中川毅のレビュー一覧

  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    私は一般知識として旧石器時代が寒かった事や縄文時代が現在より高かった事は知っていた。だがその感覚は、例えば恐竜時代はもっとずっと気温が高かったというようなどこか異世界の話のように思っていた。
    福井県の水月湖は年輪のように1年1層の堆積物の層が残っており、この著者の研究によって過去7万年の気候が1年単位で分かるらしい。そしてこれはローカルな研究ではなく、放射性炭素年代測定法のパラメータとして世界標準スケールになっているらしい。これによると1万1600年前、ある1年を境に突然気候が温暖で安定した。その幅も変化の早さも今の気候変動よりもずっと激しいものだったという、その解像度の高さにただ驚き、自分と同じタイムスケールとして感じられた。

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    2026年09月06日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    いろいろと目からウロコな内容でした。農耕が始まらなかった理由は特に目からウロコでした。確かに、異常な気候の年が続く場合は、農耕をする事ができません。また、昔は思っていた以上に気候変動が、激しかったようです。今後は、どの程度の災害を想定して対策を取るのか、考えさせられました。

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    2026年08月14日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    自分の経験からものを見て「最近の天気は昔とかわった」なんて言っていたけど、もっと広い視野で気候というものを考えると、見える景色がこんなにも違ってくる。新しい視点を与えてくれる一冊だった。

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    2026年06月28日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    花粉の化石から年代測定ができるという話が、とても印象に残りました。
    この時期は花粉症の人にとってはつらい存在ですが、そんな身近でどこにでもあるものを研究に活用する発想は本当にすごいと思います。

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    2026年03月02日
  • 時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち

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    水月湖―福井県若狭地方の三方五湖にある、恐らく東日本ではほとんど知名度のない湖が世界的に注目を集めている。「年縞」という、地質学上の年代測定の“ものさし”となる湖底の堆積物が、7万年分という人類が歴史に登場する前後まで積み重なっている奇跡の湖なのだ。

    水月湖は直接流れ込む河川がなく、湖底に生物が存在せず、また三方断層の影響で毎年数センチずつ湖底が沈み込むという世界で見ても稀有な環境によって、ほぼ外界の影響を受けることもなく毎年の季節変動を年縞として記録し続けてきた。毎年1センチに満たない年縞が実に7万年分、500メートルもの深さで採取できたのはそこにこだわった研究者たちの地道な努力と、国際的に日進月歩で進む科学技術の発展があったからだ。

    たとえば1万年前、氷河期が終わって人類の活動が本格化するタイミングで発掘された化石を特定するためには、C14年代測定法という炭素の放射性同位体を測る方法が使われている。従来は±1000年程度の誤差があったものが、水月湖の年縞によるキャリブレーションによって±10年程度まで圧縮されており、より正確な年代が測れるようになっている。

    考古学という文系学問が発展する上で、この年縞を科学的に分析する理系的アプローチは欠かせないものとなっている。さらに年縞には、植物プランクトンや花粉といった各年代の気候を記録したデータが眠っており、今後さらにこの分析が進んでいけば人類の歴史上の気候の変遷を年単位で理解できる可能性がある。そんな奇跡の湖が日本国内にあることを、もっと多くの人たちに知ってもらいたい。

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    2025年09月17日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    10万年スケールでの気候変動について、そして筆者が長年携わってきた水月湖の年縞堆積物の研究成果について、それぞれバランスよく語られており、変動を繰り返してきた地球の気候だけでなく、基礎研究の地道さや効用の大きさを学ぶことができた。

    以下印象に残ったこと。

    ・公転軌道の10万年サイクルと地球気温(ミランコヴィッチ理論)
    地球の公転軌道は、楕円と真円を往復するように繰り返しており、楕円から次の楕円になるまでの期間が10万年である。この10万年サイクルで、地球の氷期、間氷期も入れ替わっている。つまり、公転軌道が地球の気温に影響を与えているのだ。楕円軌道では地球がより太陽に近づくため、エネルギーを多く受けとり温暖な気候に、真円に近い時は相対的に地球が受け取るエネルギー量が少ないため、氷期となりやすい。現在は真円に近いものの例外的に温暖な気候を保っている。


    ・地軸の歳差運動。2.3万年のサイクル。
    地軸は止まりかけのコマのように、傾きを保ちつつゆっくりと回転している。この歳差運動は、公転軌道の10万年サイクルのように、2.3万年という高い周波数で地球の気候変動に影響を及ぼしている。
    具体的には、主に季節ごとの気温変動に影響を与えている。公転軌道が楕円であるときを考える。(地球は太陽を楕円の焦点の一つとする楕円軌道をとる。)地軸が太陽側に倒れるとき、すなわち北半球における夏のとき、地球が太陽側の焦点周りを回っていれば地球と太陽の距離が近くなり、熱い夏となる。太陽側でない焦点近くを回っているときは地球と太陽の距離は遠くなり冷夏となる。同様の理屈で、寒い冬、暖冬が起こる。
    冬は夏の残存熱量により一定の気温が保たれるので、地球の年平均気温は、夏にどれだけ気温が上昇するかの影響が大きい。すなわち、熱い夏になりやすい太陽近くで北半球の夏を迎えるときに年平均気温が上がりやすい。(ほんとに?これだと南半球は冷夏になっちゃう気がする。。。)

    ・気温変動のポジティブフィードバックとネガティブフィードバック。
    気温が上昇すると、植生が発達し光合成が盛んになる、結果大気中の二酸化炭素濃度が下がり、気温を下げる方向に作用する。つまり、どこかで気温上昇に対してネガティブフィードバックがかかる。
    気温が減少すると、気温を上げる方向に働く要因がなく??、凍結が進むと、太陽から受け取る熱を蓄えることができず?、気温を保てなくなる。よって更に温度が下降していくポジティブフィードバックがかかる。

    ・水月湖の年縞堆積物の功績。
    福井県にある水月湖は、湖面と湖底での水の入れ替わりが起こらない、湖底を掘り起こすような生物が生息していない、土砂が直接流れ込まない、など奇跡的な条件が重なって、砂が毎年少しずつ堆積することで形成される、一年ごとの縞模様が特徴である年縞堆積物を形成している。これは世界的にも貴重な湖である。
    7万年分もの連続した年縞を取得したことで、その範囲であれば、一年単位で堆積したものの年代が特定できる。どの年代どういう砂が堆積したかによって、その当時を気候を読み解くことに繋がるのだが、中でも炭素14年代測定法の精度向上に大きく寄与した。この年代測定法とは、生物や植物が死滅した年代を特定する方法で、放射性崩壊して窒素14に変化する炭素14が、どれだけ体内に残っているかで死後何千年、何万年が経過したのかを特定する手法である。体内の炭素14の初期濃度は大気中と同じと考えることができるのだが、この大気中の炭素14濃度は年代ごとにバラつきがあるという問題点があった。その問題点を解決したのが水月湖の年縞堆積物であり、年縞中に堆積していた植物の葉から炭素14の崩壊量を測定し、年縞によりその植物が死滅した正確な年代を把握することで、各年代の大気中の炭素14濃度を特定することに成功した。これは、炭素14測定法の換算表(イントカル)に採用された。


    ・なぜ人類は氷期に農耕を行わなかったのか?

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    2025年05月11日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    古気候学・地質年代学の導入として,主に水月湖に堆積する年縞の研究について説明される。ミランコビッチ理論との関連も面白い。

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    2024年05月13日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    あつかうテーマの壮大さ、面白さ、さらに読みやすさから、全ての人にお勧めしたい2017年発行のブルーバックスの1冊です。

    本書があつかうのは古気候学。有史以前の気候変動を解明する研究で、基本的には地質学の一分野。解明する手段としては、放射性炭素法、花粉分析、年輪年代学などがありますが、本書が主題とするのは福井県にある水月湖の「年縞」です。
    年縞とは、湖底などの堆積物によってできた縞模様のこと。
    水月湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった年縞があり、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準」になっています。
    縞模様は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成され、春から秋にかけては土やプランクトンの死がいなどの有機物による暗い層が、晩秋から冬にかけては、湖水からでる鉄分や大陸からの黄砂などの粘土鉱物等によりできた明るい層が1年をかけ平均0.7mmの厚さで形成されます。したがい、年縞に含まれる花粉の化石を調べれば、当時の植物分布がわかるし、現在の表層花粉と比較分析すれば当時の気温も推定できることになります。

    著者の中川毅さんは立命館大学古気候学研究センター長。水月湖底の年縞を世界標準にしたプロジェクトのリーダーであり、「時を刻む湖」(岩波科学ライブラリー)の著書もあります。

    地球は365.25日かけて公転しますが、その軌道はおよそ10万年の時間をかけて、円くなったり長細くなったりを繰り返します。一方、南極の氷に含まれる酸素と水素の同位体比から復元した、過去80万年の気候変動を見ると氷期と温暖期は10万年ごとにリズミカルに繰り返しています。大雑把に言えば、公転が円い時期は氷期であり、細長い時期は温暖期となります。
    しかし、水月湖の湖底から見える風景はもっと複雑です。

    ○氷期と間氷期が繰り返す中、人類誕生以来、その歴史の大半は氷期だった。
    ○現代の温暖化予想は100年で最大5℃の上昇だが、今から1万1600年前、わずか数年で7℃にも及ぶ温暖化が起きていた。
    ○東京がモスクワになるような、今より10℃も気温が低下した寒冷化の時代が繰り返し訪れていた。
    ○温暖化と寒冷化のあいだで、海面水位は100メートル以上も変動した。
    ○縄文時代の始まりは日本における温暖期の開始時期
    ○平均気温が毎年激しく変わるほどの異常気象が何百年も続く時代があった。
    ○氷期の終わりは世界的な農耕の拡大時期
    ○夏の日射量が、中緯度の気候を左右する決定的な要因のひとつ。日射量は23,000年で一巡する歳差運動に影響する。夏の日射量が多い年は温暖となる

    さらに、「氷期が終わって気候が安定してから、今まですでに1万1600年もの年月が流れている。古気候学の知見によれば、過去3回の温暖な時代はいずれも、長くても数千年しか持続せずに終わりを迎えた。つまり今の温暖期は、すでに例外的に長く続いているのである」という恐ろしい見解もあります。
    そして著者は「不測の事態を生き延びる知恵とは、時間をかけて『想定』し『対策』することではない。(中略)必要なのは、個人のレベルでは想定を超えて応用のきく柔軟な知恵とオリジナリティーであり、社会のレベルでは思いがけない才能をいつでも活躍させることのできる多様性と包容力である」と断言します。

    とにかく面白いブルーバックスの科学読み物。老若男女全ての人にお勧めしたい本です。






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    2023年12月24日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    福井県の水月湖での研究結果から、過去の気候変動について解き明かす。そして未来がどうなっていくのかについて論じる。

    いずれ寒冷期が来ると思う、生活は大変なことになるなあ。目先の温暖化ではなく、大きな時間の流れから物事を考えるための一冊です。

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    2023年11月15日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    気候変動を10万年単位で捉えるとどう見えるのか、今後どうなりそうか、わかりやすく解説されている。

    温暖化が叫ばれて久しいが、10万年単位で見ると、現代は氷河期間の比較的安定した時期とのこと。すなわちまた氷河期に入る可能性があるようだ。

    もちろん過度な温暖化に繋がらないようなアクションも必要だが、他方、近視眼的になりすぎず、冷静に気候変動を捉える必要性を感じた。

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    2023年11月12日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    いやー面白かったし、自分の教養が深まったと実感できる本。異常な温暖化が注目されるけど、今後注意すべきは氷期なんだね。

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    2023年11月07日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    中川 毅
    1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。


    温暖化をあつかった書籍は、ちょっと大きな書店であれば棚をひとつ占有するほどだし、温暖化の主犯格とされる二酸化炭素に対してある種の敵意を感じる人の数は、商業的にも無視できない水準に達している。そのため、たとえば国際的なハンバーガーショップが南米の緑化事業に貢献したり、ハリウッドの芸能人が速くてスタイリッシュなスポーツカーの代わりに、燃費のいい日本のハイブリッド車を選んだりする。これらはすべて、 20 年前には想像もつかなかった現象です。

    むしろここで問題にしたいのは、「気候変動を止めよう」という目的設定のほうである。1980年代に数百万人の命を奪ったアフリカの干ばつは、当時は「異常気象」という言葉で表現されていた。気象が異常であるとはどういうことだろう。言い換えるなら、正常な気象とはいったい何だろう。

    そこで次に、人間社会の話をいったん忘れて、地球の歴史を気候という視点から振り返ってみよう。

    また、現代が大きな傾向の中ではむしろ寒冷な時代であることも見て取れる。現在は氷期が終わった後の温暖な時代であるが、それでも北極と南極には夏でも消えない氷が残っている。いっぽう、たとえば今から1億年前から7000万年前頃の地球は今よりはるかに暖かく、北極にも南極にもいわゆる 氷床 が存在しなかった。これは、IPCCが予測する100年後の地球よりもはるかに温暖な状態です。

    生態学は、多様性と生産性を基本的には「是」であると考える傾向を持っている。そのどちらの視点から考えても、当時はむしろ「いい」時代だったように見える。  同様に、今からおよそ2億7000万年前から2億5000万年前頃もきわめて温暖な時代だった。地質学的にはペルム紀と呼ばれるこの時代、地球の平均気温は、温暖化の進んだ現代と比べても 10 ℃近く高かった。また世界中でシダ植物の大森林が繁茂し、巨大な昆虫類がその間を飛び回っていた。この時代もまた、生産性と多様性を価値とみなす生物学の視点では、豊かな時代だったと表現せざるをえる。

     図1・4のもうひとつの特徴は、温暖な気候には限度があるということである。地球の温度は、極地の氷がなくなるほど温暖になることはある。しかし海の水が沸騰するほど極端な高温になることはない。何らかのメカニズムによって、温暖化には上限が設定されている。温暖化によって生態系が豊かになると、地球全体で光合成がさかんになり、空気中の二酸化炭素が減って温室効果が薄れることが原因だとする説もある。いわゆる「負のフィードバック」がかかった状態です。

    地球の公転軌道と気候の間に関連があることを最初に指摘したのは、セルビアの地球物理学者ミルーティン・ミランコビッチだった。日本での知名度は高くないかもしれないが、祖国セルビアでは、肖像画が最高額紙幣に使われるほどの英雄です。

    「二度あることは三度ある」と考えるのが、人間に深く染みついた「癖」のようなものであることはすでに指摘した。だが人間にはおそらくもうひとつの癖がある。それは、しばらく続いた傾向を将来にまで延長したがる傾向、つまり「これまで続いたことは今後も続く」と考えたがる傾向である(バブル期の投資家の典型的な心理である)。 10 万年スケールで繰り返す氷期、そして数十年スケールで見たときの持続する寒冷化、この2つの「観測事実」は当時の人々にとって、世界がすでに氷期の入り口に立っていると判断するのに十分な状況証拠に思える。

    グラフが直感的に本物「らしく見える」という感覚をきわめて重視した人に、ポーランド生まれの数学者ブノワ・マンデルブロがいる。マンデルブロは、従来の数学が現実の世界を必ずしも適切に表現しないことに強い不満を感じている。

    18 世紀の英国の造園家ウィリアム・ケントは、「自然は直線を嫌う」と指摘して、大陸ヨーロッパで主流だった幾何学的な庭園の様式を拒絶した(図2・8)。たしかに、自然の風景の中に単純な直線はめったに存在しない。単純な円や、単純な三角形を見ることもほとんどない。そのいっぽうで、直線や三角形、円といった単純な図形や、それらを記述する単純な数式は、中学校で真っ先に教わる数学の基本中の基本である。現実の風景と数学的な図形の間には、それだけ深刻な乖離があった。それは同時に、初等数学の学習者の多くが「これがいったい何の役に立つのか」と自問してしまいがちであることの本質的な原因にもなってる。

    マンデルブロは、数学と現実の間にあるこのようなギャップに正面から立ち向かった。彼が創始した「フラクタル幾何学」と呼ばれる数学は、それまでの数学とは比べものにならないリアリティーで自然界を描写することができた。たとえば植物の葉っぱを表現するのに、楕円と直線を組み合わせるのは誰でも思いつく方法である(図2・9左)。そのように描かれた図形は、たしかに植物の葉っぱであることは理解できるが、その表現が自然の本質に迫るものであるかというと、答えはおそらくノーです。

    そのような区分で言うと、ボール200個のモデルは、楕円と直線で描かれた葉っぱよりは、フラクタルが産み出す葉っぱのほうに近い手触りを持っていないだろうか。本書ではもう少しだけ、私のこの「感覚」に沿って話を進めてみたいと思う。ある種の複雑な系には安定相と周期相、および乱雑な相が存在し、それらが予測不可能なタイミングで急激に切り替わるということをとりあえず受け入れた場合、現実世界にはどういう意味があるのだろう。

    また人がどのタイミングで大病を患うかも、私たちは基本的に予測する方法を持っていない(そんな予測ができるようになったら、私たちの人生観はずいぶん違ったものになるだろう)。  保険会社は人生のシナリオを描いて見せることに非常に 長けているが、シミュレーションと現実の間におそらく乖離があることも、私たちは心のどこかで本能的に理解している。株とか健康の話になったときに私たちが発揮する、そのような冷静さとか知恵のようなものを、気候変動について考える場合にも持つ必要があるようになる。

    もっとも深遠な知恵の多くは、経験を通して培われる。健康マニアになるには、強迫観念と読書だけで足りる。しかし、複雑系の代表例である人体が、どんなに気をつけていても常に意のままになりはしないことを理解するには、ある程度の経験を重ねて大人になる必要がある。いっぽう、さまざまな気候変動をじっさいに経験しながら知恵を育てることは容易ではない。ほとんどの地質学的な事象に対して、平均的な人間の寿命は短すぎる。それでも万が一の場合に通用する「知恵」を養おうとするなら、過去にじっさいに起こった事象について、経験ではなく研究を通して学ぶ以外に方法はない。

    400年は人間にとっては長い時間だが、地質学にとっては一瞬に近い。図3・1の右端に、グレーの細い帯がある。400年はちょうどこの帯の幅に相当する。私たちが「観測」してきた気候変動が、地球が持っているさまざまな顔の中ではごく一面にすぎないということを、この図から実感していただけるのではないかと思う。

    グリーンランドの研究は、気候が時として本当に激変することを教えてくれた。とはいえ、グリーンランドは地球の中でもかなり特殊な場所である。

    最後に、笑い話のような笑えない話が人間による 浚渫 である。湖は歴史的に、水運の大動脈になっている場合が多い。いっぽう、湖の底にはゆっくりと土が堆積する。つまり水深が浅くなっていく。浅くなりすぎて船の航行に支障を来すほどになると、経済活動を維持するために浚渫がおこなわれる。それによって水深は確保されるが、貴重な堆積物は永久に失われている。

    湖底に酸素がなく、しかも流れ込む川がないことによって、水月湖には理想的な堆積物がたまる素地が整った。じつは理想的な堆積物は、肉眼で見ただけですぐにそれと知ることができる。湖底の酸素濃度を測る必要も、周辺の地形を見る必要もない。条件を満たした堆積物を縦に切ると、断面にきわめて細かい独特の縞模様が発達しているのである。水月湖の底から見つかった堆積物は、典型的にそのような縞模様を持っていた。

    この縞模様の正体は、1年に1枚ずつたまる薄い地層である。日本のように四季が明瞭な地域であれば、湖の底にも季節によって違うものがたまる。湖底をかき乱す生物がいなければ、季節ごとの層は破壊されずに保存されて、美しい縞模様を作る。

    じつは、水月湖の年縞が世界でいちばん「美しい」かというと、必ずしもそうとは限らない。たとえば明瞭な雨期と乾期を持つ中南米や、春先の雪解け水が青白い粘土を運んでくる北欧などでは、水月湖以上に鮮やかな年縞が見つかることがある。しかし、水月湖のように7万年も連続してたまった年縞は他に例がない。それは、ほとんどの湖が時間とともに浅くなり、やがて埋まってしまう運命だからである。

    福井県南部の景勝地、水月湖の湖底の泥は、世界でも例のない奇跡の堆積物だった。自然が最高の材料を提供してくれている以上、人間がそれをぞんざいに扱って台無しにするわけにはいかない。最高の試料を手に入れて、前例のない密度で分析をおこなう必要がある。

     過去の気候変動の様子は、どうすれば復元できるのだろう。答えのカギは、高校の地理の教科書にかならず載っている、1枚の地図が握っている(図5・1)。この地図を作ったのは、ロシア生まれのドイツ人地理学者、ヴラディーミル・ペーター・ケッペンである。ケッペンは、世界の気候を分かりやすく分類することをめざし、生涯をその研究のために捧げる。


     この問題に画期的な解決をもたらしたのが、花粉分析と呼ばれる手法だった。すなわち、植物の葉っぱではなく花粉に注目するのである。花粉の直径は数十マイクロメートル程度のものが多く、葉っぱよりも格段に小さい。また花粉症の方はよくご存知だと思うが、とにかく大量にまき散らされる。スギの例では、1本の木が生産する花粉の量は数十億粒に達する。とくに風媒花の花粉は空中に長くとどまるため、森から遠く離れた場所であっても、1立方メートルの空気の中に数百粒もの花粉が飛んでいる場合がある。

     花粉は、植物にとっては雄の生殖細胞である。つまり、遺伝情報を担うDNAを雌のところに届けることが、花粉に期待される使命である。ところでDNAは、乾燥や紫外線によって比較的容易に損傷を受ける。もともと水の中で進化した植物にとって、陸上は私たちが想像する以上に試練に満ちた場所なのだ。それでも遺伝情報を無事に送り届けるために、植物はDNAを安全に包み込むカプセルを発達させた。それが花粉である。  そのような理由で進化しただけあって、花粉の膜はきわめて堅牢な物質でできている。

     この3人の活躍については、拙著『時を刻む湖』(岩波科学ライブラリー)で紹介しているので、もし興味があったら手に取ってみてほしい。彼らがこれから 20 年は研究の前線に立ち続けるのであれば、少なくともこの分野はしばらく安泰だと思うことができる、それほど才気にあふれた若者たちだった。

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    2023年09月08日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    ネタバレ

    いままさに我々が目の当たりにしている気候変動について、超俯瞰で捉え直す本。

    超俯瞰=数億年・数万年スケール。
    このスケールになるともはや身近とは言い難い。
    が、古気候学や環境科学のファクトをふんだんに紹介することで、非常に説得力がある。
    何より、固定観念を丁寧に解除し、単純・近視眼的な「善し/悪し」ではない尺度で考えるきっかけを与えてくれる。
    学術的な本に馴染みがない私は最初ちょっと苦戦しましたが、かなりの良書だと思います。
    おススメです。
     

    ・地球の気候は、大きなスケールで見ると常に変動している
    ・ここ300万年は、大きく見ると寒冷化が進行している時期
    ・ただし常に一定で「寒冷」な訳ではなく、寒冷期(氷期)の合間に比較的温暖な時期がくる、繰り返しパターンを持っている
    ・約1万年前~現代は、この氷期と氷期に挟まれた温暖な時期にあたる
    ・そして8千年前~、過去の傾向で説明できない例外的な気温推移をしていて、すでに温暖期が長く続きすぎているかもしれない状況
    (人間活動が、次の氷期に突入するのを遅らせている可能性がある)
    =これが現在いわれる「地球温暖化問題」
     

    で、当然気候変動についての本なので
    このスケールで捉えたときに、温暖化って必ずしも悪なの?という問い。
    (ビジネスに与える影響や、環境破壊に対する人道的な評価などの、狭いスケールでの問いではない点は注意。本書は決してプロバガンダ本ではない)
     

    ・氷期とは「単に寒い」時期ではなく、突発的な気温の変動(例えば、9年間に6回もの干ばつを引き起こすような)を伴う、つまり温暖期と比べると気候が不安定でほとんど予測不可能な時期。
    ・5万年前には世界中に広がっていた人類は、1万年前に温暖期に入って初めて、文明社会を発達させた。
    つまり気候の「予測」が成り立つ時代に入って初めて、本格的に農耕を開始し、後の人口増大・産業の発達に繋げることができた可能性が高い。
    ・そもそも人間が気候を左右するようになったのは、産業革命よりも前、農耕や森林開拓の影響によって。そうであれば、人間活動が「気候を左右しない」はもはや不可能に近いかも。
     

    異常気象や自然災害頻発のニュースを見るにつけ、今が例外的に不安定な時代なのだと思い込んでいた。
    大きなスケールで把握したとき、逆にこれまでが例外的に安定していた時代だったのだとしたら。
    そして見てきたように気候変動は常に起こり得る(実際に3年程の短いスパンで一気に変転した歴史がある)。
    結局我々がすべきことは、来るべき変動に向き合い、どう備えるか
    そしてますます予測しにくくなる時代に、いかに予測を成立させるか
    しかないのかもしれない。

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    2023年08月07日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    福井県三方五湖の水月湖の年縞を掘削するまでの過程からその苦労話をまじえながら、過去の地球の気候を振り返り、未来の気候がどうなるのかわかりやすく説明した本。
    非常にわかりやすいが、タイトルの10年史から歴史を古い方から振り返る本かと思ったら、著者が取り組んだ水月湖の話が中心だった。
    今後100年で2℃~5℃平均気温が上昇するというIPCCの予想は、氷期の安定しない気候に比べるとむしろ穏やかとすら言える。もし今後氷期がきたら農耕が崩壊して増えまくった人類は激減するおそれがある。

    本書で一番衝撃的なのは二酸化炭素・メタンガスの温室効果ガスは8000年前から増加しているという説。人類の森林伐採と農耕によって両者が増加しているということ。つまり人間が温暖化させていったことで暮らしやすい気候になっていたのだ。もはや温暖化がいいことのなのか悪いことなのかは哲学の領域。

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    2022年09月11日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

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    もっと評価されてもいい本。とても面白かった。

    気候変動に関する予測はどれも絶望的なものばかりで、これに関する一般書はその事実を開示することで我々を憔悴させて終わるものが多い気がする。温暖化をすぐに止めることが現実的に不可能である以上、必要なのは気候が変わることが止められないならどういう心構えが必要なのかを多少なりとも提示してくれる本だ。本書だって、何も今後の気候変動に関してあえて楽観的なことを言ったり、まして温室効果ガスの排出による温暖化を否定するような内容では一切ない。ついでに言うと、今後我々が向かう方向に関して明確な答えを示してくれるものでもない。ただ、そもそも地球にとって、生物にとって、あるいは人類にとって気候変動とは何であったのかという前提を抜きに、今後を悲観するばかりでは何も建設的な議論ができないのだということに気づかせてくれる。
    自分は文系であるとはいえ環境問題に関心がある方だし、今までも気候変動を深刻に受け止めているつもりではあった。でも本書を読んで、そもそも気候変動とは何かについて全然知らなかったんだなと思った。

    あと、学者が問題解決に取り組んでいく中での苦労の話とか、学説が国際的な学術ネットワークの中でどのように編まれていったのかという話が散りばめられていたのも良かった。そういうのを読めるのは、学者が書いた一般書を読む醍醐味の一つだと思っている。水月湖の湖底の調査についての苦労話は著者の別の本により詳しく書いてあるらしいので、ぜひそちらも読みたい。

    相手が誰であっても、基本的に自信を持ってお薦めできる本だった。

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    2022年08月15日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

    購入済み

    中身も構成も良い

    データに基づかない、あるいは恣意的にピックアップされたデータに基づいた地球温暖化の議論にずっと疑問をいだいていたが、本書によって疑問の一端が解けた気がした。導入部の議論から、二重振り子やカラーボールに例を取った気候変動の話、メインテーマの水月湖の年縞の話、植生の話と 本としての組み立て構成も見事である。(中身は面白いのに構成で失敗しているブルーバックスもあるが)猛暑の夏を迎えた今、この本を読むと実感として気候変動を感ずる。

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    2022年07月01日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

    Posted by ブクログ

    普段の自分から程遠い話題、論点から自分自身の身近に急に着地する展開はアツい。
    前半へぇと思いつつ淡々と読み進めていくうちに、後半にきてタイトル回収し出す展開。
    狩猟採集から農耕への変化、多様性の話へと展開していくが、前段の気候の話からの論理展開までスッと入ってきた感覚があった。

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    2022年01月24日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

    Posted by ブクログ

    我々は、連綿と続く氷期の合間の、たまたま温暖な期間を生きている。
    それがいつまで続くか、予想することは難しい。
    気候の長い歴史を見れば、正常な状態とは、氷期のことなのである。

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    んめちゃくちゃ面白ーい!
    世界の見え方がガラリと変わる良書です。

    教養本になるのだろうけど、文章が分かりやすくてとっても楽しい。
    いや、おもしろおかしく書かれているわけではないし、
    ごく真面目にファクト(それも一撃が重い、圧倒的ファクト!)を伝えるものなのだけれど、
    文面からそこはかとなく伝わる可笑しみがある。

    もしかすると著者の中川毅さんはとてもユーモアのある方なんじゃないかと思った。
    比喩の使い方とか、文章の構成とか、読み手を楽しませようとする意図が練り込まれていて嬉しくなってしまった。
    そして当然のように楽しい。楽しい気分のまま、めちゃくちゃ凄い内容を読ませてくれる。
    研究者ってこんなものが書けるのか。

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    ■ 気候は予測できるのか
    気候を予測するのは困難だ。
    今年は雨が多い、去年も多かった、だから来年以降も多いだろうと予想する人はいない。
    それは誰にも分からないということを知っている。
    しかし人類は、生活基盤を狩猟採集から農耕に移行させ、
    それなしでは到底食料をまかないきれない人口になって以来、天気・気候に命運を左右されるようになってしまった。
    現代においても2年以上干ばつが続くと、食糧難に陥ってしまう。
    日本でも近年コメ不足となり輸入に頼らざるを得なくなった事は記憶に新しいところだ。
    なお2026年の上半期時点でも30年に一度の少雨と言われている。

    いずれにせよ異常気象は歴史上、何度も大規模飢饉を生んできたし、
    それはともすればひとつの文明を滅亡させたりする。
    それなのに、人は来年の気候すらまともに分からないのだ。
    怖すぎる。
    気候に法則性はないのだろうか。

    本書では日本のとある湖に堆積する泥を解析することを軸に、
    数万年という長さで地球の気候を振り返り、そこにある物語を紐解いていく。
    それは世界のどこにもない稀有な湖がもたらした、厳然たる気候の物差しだった。


    ■ 湖底に残された気候の物差し
    福井県の「水月湖」は地盤の関係で湖底がゆっくりと沈みながら、同じ速度で堆積物が溜まっていく世界でも類を見ない構造を持った湖で、1年に1層(厚さ0.7mm)のペースで白と黒の層が積み重なり、それが何万年分も荒らされずに残っている奇跡の湖。
    この湖底から泥を採取し、15万年分データを作り上げるプロジェクトを推進した著者によって紐解かれる、知られざる気候の物語。

    ■ 100年単位の予測
    いま我々が直面している気候に関する問題と言えば「温暖化」だろう。
    スーパーコンピューターの予測でも今後100年の気候予測は、
    過去1万年の間起きていなかった劇的な転移を示唆している。
    これはどう受け止めればいいだろうか。

    人間の気象観測の歴史は長く見積もっても400年程度だが、
    この400年という長さは、水月湖から得られた気候情報の長さで観ると一瞬にすぎない。
    この400年は氷期が終わったあとの安定した時代にすべて入ってしまう。

    (ちなみに現生人類ホモ・サピエンスが世界に現れてから30万年と言われる)


    ■ 1万年前に人類が経験したこと
    いまから1万1600年前、全世界で氷期が突然終わった。
    気温の振れ幅は5〜7℃。
    それはわずか数年で、東京が那覇になってしまうようなものだった。
    そのような劇的な現象は人類が残したどのような記録にも存在しない。
    しかし、それは起きた。

    さらに1万4700年前にはもっと大きな温暖化が起きている。
    それは東京がフィリピンのマニラに変わってしまうようなもので、
    極地の氷が溶け、350年の間に世界中の海の水位が20メートル近くも上昇した。
    その時の人類はさぞや大変な思いをしただろう。

    記録にこそ残されていないが、人類はこれまで
    こうした未曾有の事態に何度も晒されてきた。
    (なお現状世界最古の文字は紀元前3500年頃のメソポタミア文明のもの)

    我々が生きる世界が安定した温暖気候を示しているのは
    わずかな合間の安定期に過ぎず、
    地球の気候はもっと劇的に変化し続けているのだ。

    果たしてこれからの100年はこれまでの1万年と同様に快適なのだろうか?
    またこうした予測が困難な変化はなぜ起こるのだろう?

    ■ 気候変化の原理的説明
    気候変化については、地球の公転軌道や地軸のわずかな変化から気象の変化を説明する、「ミランコビッチ理論」により説得力のある見方が示される。
    地球が太陽の周りを回る軌道は楕円から真円に近くなる振幅を10万年単位で繰り返している。
    それに地軸の傾きの微差などの諸条件のかけ合わせによって気候の周期的な変動を説明できる。氷期は10万年周期でやってくるわけだ。

    しかしデータを見ると、氷期の中でもしばしば急激な温暖化が不規則に登場する事が分かっている。(D-Oイベント)
    この原因は今のところ未知であり予測不能。
    いま我々がD-Oイベントの最中にいるのかどうかもよく分からないのだ。

    このように、気候は原理が説明できる大きな周期傾向は持つものの、
    膨大な量の要因が相互に関係しあいながら有機的に生まれており、
    正確に予想しようとすればするほど考慮しなければならない変数が指数関数的に増えていく、数理的なカオスにも近い性質を持っている。

    だからこそ、気候の歴史は知る価値がある。
    起きたことは事実として揺るがない。
    10万年という単位で世界を見つめ、その景色を想像する。
    その時人類は何を見たのだろうか。
    いま我々は何を見ているのだろうか。

    明日何が起きるのか予測することは難しいけれど、その理由が分かれば立っていられる。
    これからどうすべきかを考えることができる。
    少なくとも自分がどういう場所に立っているのかが分かるのだから。

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    ■ 感想
    気象を考えることは、なんだかAIに向き合うことにも似ていると思った。
    大枠の方向性はあるものの、その中で起きていることは複雑で、結果を完全に予測することはむずかしい。
    どうしてそうなったのか理解することはできないが、結果とうまく付き合っていく必要がある。
    予想できないことと期待できることが混ざりあった世界で、僕らはどう振る舞うべきなのか。

    10万年の気候と向き合ってきた著者の態度には、AI時代を生きる我々にとっても学ぶべきところが多いと思った。

    読んでよかったなー!

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    2026年07月15日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

    Posted by ブクログ

    現在の気候は太古から不変だったわけではなく、寒冷期や氷期など様々な変遷を経てきた。その歴史を地層から探るべく、日本の水月湖の地層を「ものさし」にするために注がれた多大な苦労話が本論。これだけ地道で歳月がかかり、かつ大きな予算も必要ながら直接ビジネスにつながるわけでもない研究をささえるには、国力が必要であることが痛感された。

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    2026年07月02日
  • 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

    Posted by ブクログ

    人類と気候の十万年史 は、気候変動を「環境問題」ではなく、人類史そのものを形づくってきた巨大なシステムとして描いており非常に面白かった。特に印象的だったのは、ミランコビッチ理論や二重振り子、水月湖の年縞などを通じて、「世界は単純な線形モデルでは動かない」という視点が一貫していたこと。人間は直近の傾向をそのまま未来へ延長して考えがちだが、気候は安定期と不安定期があり、単純な周期や右肩上がりの発想では捉えきれないという指摘は非常に示唆的だった。

    水月湖の研究では、花粉分析や年縞測定など気の遠くなるような地道な基礎研究が描かれていた。効率化やスマートさが重視される現代において、こうした「遅い科学」が世界標準の年代測定を支えていることに驚かされた。また、花粉や湖底堆積物から過去の気候や植生が復元できることも印象的で、普段は花粉症の原因としてしか見ていなかった花粉が、地球史を語る重要な記録媒体であることに見方が変わった。

    後半では、農耕が人口増加や文明を可能にした一方、単一作物への依存によって脆弱性も高めたこと、狩猟採集社会の方が多様性や柔軟性を持っていたことが語られる。さらに、あとがきで述べられていた「現場における効用だけで人間や社会の価値を測る危険性」という指摘が強く印象に残った。気候変動に適応できた種が生き残ったように、社会も目先の合理性や効率だけに最適化すると、多様性を失い変化に耐えられなくなるのかもしれない。ここで語られる多様性は、単なるスローガンではなく、「未来への備え」としての多様性であり、現代社会を考える上でも非常に示唆に富む一冊だった。

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    2026年05月19日