鵜飼哲夫のレビュー一覧
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芥川賞は人を狂わせる。
その最たる例が、太宰治でしょう。
選考委員の佐藤春夫に芥川賞を懇願する書簡を送ったのは有名な話。
文面は、まさに恥も外聞もないといった体です。
さらには自分を落とした選考委員を逆恨みし、「刺す!」とまで言い放ったのですから、その才能とは異なる意味で「太宰、恐るべし!」です。
結局、芥川賞とは縁のなかった太宰ですが、吹っ切れてからの活躍は目覚ましく、後世に残る傑作を次々とものします。
「太宰が、もし芥川賞をとっていたら、どうなっていたのであろう。天才幻想に憑りつかれ、明るさとユーモアのある中期以降の太宰はなかったかもしれない」
との著者の見立てに、私も同意します。
芥川賞 -
Posted by ブクログ
戦前、芥川賞の候補となりながら受賞を逃した中から今読んでも面白い作品をセレクトした一冊。
第1回(1935年・昭和10年)~第15回(1942年・昭和17年)の作品収録。各作品の後ろにその回の芥川賞選評が抜粋して掲載されているので、受賞作との比較や、落選した作品への当時の評価も分かるが良いですね。
収録作どれも看板文句の通り、現代でも通じるテーマ性があったり、設定・筋の面白さなどどれも面白くあっという間に読み終わりますね。(本の分厚さにちょっと怯むかもしれませんが、フォント・行間が大きめに配置されてるのでかなりスイスイとページが進みます)。
選評と作品をセットで読むことで感じた事ですが、作品 -
Posted by ブクログ
昭和10年8月10日。第一回芥川賞最終選考会。石川達三の蒼氓が選ばれる。選に漏れた太宰は川端を刺すとまで言い逆恨みを募らせる。結局、太宰は2回目も3回目もダメであった。でも、もし、芥川賞をとっていたなら、天才幻想に憑りつかれ、明るさとユーモアのある中期以降の太宰はなかったかもしれない。芥川賞は、その存在の大きさから作家を殺す賞ともいわれるが、太宰については、落ちたことで作家としては生かされたと言える。他方、受賞できた石川については、実力もあったが、運もあった。そもそも蒼氓は、改造の懸賞小説で落選した故に、公表されなかったもの。公表されていたならば、そもそも芥川賞候補になれなかった。大阪の旗とい