宮崎市定のレビュー一覧
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宮崎市定が書いた『科挙』という題の書籍には二つあり、一つは筆者が出征前に書いて、たまたま金庫に保管されていたのが戦災を免れ、前後に出版され、今は絶版しているもの。もう一つは、初代の内容に満足のいかない筆者が改めて執筆し直した内容で出版されたもので、即ち本書。後者には、区別するために副題「中国の試験地獄」がつけられた。
筆者は戦争に出て、よほど見たくないものを見たんだと思う。本書中に度々日本軍のことが出てくる。それがあってか、それとも元々思っていたのかは知らんが、巻末近くで述べている数文が非常に感慨深かった。
「どんなに手柄をたてた将軍にも、政治の最高方針には参与せしめないという制度は……無情 -
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試験制度と聞くと、やはり一番、科挙が有名じゃないかと思います。
官使登用制度として1300年以上の歴史をもつ制度は、世界に類をみません。
本書を私が読んだ理由としては、中国で現行実施されている大学入学試験(高考)を考察する上で、
科挙制度が、どのように影響しているかという点を理解したいと思ったからです。
東洋史学の泰斗である宮崎市定先生の、軽妙な語り口に、どんどんページが進みました。
科挙制度を客観的に紹介すると同時に、その制度の時代背景、導入にいたった経緯、理由まで、
非常にわかりやすく書かれています。さすが、中国史の泰斗です。
中国語の書籍でも、科挙を紹介する山ほどありますが、
宮崎先生 -
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県試、府試、院師、歳試、科試、郷試、挙人覆試、会試、会試覆試、殿試
世界一過酷な試験とされる科挙には、上記の試験が存在する。清時代にはすべて行われていた。試験地獄と言われるだけのことはある。
殿試を首位で通過すると「状元」と称せられる。人生で最高の栄光を勝ち得たことになり、小説の主人公にもよく状元の才子が登場する。浅田次郎の「蒼穹の昴」にも登場していた。
そもそも、科挙を実施するにいたった理由はなんなのか
1400年前に存在した科挙、ヨーロッパはまだまだ封建制度で、一般市民から官僚を登用することは考えられなく、中国の科挙が斬新な制度であった。
科挙を実施する理由は、貴族への牽制
世 -
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中国の皇帝(天子)は天の命を受けて領土人民を統治する。だが一人でその仕事をすることは不可能なので,手足として官僚を用いる。古代には貴族が天子の補助者であって,王朝が交替しても古い家柄の人間は引き続き権力を握ることができた。それが六世紀に変わる。隋初代の文帝は,生意気な貴族を排し有能な人材を集めようと,公正なペーパーテストによって官僚を登用することを始めた。これが科挙である。以降,千四百年近くにわたってこの制度は続く。中国の歴代王朝では文官による支配が絶対であり,軍人の格は低い。もちろん前王朝の天命が尽きるころには社会が乱れ,腕力がものをいう世界になるが,それは一時的なもの。混乱がおさまれば新
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ネタバレ" その民間の教育をともかくも継続させたのは科挙が存在するからであるが、この科挙が本当に役に立つ人材を抜擢するには不十分であることは、中国でも古くから指摘されていた。経学のまる暗記や、詩や文章がいったい実際の政治にどれだけ役立つであろうか。それは単に古典的な教養をためすだけにすぎない。官吏として最も大切な人物や品行は、科挙の網ではすくいあげることができない、というのが古来の科挙反対論であった。" p.204
"科挙及第の進士は、天子からその名誉ある地位を授けられたものにはちがいないが、同時に彼らは知識階級の輿論(引用注:よろん、人々の議論または議論に基づいた意見 -
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科挙を突破して進士になるための道のりは長く険しい。そもそも科挙に臨むためにはその資格がなければならず、その資格を得るためにまずは学校に入学しなければならない。この学校試からしてすでに厳しい。県、府、院の三段階の試験をクリアしなければならず、受験生として適格かどうかの条件もある。試験内容は40万以上の文字の暗記のほか、詩作なども課せられる。そのため、勉強をする時間を確保でき尚且つ優秀な家庭教師を付けることができる地方の有力者の息子に圧倒的なアドバンテージがあるのは否めない。
学校試を突破して貢生となり、ようやく科挙に挑むことができる。科挙も地方での郷試、中央での会試、宋代以降は皇帝自らが試験に携 -
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宮崎市定の著作を愛好し、評伝まで著した編者によるアンソロジー。
古代、中世、近世、最近世及び現代という時代区分と、東アジア、西アジア、ヨーロッパという地域区分を組み合わせて、歴史の骨太な見方を論じた『世界史序説』から始まり、宮崎の専門とする中国史について、古代、中世、近世からのセレクション、さらには全集未収録作品まで収録された、宮崎愛読者にはたまらない贅沢な一冊。
編者により宮崎の歴史の見方、捉え方や、選択された各論考の紹介がされているので、宮崎をあまり知らない人は、是非そちらを読んで興味を持っていただきたい。
「条支と大秦と西海」、「晋武帝の戸調式に就て」などは、一般読者が読むに