中川毅のレビュー一覧
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水月湖―福井県若狭地方の三方五湖にある、恐らく東日本ではほとんど知名度のない湖が世界的に注目を集めている。「年縞」という、地質学上の年代測定の“ものさし”となる湖底の堆積物が、7万年分という人類が歴史に登場する前後まで積み重なっている奇跡の湖なのだ。
水月湖は直接流れ込む河川がなく、湖底に生物が存在せず、また三方断層の影響で毎年数センチずつ湖底が沈み込むという世界で見ても稀有な環境によって、ほぼ外界の影響を受けることもなく毎年の季節変動を年縞として記録し続けてきた。毎年1センチに満たない年縞が実に7万年分、500メートルもの深さで採取できたのはそこにこだわった研究者たちの地道な努力と、国際的 -
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10万年スケールでの気候変動について、そして筆者が長年携わってきた水月湖の年縞堆積物の研究成果について、それぞれバランスよく語られており、変動を繰り返してきた地球の気候だけでなく、基礎研究の地道さや効用の大きさを学ぶことができた。
以下印象に残ったこと。
・公転軌道の10万年サイクルと地球気温(ミランコヴィッチ理論)
地球の公転軌道は、楕円と真円を往復するように繰り返しており、楕円から次の楕円になるまでの期間が10万年である。この10万年サイクルで、地球の氷期、間氷期も入れ替わっている。つまり、公転軌道が地球の気温に影響を与えているのだ。楕円軌道では地球がより太陽に近づくため、エネルギーを -
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あつかうテーマの壮大さ、面白さ、さらに読みやすさから、全ての人にお勧めしたい2017年発行のブルーバックスの1冊です。
本書があつかうのは古気候学。有史以前の気候変動を解明する研究で、基本的には地質学の一分野。解明する手段としては、放射性炭素法、花粉分析、年輪年代学などがありますが、本書が主題とするのは福井県にある水月湖の「年縞」です。
年縞とは、湖底などの堆積物によってできた縞模様のこと。
水月湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった年縞があり、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準」になっています。
縞模様は季節ごとに -
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中川 毅
1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。
温暖化をあつかった書籍は、ちょっと大きな書店であれば棚をひとつ占有するほどだし、温暖化の主犯格とされる二酸化炭素に対し -
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ネタバレいままさに我々が目の当たりにしている気候変動について、超俯瞰で捉え直す本。
超俯瞰=数億年・数万年スケール。
このスケールになるともはや身近とは言い難い。
が、古気候学や環境科学のファクトをふんだんに紹介することで、非常に説得力がある。
何より、固定観念を丁寧に解除し、単純・近視眼的な「善し/悪し」ではない尺度で考えるきっかけを与えてくれる。
学術的な本に馴染みがない私は最初ちょっと苦戦しましたが、かなりの良書だと思います。
おススメです。
・地球の気候は、大きなスケールで見ると常に変動している
・ここ300万年は、大きく見ると寒冷化が進行している時期
・ただし常に一定で「寒冷」な訳で -
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福井県三方五湖の水月湖の年縞を掘削するまでの過程からその苦労話をまじえながら、過去の地球の気候を振り返り、未来の気候がどうなるのかわかりやすく説明した本。
非常にわかりやすいが、タイトルの10年史から歴史を古い方から振り返る本かと思ったら、著者が取り組んだ水月湖の話が中心だった。
今後100年で2℃~5℃平均気温が上昇するというIPCCの予想は、氷期の安定しない気候に比べるとむしろ穏やかとすら言える。もし今後氷期がきたら農耕が崩壊して増えまくった人類は激減するおそれがある。
本書で一番衝撃的なのは二酸化炭素・メタンガスの温室効果ガスは8000年前から増加しているという説。人類の森林伐採と農耕 -
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もっと評価されてもいい本。とても面白かった。
気候変動に関する予測はどれも絶望的なものばかりで、これに関する一般書はその事実を開示することで我々を憔悴させて終わるものが多い気がする。温暖化をすぐに止めることが現実的に不可能である以上、必要なのは気候が変わることが止められないならどういう心構えが必要なのかを多少なりとも提示してくれる本だ。本書だって、何も今後の気候変動に関してあえて楽観的なことを言ったり、まして温室効果ガスの排出による温暖化を否定するような内容では一切ない。ついでに言うと、今後我々が向かう方向に関して明確な答えを示してくれるものでもない。ただ、そもそも地球にとって、生物にとって -
購入済み
中身も構成も良い
データに基づかない、あるいは恣意的にピックアップされたデータに基づいた地球温暖化の議論にずっと疑問をいだいていたが、本書によって疑問の一端が解けた気がした。導入部の議論から、二重振り子やカラーボールに例を取った気候変動の話、メインテーマの水月湖の年縞の話、植生の話と 本としての組み立て構成も見事である。(中身は面白いのに構成で失敗しているブルーバックスもあるが)猛暑の夏を迎えた今、この本を読むと実感として気候変動を感ずる。
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古気候学研究のフロントランナーたる著者とその研究チームは、地道で繊細な研究を通じて過去数万年分の気候変動の解像度を上げることに成功します。
地質学的分析で判明する植生景観をヒントに対象年代の気候を推定するアプローチは、非常に高度な操作や分野横断的な知識、また複数の研究機関との協働・分業を必要とするものでした。彼らの驚くべき知性と根性、ファクトに対する真摯な姿勢には敬服するばかりです。
「自然は、人間が引き起こすよりもっと激しい気候変動を、内部から発生させる力を潜在的に持っているのである」という記述が印象的でした。
人間の活動に起因する環境問題を矮小化している訳ではなく、農業や科学技術に立脚し -
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なかなか1000年前という過去ですら実感を持った想像が難しい人類からみて、万年、億年、という単位の地球の歴史は、なかなか自分ごととして想像できない。
そんなスケールの話を、「1度の気温があがっても大したことがないように感じる。けれど、平均1度あがるということはすごい。例えば1週間のうち6日平年並の気温なら、7日目は7度あがること」など、なるほど、それはすごい、といちいち実感させてくれる例をあげて語るので、「お勉強」ではなく、趣味の読書として楽しく読めた。
過去の寒冷期と生態系の多様性。狩猟生活と農耕生活。何万年という単位の変遷を地質で見るということは、どこでも見れるものではない、ということ。
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たしか利根川進だったと思うが「科学者には研究に使うツールを開発することが得意なタイプの人がいる。(その成果はありがたく使わせていただくが)自分は逆にツールよりもそれで明らかになる事実に関心があるタイプ」といったようなことを書いていた記憶がある。一般的にツールの開発のほうが地味な仕事といえそうだ。本書はまさにそのツールの開発、さらに言うと既存のツール(炭素14による年代測定)をどう改良するかについてなので、素人目には輪をかけて地味に見える
しかし地味とは言いながらも、世界標準を作ろうという話であるし、研究者がその人生のかなりの部分を投じて挑戦する話でもある。ふだん目にする科学関係の記事などでは