港は、1960年代の反英の嵐が吹き荒れる時代から、少しずつ中国とは異なる強固な柱を造り続けて来たように見える。中国に返還された今となっては、この強固な柱を完全に壊すのはなかなか難しいことなのだろう。今度は民主化の嵐が吹き荒れる香港。時代は変わり、人びとも変わり、警官も変わる。
『テミスの天秤』。中国とは全く別の国だった頃の香港の世相を舞台に、現役バリバリのクワンの活躍が描かれる。1989年、雑居ビルに潜む凶悪犯たちと香港警察の警官との銃撃戦。犯人は全員射殺されたものの、ビル内にあるホテルに居た一般市民は全員が犯人に射殺され、何人かの警官も負傷する。事件の直後に偶然、事件現場を訪れたクワンが見出だした事件の恐るべき真相とは……
『借りた場所に』。パズルを解くような理路整然としたクワンの推理が光る秀作。1977年、まだ香港警察に賄賂などの汚職が蔓延る時代。そんな警察の堕落に目を光らせる司法執行員のヒルの一人息子が誘拐された。ヒルが頼ったのはロンドン警察時代の教え子、クワンだった。子供の誘拐事件なのに何故か醒めた態度のクワン。事件の背後に隠された真実とは……
『借りた時間に』。反英の嵐が吹き荒れる1967年の香港。主人公は雑貨店に働く『私』である。ある日『私』が隣に住む男と労働組合の仲間が爆弾テロの打合せを聞き、顔馴染みの警官アチャに伝える。なかなか登場しないクワン……ラストに明かされた事実には非常に驚いた。
本体価格870円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
陳浩基『13・67 上』文春文庫。
各種ミステリーランキングで上位に輝いた珍しい華文ミステリー。
香港警察の伝説の刑事クワンを主人公にした連作短編集。上下巻に全6編が収録され、2013年から1967年まで順に時代を遡って香港の激動の時代とクワンの警察官人生とが描かれる。
時系列を逆転させ、終わりから始まる物語というアイディアはなかなか面白い。しかし、最初の1編の『黒と白のあいだの真実』が余りにも衝撃的で、他の2編も面白いのに、やや上の空という感じだった。
『黒と白のあいだの真実』。これは見事。最近ではなかなかお目にかからないレベルのミステリー短編の傑作だ。2013年が舞台。末期の肝臓癌で余命僅かとなり、かつての部下・ローが容疑者一族5人と伴って病床で意識不明の状態にあるクワンの元を訪ねる。眼も開かず、会話も出来ず、指1本さえ動かせないクワンが見せた驚きの推理と意思伝達方法、まさかの事件解決……
『任侠のジレンマ』。如何なる推理を駆使してクワンはマフィアのボスを炙り出そうとするのか……2003年、既に警察を引退し、顧問となったクワンのアドバイスを受けながらローは裏社会を牛耳るマフィアの逮捕に奔走する。事件解決のためには手段を選ばぬクワンの仕掛けた罠とは。
『クワンのいちばん長い日』。これも見事。何と2つの事件を解決してしまう定年退職前のクワン。1997年、香港返還の1ヵ月前、50歳のクワンは翌日に定年退職を控えていた。その最後の1日に護送中のマフィアが脱走し、さらには露店街のビルの上から硫酸を振りまくという凶悪事件が発生する。クワンはローを伴い、独自に捜査を進め、驚愕の推理力を発揮する。
本体価格870円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
世界文学を味わった。
村上春樹「羊をめぐる冒険」をより複雑に重層的に歴史的に構築した作品、といった印象だ。
台湾じゃなければ書けない。この年代の、この作家でしか書けない。きわめて個人的でありながら、普遍的でもあって、これぞ小説だ、物語だ、と感じさせる。スケールも大きい。
とても充実した読書体験だった。
後記「哀悼さえ許されぬ時代を」の締めくくりが良かったので、記しておきたい。
”
この小説は「なつかしい」という感傷のためではなく、自分が経験していない時代とやり直しのできぬ人生への敬意によって書かれた。自転車を探すうち、意外な時間の流れに巻き込まれてしまう物語を通して、読者のみなさんが本のなかの人物と心をふれあわせ、ペダルを踏むリズムや汗の臭い、乱れる呼吸、涙を流す(あるいは流さない)ほどの悲しみを、互いに感じとってほしい。
”p458 -
Posted by ブクログ
今はなくなった台北「中華商場」という場所を舞台にした短編小説。子供時代体験したであろう色々な出来事の不思議さ、昂揚感、心がしめつけられる悲しみみたいなものを小説で見事に表しているなあと感じた。そんな色んな子どもたちの共通の記憶として「歩道橋の魔術師」がいて、各物語に影響を与えている。
面白かったので「自転車泥棒」「複眼人」なども読んでみたいなと思った。
村上春樹っぽい言い回しもところどころ見られる。ちょっと気になり調べてみると、とあるインタビュー記事に「ねじまき鳥クロニクル」を読んだことがあると話しておられた(作中にも村上春樹の名前が一度出てきた)。
p.246 彼女の完璧な耳たぶに注意を引かれた。←これ春樹じゃん!とか一人で興奮してました。
個人的に好きなお話は『光は流れる水のように』。