宮崎市定のレビュー一覧
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『甄嬛傳』をみてすっかりはまり、雍正帝とはどんな人だったのかが気になって買ってしまった。きっとマニアックで難解なのだろうなと思って読み始めたが、予想外に大変読みやすかった。
本書は、1950年に出版された同題の岩波新書と、1957年の論文「雍正硃批論旨解題 - その史料的価値 -」を一冊にしたもので、両文章とも元は岩波書店『宮崎市定全集』巻14に収録されていたらしいが、同題の岩波新書はすでに絶版。
雍正帝についていくつかの角度から観察しているが、全体を通して「摺子」が頻繁に現れ、本書の主眼がこの「摺子」にあることがわかる。
著者は雍正帝について研究しているうちに『雍正硃批論旨』なる出版物の存在を知り、読み始めたところ面白くてとまらなくなり、同好者を募って研究会を催し、ついには正式な組織となった。
そこまで筆者の心を鷲掴みにした『雍正硃批論旨』とはどうゆう内容だったのか、というのが豊富な例文を引きながら紹介されているのが本書。惜しむらくは、実物の写真がないこと!これは講談社の怠慢。
しかし、語り口調があまりに軽快な上に、可也細かい経緯や背景まで書かれているので、正直どこまでが歴史でどこからが空想なのかわからないところがあった (特にスーヌのくだり)。しかも本編には一切参照文献が挙げられていない。
そう思って巻末の解説を読んでいると、なるほど、あのスーヌの章は、フランス滞在中に買った『イエズス会書簡集』を参照したらしい。あの頃の世界情勢が著者を中国から遠ざけたようにみえて、実際は廻り道してさらにマニアックな知識を得ていたというあたり、歴史学者のまさに鑑。
第一章はどうやら清實錄の康熙朝實錄からいくつか引用しているらしい。 -
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宮崎市定の著作を愛好し、評伝まで著した編者によるアンソロジー。
古代、中世、近世、最近世及び現代という時代区分と、東アジア、西アジア、ヨーロッパという地域区分を組み合わせて、歴史の骨太な見方を論じた『世界史序説』から始まり、宮崎の専門とする中国史について、古代、中世、近世からのセレクション、さらには全集未収録作品まで収録された、宮崎愛読者にはたまらない贅沢な一冊。
編者により宮崎の歴史の見方、捉え方や、選択された各論考の紹介がされているので、宮崎をあまり知らない人は、是非そちらを読んで興味を持っていただきたい。
「条支と大秦と西海」、「晋武帝の戸調式に就て」などは、一般読者が読むにはしんどいが、このような史料に即した本格的な論考もあれば、こういう歴史の捉え方ができるのか、現代につながる歴史学としてこういうものもあるのかを考えさせられるものなど、多様な作品が収録されている。
個人的には、「歴史と塩」、「王安石の黄河治水策」、「シナの鉄について」などが、非常に面白かった。塩といい鉄といい、経済社会生活に非常に重要なことだけれども、専門的な論は一般読者には取っ付きにくいものだが、宮崎の論は視点は明確であり、言わんとすることが明瞭な文章で書かれているので、グイグイ引っ張られるように読み進めることができる。
なお、「歴史と塩」は、正に日中戦争中、中国に勝利するためにはどうしたら良いか、日本軍に協力する意図でも書かれたものであることが、編集部注で分かった。
時局に迎合した戦時中の作品は、戦後不都合な箇所が削除、修正されているということは良く聞くが、こうした形で残してくれた方が歴史を知る上で大切だと思う。
編者の解説の最後に、宮崎は講談社が大嫌いであったと記されている。学術文庫という手に取りやすい形で出してくれた、講談社に感謝^_^ -
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タイトル通り科挙について扱った書。山内昌之先生が高校時代、友人に勧められた著作らしい。
科挙の内容が非常に詳細なのはもちろん、科挙が及ぼした影響、他の国との試験との国際比較(特に科挙と近代教育社会の比較)。また有名な科挙落第者の分析もされている。
封建主義から公平に民衆から官僚を選抜するという民主制へシフトさせるシステムが1400年以上も前に確立していた。そして弊害もあったが殿試や制科(優秀な老学者を取り立てるための制度)と改良を重ねる。けれども日本が学校教育を中心とした近代教育に目覚め、発展するのを目の当たりにし、清朝末期その制度は崩壊する。
西洋と比べ、日本や中国が学校よりも試験を重視する傾向(例えば、欧米に比べ学校に入るのは難しいがでるのが簡単)にあるのは科挙の影響であるという指摘は面白かった。そして今日の教育問題の主流である機会の平等うんぬんもこの当時からあったことにも気付かされた。受験者のレベルが高くなり差がつかなくなると試験が悪問になる傾向、それに伴うカンニングや替え玉受験の巧妙化も同様。歴史は繰り返すんだな。
科挙にはいろいろな指摘はあるものの宋時代、文治主義の影響で平和になり、中国文化は発展する。「軍隊は最良の召使いであるが、それが主人になったら最後、最悪の主人公になる」という本著のイギリスのことわざの引用のように、民間の科挙出身の進士が輿論をもって世論を制し軍部を抑えたことに科挙のよさがある。 -
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宮崎市定『雍正帝ー中国の独裁君主』を読む。
本文はもちろんのことながら
併載論文「雍正硃批諭旨(ようせいしゅひゆし)解題
ーその史料的価値」が面白い。
解説を書いている宮崎の高弟・礪波護の発案で併載が実現した。
康煕帝、乾隆帝にはさまれ
中国史において目立たぬ存在であった雍正帝に宮崎は光を当てる。
雍正帝が発明した「奏摺(そうしょう)」という
コミュニケーションの仕組みに着目したい。
地方の文官武官223名に直属上司を通さず、
直接天子に報告を上げさせる仕組みだ。
彼らは本来であれば天子に直接上奏する立場にない。
だからこそ雍正帝は地方の事実を自分の耳目でつかみたかった。
鍵のついた小箱4つをひとりひとりに持たせ、
合い鍵は雍正帝自らが持つ。
のべ数百の小箱が常に地方と中央を行ったり来たりして
公式文書とは異なる親展状として天子に届けられる。
驚くべきはそのひとつひとつの報告に
天子が朱字を入れ、部下それぞれに返信したことだ。
「雍正硃批諭旨」はそのやりとりをまとめた書である。
その読み解きに宮崎は注力したのだ。
官僚をいかに使いこなすかは
清王朝、雍正帝だけの問題ではない。
現代における世界各国、日本のどの政権も同じ問題を抱えている。
コミュニケーション改革を統治改革に結びつけた雍正帝の創造性。
そこに着眼した宮崎の書は
60年以上前の著作とは思えない鮮度を今も持つ。
(文中敬称略) -
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中国中世は秦漢から始まるのではないという内藤湖南博士の説を冒頭に紹介して、巻末まで「中世の中国」を描きます。時代的には後漢末・三国・魏晋南北朝から唐まで。学者でありながら一般向けに描く文筆力に定評があるだけあって、読み物としても受け入れやすく仕上がっています。大学で東洋史でも専攻しなければ3秒で過ぎてゆく南北朝をはじめとして、おそらく1980年代前後くらいの日本人の常識を踏まえて丁寧に書いています。(例えば自分が習った高校の世界史の教科書には一言「劉祐の宋」とあるだけだったが、東晋の歩んだ歴史と滅亡の歴史も踏まえて、駄目な集団の中にひときわ輝く劉祐の姿をみることができる)。
ヨーロッパ、西アジアに触れた箇所も、高校程度の世界史の知識があればなるほどと思うはず。教養として、また、三国志の世界をより良く知るための架け橋となる知識を得るなど趣味として、一度は読んでおきたい本だと思います。