あらすじ
福井県・水月湖に堆積する「年縞」。何万年も前の出来事を年輪のように1年刻みで記録した地層で、現在、年代測定の世界標準となっている。その年縞が明らかにしたのが、現代の温暖化を遥かにしのぐ「激変する気候」だった。人類は誕生から20万年、そのほとんどを現代とはまるで似ていない、気候激変の時代を生き延びてきたのだった。過去の詳細な記録から気候変動のメカニズムに迫り、人類史のスケールで現代を見つめ直します。
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あつかうテーマの壮大さ、面白さ、さらに読みやすさから、全ての人にお勧めしたい2017年発行のブルーバックスの1冊です。
本書があつかうのは古気候学。有史以前の気候変動を解明する研究で、基本的には地質学の一分野。解明する手段としては、放射性炭素法、花粉分析、年輪年代学などがありますが、本書が主題とするのは福井県にある水月湖の「年縞」です。
年縞とは、湖底などの堆積物によってできた縞模様のこと。
水月湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった年縞があり、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準」になっています。
縞模様は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成され、春から秋にかけては土やプランクトンの死がいなどの有機物による暗い層が、晩秋から冬にかけては、湖水からでる鉄分や大陸からの黄砂などの粘土鉱物等によりできた明るい層が1年をかけ平均0.7mmの厚さで形成されます。したがい、年縞に含まれる花粉の化石を調べれば、当時の植物分布がわかるし、現在の表層花粉と比較分析すれば当時の気温も推定できることになります。
著者の中川毅さんは立命館大学古気候学研究センター長。水月湖底の年縞を世界標準にしたプロジェクトのリーダーであり、「時を刻む湖」(岩波科学ライブラリー)の著書もあります。
地球は365.25日かけて公転しますが、その軌道はおよそ10万年の時間をかけて、円くなったり長細くなったりを繰り返します。一方、南極の氷に含まれる酸素と水素の同位体比から復元した、過去80万年の気候変動を見ると氷期と温暖期は10万年ごとにリズミカルに繰り返しています。大雑把に言えば、公転が円い時期は氷期であり、細長い時期は温暖期となります。
しかし、水月湖の湖底から見える風景はもっと複雑です。
○氷期と間氷期が繰り返す中、人類誕生以来、その歴史の大半は氷期だった。
○現代の温暖化予想は100年で最大5℃の上昇だが、今から1万1600年前、わずか数年で7℃にも及ぶ温暖化が起きていた。
○東京がモスクワになるような、今より10℃も気温が低下した寒冷化の時代が繰り返し訪れていた。
○温暖化と寒冷化のあいだで、海面水位は100メートル以上も変動した。
○縄文時代の始まりは日本における温暖期の開始時期
○平均気温が毎年激しく変わるほどの異常気象が何百年も続く時代があった。
○氷期の終わりは世界的な農耕の拡大時期
○夏の日射量が、中緯度の気候を左右する決定的な要因のひとつ。日射量は23,000年で一巡する歳差運動に影響する。夏の日射量が多い年は温暖となる
さらに、「氷期が終わって気候が安定してから、今まですでに1万1600年もの年月が流れている。古気候学の知見によれば、過去3回の温暖な時代はいずれも、長くても数千年しか持続せずに終わりを迎えた。つまり今の温暖期は、すでに例外的に長く続いているのである」という恐ろしい見解もあります。
そして著者は「不測の事態を生き延びる知恵とは、時間をかけて『想定』し『対策』することではない。(中略)必要なのは、個人のレベルでは想定を超えて応用のきく柔軟な知恵とオリジナリティーであり、社会のレベルでは思いがけない才能をいつでも活躍させることのできる多様性と包容力である」と断言します。
とにかく面白いブルーバックスの科学読み物。老若男女全ての人にお勧めしたい本です。
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福井県の水月湖での研究結果から、過去の気候変動について解き明かす。そして未来がどうなっていくのかについて論じる。
いずれ寒冷期が来ると思う、生活は大変なことになるなあ。目先の温暖化ではなく、大きな時間の流れから物事を考えるための一冊です。
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気候変動を10万年単位で捉えるとどう見えるのか、今後どうなりそうか、わかりやすく解説されている。
温暖化が叫ばれて久しいが、10万年単位で見ると、現代は氷河期間の比較的安定した時期とのこと。すなわちまた氷河期に入る可能性があるようだ。
もちろん過度な温暖化に繋がらないようなアクションも必要だが、他方、近視眼的になりすぎず、冷静に気候変動を捉える必要性を感じた。
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1012
中川 毅
1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。
温暖化をあつかった書籍は、ちょっと大きな書店であれば棚をひとつ占有するほどだし、温暖化の主犯格とされる二酸化炭素に対してある種の敵意を感じる人の数は、商業的にも無視できない水準に達している。そのため、たとえば国際的なハンバーガーショップが南米の緑化事業に貢献したり、ハリウッドの芸能人が速くてスタイリッシュなスポーツカーの代わりに、燃費のいい日本のハイブリッド車を選んだりする。これらはすべて、 20 年前には想像もつかなかった現象です。
むしろここで問題にしたいのは、「気候変動を止めよう」という目的設定のほうである。1980年代に数百万人の命を奪ったアフリカの干ばつは、当時は「異常気象」という言葉で表現されていた。気象が異常であるとはどういうことだろう。言い換えるなら、正常な気象とはいったい何だろう。
そこで次に、人間社会の話をいったん忘れて、地球の歴史を気候という視点から振り返ってみよう。
また、現代が大きな傾向の中ではむしろ寒冷な時代であることも見て取れる。現在は氷期が終わった後の温暖な時代であるが、それでも北極と南極には夏でも消えない氷が残っている。いっぽう、たとえば今から1億年前から7000万年前頃の地球は今よりはるかに暖かく、北極にも南極にもいわゆる 氷床 が存在しなかった。これは、IPCCが予測する100年後の地球よりもはるかに温暖な状態です。
生態学は、多様性と生産性を基本的には「是」であると考える傾向を持っている。そのどちらの視点から考えても、当時はむしろ「いい」時代だったように見える。 同様に、今からおよそ2億7000万年前から2億5000万年前頃もきわめて温暖な時代だった。地質学的にはペルム紀と呼ばれるこの時代、地球の平均気温は、温暖化の進んだ現代と比べても 10 ℃近く高かった。また世界中でシダ植物の大森林が繁茂し、巨大な昆虫類がその間を飛び回っていた。この時代もまた、生産性と多様性を価値とみなす生物学の視点では、豊かな時代だったと表現せざるをえる。
図1・4のもうひとつの特徴は、温暖な気候には限度があるということである。地球の温度は、極地の氷がなくなるほど温暖になることはある。しかし海の水が沸騰するほど極端な高温になることはない。何らかのメカニズムによって、温暖化には上限が設定されている。温暖化によって生態系が豊かになると、地球全体で光合成がさかんになり、空気中の二酸化炭素が減って温室効果が薄れることが原因だとする説もある。いわゆる「負のフィードバック」がかかった状態です。
地球の公転軌道と気候の間に関連があることを最初に指摘したのは、セルビアの地球物理学者ミルーティン・ミランコビッチだった。日本での知名度は高くないかもしれないが、祖国セルビアでは、肖像画が最高額紙幣に使われるほどの英雄です。
「二度あることは三度ある」と考えるのが、人間に深く染みついた「癖」のようなものであることはすでに指摘した。だが人間にはおそらくもうひとつの癖がある。それは、しばらく続いた傾向を将来にまで延長したがる傾向、つまり「これまで続いたことは今後も続く」と考えたがる傾向である(バブル期の投資家の典型的な心理である)。 10 万年スケールで繰り返す氷期、そして数十年スケールで見たときの持続する寒冷化、この2つの「観測事実」は当時の人々にとって、世界がすでに氷期の入り口に立っていると判断するのに十分な状況証拠に思える。
グラフが直感的に本物「らしく見える」という感覚をきわめて重視した人に、ポーランド生まれの数学者ブノワ・マンデルブロがいる。マンデルブロは、従来の数学が現実の世界を必ずしも適切に表現しないことに強い不満を感じている。
18 世紀の英国の造園家ウィリアム・ケントは、「自然は直線を嫌う」と指摘して、大陸ヨーロッパで主流だった幾何学的な庭園の様式を拒絶した(図2・8)。たしかに、自然の風景の中に単純な直線はめったに存在しない。単純な円や、単純な三角形を見ることもほとんどない。そのいっぽうで、直線や三角形、円といった単純な図形や、それらを記述する単純な数式は、中学校で真っ先に教わる数学の基本中の基本である。現実の風景と数学的な図形の間には、それだけ深刻な乖離があった。それは同時に、初等数学の学習者の多くが「これがいったい何の役に立つのか」と自問してしまいがちであることの本質的な原因にもなってる。
マンデルブロは、数学と現実の間にあるこのようなギャップに正面から立ち向かった。彼が創始した「フラクタル幾何学」と呼ばれる数学は、それまでの数学とは比べものにならないリアリティーで自然界を描写することができた。たとえば植物の葉っぱを表現するのに、楕円と直線を組み合わせるのは誰でも思いつく方法である(図2・9左)。そのように描かれた図形は、たしかに植物の葉っぱであることは理解できるが、その表現が自然の本質に迫るものであるかというと、答えはおそらくノーです。
そのような区分で言うと、ボール200個のモデルは、楕円と直線で描かれた葉っぱよりは、フラクタルが産み出す葉っぱのほうに近い手触りを持っていないだろうか。本書ではもう少しだけ、私のこの「感覚」に沿って話を進めてみたいと思う。ある種の複雑な系には安定相と周期相、および乱雑な相が存在し、それらが予測不可能なタイミングで急激に切り替わるということをとりあえず受け入れた場合、現実世界にはどういう意味があるのだろう。
また人がどのタイミングで大病を患うかも、私たちは基本的に予測する方法を持っていない(そんな予測ができるようになったら、私たちの人生観はずいぶん違ったものになるだろう)。 保険会社は人生のシナリオを描いて見せることに非常に 長けているが、シミュレーションと現実の間におそらく乖離があることも、私たちは心のどこかで本能的に理解している。株とか健康の話になったときに私たちが発揮する、そのような冷静さとか知恵のようなものを、気候変動について考える場合にも持つ必要があるようになる。
もっとも深遠な知恵の多くは、経験を通して培われる。健康マニアになるには、強迫観念と読書だけで足りる。しかし、複雑系の代表例である人体が、どんなに気をつけていても常に意のままになりはしないことを理解するには、ある程度の経験を重ねて大人になる必要がある。いっぽう、さまざまな気候変動をじっさいに経験しながら知恵を育てることは容易ではない。ほとんどの地質学的な事象に対して、平均的な人間の寿命は短すぎる。それでも万が一の場合に通用する「知恵」を養おうとするなら、過去にじっさいに起こった事象について、経験ではなく研究を通して学ぶ以外に方法はない。
400年は人間にとっては長い時間だが、地質学にとっては一瞬に近い。図3・1の右端に、グレーの細い帯がある。400年はちょうどこの帯の幅に相当する。私たちが「観測」してきた気候変動が、地球が持っているさまざまな顔の中ではごく一面にすぎないということを、この図から実感していただけるのではないかと思う。
グリーンランドの研究は、気候が時として本当に激変することを教えてくれた。とはいえ、グリーンランドは地球の中でもかなり特殊な場所である。
最後に、笑い話のような笑えない話が人間による 浚渫 である。湖は歴史的に、水運の大動脈になっている場合が多い。いっぽう、湖の底にはゆっくりと土が堆積する。つまり水深が浅くなっていく。浅くなりすぎて船の航行に支障を来すほどになると、経済活動を維持するために浚渫がおこなわれる。それによって水深は確保されるが、貴重な堆積物は永久に失われている。
湖底に酸素がなく、しかも流れ込む川がないことによって、水月湖には理想的な堆積物がたまる素地が整った。じつは理想的な堆積物は、肉眼で見ただけですぐにそれと知ることができる。湖底の酸素濃度を測る必要も、周辺の地形を見る必要もない。条件を満たした堆積物を縦に切ると、断面にきわめて細かい独特の縞模様が発達しているのである。水月湖の底から見つかった堆積物は、典型的にそのような縞模様を持っていた。
この縞模様の正体は、1年に1枚ずつたまる薄い地層である。日本のように四季が明瞭な地域であれば、湖の底にも季節によって違うものがたまる。湖底をかき乱す生物がいなければ、季節ごとの層は破壊されずに保存されて、美しい縞模様を作る。
じつは、水月湖の年縞が世界でいちばん「美しい」かというと、必ずしもそうとは限らない。たとえば明瞭な雨期と乾期を持つ中南米や、春先の雪解け水が青白い粘土を運んでくる北欧などでは、水月湖以上に鮮やかな年縞が見つかることがある。しかし、水月湖のように7万年も連続してたまった年縞は他に例がない。それは、ほとんどの湖が時間とともに浅くなり、やがて埋まってしまう運命だからである。
福井県南部の景勝地、水月湖の湖底の泥は、世界でも例のない奇跡の堆積物だった。自然が最高の材料を提供してくれている以上、人間がそれをぞんざいに扱って台無しにするわけにはいかない。最高の試料を手に入れて、前例のない密度で分析をおこなう必要がある。
過去の気候変動の様子は、どうすれば復元できるのだろう。答えのカギは、高校の地理の教科書にかならず載っている、1枚の地図が握っている(図5・1)。この地図を作ったのは、ロシア生まれのドイツ人地理学者、ヴラディーミル・ペーター・ケッペンである。ケッペンは、世界の気候を分かりやすく分類することをめざし、生涯をその研究のために捧げる。
この問題に画期的な解決をもたらしたのが、花粉分析と呼ばれる手法だった。すなわち、植物の葉っぱではなく花粉に注目するのである。花粉の直径は数十マイクロメートル程度のものが多く、葉っぱよりも格段に小さい。また花粉症の方はよくご存知だと思うが、とにかく大量にまき散らされる。スギの例では、1本の木が生産する花粉の量は数十億粒に達する。とくに風媒花の花粉は空中に長くとどまるため、森から遠く離れた場所であっても、1立方メートルの空気の中に数百粒もの花粉が飛んでいる場合がある。
花粉は、植物にとっては雄の生殖細胞である。つまり、遺伝情報を担うDNAを雌のところに届けることが、花粉に期待される使命である。ところでDNAは、乾燥や紫外線によって比較的容易に損傷を受ける。もともと水の中で進化した植物にとって、陸上は私たちが想像する以上に試練に満ちた場所なのだ。それでも遺伝情報を無事に送り届けるために、植物はDNAを安全に包み込むカプセルを発達させた。それが花粉である。 そのような理由で進化しただけあって、花粉の膜はきわめて堅牢な物質でできている。
この3人の活躍については、拙著『時を刻む湖』(岩波科学ライブラリー)で紹介しているので、もし興味があったら手に取ってみてほしい。彼らがこれから 20 年は研究の前線に立ち続けるのであれば、少なくともこの分野はしばらく安泰だと思うことができる、それほど才気にあふれた若者たちだった。
Posted by ブクログ
いままさに我々が目の当たりにしている気候変動について、超俯瞰で捉え直す本。
超俯瞰=数億年・数万年スケール。
このスケールになるともはや身近とは言い難い。
が、古気候学や環境科学のファクトをふんだんに紹介することで、非常に説得力がある。
何より、固定観念を丁寧に解除し、単純・近視眼的な「善し/悪し」ではない尺度で考えるきっかけを与えてくれる。
学術的な本に馴染みがない私は最初ちょっと苦戦しましたが、かなりの良書だと思います。
おススメです。
・地球の気候は、大きなスケールで見ると常に変動している
・ここ300万年は、大きく見ると寒冷化が進行している時期
・ただし常に一定で「寒冷」な訳ではなく、寒冷期(氷期)の合間に比較的温暖な時期がくる、繰り返しパターンを持っている
・約1万年前~現代は、この氷期と氷期に挟まれた温暖な時期にあたる
・そして8千年前~、過去の傾向で説明できない例外的な気温推移をしていて、すでに温暖期が長く続きすぎているかもしれない状況
(人間活動が、次の氷期に突入するのを遅らせている可能性がある)
=これが現在いわれる「地球温暖化問題」
で、当然気候変動についての本なので
このスケールで捉えたときに、温暖化って必ずしも悪なの?という問い。
(ビジネスに与える影響や、環境破壊に対する人道的な評価などの、狭いスケールでの問いではない点は注意。本書は決してプロバガンダ本ではない)
・氷期とは「単に寒い」時期ではなく、突発的な気温の変動(例えば、9年間に6回もの干ばつを引き起こすような)を伴う、つまり温暖期と比べると気候が不安定でほとんど予測不可能な時期。
・5万年前には世界中に広がっていた人類は、1万年前に温暖期に入って初めて、文明社会を発達させた。
つまり気候の「予測」が成り立つ時代に入って初めて、本格的に農耕を開始し、後の人口増大・産業の発達に繋げることができた可能性が高い。
・そもそも人間が気候を左右するようになったのは、産業革命よりも前、農耕や森林開拓の影響によって。そうであれば、人間活動が「気候を左右しない」はもはや不可能に近いかも。
異常気象や自然災害頻発のニュースを見るにつけ、今が例外的に不安定な時代なのだと思い込んでいた。
大きなスケールで把握したとき、逆にこれまでが例外的に安定していた時代だったのだとしたら。
そして見てきたように気候変動は常に起こり得る(実際に3年程の短いスパンで一気に変転した歴史がある)。
結局我々がすべきことは、来るべき変動に向き合い、どう備えるか
そしてますます予測しにくくなる時代に、いかに予測を成立させるか
しかないのかもしれない。
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福井県三方五湖の水月湖の年縞を掘削するまでの過程からその苦労話をまじえながら、過去の地球の気候を振り返り、未来の気候がどうなるのかわかりやすく説明した本。
非常にわかりやすいが、タイトルの10年史から歴史を古い方から振り返る本かと思ったら、著者が取り組んだ水月湖の話が中心だった。
今後100年で2℃~5℃平均気温が上昇するというIPCCの予想は、氷期の安定しない気候に比べるとむしろ穏やかとすら言える。もし今後氷期がきたら農耕が崩壊して増えまくった人類は激減するおそれがある。
本書で一番衝撃的なのは二酸化炭素・メタンガスの温室効果ガスは8000年前から増加しているという説。人類の森林伐採と農耕によって両者が増加しているということ。つまり人間が温暖化させていったことで暮らしやすい気候になっていたのだ。もはや温暖化がいいことのなのか悪いことなのかは哲学の領域。
Posted by ブクログ
もっと評価されてもいい本。とても面白かった。
気候変動に関する予測はどれも絶望的なものばかりで、これに関する一般書はその事実を開示することで我々を憔悴させて終わるものが多い気がする。温暖化をすぐに止めることが現実的に不可能である以上、必要なのは気候が変わることが止められないならどういう心構えが必要なのかを多少なりとも提示してくれる本だ。本書だって、何も今後の気候変動に関してあえて楽観的なことを言ったり、まして温室効果ガスの排出による温暖化を否定するような内容では一切ない。ついでに言うと、今後我々が向かう方向に関して明確な答えを示してくれるものでもない。ただ、そもそも地球にとって、生物にとって、あるいは人類にとって気候変動とは何であったのかという前提を抜きに、今後を悲観するばかりでは何も建設的な議論ができないのだということに気づかせてくれる。
自分は文系であるとはいえ環境問題に関心がある方だし、今までも気候変動を深刻に受け止めているつもりではあった。でも本書を読んで、そもそも気候変動とは何かについて全然知らなかったんだなと思った。
あと、学者が問題解決に取り組んでいく中での苦労の話とか、学説が国際的な学術ネットワークの中でどのように編まれていったのかという話が散りばめられていたのも良かった。そういうのを読めるのは、学者が書いた一般書を読む醍醐味の一つだと思っている。水月湖の湖底の調査についての苦労話は著者の別の本により詳しく書いてあるらしいので、ぜひそちらも読みたい。
相手が誰であっても、基本的に自信を持ってお薦めできる本だった。
中身も構成も良い
データに基づかない、あるいは恣意的にピックアップされたデータに基づいた地球温暖化の議論にずっと疑問をいだいていたが、本書によって疑問の一端が解けた気がした。導入部の議論から、二重振り子やカラーボールに例を取った気候変動の話、メインテーマの水月湖の年縞の話、植生の話と 本としての組み立て構成も見事である。(中身は面白いのに構成で失敗しているブルーバックスもあるが)猛暑の夏を迎えた今、この本を読むと実感として気候変動を感ずる。
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人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか。中川毅先生の著書。人類と気候の10万年の歴史を振り返ると現代の温暖化問題をはるかにこえるような気候変動問題や気候激変問題があった。そのような気候変動問題や気候激変問題を乗り越えてきた人類なのだから現代の温暖化問題や気候変動問題なんていとも簡単に乗り越えられるなんて思うのは現代人の傲慢な思い上がり。現代の温暖化問題や気候変動問題に真摯に向き合う謙虚さが現代人に必要。
Posted by ブクログ
古気候学研究のフロントランナーたる著者とその研究チームは、地道で繊細な研究を通じて過去数万年分の気候変動の解像度を上げることに成功します。
地質学的分析で判明する植生景観をヒントに対象年代の気候を推定するアプローチは、非常に高度な操作や分野横断的な知識、また複数の研究機関との協働・分業を必要とするものでした。彼らの驚くべき知性と根性、ファクトに対する真摯な姿勢には敬服するばかりです。
「自然は、人間が引き起こすよりもっと激しい気候変動を、内部から発生させる力を潜在的に持っているのである」という記述が印象的でした。
人間の活動に起因する環境問題を矮小化している訳ではなく、農業や科学技術に立脚した現代の文明が氷期のより大きな気候変動にどのように適応するのか、というさらにシビアな問いかけです。
その問いに対する答えを出すにはD&Iが必要である、というのが着地点でしたが、著者は膨大なデータを通して地球と対話し続けたのですから真に迫るものがありますし、共感できる結論でした。
研究の過程と成果を一般向けの書籍にわかりやすくまとめてくれたことだけでも価値がありますし、筆致も良質で面白かったです。あと、全体を通しての構造が非常にロジカルで、章から章へ展開を追いやすいのも素晴らしいと思います。
Posted by ブクログ
普段の自分から程遠い話題、論点から自分自身の身近に急に着地する展開はアツい。
前半へぇと思いつつ淡々と読み進めていくうちに、後半にきてタイトル回収し出す展開。
狩猟採集から農耕への変化、多様性の話へと展開していくが、前段の気候の話からの論理展開までスッと入ってきた感覚があった。
Posted by ブクログ
なかなか1000年前という過去ですら実感を持った想像が難しい人類からみて、万年、億年、という単位の地球の歴史は、なかなか自分ごととして想像できない。
そんなスケールの話を、「1度の気温があがっても大したことがないように感じる。けれど、平均1度あがるということはすごい。例えば1週間のうち6日平年並の気温なら、7日目は7度あがること」など、なるほど、それはすごい、といちいち実感させてくれる例をあげて語るので、「お勉強」ではなく、趣味の読書として楽しく読めた。
過去の寒冷期と生態系の多様性。狩猟生活と農耕生活。何万年という単位の変遷を地質で見るということは、どこでも見れるものではない、ということ。
最初から最後まですべて興味深く、わかりやすく読める本。
Posted by ブクログ
何千年、何十万年という過去の気候変動についてどのような研究で理解が進んできたのか、そこに日本が重要な役割を果たしてきたことなど、エピソードを交えて丁寧に書かれてる。たいへん興味深く面白く読んだ。将来的な気候変動を冷静に論じるためにも理解しておきたい。
Posted by ブクログ
今、気候変動と言われていることはなんなのか、これからどのようになるのか。
その疑問に応えるために、過去の地球の気候が研究されてきた。
どんな証拠を人類が手にしており、そこからどんな技術で何がわかるのか。気候研究の携わる多くの研究者が必死で研究した結果、分かったのは「今起きていることは、これまでの歴史の中にはなかったことだが、今後何が起こるのかわからない」ということ。
その、わからなさについて丁寧に説明されており、とてもわかりやすい。
わからないからどうでもいいのではなく、わからないからこそ、いろいろ考えて暮らさないといけないと感じる。
Posted by ブクログ
水月湖年縞研究の苦労と、それがもたらした成果の偉大さに胸が熱くなった。
当然のように語られている研究結果は、本当に丁寧で地道な一つ一つの作業の積み重ねで得られている。研究者にはつくづく頭が下がる。
昨今言われる気候変動、特に温室効果ガスによる温暖化はもはや経済的・政治的にも重大なトピックだが、地球レベルで見ればごくごく最近のちっぽけな話に思われた。
それ以上に、過去の氷期の時代には数十年単位で東京がモスクワになったり奄美大島になったりするような気候変動がザラにあったわけで…
(ごくごく最近、といっても、通例言われるような産業革命以降の直近100年間での化石燃料の大量消費によるものではなく、8000年前からのアジアでの農耕・ヨーロッパでの森林伐採が原因ではないかとする説もあることに驚いた。現代人は自責的と同時に自意識過剰?)
とはいえ、周期上は再び氷期に入っているはずの地球をいまだに穏やかで温暖な間氷期に留めているのは人間の活動によるところが大きそう。今後100年間で徐々に気温が上がっていく予想は、様々な課題をはらみつつもかなり"マシ"なシナリオであって、気候が予測すらも不可能なレベルで暴れる時代に突入する可能性もある。
先進国が"進んでいる"ように見えるのは、帰納的な予測が成り立つ穏やかな環境の中においてだけ。先の氷期の終わり頃の狩猟採集民と農耕民の比較は示唆に富んでいた。
劇的な環境変化の中では、多様性が生存にとって大きな意味を持つ。
多様性、包摂、持続可能性がキーワードになっているこの時代において、学ぶことの多い良書だと思った。
Posted by ブクログ
古気候学者である著者によって、地球気候の最新10万年ほどの様子を福井県・水月湖に堆積した年縞などの解読を用いて解説しながら、そのメカニズムを解析するための挑戦的考察が語られます。
地球の気候変動というのはとてもダイナミックで、人類が登場してからでも海面の高さが100m以上変動するような事件が繰り返し起こってきたそうです。大きく、氷期と間氷期というように、寒冷期や温暖期が区別されますが、そこで働いている力が何かについて大きな示唆を与えたのが、およそ100年前に唱えられたミランコビッチによるミランコビッチ理論なのでした。
ミランコビッチ理論は、地球の公転軌道の変化によって、地球と太陽の平均的な距離が変化することで気候変動が起こる、とするもの。公転軌道が円に近い時期は太陽との平均的な距離が大きくなり、扁平な公転軌道のときには太陽との平均的距離が小さくなります。前者は氷期で、後者は間氷期にあたり、約10万年周期で繰り返しているそうです。この変化にくわえて、地軸の傾きの変化を考慮すると、過去の気候変動にさらに理由がつけやすくなるのでした。
ミランコビッチ理論は、天文学と気候学を結び付けたことでとても大きな功績がある、とあります。当時までの考えの範疇であったその壁には外があるんだということにはじめて気付かせたようなものだったのかもしれません。
本書前半部分では、ミランコビッチ理論を大きく扱いながら、カオス理論(ここで用いられたのは、ランダムなプログラム上でも、それぞれがバラバラな乱雑期と、歩調が同期する安定期があって、それらはトータルでカオス遍歴と呼ばれること)とも照らし合わせて気候変動のメカニズムを探っています。
そして後半部分からは本書の主役である福井県・水月湖の湖底に溜まる堆積物をボーリングして得られた詳細な年縞データに焦点をあてて、年縞研究の歴史からはじまり水月湖が世界のスタンダードの資料となるまで、そして、そこから見えてくる鮮やかな古気候の様子が語られます。前半部もエキサイティングなのですが、後半部からもぐいぐい読ませてくれる読み物になっています。
さて、ここからは雑学的部分をひろっていきます。
全球凍結という過去に地球がすべて凍結した時期がありますが、それを打破したのは火山活動だったらしいことが述べられていました。凍結状態によって白い地表面は太陽熱を跳ね返して地面が熱を保持することもありませんでした。そうして寒冷化がさらに進んていった中、火山活動で出る二酸化炭素が地球を暖めたようです。排出された二酸化炭素を吸収する植物はなかったしおなじく二酸化炭素を吸収する海洋は閉ざされていました。それで次第に濃度が増していき、温室効果が得られていった、と。
全球凍結状態での人類の生存は厳しいですが、逆に長い地球の歴史上で何度もある温暖期は、温暖化と言われる現在よりもさらに平均気温が10度も高かったらしいです。どでかいトンボなんかが滑空していた時代で、その気持ち悪さや恐怖のせいではないけれど、これだって人類の生存は厳しそうではないでしょうか。
現在の地球の気候はこれでもまだ寒冷期の範囲に入るみたいで、すなわち寒冷期に特化して繁栄した生き物が人類だから、そのうち地球のダイナミックな気候変動に適応できず淘汰されないかな、と悲観的な想像が浮かんできました。戦争で、とか、小惑星で、とかを待たず、地球の気候のリズムが理由で滅ぶ、あるいは大打撃、というシナリオです。
以下は箇条書き的に。
◇水って4℃のときが一番重いとのことでした。それよりも温かいとき、冷たいときは、4℃のときに比べて軽いのでした。4℃の名を冠したブランドはこの特徴に意味づけしてるでしょうね。
◇現在の温暖化は、人間活動によるものだと言われますが、その起源は産業革命にある、という主張を聞いたことってありませんか? これが実は、人間が農耕を開始し森林を伐採しだした時期からだそうなんです。かなり古くから温暖化を促進させているんです。そのせいか、数千年で終わることの多い間氷期が終わらず、1万年以上も温暖な気候がいまも続いています。これには、2万年以上続いた間氷期があることが最近わかってきていて、単純に数千年のパターンに当てはまらないことがわかってきたそうです。
◇IPCCによると、今後100年間で5度の平均気温上昇などと言われています。これが、過去の気候変動の様子だと、変わるときはわずか数年で5度や10度上昇したようなんです。自然な気候変動ってまさに激変してみせるようで、なかなか容赦がないなあと思いました。
最後に、これは、と思った箇所の引用を。
__________
歴史的に見ると、ほとんどの古代文明は1年の不作であればなんとか対応できるだけの備蓄を持っていた。だが、不作が2年続いても耐えられる文明は少ない。3年以上連続する不作は、現代の日本ですら想定していない。だが、現実問題として、歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が数年にわたって容赦なく続くことによって発生しているのである。(p177)
__________
→江戸時代の、天明や天保の大飢饉は上記のような天候不順によっておこったそうです。冷夏が5年以上継続したとのこと。
とここまで書いても、まだ本書には盛りだくさんなトピックと、それぞれのトピックを深掘りした考察にあふれていて書ききれません。講談社科学出版賞受賞作でもあり、読み応え十分だったので、気候のメカニズムの最新知見についてちょっと興味を持たれた方はぜひにと思います。
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気候変動問題は昨今注目を集めているが、古代の気候変動を知るとそのスケールの違いに驚かされる。現代は氷河期の間にある温暖で安定した間氷期に当たり、非常に落ち着いている。気候は線形に変化するものではなく、不安定な変化が内在するシステムである。また、地球の公転自転運動の影響を受けて変化するダイナミックなシステムである。
筆者の専門は花粉の古代の地質に含まれる花粉をもとに過去の気候を分析することが専門らしい。福井県にある水月湖の年縞特定のエピソードも非常に興味深かった。
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人の一生からは想像できない時間軸・自然を相手にした謎解きを読んでいるようで面白かった.
地球はこれまでどのような気候であったか.それを踏まえ未来,人類はどのような気候に相対することになるのか.
この複雑で難解な問いを紐解いていくにはまず,過去の地球・地域の気候を明らかにしていく必要がある.
長い年月をかけて蓄積した福井県の水月湖の湖底に眠る年縞は,この難解な問いに対して世界で認められた正確で緻密な物差しを与えてくれている.
この年縞は現代から遡って約7万年という長い期間に対する非常に正確で緻密な史料を提供してくれており,本書ではその例として放射性炭素年代測定におけるキャリブレーションの提供,年縞に積もった花粉の分析による年代ごとの植生の推定,その他各年代ごとの雨量や気温の推定といった成果が説明されている.
そのほか,地球の気候変動の規則性を推し量る理論であるミランコビッチ理論などが紹介されており,地球の気候史の概観が与えられている.
当然であるが地球の気候は非常に複雑な系の一つであり,単純な線形変化や周期変化だけでは説明ができないカオス性がありつつも,年縞をはじめとして徐々に解像度が高まっている過去から現代に続く気候史を俯瞰することで,現代の気候が置かれた現在位置や,一つの可能性として伺えるシナリオ,現代の人類が気候に影響を与えているかどうかに対して示唆を与えている.
人間の経済活動がもたらす気候変動の懸念に関する意見を耳にすると,気候変動にはさも人間だけが影響を及ぼしており,人間の活動が自粛されれば,過去の姿,期待する姿に戻るかのような錯覚を覚えるが,実態は全く異なっていることが改めて理解できる.人間の活動が環境に影響を与えていること自体は否定し得ないが,それがさも気候変動の主原因であり,人間の努力でなんとかできる・すべきであるという考えは,人間中心主義的な傲慢さの表れれはないかと改めて感じる.
一方で気候変動がもたらす経済や生活への影響は現実問題として無視できない.気候の変動性に対する”反脆弱さ”が求められていると思う.
水月湖には年縞をテーマとした博物館があるらしい.是非行ってみたい.
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“自然科学は善悪の判断には本質的に無力である”
古気候学:有史以前の気候が研究対象.地質学の一分野
年縞:1年に1枚ずつ堆積する薄い堆積物
福井県の水月湖:最も長く連続した年縞体積が見られる世界でも有数の場所.いわば地質学の定規「年代の目盛り」
地層に残された遺物→「何が」はわかったとて「いつ」がわからなかった.例:恐竜が反映していた時代の推定には人間にとって永遠とも言える数万年もの誤差がある
「気候変動」という言葉は80年代.ほとんどのメディアで取り上げられていなかった森林伐採や水質汚染がトレンドだった.
★10年後,20年後「温暖化は一過性の環境活動ブームネタに過ぎなかった」と行っているかもしれない.そのときは別の問題を話題にしながら.
★思い返せば「オゾンホール」という話を全然聞かなくなったな.
★負い目を感じさせてその罪滅ぼしとして商品を買わせる。企業のプロパガンダのレトリック
放射性炭素年代測定
・炭素は同位体により3種類存在。
・そのうち一つ(C14)だけが放射能を持ち時間の経過とともに減少する
・この減少する炭素を、減少しない炭素の量を比較することで経過時間(年代)を推定する
・c14は5万年でなくなってしまう。5万年しか計れない
・誤差がどうしても発生。標準時計にはなり得ない
物差し=c14年代を正確な年代に読み替えるための換算表
ケッペンの気候区分
→気候を区分けする分かりやすい目安が気温と雨量
→ケッペンはこれに景観(植生)を持ち込んだ
→腹落ち感があり、今なおその根幹が活きる気候区分
ミランコビッチ理論
地球の公転軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動という3つの要因により、日射量が変動する周期
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地球の気候変動を福井県にある”水月湖”の堆積物から調査し、気候のメカニズムを解き明かしていく。内容は、すっきりしていて読みやすい。ただ、私の場合、気候変動という巨大なスケールについてイメージをつかみにくく、流し読みになってしまった箇所もあった。
気候変動の歴史や予測は、酸素や水素、炭素の同位体から推測することができ、氷期と温暖期が定期的に入れ替わっていることが発見された。これは、地球の公転軌道の影響、すなわち離心率変動が原因であり、「ミラコビッチ理論」と呼ばれている。通常は、氷期の期間がほとんどだが、地球が楕円軌道を描くとき、温暖になる傾向にある。
水月湖の堆積物が上質な理由は、酸素が存在しないことやその地形により、水が安定状態で保持されるためである。酸素が存在しないのは、海水の塩分が流れ込むことで、水の温度が下がっても塩水よりは重くならないためである。この堆積物に含まれる花粉は、植生景観を判断することに役立つ。植生景観の重要性はケッペンの「気候区分図」が証明している。例えば、温暖な時代ではブナなどの照葉樹林、氷期ではスギなどの針葉樹林が分布しやすい。
気候変動は様々な要因が複雑に絡まっており、一概に一つの要因で決まるわけではない。加えて、その記録を詳細に残している堆積物を見つけ、長い時間をかけて記録を解析するのは、非常に骨の折れる作業であることが推測される。このような推測が先行きの見えない気候を耐え抜くカギになるのだろう。
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昨今では我々人間の活動が地球温暖化を進めていると騒がれている。
ここ近年のCO2濃度とか気温の上昇とかのグラフを出して、「このままではまずい」、「どうにかしないと」と。
もちろん人間の活動によって地球の気候が変動している部分もあるが、それは100年とかの話であって、地球からしたら一瞬の出来事だ。数千年、あるいは数億年単位で地球の気候変動を見ると、現代の気候は寒冷な方で、かつ安定している。
かつての地球の気候は変動が大きく、気候が大きく変わることを予測することは非常に難しい。
だから未来予測でグラフの線を単純に伸ばすだけは理にかなっていない。そんなのは分からないが正解だ。
多くの要因が存在してその影響を受ける気候の歴史を研究し、またそれを踏まえて未来を見据える。
大きいことをしているが、研究はすごく地道なことも多く、研究者には頭が上がらない。
終わり方もはっきり言えばこの先どうなるか分からないと書かれている。でも、人類の可能性も際限がない。それに期待を持ちつつ、今できることに全力で向かう著者は非常にかっこいい。
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現在は来る2050年・2100年に向けての温暖化対策が世界で講じられているところですが、本書で扱う時間軸は10万年であり、2度や4度をはるかに超えるスケールで寒冷期を含む気温サイクルがあることがわかります。果たして現在の脱炭素化取り組みは正しいのかとふと考えてしまいそうですが、それだけ地球の歩んだ歴史が人類史対比であまりにも長いということの証左であるといえます。
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水月湖、年縞。聞きなれない言葉だが、考古学と気候をつなぐ貴重な場所とそこからだけ得られる尊い過去の記憶。研究に対する熱量にあふれた著者が、過去の気候変動の波の中に誘ってくれる。緩やかにそして唐突に訪れる激しさに、気候さながらに導かれる先には、すっかりこの分野の魅力を感じる自分を見つけることでしょう。良い本です。
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地球は温暖化が進みつつあるが、果たして100年後の気候がどうなっているかは誰にも分からない。
本書はそれを想像するヒントを与えてくれる。
水月湖の特殊性や世界基準となった経緯、数万年単位の気候変動など初めて知る事が多く、知的好奇心も満たしてくれる。
この先の気候変動がどうなるかは分からないが、氷期も生き延びた人類の賢さと多様性が今後ますます問われると思う。
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数万年という過去を探りだすという気が遠くなる作業。エジプトやシリアなどに砂漠があるのも、ヨーロッパが平野になったのも森林を焼き尽くしたからだし、この100程度のエネルギー革命が気候の変動も起こしている。
しかし地球の歴史からいえばほんの刹那。
日々の営みを見返すことから始めよう。
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2021年のノーベル物理学賞を真鍋氏が受賞したことで、二酸化炭素の温室効果による地球温高にあらためて注目が集まっています。
ですが、地球の気候変動を考えると、現在の「地球温暖化」問題が実は産業革命のはるか前、8000年前から起こっていたとも言え、さらにはその「人類による地球気候の影響(温暖化)」によって、本来であれば到来するはずであった氷期(人類文明の危機)を回避しすることができたとも言えるのです。
さらに、この後の世界で「地球温暖化」が進むのか、あるいは「氷期」が再来するのか、その分析を過去の地球の天候の歴史を紐解くことで分析しよう、というのが本書の内容です。
未来を予測することは難しく、想定することも対策を考えることも困難を極めますが、それでも私たちは生きてゆかねばなりません。
結論としてはいささか物足りないところもありますが、個人レベル・社会レベルでどのような姿勢でこれからの気候変動を考え、臨むべきなのかを考えるきっかけになりました。
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気候変動や気温の上昇は、人間の活動によるところが大きいという点が現在クローズアップされています。本書では、地球規模の気候変動のより長期のサイクルが存在し、それが10万年単位で楕円と円に変形する地球の公転軌道であったり(ミランコビッチ理論)、2万3千年ごとに変わる地軸の傾きの変化(歳差運動)によることが説明されています。加えて、火山活動、大陸の移動、人類の活動によるメタンや二酸化炭素の排出など、複数の要因が関連しあって気候や気温に変化を与えているわけですが、こうした複数要因の関連性により、二重振子運動の軌道を予測することが不可能であるように、初期条件のわずかな違いが増幅されてカオスを発生させるような状態にあるため、気候や気温の変化を予測することが不可能であることが説明されている点に蒙を啓かれた思いがしました。
また南氷床のボーリング試料に含まれる空気を分析することにより、メタンや二酸化炭素の大気の含有量の変遷を分析することが行われた結果、人類の経済活動が活発化した近年では、ミランコビッチ理論で予測される含有量を超えてメタンや二酸化炭素が増加しており、これがアジアの水田耕作やヨーロッパの森林破壊によるところが大きいと分析されていることが紹介されています。長期サイクルでは、現代の間氷期は既に終わり、むしろ氷河期を迎えつつ局面にあるも、大気中のメタンや二酸化炭素が増加していることにより、気温の低下が抑制されている可能性に関する件を読んだ時には、現在議論されている気候変動に別の視点を与えてくれている思いがしました。
そして記憶に新しい1993年の日本のコメ不足。その2年前のピナツボ火山の大噴火によって引き起こされた記録的な冷夏による米不作によるものでしたが、気候変動が大きい際には農耕より寧ろ狩猟の方が生存に有効と説明しています。それは実に狩猟が多様な自然環境から食料を得ることによるのですが、これも昨今良く耳にするダイバーシティに通じる考え方と感じました。
本書で一番感銘を受けたのは、著者である中川毅氏の研究グループにより福井県の水月湖から採取された年縞が、7万年もの長きにわたる気候変動の証跡を含んでいるという件です。年縞に途切れがないため、炭素14を用いた放射性炭素年代測定のグローバルなものさしとして採用されている、といいます。是非一度現地を訪れて年縞博物館を見学してみたいものだ、と思いました。
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水月湖から話は始まる。
ボーリング調査自体は知っていたし、とても地道で時間がかかるが大事な作業もあるということも認識していたが、そこから何が、どこまでわかるのかという点は、読んで知るものがとても多かった。炭素ではなく、花粉での分析もそれだ。
こういった派手ではない多くの調査が、今の科学を支えているということを改めて実感した。
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人類の不自然な行動が地球の寒冷期を遅らせているのかもしれないといった考察が面白かった
最近のよくある地球温暖化問題をメインに扱う書籍かと思いきや、タイトル通りでこれまでの地球の気候やその研究について書かれていた
無知な分野であったため大変勉強になった
また難しい用語などもなく説明も丁寧でストレスなく読めた
水月湖の研究について詳しく書かれていて興味が沸いた
機会があれば水月湖を観光し、再びこの本を読んでみたいと思った
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気候変動を語る際に我々の暗黙の前提として、これまでの有史以来気候が安定していたというバイアスがある。つまりこれから起こり得る気温上昇はイレギュラーな事態であり、人類の歴史上未曾有の危機が訪れるといった気候危機論が言われるのは、標準となる安定的な気候があってこそである。
しかし本来は、地球の気候は安定していない。とくに10万年というスケールで捉えると、実はたった数年で7℃も気温が上昇した時もあれば、今よりも10℃以上低い時代もあり、海面は±100mも上下していた。そんな過去の気候の積み重ねを調査する年縞と呼ばれる地質調査上の標準が、実は日本国内にある。
福井県三方五湖の一つ水月湖には、湖底に45m・実に7万年分もの年縞が堆積しており、その堆積物を調べることで気温や降水量、植生といった様々な情報を得られる。そこからはダイナミックに気候を変動させ、それに合わせて大幅に生物相を変化させてきた歴史が垣間見える。恐竜のいた温暖な時代も、日本が大陸と地続きになっていた寒冷期も、年縞によって特定できるのだ。
そして現在は、温暖期が終わり氷期に向かっていると考えられるが、8000年前の農耕が始まった頃から寒冷化の傾向はストップしている。つまり、人類活動の影響が産業革命以前より始まっていることが指摘されている。まだまだブラックボックスが多く気候変動の行方も分からない点は多々ある。それでもその基準となる年縞が日本国内にあるという事実は、日本人にとって責任感を思い起こさせるには十分であろう。